4-5-03 吃驚な披露宴会場
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俺達がシン・ニビルで挙式を上げている頃、地球では又ぞろ一騒動が起きていたのだった。
今回の結婚披露宴の会場は、ハコの中に用意した特設会場で行われる手筈になっている。
会場自体が移動しても問題ないほどにハコは(内部空間が)巨大だからである。
それにハコの中ならば、何があっても先ず安全が確保できるだろうというのも理由の一つだ。
多分、此処がこの次元宇宙で一番安全な場所だからでもある。
そして、招待客を一々移動させて一箇所に集めるのも面倒だったからという理由も存在するのだった。
ちなみに今回出席する招待客を、文字通り地球からの拾い上げも、ハコにお願いしているのも理由の一つだったりするのだった。
その海賊放送は、全地球規模で始まった。
事前に関係者には知らされていたらしいが、初めてそれを見た人間はTVドラマか何かだと思った事だろう。
同時に映像に流れるテロップには、『ウンサンギガ一族の婚礼の儀・生中継!』と読み取れる。
ここに映されているのが、実際の儀式の場の実況であることが理解できたのだった。
その放送が始まるのを皮切りに、披露宴の招待状を貰っていた出席者が忽然と地球上から消えだしたから、さあ大変!
その場には、『一寸お祝いに行って来ます』との置き手紙が残されていたのでした。
消えた人物の行動を事前に知らされていた関係者は、TV放送を見ながら慌てもせずに『行ってらっしゃい』と送り出したが、目の前で忽然と姿を消された周辺の人間は一部パニックを起こす騒ぎとなった。
駅前通りを歩いて居たところ、旅行鞄を引いて歩いていた人物が幻のように消えたのである。
通報に依り駆けつけた駅前交番の警察官がそれまでのの経緯や消えた人物の特徴を聴取すると、駅の街頭スクリーンを指さして、消えたのは幸運にも披露宴に招待された人物だろうと説明するのだった。
その話を聞いて、それまで騒いでいた人物も周りの野次馬も通報された警察官も並んで羨ましそうにTV放送を眺めるのだった。
ハコは、堂々と地球の赤道上を周回しながら世界中から招待客を掬い上げて行った。
この日、全世界の軍事・民間を問わず全ての航空関係施設に何処からともなく割り込まれた謎のフライトプランが存在した。
これのお陰で事が現実になるまで誰も気が付かなかったのである。
飛んでいるのは衛星低軌道(高度350kmほど)で目を凝らせば見えるぐらいの高度を ノンステルスで情報指揮型艦隊旗艦(3km)を外殻艦としてそれなりのスピードで周回していたのである。
レーダーには確実に映っているだろうけど、空軍のスクランブルを掛けられるのも面白くないという事で、公然とウンサンギガ所属の航宙宇宙船である事を公表して飛んでいる。
物好きにも成層圏までジェット機で上がってくる強者も存在したが、その威容を確認すると這々の体で逃げだしていった。
なぜなら見るからに巨大な戦闘艦だと分かる姿だったからである。
ちょっかいを出されるのが嫌だったのでこの船になったのだが、最初からやろうと思えば姿を消して誰にも察知されずにミッションを熟すことも出来た。
しかし、今回は一大イベントの前章であることから、敢えて身を晒して武威を示すことにしたのだった。
来賓達は気が付くと、それぞれに見知らぬ空間に転移させられていた。
特定の場所で待機していた者達や公共の移動手段を使っていた者達は、座っていた格好のまま柔らかなクッションの上に……。
自分で歩いたりして移動していた者達は、お互いぶつからないように広々としたラウンジへと転移されていたのだ。
来賓にはそれぞれに専属のメイドが待ち構えており、直ぐ様確認作業と各種説明のため落ち着ける場所へ移動していった。
メイドの足元には薄い光る板が現れ、自分で移動しなくても荷物とともに宿泊する部屋へ案内されるのだった。
メイドに促されるように宿泊所兼披露宴会場となる巨大なホテルへ案内され部屋に落ち着くとそれぞれに一服しながら専属のメイドから各種説明がなされるのだった。
最初に案内された一般人はあまりの待遇の良さにびっくりした。
最低の待遇でも広々としたロイヤルスイートも確やといった部屋に専属の部屋付きのメイドが標準仕様だと説明されたのである。
[お時間までお部屋にてごゆっくりされてください。披露宴の10分前に会場のお席へご案内いたします。何か用をお言いつけの場合は気軽にお声掛けください。何時如何なる時も入り口横の小部屋に控えております]
