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4-4-17 サバイバルハコツアー3

4088文字




 そこでは盛大に火が焚かれ、天を焦がす様に炎を上げていた。

 直径も深さも5mを越える大きな穴が掘られ、その中心には土器だろうか壺や器、皿などが並べられて巨大な炎で焼かれている。

 穴から少し離れた場所には、地面に突き刺す様に足踏みの(ふいご)が固定され、盛んに足を動かす裕美の姿と炎に薪を放り込む聖の姿があった。


「そろそろ交代します。休憩にしてください」


 ラクシュが裕美達に声を掛けにきた。


「了解。結構きついわよ、これ……ああっ、ありがとう」


 渡されたタオルで汗を拭きながらラクシュに場を開け、(ふいご)の前から離れる裕美。


「簡単な焼き入れだけれど、それなりの温度まで上げてやらないと脆いからねこれは……」


「それにしても、昴さんがチートだって事が良く分かりますよね。こうして(うつわ)ひとつ作るのにも大変な手間ですよ」


「これだってかなりのところ手を抜いてるんだ。ここの土壌の構成要素が50%以上ナノマテリアルだって事が分かったから、こんな簡易的な作業でも焼き物が作れるのさ。本当ならちゃんとした陶器用の土を時間を掛けて整形してから十分に乾燥させて、灰が溶けて自然釉に成るぐらいの高温で長時間焼き締めなければいけない。それこそ夜通し7日から10日も釜の火を焚き続けるんだ。釉薬を使う場合でも一度素焼(すやき)した後に絵付けして仕上げの焼成作業を行う……兎に角焼き物は手間も時間も日数も掛かるのさ」


「それが私達でも簡単に数時間で作れるって事が凄いことだとは思いますが、(もと)に成っているナノマテリアルが謎物質である事も同時に再認識しました。昴さん達ならこれを使って(まばた)きするぐらいに何でも造成しちゃうんですもんね。あれはホントにチートですよ。私達は、時間掛けて専用のインターフェース使ってやっとですもん」


「まあ、それは誰もが認めるところだから今更とといったところじゃないかな。だからこそ昴ちゃんが一族の長にも選ばれたんだろうし、同じ体験を別人がしたとして昴ちゃんの立場に成れたかって問われたら……多分誰もが『無理!』って言うんじゃ無いかなと思うよ。そんなことよりも私は、もっと昴ちゃんに色んな物を生み出して欲しいと思ってるんだけどな~」


「私だって何も否定している訳じゃ無くて、純粋に凄いなって……」


「ふむっ、魔法の種が知れてきて惚れ直してるって言いたいんだね、分かる分かる♪」


「茶化さないでくださいよ、聖さん。まあ……その通りではあるんですけどね……」


「旦那様は、凄い御方です。まだまだその片鱗を僅かに表しただけですが、銀河中の誰もが無視できないほどに存在感を示しています。それこそ神が盟友を結び対等に付き合うほどに……」


「イヤイヤァ~それ聞いたときは、まさか~って思ったんだけど納得も出来ちゃうんだよね。昔っから一緒に居る幼なじみとしては、相変わらずだな~って……」


 ラクシュが(ふいご)を踏みながら恨めしげに呟いた。


「そんな風にサラッと言える銀河さんが羨ましいですよ」


「私は、一緒に宇宙で飛び回れるラクシュさん達の方が羨ましいんだけどな~……」


「お互いにこれからの努力と協力、そして競争ですね」


「随分と楽しそうな話をして居るのぅ。妾も混ぜるのじゃ♪」


 シャシが仮小屋とは名ばかりの立派なロッジの窓から顔をだした。


「シャシ様、リリアナさんの様子は、どうですか?」


「大丈夫じゃ、今は眠って居るよ。双葉の見立てでも特に心配はいらんようじゃ」


「それは良かったです。真っ青なリリアナさんが担ぎ込まれて来た時にはどうなることかと思いましたけど、ホッとしました」


此奴(こやつ)は、その種族柄じゃが繊細な所があるからのぅ、森の集合意識にでも飲まれたのじゃろう。適当に無視して居れば良かったのじゃが……ここのは少々特殊じゃからな~無理だったのじゃろうのぅ……」


「シャシ様ほどガサツには成れなかったと言ったところですね。うんうん、分かりますよ」


「そこ~、そんな事を分からんでも良ろしい……まったく。兎に角じゃ、リリアナがここの木霊から得た情報ではのぅこの森には、特に危険と言える様な物は存在せず、まだ陸上生物や鳥類なども居ないと言うことが分かったのじゃ」


「そうするとどうやってこれだけの生きた森が出来上がったのでしょう。生き物が居なければ植生の循環が起こりませんし……」


「その辺は、専用のモノキュラーマシンが働いているようじゃな。昆虫サイズのモノを何種類か確認して居る。セバスチャンの仕業じゃろ、多分」




 ◆




 少し時間は、(さかのぼ)る。


 リリアナを迎えに森に向かった3人は、そこで異様な光景に遭遇したのだった。

 それは、リリアナが居るだろう所には不自然に樹木が密集し、枝葉や蔓などによって直径50mほどの巨大なマリモの様な物が出来上がっていたからである。


「……もしかして、リリアナさんはこの中ですか?」


 ジェシーの問いにシャシが答えた。


「その様じゃな。まったく難儀な奴じゃ……」


「これは引っ張り出すだけでも骨が折れそうです。仕方がありませんわね、森が守ろうとしているのでしょうけれどこれは壊すしか無いと思います」


 謎の物体を見上げて辟易としながらもラクシュは攻撃の構えをとった。


「まあ、早いところ連れて帰るとしようかのぅ……」


 ブツブツと言いながらシャシも構えをとるのだった。

 それからの2人の行動は素早かった。

 2人の手足が霞む様に動く度に、さっきまでの言葉が嘘だったかの様に樹木や蔦が削りとられていくのだった。

 僅かに再生する様子も見受けられ削り取られた断面がピクピクと動いてはいたが、そんな事ではとても2人の攻撃に追い着ける物では無く、謎の球体の半分が削り取られた所でその中心付近に赤ん坊の様に丸まったいリリアナが意識のない状態で見つかったのであった。

