5-1-06 遭難5日目
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さて、やっとやることが決まり全員動き出している。
ここで俺達の今の状況や漂流している宙域について話しておこうと思う。
周りに脅威は、無いと言ったが俺たちに対しては『無い』という意味である。
最初から説明すると、俺達がデス・ストリームから脱出して飛び出した宙域は、巨大な年をとった銀河の近傍だった。
俺達が通常空間に出た際、かなりの時空震を発生させたらしく(小規模な超新星爆発クラス)周辺の汎ゆる物を吹き飛ばしていた。
俺達は、爆心地に居たしガッチリとシールドで固まっていたのでナンテ事は無かったのだが、周辺数十光年は俺達の影響を受けることになったようだ。
コリャまずいと思ったハコ達は、即座に位相差ステルスを発動。
異空間に潜航してわずかに場所を移動することに成功した。
案の定と言って良いのだろうか、未確認物体がウヨウヨと寄ってきたのである。
中には知的生物の宇宙船と見られる物体も確認できたがどちらかと言うと余り御近付きには成りたくない部類の生物的な物が多かった。
多分、超新星爆発後に生成される星間物質やエネルギーを目当てに集まってきた者達だろうと予想される。
銀河系にも似たような星間生物が僅かに存在するらしいが、大きさや脅威度が全然違うようだ。
俺達も、ユックリしていられる様な立場でも無いので、ここは接触を避けてスルーさせて頂いた次第である。
下手に関わって又候厄介事を抱え込む事にでもなったら大変だ……と嫁達が申しておりました。
「昴が絡むと何でも話が大きくなるからね、ここは逃げの一手よ!」
「もっとも妾達の腹を大きくするのには、みな協力するがのう……」
「抜け駆けは無しだからね!」
「そこは、みな等しく……仲良くジャな~……」
「兎に角それは、帰る目処がたってからゆっくりな……」
[肯定。言質は取りました。みなさん、頑張りましょう]
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
閑話休題
宇宙の中心AZからは、随分と離れた外縁部に近いところだけに、銀河も巨大に成長している。
こんなところにも生物は存在しているんだなどと感慨に耽るのは後にして仕事を先に進めよう。
ナノマシンの満たされた造船プールに改修中の機動工作艦(1km)が外装が外されて漂っている。
その周りでは、外された外装の厚さや形状が刻々と変化してゆく。
本体には、追加のジェネレーターが組み込まれ3倍に増強される予定だ。
次に問題なのは、亜空間内での機動性を如何に上げるかが課題である。
静止した亜空間内を移動するのではなく、激流とも言える流れの中で更に磨り潰されるような空間圧力を考慮して移動しなければならない。
チョットでもタイミングを間違えると何処に弾き出されるか予想も出来ないのである。
想像以上に繊細な空間移動と制御管制が必要とされる事だろう。
デス・ストリームを流されているだけなら何とかなるだろう。
問題は、入と出のタイミングであるのだった。
誤差で済む範囲なら通常空間を亜空間航行でゆけば良い。
だが、それも精々数万光年レベルだ。
ハコでも通常の亜空間航行では1万光年をおよそ1日、連合レベルなら3日以上掛かって移動するのである。
フルシンクロ状態の今の俺達ならば20万光年を3秒での量子ジャンプが可能だが、連続使用した場合のリスクがどれくらいかはまだ測りかねている段階だ。
実は、以前3日フルシンクロした時は、そのあと1ヶ月ほど体調が最悪だった。
出来ればフルシンクロ状態での連続量子ジャンプは、数分間に押さえたい。
何のトラブルもなく単純に1時間、3600秒間の量子ジャンプが可能だったとすれば飛べる最長距離は、2億4千万光年である。
ザッと145時間も跳ぶことが出来れば太陽系に帰れる計算だが、俺はそんなストレスには耐えられないだろう。
しかし、太陽系まで帰るにはそれだけの長時間連続で量子ジャンプを繰り返さなければいけないという訳である。
大体それだけの距離を跳ぶには想像も出来ないような膨大なエネルギーが必要となるだろう。
果たしてそれだけのエネルギーが供給出来るのかも不明である。
そんな訳で、誤差も1千万光年を超えるとなれば無視は出来ないのである。
それはもう、銀河団間の距離に等しいからである。
デス・ストリームは、体感数時間で数百億光年を移動してしまう様だ。
消費した観測用プローブの移動速度と消滅位置から算出された流れの速さは、驚くことに時速でおよそ200億光年……秒速でも約555万5千光年も流されてしまうという結果になるのだ。
この数字もまだまだ正確とは言えないが、こんな危険で行き先の分からない暴走列車に飛び乗るしか、今の俺達に短期間での帰還は難しい訳ですよ。
……アァァッ、頭痛が痛い!
母さんの出産予定日まで、残り後44日。