「はい、わかりましたよ」
「イヤァ~まいったな~、まるでどっかの王侯貴族の様な扱いだ」
「お父さん、少しは落ち着いてください。お里が知れますよ♪」
「フンッ、どうせ俺は寒村の民宿のオヤジだよ」
「オヤジ、家はメガフロートにもスーパー出してるし、今じゃタウルスの商品も扱ってるんだから民宿のオヤジってことは無いだろう」
「健太は昴のダチで、しょっちゅうつるんでるからそんな軽口が叩けるんだ」
「まあまあ、落ち着いてTVでも見ながら待とうぜ」
「まあ健太は余裕だね~。愛子ちゃんとの婚約も決まったし、次は~早紀よね~……あんた全然浮いた話が聞こえてこないんだけどそこんところどうなのよ? それに、健一、健次、健作はどうなんだい? 良い人が居たらどんどん連れてきなさいよね」
「寄ってくるのが胡散臭いのばっかりで、男性不信気味なんだけど……」
「「「上司の娘は嫌だ」分かるぞ……」右に同じ…大手百貨店グループの令嬢とか止めてほしい……」
「あんたらの言いたいことも分かるけどね……立場関係なく良さそうなのが居ないのかいっていいてるんだよ。一応自衛官に警官だろ、健作は店の手伝いしてるから仕方がないにしても情けないね~」
「カズ兄、東雲さんとかどうよ? 彼女なら美人だし校長の紹介でどうにか顔つなぎしてもらってさ……何なら俺が口聞いてやっても……」
「バッ、馬鹿野郎! 東雲三佐は、陸自女子のトップアイドルなんだぞ。俺が周りに殴り殺されるワ」
「殴り殺されても、彼女に出来るなら本望なんじゃないの? 優しく介抱してもらえるぞ♪ えーと…確かまだフリーだったはずだよな~」
「何でお前がそんな事知ってんだよ?」
「愛子のコネクションだよ。プレアデス・ナイツと家の女子はコネクションがあんの……確か今日の披露宴にも来てるはずだし、丁度良いジャン」
「エッ、彼女も来てんのか?」
「当然! メンバーは全員来てるさ。じゃ、俺は愛子ンとこに行って段取るわ。会場では、楽しみにしててな~」
そう言って健太は、部屋を飛び出していったのだった。
「私にも……」「「俺達にも……」誰か紹介して…貰おう……」
「……あんたら……ハァ~」
◆
別の最上級の部屋では……。
年嵩の装いの落ち着いたメイドさんが、甲斐甲斐しく老女の対応をしていた。
[奥様、こちらのブレスレットをお付けください。宴が終わる頃には、検査データの収集が終了しておりますので、お休みになる頃には今後の治療プラン等を提示させていただきます]
「それはご親切に、ありがとうね」
「うむ、ありがとう。よろしく頼むよ」
「承りました。では、お時間までごゆるりとお過ごしください」
メイドはそう言って下がっていった。
夫の老紳士は、お茶を一口含んでため息をついた。
「ふむっ、アレは家にも一人欲しいな……イザという時に他人に介護してもらうのにも慣れてはいるが恥ずかしいことにかわりはない。しかし、彼女たちなら気兼ねなく過ごせそうだ」
「そうですね。最初に聴いた時は驚きましたが人では無く機械だとは思いませんでしたよ。だって柔らかくて暖かかったし抱えられた時に鼓動も感じましたよ」
「その様に作られているという事なのだろう。見かけによらず力も強いようだぞ、君を羽のように軽々と抱えておったぞ♪」
「私は、そんなに重く有りませんよ。失礼な……」
「アハハハ、すまんすまん。そういう意味ではなかったのだよ」
「うふふ、分かっていますよ」
「この後も驚く事が沢山有るだろう、覚悟して置くことだね」
「あらあら怖い、でも楽しみだわ♪」
これは、数十分前の出来事である。
御用邸のベッドには、老女が荒い息使いで臥せっていた。
横に右手を握り控えるのは、夫の老紳士です。
この様子では、とても予定しているパーティーには出席できそうに無いでしょう。
そんな二人の前に光とともに現れたのは、とても落ち着いた装いのメイドさんでした。
そして、恭しく頭を下げて挨拶を始めたのです。
[御前を失礼いたします。先のお約束どおりお迎えに参上いたした者です。本日は、どうぞ宜しくお願い致します]
「態々来ていただいて済まないのだが、今日は朝から妻の体調が良くないのだ。非常に残念ではあるが今回のご招待は、欠席とさせて頂こうと思う。ご頭首には、そうお伝い願えないだろうか? 後日、改めてお祝いに伺うとも……」
一つ頷いたメイドさんが目を瞑って何処かへと連絡をしているようです。
[……確認いたしました。失礼を承知でお伺いいたします。奥様のお体が回復されればご出席頂けるでしょうか?]
