4-4-18 サバイバルハコツアー4
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少しずつペースを上げたいけど、そうは問屋が卸さない・・。
「それで、お主はいったいどうしたんじゃ?」
目を覚まして最初にリリアナが聞いたのは、窓辺に腰掛けたシャシの問いかけだった。
「ここは? 私は森の精霊と会話を試みて……」
「ここは、お主が眠りこけている間に妾達がこしらえた拠点よ。妾が見たところ、大方ここの木霊でも配下に置こうとして逆に捕まったといった所じゃろうが、そういう単独行動はみんなの迷惑にしか成らん。今後は控えるんじゃな……」
「申し訳ありません……あまりに若い森の精霊だったので油断してしまった様です」
「精霊使いの悪い所がでたのぅ。年若い精霊じゃと思って甘く見たのじゃろぅ。ここは、主様の森じゃぞ。力が強いのは当たり前じゃ、玄人でも油断して居れば堆肥にされてしまう所じゃぞ」
「ええ、怖いところですね……此処は」
窓の外から『お食事、出来たよ~!』と声が掛かった。
「ふむっ、食事の用意も出来たようじゃ、みんなも心配しておる。お主ももう動けるであろぅ、皆に顔を出しておけよ」
そう言い残して、シャシは身軽に窓から飛び降りてしまったのだった。
「あっ、……シャシ様は、相変わらずですね」
それにしても、まさかこちらが取り込まれてしまうとは、……最初から下手を打ってしまいました。
舐めていたと言われれば一言の言い訳も出来ませんね。
それにしても此処は、平穏…ですね……どうしてでしょうか?
あの森に続く場所であるならば、戦に成っていてもおかしくありませんのに……。
恐る恐るベッドから降りて部屋のドアを開けてみる。
するとそこは、吹き抜け三階建ての建物の三階の廊下の様でした。
並ぶ部屋の出入り口は全て引き戸に成っており、壁や床は生成りの模様が綺麗な板張りの建物です。
塗料などは塗っていなくても木目が綺麗で艶のある大きな一枚板がふんだんに使われています。
釘などが見えない造りは、見事な物でした。
階下に降りると中央には大きな囲炉裏があり、建物の中で火が焚ける様に成っています。
入り口は今大きく開けはなたれており、表からは行われているらしい食事の音と話し声が聞こえてきます。
開かれていた入り口から表の様子をソッと覗うと、丸太に切れ目の入った篝火が家を取り囲む様に焚かれ、建物の正面中央でバーベキューをしているメンバーを明るく照らしていた。
「やっと降りて来た様じゃのぅ。早くしないと食う物が無くなってしまうぞ」
シャシがロッジの玄関から顔を出したリリアナに大声で声を掛けた。
「無くなったりしません、大丈夫ですよ。チャンとリリアナさんの分は取ってありますから慌てなくても心配はありません」
それを見ていた銀河が、周りを見回して挙取っているリリアナを安心させる様に声を掛けるのだった。
「もうお加減は良さそうですね。担ぎ込まれてきたときは、真っ青に血の気がひいていて尋常な様子では無かったので心配しました」
「な~に、あれは仮死状態一歩手前といった所です。双葉殿なら易く快癒させられるレベルでしょう」
「ラクシュ様は簡単に言いますけれど、設備も無い此処ではそう簡単では無いんですよ。兎に角一命に触る様なことが無くて良かったです」
「そう謙遜することはありません。貴女は、唯一オフューカスの薫陶を受け、既に並の医師とは比べるべきも無いレベルに達していると聞き及んでいます」
「いいえ、それもこれもみんな昴兄ちゃんの功績です。私は後ろを追いかけているだけに過ぎませんもの……少しでも手助けが出来ればいいんです」
「地球の方は奥ゆかしい方が多いのですね、もう少し自己主張しても罰はあたらないと思うのですが……」