 蔦に巻き付かれ真っ青になっており、けっしてここが穏やかな寝床では無かったことがうかがえた。


「これは……下手したらこのまま衰弱死して居ったのでは無いか? こんな所で居眠りとは呑気じゃのぅ」


「リリアナさんですからね~……」


「……、私が背負いましょう、ここではまともな治療も出来ません」


 3人のうちジェシーがさっさとリリアナを担ぎ上げて移動を開始したのだった。


「ほんに世話が焼けるのぅ「全くです」……そろそろ寝床は出来て居るじゃろうか?」


「私は、心配していませんよ。早く帰って手伝いましょう」


「そうじゃな……」



 と言った様な事があった。

 4人が拠点に戻った時には、既に屋根板を貼る所まで作業の進んだ立派な巨大ロッジが完成していたのだった。

 その後、一番最初にリリアナが寝床を占有し、双葉の治療を受けたのだった。

 幸いなことに重度の神経衰弱と疲労による昏睡と診断されて今に至っている。

 早い話が『ベッドに寝かせときゃ直る!』『起きたら何か食わせろ!』と言うことらしかった。

 一々人騒がせな事である、リリアナらしいと言えばらしいのであるのだが……。

 目が覚めたリリアナがみんなに吊し上げられるのは決定事項であるのだった。




 ◆




 2階の窓から顔を出し、会話に入ってきたシャシが疑問を問いかけた。


「それにしてもアッと言う間に出来上がったのぅ。どんな手品を使ったのじゃ?」


「ああっ、それは聖ちゃんがブレスレットを弄り倒して使用制限を限定解除する裏技を見つけたからだね」


「なんと……どこまで解除出来たのじゃ?」


「マルチセンサーに工作用レーザー、それにデータベースへのアクセス権だね。やっぱり情報は、力だよね~。今では私達の間で当たり前に成ってるけど、必要な情報が必要なだけ見られるって事が出来なくなっただけで自前の知識が怪しいことに気がついたって落ちなんだけど……それが出来なくなって初めて有難味が良く分かったって事かな」


 聖は、工作用レーザーで巨木を伐採し、出来上がったその丸太をアッと言う間に手頃な材木に製材してしまったのだった。

 そして、建築用データベースから手頃な山小屋等のデータを探し出し、瞬く間に組み上げてしまったのである。

 幸いなことに、此処に居る全員が肉体強化を出来るので建機や重機など無くても事足りたのであった。

 マルチセンサーに依る周囲の各種解析が進むにつれて土壌の構成素材なども詳しく分かってきた。 必要な情報さえあれば此処に居る全員が有能なプロフェッショナルに化けるだけの下地は出来ている。

 聖と裕美が拠点の整備を進めている間に銀河と双葉は食料となる山菜や薬草の採取に励んでいた。 ジェシーがリリアナを担いで帰ってきた来た頃には、ほぼ拠点は出来上がっていたのであった。


「このブレスレットの機能制限は、どうも私達の経験値というか、スキルレベルによってプロテクトの深度が変動する様に組まれているみたいなのよ」


「ふむっ、と言う事はどういう事なんじゃ?」


「これには、今まで使っていなかった便利な機能がたくさん隠されていて、創意工夫で何にでも活用出来るみたいなのよね。私達各々の能力を再確認する事今回の課題みたいなんだけれど、標準装備の限定解除的な意味合いもあるみたいなのよ」


「これは乗船用のキーアイテムじゃろう。妾は、各種情報端末の他には通信機ぐらいにしか使って居らんぞ」


「前に聞いた事があるんだけど……昴ちゃんはこのブレスレットの機能とハードスーツが有れば小型の恒星間宇宙船を組めるって言ってたんだ。あれは嘘や冗談じゃ無かったんだな~ってね……」


「なんじゃそれは、真の事なのか」


「それがホントの事みたいなんだ。私達は当たり前の様にチートアイテムを持っていた事に気がついていなかったんだよ。まあほとんどの所は、気付かない様に巧妙な隠蔽がされていたんだろうけど、ある程度のスキルと知識、そして資格を持っている人間には解禁される様な仕様になっているってことさ。私達なら当然使えるのが当たり前の筈が気がついてもいなかった」


「今回のサバイバルは、そういった気付きをさせるための試練だったって事?」


「おそらくね……まさかここまで万能なアイテムだったとはね……」


「嫁とも成るならば、自分の能力把握は当たり前。標準アイテムぐらい十全に使える様になれと言う訳なんじゃな……何とも厳しい事じゃのぅ」






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[良い点] いつまでもwikiに頼っちゃダメなんですよね…
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