「ふむっ、……それなら問題はないが……治せるのかね?」
[問題ありません。少々失礼してお脈を取らせて頂きます]
メイドさんは、言うが早いかベッドの反対に移動してそっと掛け物から左手を両手で包みこみ診断を始めました。
視線が体全体を上から足先まで巡ると眼前に立体モニターが表示されたでは有りませんか。
老紳士にも見えるように配置されたモニターには、老婦人の現在の健康状態が克明に表示されはじめたのでした。
[老衰による体力の低下もありますが、持病の血栓症による血流不全が体全体の活力を阻害していますね。血流不全とリンパの流れを正常化すれば直にお熱も下がると診断いたします]
「ふむふむ、それで?」
[医療用ナノマシンによる血流改善と血栓の除去を処方致しますが宜しいでしょうか? 安全は保証いたします。深部静脈瑠により歩行に不自由があるかと存じますが私が介護いたしますのでご安心ください。医療用ナノマシンの注入を開始……終了しました。処方後数分でバイタルも安定すると思いますので確認後に移動をおすすめいたします]
処方されたナノマシンの効用か、婦人の息遣いが穏やかになり劇的に症状が緩和された様に見える。
モニターされるグラフやバイタルの数値も安定を示し始めたようである。
「分かった、着替えは用意してあるので隣の部屋のトランクをお願いする」
メイドさんは、一礼して立ち上がり隣の部屋から大型のトランク3つを軽々と運んできたのだった。
[こちらで間違いないでしょうか?]
「うむっ、間違いない」
[では、お預かり致します]
言うが早いかロングのメイド服のエプロンが広がりトランクケースを包み込んでしまった。
後には何も残っておらず、メイド服が膨らんだ様子も見られないのだった。
[容態も落ち着かれたようですね。では、ご案内申し上げましょう]
穏やかな寝息をしていた婦人が意識を取り戻したのか、薄目を開けて微笑んだ。
「あら、新しいメイドさんかしら?」
[御身を失礼致します。主人の命にて御二人をご案内申し上げる者です]
婦人の体の下に両手を入れると、布切れでも抱えるように軽々と持ち上げた。
[では、式典の会場までご案内申し上げます。…コネクト…転送者2名]
宣言と同時に光が部屋を満たし、光が消えると3名の姿は忽然とその部屋から消え去っているのだった。
◆
広大な披露宴会場に招待客が集まりだした。
そこは、招待客が休憩をした部屋からエレベーターで上がった屋上に配された会場となっていた。
建物の屋上と一言に言っているが、見て居る範囲で端が何処にあるのか見当がつかないほどの広さである。
聞くところによると此処は宇宙船の中だと言うではないか。
上を見上げると空一面雲ひとつ無く輝く星が見える。
言われてみれば確かに星は瞬いていないので巨大な写真のように感じるが、動いていることが分かる……移動しているのだ、この宇宙船は……。
『現在、この宇宙船は、元アステロイドベルト軌道上に建設された移動惑星シン・ニビルへ向かっております。シン・ニビルにて執り行われておりました結婚の儀は3分ほど前に無事終了いたしました。これより新郎新婦とご親族の方々の乗船の後、披露宴を開始させて頂きたいと存じます。そろそろ進行方向に見えてまいります。どうぞ、お楽しみください』
アナウンスが終了すると確かに一つの惑星が近づいてくるのが分かった。
漆黒の宇宙空間に鏡のように星々を写す真球が見えてきた。
少し離れた位置に一つの衛星が存在するようだ。
『これが移動惑星シン・ニビルです。その横に見えるのは、ニビルの衛星ケレスです。地球では、アステロイドベルトに存在する準惑星とされていましたが、元々粉々に破壊される前は主星ニビルの月でありました。現在、破壊された主星ニビルが移動惑星シン・ニビルとして復活いたしましたので、その立場を復活させシン・ニビルの月となりました』
説明が架橋に入ると宇宙船は、星々を写す鏡面の前でスピードを落としシン・ニビルが頭上に来るように位置取ると、今度はグルッと軌道面に沿って惑星の周回を始めるのだった。
『船長の乗船を確認いたしました。これより本船は太陽系外園を目指し、太陽系の外側から惑星巡りの遊覧航行を開始いたします。心ゆくまでお楽しみください』
その言葉が終わると宇宙船は、頭上に見えていた鏡面惑星を離れ移動を開始するのだった。
次回、『とんでも無いサプライズ』




