4-5-06 一国一星の主
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ブックマーク5555登録記念、繰り上げ投稿失礼します。
ウンサンギガ帝国の建国の様子は、ライブ映像で地球各所に流れていた。
ゲリラ放送で始まったウンサンギガ一族の成人と戴冠、そして結婚の儀式を見せられていた者達も、その流れでまさか新国家の建国と地球からの独立を目の当たりにするとは思いもしなかったのである。
この放送を見て大いに慌てふためいたのは、地球の自称独立国……の支配層である。
通常地球では、独立国としての承認認定には慣習国際法に則った他の力のある国家の承認が必要になっているようである。
一概に独立を認める国家が有っても、別の第3の国は認めないといった場合も存在する。
しかし、今回は前例も存在しない地球からの独立である。
そもそも地球に存在する国家が認める認めないの話では無いのだ。
ゆえに地球の慣習国際法は、これに一切の法的効力を持たない。
狭い一惑星内で啀み合っている輩が何を言ったところで、既に天の川銀河連合の承認を受け、更に3つ以上の主要銀河国家種族の公認を受けているだから。
それらのやり取りが、今まさに地球全土へと配信されているのだ。
どんなに地団駄を踏んだところで後の祭りである。
今回、結婚披露宴に招待されていた幸運な地球の国家の代表は、たったの3人。
日本の天皇、ヴァチカンのローマ法王、そして英国の女王だった。
もちろんこの3人は、帰国後直ぐに会見を開いた。
ウンサンギガ帝国に対し正式な独立国家としてお付き合いしたい旨の国交を申し込み、これを無事に受託されている。
同時に国民となって移住する権利も獲得しているのは、公然の秘密だ。
地球には今でも世襲制の王家皇族が、27存在する。
そのうち2つが今回招待されていたのである。
後に他国から盛大に嫉妬されたのは、今更言葉にする必要もないだろう。
とにかくすごいやっかみの嵐だったのは、想像するに固くない。
これらの会見によって、その事実を知った3国の国民は飛び上がって喜んだ。
星間国家ウンサンギガ帝国と正式な国交が受諾されたとなれば、いつかは自分たちも宇宙旅行が出来るかも知れない。
これが見知らぬ異星人だったら拒否反応を示す者達が多数出たに違いない。
しかし、元は地球人だった人物であり、それも悪い事は一切聞こえてこない好青年と来ている。
知らない相手なら、別の星であるから普通なら行き来することも出来ないだろう。
しかし、地球から出世した人物ならお互いの交流さえ断たれていなければ仕事や留学など行き来する方法を作ろうと思えば何とかなる……筈だ。
もしかしたら『俺達も別の星に移住出来るかもしれない』という希望が提示されたのである。
正式な国交が結ばれたのであれば、まずは直通の便が出来上がるに違いない。
いつ頃どんなルートで開通するのだろうか。
ウンサンギガ帝国の皇帝は、軌道エレベーターを作ったあの天河昴なのだ。
当然自由に乗り回せる宇宙船の1つや2つ持っていても不思議じゃない。
(実際には、銀河支配できるくらいの艦隊持ちです)
『直ぐに直通便の1つや2つ用意されるだろう』というゴシップが飛び交いはじめるのにも然程時間がかかりませんでした。
(人の妄想は、どんどんと一人歩きを始めていますが、既にそんなのは妄想でも何でも無く一部現実になっていますよ。知らぬが仏!)
ここに一人、残念な人物がいました。
ガックリと肩を落としていたのは、大国アメリカ合衆国の大統領でした。
「ホワイ? なぜ私はあのイベントに招待されなかったのだ。私は、ステイツの大統領だぞ! 間違いなく声が掛かって然るべき地位に居るはずだよな」
「だから呼ばれなかったのですよ。相手は、新生の専制君主ですよ、プレジデント」
「エッ?」
「合衆国がこれまでどれだけの国家王族を根絶やしにしてきたかご存知でしょう。ま~戦争しても根絶やしにされるのはこちらだとは思いますけどね」
「……でも、普通は大国である我々に……」
「いや~向こうのほうが大国でしょう。なんせ銀河規模ですからな、ワッハハッハ」
「君、笑い事じゃないんだよ」
「イヤイヤ~これは笑うしかありませんな」
「どうにかならんのかね?」
「何も慌てることは有りませんよ。ステイツは、軌道エレベーター事業にガッチリと取り組んでいます。別に特別な対応をしなくとも問題はありません」
「だが、あの3ヶ国の様なスペシャルでは無いんだろう?」
「現段階で世界中からのやっかみや反発は、3国に向くでしょうね。我々は、それに手を差し伸べて間接貿易をすればいいんですよ。何も矢面に立って貧乏くじを引くことはありません。それこそ余計なことに首を突っ込んで国益を損なったら、次の大統領は貴方では無くなっているでしょうね」
大統領補佐官は、そういって諫めるのだった。
実はこの人、元NSA長官だったマイク・ハワードその人である。
アメリカ合衆国内でヒュアデスから一番信頼されている実力者。
組織のトップではなく、No2の位置で一番美味しいとこ取りをしている人物であります。
言ってることに重みがありますよね……無責任に聞こえますが、自分は何時でもあっち側に行けるんですから尚更です。
「君が言っていることが正しいのは分かるんだ。しかし、地球の代表はやはりステイツが担わなければ駄目じゃないか。国民が納得しないよ」
