4-4-16 サバイバルハコツアー2
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アッと言う間に1ケ月経ってしまいました。
更新をお待ちになっている読者の方々には大変申し訳なく思っております。
執筆環境を変更したところ、ペースが落ちてしまいました。元に戻そうかな……。
今後は、10日ペースの更新に戻す予定でおりますのでよろしくお願い致します。
僅かに香る潮の匂いを頼りに、私は海岸線を目指していた。
人が生きるのに必要な水と塩が同時に手に入るからだ。
あわよくば食材の確保も一緒に出来れば一石三鳥なのだけれど、そこまで上手くゆくとは考えていない。
最低限のライフラインを確認して、速やかにあの娘達と合流しようと思う。
それにしてもこの森は、見るからに異様だ。
時間が経つと共に、その違和感は嫌が応にも膨らんでゆくのだった。
最初にどこかがおかしいと思った。
そして、当たり前に有るはずの物が無いことに気がつくまで然程時間は掛からなかった。
此処には動物の気配が一切しないのだ。
これだけの森である、虫の一匹ぐらい飛んでいても良さそうなのにアブや蚊の一匹も寄ってこない。
それに、此処に立ち並ぶ樹木の大きさも異様だ。
一本一本が、ヨセミテのジャイアント・セコイヤの様に太く巨大である。
確か彼の大木は、樹齢3000年以上と云われている様だがそれにも負けないだけの迫力があるのだから始末に負えない……。
植物とは僅か数年でここまで大きくなる物なのだろうか。
やがて森を抜け視界が開けてきた。
あれは赤松の林だろうか、その先には立ち並ぶ椰子の木が見える。
取り敢えず椰子の実は確保できるだろう。
立ち並ぶ大きな松の木からは松の実も採れるかも知れない、落ちている松ぼっくりも拳大の大きさだ。
白く輝く海岸線に出るとそこに見える砂浜の砂は、貝殻や珊瑚の欠片では無く透き通る様な珪砂に依る物だった。
無色のガラスを細かく砕いて、延々と敷き詰めた様な砂浜の景観は、日に輝いて輝いており綺麗ではあるが生活感と云う物からはほど遠い気がした。
しかし水際を良く見てみると、砂に混じって僅かな貝殻が確認できる。
更に目を凝らせば、そこら中に小さな穴が無数に見受けられる事から小型の水辺の生物が存在する事が予想できた。
貝類またはゴカイやイソメのようなワーム類が考えられる。
そうするとそれを餌とする甲殻類や魚類も存在するかも知れない。
いけない、研究者としての思考が頭を擡げる。
まずは確保出来るだろう各種資源の確認と必要数の確保……周辺の危険の確認だけ済ませてしまおう。
もうそろそろ他のメンバーは集合を始めている頃だろう。
何処までも続く海を眺め、気持ち的に明るくなった見通しに笑みを浮かべながらまずは、一つずつサバイバルでの確認事項を埋めてゆこうと思った。
人間が生き残るのに必要な物は、水と食料、そして安全なライフエリアの確保である。
通常の人間は水が無ければ3日間(72時間)と生きられないと言われている。
遭難者の生存ラインが72時間と言われているのは、これが基になっているからだ。
我々は、それぞれに強化されているので一概に当てはまることでは無いが、水が一切無い環境ではそう長い間生き残る事は難しいだろう。
流石に土塊をエネルギーに活動するなどと云うことは我々には無理である。
チョット小耳にした情報では、私達の旦那様はあらゆる物を分解再構成してエネルギーと必要な物質を手にすることが出来てしまうらしい……もうそこまでゆくと神の領域では無いのだろうか……『無から有を生むのはまだ無理だがやがては……』などとハコさんが呟いていたのを私は聞き逃していない。
話が横道にそれたが、森に海、そして砂浜には小動物が確認できたことから、サバイバルに必要な物はほぼ揃えられる見通しを立てる事が可能となった。
後は速やかに合流を果たし、安全な拠点を確保すれば良い。
これが比較的安全な日本の山間部なら、まず仮小屋を組んで仮の拠点とした後にツリーハウスなどを作ることになるのだが、此処にはどんな危険が潜んでいるのかまだ分からない。
速やかに最大限の安全対策が必要になるだろう。
およそ必要な情報も集まったので、私も合流することにしようと思う。
しかし、3年でこれだけの物が創られたのだと聞いても、実際に見て感じていなければ夢か幻ですんでしまう様な気がする。
実際にVRでこれに似た事が出来るのを体験している身としては尚更であるのだが、今更だろうなとため息をついていると……不意に背後から声を掛けられた。。
「こんな所でなにを溜め息などついて居るのじゃ? 幸せが逃げると聞くぞ」
「シャシ様は、この環境を見てもあまり驚いていない様子ですね。普通はこれだけの物を間近に見せられれば驚く物ですが……」
「ハハハ、そんなことは今更じゃろぅ。そういえば御主は、ずっと地球に居ったから太陽系の外で何が起きておったか詳しくは聞いておらんじゃろうな。この大地は、セバスチャンの仕事らしいがこの空間そのものは旦那様の力じゃな。ホレッ、上を見上げれば月まで3つも浮かんで居るわ……」
「これはもう、天地創造などというレベルではありませんね。惑星を含めた周辺空間、宇宙その物の創造と云ったところでしょうか」