「その辺にしておいてやる事じゃ、ラクシュ殿。何処まで行ってもこの話は堂々巡りじゃぞ。人の想いはお互いが理解していればどんな形であれ通じ合う物じゃからな、とやかく言ったところでそう変わる物でもあるまいよ。話は変わるがどうなんじゃ? 今後の見通しは明るいのじゃろぅ?」
シャシは、これまでの話を打っ手切って話題を今後の方針へと切り替えるのだった。
「取り敢えず衣食住のうちの食と住は満たせそうですね。衣服については、簡単な着替え程度しか持ち込んでいませんので要相談、皆さんの工夫しだいとしておきましょう」
ジェニーが現状を答えた。
「セルロースの分解再構成が出来れば材料は腐るほど有ります。それほど慌てなくても何とかなるでしょう」
「明日は、温泉掘りじゃな。有るのじゃろぅ? 湯本となる源泉が……」
「……あります。ここの真下に……よくお分かりになりましたね」
「お主ら日本人が風呂を作らない訳は無かろぅ。ましてや温泉が出るやもしれん状況なら何を置いても調べるはずじゃ。こんな只の丘の上に嬉々として拠点を作り始めた時点で予想はついておったよ」
「私達って、そんなに分かり易かったんでしょうか……気をつけないといけませんね」
「そんな事はありませんよ。漏れなく温泉が付いてくる家が建つのです。大歓迎ではありませんか♪」
「そうじゃ、何も遠慮することは無い」
住居の話題で盛り上がっているところに、手が上がった、リリアナから。
「あの~、少々お聞きしても……」
「何でしょう、リリアナさん」
「此処があまりにも平穏で……、荒ぶる森の影響を少しも受けていない様なので不思議に思ったのです。どうしてですか?」
「「「「「「ああっ」」」」」」
その疑問に答えたのは、銀河だった。
「それは、日本人の知恵と言えばよいのでしょうね。此処を立てる前に私達が略式の地鎮祭を執り行い、敷地の周囲に結界を施したからです。此処は裏手に水場となる沢が在りましたので水神様をお祀りするための小さな社も建てさせていただきました。皆さん、毎朝の礼拝を心がけてくださいね」
「まさか、銀河殿が僅かの間に此処を神域としてしまうとは思わなんだ……まあ、これからは神に並ぶ血族となるんじゃからこれくらいの事は出来て当たり前? なのかのぅ……」
「うちのお母さんは、旧姓を北島って言うんですけど、出雲大社の社家の出なんですよ、末席の方ですけど、基本の作法を覚えていただけなんです。水神様は、水回りのあらゆる事に決まり事が有って、これを疎かにすると家族が病気になるから気をつけなさいって教えられたのよね」
「そうする銀河ちゃんは神官の血筋って事だよね。旧華族じゃん。昴兄ちゃんともそう遠くない血縁かもよ。希美お義母さんがたしか……今は無くなった神社の宮司さんの家だって言ってたし……」
「注意しておくけど、水神様は熱を嫌いますから温泉を掘るときには、敷地の反対側にしてくださいね。今の水場に湯が流れない様にしてくだされば大丈夫ですから」
「ふむっ、それは気をつけるとしよう」
銀河さんは、オールマイティーに何でもそつなく熟す昴さんの幼なじみ、神官の血筋。
双葉さんは、医学に精通した研究者で昴さんの妹的立ち位置。
裕美さんは、経済学社会学の権威で財産運用や物流、国家運営には無くては成らない人材。
聖さんは、物造りに広い知識を持つ昴さんのお弟子さん、特に建築物には一家言お持ちの匠。
ジェニーさんは、元軍人の考古学者で考える筋肉を地で行くアスリート。
シャシ様は、阿修羅王族の末姫で有りながら権謀術数に秀でた知能派、その行動力と機転で幸運を呼び込むトラブルメーカー、実は情報収集に特化した種族的権能を体術に昇華した武人。
ラクシュ様は、女性中心の武闘種族で有名なディーバ族の王女、その社交性と腕っ節で銀河の社交界を走り抜ける可憐な少女。
皆さん、とってもハイスペックです。
私みたいな小娘が一緒にやっていけるのでしょうか……。
実はリリアナが一番のお年寄りの箱入りだったりする。
精霊使いとしては、まだまだ掛け出しの半端物であるのだった、頑張れ……。