「そんな事はありませんよ。我が国には、空河帝の娘ともいえるヒュアデスが居るのです。ウンサンギガ帝国の筆頭AIの娘でもある彼女ですよ、無下にはされません。聞く所によると空河帝は、1つのAIを助けるために命を懸けたというではないですか、心配はいりませんよ。それに、上っ面の肩書よりも実績を示せばいいんです。我が国の国民は、そんなに馬鹿ではありません、見るところはチャント見ていますよ、ハハハハハ」
「そんなもんかね~」
「そんなもんです」
大陸の一党独裁の国でも……ひとり、悶々としている人物がいた。
「なぜ我が国に声が掛からなかったのだ。皇帝と言ったら我が国だろう。秦の始皇帝然り、ラストエンペラーの溥儀然り……。ローマ法王が呼ばれたのは何となく分かる。キリスト教では唯一神ヤハゥエを皇帝と同一視するからな、皇帝は神なのだ。日本のMIKADOも自身の出身国ともなれば当然だ。しかし、なぜ英国が招待されて我が国に声が掛からない? なぜだ~!」
そんな事は、相手にされてないからに決まっているのだが本人は納得できないようだ。
こんな人物がまだ地球の各地に多数存在している時点で人類が一つに纏まるにはまだまだ時間が必要のようである。
◆
以下、地球側の見解です。
ウンサンギガ帝国は、専制君主制の星間国家である。
初代皇帝、天河昴は空河帝を名乗り、9人の后を持つ若干18歳の若者である。
その国力は、天の川銀河内でもトップに位置し、単独で天の川銀河連合と戦争をしても勝てるほどであるらしい。
ここまでの力を個人で、それもわずか8年という短期間で成し遂げたというのだから驚きである。
国土は、元のアステロイドベルト軌道座標に存在する人工惑星シン・ニビルであり、地球よりも若干大きい半径6500Kmの球型構造物である。
実は、巨大な宇宙船らしい事までは分かっている。
人工惑星の質量は、自由に変えられるそうで、蓄えられたエネルギー量により0~∞まで可変が可能なのだという。
当たり前の話だが、素の質量のまま惑星等に接近すれば大変な影響が出ることになるだろう。
しかし、自由に質量をコントロールする事が出来るのであれば回避出来る事柄でも有るらしい。
元の主星ニビルが存在していた当時は、3600年という長大な公転軌道によりその影響が太陽にまで及んでいたのでは無いかと言われている。
現在も太陽系の質量中心は太陽本体には無く、わずかにずれた空間に存在するのだ。
これから分かるように、太陽系の惑星質量の99.8%を占める太陽でさえも不規則な楕円軌道で太陽系の質量中心の周りを周回している事が分かっている。
ちなみに残りの太陽系の惑星質量の0.2%は、太陽以外の土星や木星などの惑星を全て足した質量である。
準惑星ケレスを除くアステロイドベルトの総質量は、元の惑星ニビルの31万分の1にしかならないらしいが、どうやって地球に匹敵するほどの規模の人工惑星を構築する事が出来たのか謎は深まるばかりである。
先の質量比率から考えても、内部が伽藍堂のハリボテなのでは無いかとの意見が大勢を占めている。
だが、専門家によるとそんなハリボテではアレだけ巨大な物体を支えきれない筈だとの意見も出ている。
現在、国民の数は約4万8千人。
元の地球人だけでは無く、銀河系各種族からの移民も合わせての数らしい。
その国政の殆どが、固有の自我を持つ管制AIによって自動化されており、国民には納税等の義務は無いらしい。
その代わりと言ってはなんだが、高度なテクノロジーや不思議技術の研究に始まりロマンある創作物などが認められる事でその地位や権利が大きくなると聞く……だが、くわしい公表はされておらずその確度は定かではない。
補足。
シン・ニビルに足らない質量や資材は、銀河達チルドレンの手によって太陽系外縁のオールトの雲などからせっせと集められたおかげである。
4-1-11、4-1-16でも語られている。
現在、ケレス型移動工房衛星が10つ稼働しており、随時シン・ニビルに資材を流し込んでいる。
さらには、11番から30番までの工房衛星が完成間近であるらしい。
ケレス型移動工房衛星とは、その名の示す通り移動できる無限工房の事である。
移動型にした関係で規模はケレスの20分の1ほどとなっているがその能力はケレス単体にも匹敵するとみられている。
◆
『もう暫らくは、シン・ニビルは動かせんぞ。エルフ達が世話しているとは言っても、内部の住環境が落ち着くまでにあと1年くらいは余裕を見たほうが良さそうだ』
「そんなに焦っている訳ではないのでボチボチとで結構ですよ。そろそろDr.は、キシャールの方を勧めてもらって結構です。ここまで形にして頂いてありがとうございました」
『なに、良い暇つぶしになったよ』
[ナ~ゴナゴ(何を今更謙遜してるんですか。喜々として采配を振るっていたのはバレていますよ)]
『ウッ、お前は黙ってな。……兎に角これで、ウンサンギガ一族としての仕事は一段落かね~。あたしも肩の荷が降りたよ……』
[ナ~ン(爆弾置いていった張本人ですからね、もっと扱き使って良いんですよ)]
「あははっ……、俺達はハネムーンで又しばらく留守にしますが、その間お願いします」
『土産を期待して待ってるよ。また、変なの引っ掛けてくるんじゃないよ』
「グハッ、変なフラッグ立てないでくださいよ、それじゃなくても色々寄ってきて困ってるんですから……」
『それは、仕方がないね。諦めな!』