「ザッと見ただけじゃが植物の成長具合や無機物の風化具合から見ても、2・300年は経っていそうではあるな。儂は、この空間の時間をもコントロールしていると言われたとしても驚かんぞ……」
「ふむっ……ありそうな話ですね、相変わらず鋭い洞察力です」
「そうじゃろぅ? もっと褒めて良いのじゃぞ」
「ああっ、ハイハイ……」
「なんじゃ? 相変わらず旦那様以外には塩対応で厳しいのぅ……。アッそうじゃ、おぬしを呼びに来たんじゃった。一先ずの拠点とする場所を定めたのでのぅ、早ぅ集まって作戦会議じゃ、付いて参れ!」
「了解です、さあ行きましょう……」
その場から2人は、かき消える様に移動に移ったのだった。
◆
海岸から5kmほど内陸に小高い丘があった。
実際には数刻前まで森だったのだが、周りの大木はアッという間に切り倒されそこは見通しの良い丘に変貌していたのだった。
中央の巨大な切り株をテーブル代わりに、森で採れただろう山菜や木の実、茸や芋などが少量ずつ積まれていた。
銀河がそれらを指差してしゃべり出した。
「この周辺で食べられそうな物を集めてみました。飢え死にはしなくて済みそうですね」
「簡単な森と海岸の調査はして来ましたが特に危険な物は発見できなかったわ。水と塩は、確実に確保できるでしょう。砂浜に貝やワーム等の生息も確認できますから魚等も生息している可能性がありますね」
「あとで釣りに行きましょうよ。罠を試してみても良いかも……」
双葉が嬉しそうに呟いた。
「そんなことよりもじゃ、まずは早う寝るところを作らねば屋根無しで野宿することになるのじゃぞ。今のところ雨の降る様子は無いが夜露に濡れると風邪をひく……様な軟弱者は此処には居らん様じゃな、みんな至って丈夫そうじゃ♪」
その意見に聖が同意する様に頷いた。
「雨露を凌ぐ為にも仮小屋ぐらいは作りたいわよね。そっちは私がどうにかするわ、任せて頂戴!」
そこにあっただろう樹木がきれいに伐採されて禿げ山になっている中心での話し合いである。
直ぐ横にはたった今製材したばかりの柱や板が山と積まれていた。
「材料は、文字通り山の様に有るから心配いらないわ。どんな家がご所望かしら……」
「聖のセンスに任せるわよ、手が必要なら声を掛けて頂戴ね」
「了解……さあ、暗くなるまでに寝る場所ぐらいは形にしないとね……手の空いている人は手を貸して……」
「ちょっとその前に私から一言報告してきますね」
双葉が待ったを掛けた……。
「この周辺の植生や薬草類を見て回ったんだけど、どう見ても自然に出来上がった森とは言いがたいんだ。畑か農園と言っても良いぐらいにバランス良く整いすぎているんだけど、野生の生育環境を維持されているんだよね。希少な薬草や植物もふんだんにあるし、薬師に言わせれば宝の山の様な物だわ」
「セバスチャンの手が入ってるっていうからその辺は既定路線なんでしょうね。非常時の移住先として考えて作ったんだろうし、直ぐ住めるぐらいに整えられているのは当たり前ってぐらいに考えた方が良いのかも知れないわね。薬草は、自然状態の方が薬効が高いことが分かっているからわざとこういう形を取っているんでしょう。私達は、ていの良いモルモットぐらいの物じゃないのかしら。まあ、予行演習だと思って色々と試してみましょうよ」
「フーン、それじゃ当面の課題としては此処での衣食住を如何に素早く確立するかって事でいいのよね。……それなりに手が無い訳じゃ無いし、各分野のプロがそろってるんだから問題はなさそうだけど……」
「その辺を言明されてる訳じゃ無い所が落とし穴の様で不安が残る所なんだけど、各人はそれぞれ自分に不足している所を他のメンバーから吸収する良い機会になると思うわ、頑張りましょ」
「そうじゃのぅ、楽しい休暇になりそうじゃのぅ……」
この後、それぞれの行動は素早かった。
その言葉通りに聖は、暗くなる前に立派な大型ロッジを完成させたのだった。
水回りや火床の準備は翌日になったが、安全に寝る場所は確立されたと云って良いだろう。
双葉は医療に精通し、裕美は経済と政治の専門家。
聖は合間合間にみんなの手を借りたとは言え、ほぼ1人で建設してしまったのだった、それも数時間で立派な大型ロッジをである。
「おおっ、これは随分と立派な仮小屋じゃのぅ♪」
「イヤイヤ、そこはもっと驚きましょうよ、シャシ様」
「だが、旦那様の細君を名乗るのであればこれくらいは出来るのが当たり前じゃろぅよ。腕っ節なら儂だってチョットした物なんじゃぞ」
「そうですね、それで家事の方もまともなら言うことは無いのですが……」
「それはこれからの修行じゃな、旦那様もゆっくり覚えれば良いと申して居ったのじゃ」
「まあ適材適所といいますからね。そんなに焦ることは無いと思いますよ。助け合うのも嫁連合の使命ですから……それにしてもリリアナさんは遅いですね」
「何やら引っかかって居るようじゃな。どれ、拾いに行ってくるとしようかのぅ。夕餉の支度は銀河殿達にまかせてひとっ走りじゃな」
「私も行きましょう。危険は無いと思いますが単独での行動は極力避けるべきです」
一言、ジェニーが腰を上げた。
「私もお供しますよ」
ラクシュも腰を上げたのだった。




