4-5-04 とんでも無いサプライズ
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とうとう俺達の結婚披露宴が始まった。
会場は宇宙船の中のはずだが、出席者達の頭上には星空が煌めき、周りには目につく光源が無い、それじゃ真っ暗かというとそういうわけでもなく各テーブルの周辺も暗い訳ではない。どんな仕組みなのかは理解できないが、ちゃんと細部まで視認できているという不思議な空間である。
そして耳に心地よく流れているのは、地球では聞いたことが無いにも関わらず、不思議と心が落ち着くような緩やかなBGMが聞こえている。
テーブルの間は広く取られており、壁も見えないほど広い空間だ。
そんな会場のテーブルの間を テーブル付きの給仕やそれぞれ専属のメイドさんが飲み物や料理を配りだしている。
気がつけば、先程までは空席だった親族席もいつの間にか埋まっており、出席者の顔ぶれも揃ったようである。
媒酌人は、特に居ないようなのでどうやら最初の挨拶をするのは、新郎の父親の天河譲氏がするようだ。
しかし、ここからでも分かるほど青い顔をしてガッチガチに上がっていることが見て取れる。
あれで本当に大丈夫なのだろうか?
その様子を黙って見ていられなかったのか、先程まで後ろに控えていたはずの奥さんが目立ち始めたお腹を押さえて、いつの間にか直ぐ横に付いているぞ……。
『ほっ…本日は~お日柄もよくぅ~……』
これはまた、調子っ外れにも程がある。
みなが苦笑を浮かべて『駄目だ、こりゃ!』と思った瞬間、横に居た奥さんが素早く旦那からマイクを引ったくっていた!
そして、見事な一声をあげたのだった。
『みなさん、本日はお忙しいところを息子昴の結婚披露宴にお集まり頂きまして、本当にありがとうございます。新郎新婦に成り代わりまして厚くお礼申し上げます』
旦那とは違い立て板に水が流れるような挨拶を済ませたかと思ったら、マイクを旦那に突っ返して『ドッコイショ』といった様子で自分の席に収まってしまった。
マイクを返された旦那は、大丈夫なのか?
『希美さん、ありがとう。大変失礼いたしました。わたくし、あまり人の前に出たことが有りませんので醜態を晒してしまい申し訳有りませんでした。わたくしからもみなさんにお礼を申し上げます』
出だしではトチったがようやく落ち着きを取り戻した様で、頭を掻きながらペコペコと挨拶はその後もしばし続けられたのだった。
[では、新郎新婦の登場です。みなさん、盛大な拍手でお迎えください]
スポットライトが灯ったのは、ステージから上に続く幅20m程もある巨大な階段だった。
階段の一番上には、更に巨大に見える鳥居がそびえ立っているのが分かるが、いったい何段あるのだ……この階段……。
そこを10人の男女が横いっぱいに広がってゆっくり降りてくるのだった。
見たこともない衣装を身に着けた新郎とそれぞれの種族ごとに違った花嫁衣装を身に着けた7人の花嫁とメイドが一人、そして軍服の美丈夫が一人、一斉に降りてきます。
不思議な貫禄をまとった新郎と綺羅びやかな複数の新婦が所定の席につき、先程まで響いていたBGMも鳴り止みました。
会場は異様な雰囲気に包まれ、出席者の多くが固唾を飲んで見守る中、とうとう前代未聞のサプライズが始まったのでした。
[では、新郎のウンサンギガ帝国初代皇帝であられる天河昴、空河帝より御挨拶を致します]
紹介のアナウンスに会場がざわめきました。
新郎新婦が全員立ち上がり、昴がマイクを持ちます。
「みなさん、こんばんは。本日は、私共の招待に快く応えて頂き心よりお礼申し上げます、ありがとうございました。本日、私はウンサンギガ一族として正式な成人の儀を迎え、正当なる第49代当主として空河の名を頂きました。これを期にウンサンギガ一族は地球からの独立を果たし、星間国家としてウンサンギガ帝国を建国いたしました。先程、建国宣言を無事に終えまして、天の川銀河連合並びに主要各種族からの承認を頂きました事を御報告いたします。同時に私の生涯の伴侶として9人の女性を娶ることとなりました。みなさんも一緒に祝って頂ければ幸いに思います」
新郎新婦が出席者に向かいユックリと頭を下げ、再び席に座りました。
言われてみれば新郎新婦達の席は、随分と高い位置に設置されています。
広い会場からよく見えるようにする配慮だとばかり思っていましたが、それなら議事堂のようにすり鉢状のほうが都合が良いはずです。
勘の良い人間は、ここが既に玉座の間なのだろうと気がついて納得するのでした。
しかし、これはまだ序の口……、1つ目の爆弾が破裂した瞬間だったのです。
[ここで少し補足説明をさせて頂きたいと思いますのでご清聴ください。只今空河帝の御言葉に有りました通り、我々が主星シン・ニビルを離れる少し前に、建国宣言がなされました。そして、これを天の川銀河連合が承認するに至りました事をお知らせいたします。現在、地球はまだ星間国家どころか一惑星国家としても認識されておりませんが、ウンサンギガ帝国は正式に星間国家として認識されることになった訳です。皆さんのお持ちになっている認識票、ブレスレットの事ですが個人履歴の詳細をご確認頂けますでしょうか……]
みんな、ブレスレットを撫でてステータスの確認を開始しました。
[そちらに表記されている現在所属されている国家種族の表記部分をご確認頂きますと、新たにウンサンギガ帝国への移民及び移籍の詳細が見て取れるかと存じます。必要事項を入力され最後のチェック事項をご確認の上、申請をされますと数分で受理が完了し、晴れてウンサンギガ帝国の国民となる事ができます。この権利に期限等はございません。終身有効ですので、地球人を止めたくなった時に実行される事をおすすめいたします。もちろん今直ぐ実行されても構いはしませんが2重国籍が違法な国家もございますので良くご検討の後にお願い致します。これは、今回の慶事におきまして同じ時を過ごし祝って頂く引き出物の一つといたしたいと思います。ちなみに移民申請は、直系2親等まで同時に認められますので御家族で良くお話し合いの末にお決めになることをおすすめいたします]
今日この場に地球から出席している人数は、ざっと数えても3,000人ほどでしょうか、直系2親等といえば、およそ6倍~10倍ほどには膨らむと考えられます。
これが、2つ目の爆弾でした。
ちなみにここで起きている事は、ライブ映像で地球と関係各所に配信されているのはもう説明の必要は無いだろう。
これまでの様子をライブで見ていた地球の者の中には、披露宴には呼ばれなかったがブレスレットを所有している人間は、既に万人単位で存在しているのです。
メガフロートの職員が、プレアデスアカデミーの学生が、そして自衛官や警察官が、言われるがままにステータスを確認してみるとライブ中継の中と同じ手続きの出来るだろう項目が自分のブレスレットにも追加されているのに気が付いて狂喜乱舞する事になるのでした。
中にはその項目のところに『ハズレ!次回をお楽しみに♪』と書かれており、肩透かしを食らう人間も居たとか居なかったとか……。
こうして、ど偉い波乱を含んで昴たちの結婚披露宴が始まったのだった。
……まだ、続きます……
次回、『碌でも無い賓客…呼んでないぞ!』




