4-4-15 サバイバルハコツアー1
5004文字
難産です…でも少し続きます。
俺は、今年に入ってからズ~ッと地球に居る訳だが入れ替わり立ち替わり許嫁達に玩具にされていた。
(イヤといえないニクい奴、ただ肝っ玉が小さいだけとも言う)
まあ、この際に玩具にしていたのかされていたのかどっちなのかは、あまり重要な問題では無いのだが……。
そしてこの半年間、休む暇も無く責め立てられ搾り取られて干涸らびるのでは無いかと我ながら心配になったくらいである。
(絶対に大丈夫です! 殺しても死にませんから……By.ハコ)
今週は、俺だけ久々のオフでみんなでハコを見に行っている。
親父や母さんも一緒なんだが、場所が場所なだけに心配だな~。
何てことも無くハコ本体は、地下ドックに係留されているんだけど(小さいからね場所はとらない)その内部は俺も全部を把握していない広大な迷宮とも言える一つの宇宙だ。
そんな訳で、なんでも今では船の中を一周りするだけで1週間は掛かると言っていた。
ほんと、我ながら吃驚なんだが、その話を聞いた銀河達は俺の顔を見て頭可笑しいんじゃないかって顔をしながらシスターズに連れられていったのだった。
誰も居なくなった……俺は、このすきに鋭気を養おうと思う。
裏山でのんびりとキャンプでもしようかな……久しぶりに星を見ながらゆっくりと……。
◆
みなさんこんにちは、長谷川銀河です。
私は今、とっても混乱しています。
いったい何なんでしょう、これは?
私たちは、文明の影も形も無い深い森の中で、今まさにサバイバル生活を始めようとしているのです。
ブレスレットにより各自の権能を大きく減じられ、このブレスレット由来の特殊機能も限定的でそのほとんどを制限されています。
ナイフ一本も持たされず、サバイバルの道具一つにしても自分達で造るか調達しろと言われ、こんなところに放りだされてしまいました。
最初に話を振ったのは私ですけど……こんな結果になるとは思ってもいませんでしたよ。
まず、どこから話せば良いでしょうか……。
混乱する頭を抱え、今まで起こった事を整理してみます。
「これが嫁入りの最終試験ですか……ハンッ、受けて立ってやろうじゃありませんか」
「まあ、嵌められたのは確かね。船内回るのに1週間掛かるって言っておきながら、実際には半日掛かんなかったし……おかしいとは思ったのよね」
「兎に角、残り6日と半日を私達だけで生き抜けば良いんでしょ、楽勝よ」
「そんな事いって双葉は、サバイバルの経験なんて無いんでしょ?」
「うん、ゼンゼン!」
「ハ~、期待した私が馬鹿だったわ」
「しっかし、サバイバルスキルを持ってる人間は、見事に遠く離されてバラバラにされたみたいね」
「まだ始まって30分も経ってないんだし、コンタクトを取る方法は一つじゃ無いわよ。私達素人のキャンプ知識でどこまで出来るかだね。他のメンバーは、腕っ節と経験だけはある人ばかりだし心配いらないでしょう。向こうから合流してくるか、単独でも6日くらい生き残れるわよ」
「ひとまず4人いれば作業を分担して拠点ぐらいは作れるでしょう。問題は、食糧が調達できるかどうかってところかしら……この森にどれだけの食材が有るのか、そして道具も用意しなくちゃいけないし……やることはいっぱい有るわよ」
「みんなで頑張りましょう」
「「「「オー!」」」」
此処には今、私と双葉、裕美と聖の4人がいる。
参加メンバーは、バラバラに数十kmから数百km離れた場所に放置されたらしい。
幸いな事にこの4人は、10kmほどしか離されていなかった事から、迅速に集合することが出来た。
このサバイバルゲームは、制限時間の間にどれだけ快適な生活をおくることが出来るか。
何処までこの環境に耐えられるかを試される物だろう。
しかし、命に危険が及んだ場合は脱落者として強制的に回収されるらしい。
たぶんだが、脱落した時点で希美様に何を言われるか分かった物じゃない。
ああ見えて希美様は、世界中の秘境を飛び回った技術者で学者だ。
そして、実力派の研究者でもある。
どんな境遇で譲様と巡り会ったのか謎の人物で有る。
そして実は、現役の軍人であるジェニーさんが舌を巻くほどのサバイバル技能の持ち主で有るのだ。
殊日本の山中だったら何ヶ月でも自給自足出来ると嘯いていた。
どこでそれだけの知識と経験を育んだのだろうか……謎は深まるばかり……。
などとどうしてこんな事を知っているのかというと、昴ちゃんとの幼なじみは伊達じゃ無いって事である。
家族ぐるみでのお付き合いはもう随分と小さい頃からだし、物心付いた頃にはすでに家族同然に過ごしてきた。
当然、アウトドアでの遊びのレベルが半端じゃない事ぐらい肌で感じるほどだ。
それこそナイフ一本あれば、アッと言う間に色々と熟してしまうのを実際にこの目で見てきたからこそ言えるのである。
私にあれと同じ事が出来るとは思わないけれど、少なくとも門前の小僧ぐらいには知識もある……んじゃないかな~ちょと心配になってきた。
実力を知っている身としては、10日じゃ生ぬるい1ヶ月ぐらい凌いで見せないと嫁として認めて貰えないような気がしてきた……頑張ろう。
「ふふふ、みんな良い面構えしてるじゃない……結果が楽しみだわ♪」
[希美様もお人が悪い。ヒントぐらい出してあげれば宜しいのに……。条件を満たせばブレスレットの機能が段階的に解除されてゆきますので、いったい誰が最初に気がつくでしょうね。まあ、使わないで最後まで原始生活で生き抜くのも一つの手ですが……]
「あの子達は、一人じゃ無いわ。知恵を出し合えば割と楽勝でしょ。それに、ジェニーとリリアナはサラブレッド、ダークホースは銀河ちゃんかしら……私が子供の頃から昴と一緒に連れ回したし……。実力がよく分からないのは、シャシちゃんとラクシュちゃんね。相応の経験は、有るみたいだけどどこまで出来るかが見物だわ」
「ああ、昔は小さい二人を良く山に連れて行っていたよね。希美さんが一緒なら大丈夫だろうとは思っていたけど」
[……付かぬ事をお聞きしますが、譲様のその信頼はどこから来る物でしょうか?]
「ははは、それは俺が大学の頃、山で命を助けられたからだね。俺は荒垣先輩の荷物持ちでしょっちゅう山に登っていたんだけど、遭難しかけたことが有ってね。希美さんは、命の恩人なのさ。そんな事も有って、俺が猛アタックして結婚に漕ぎ着けたんだよ。イヤハヤ大変だったよなぁ~。希美さんは、行動範囲が広くて広くて……」
「私は、大学の時に災害で親族が居なくなって私一人になっちゃって、1年休学して日本中の山を歩いていたの……。たまたま譲さんを助けたらそれから、彼は時間を作っては私のストーカーをしてたのよね? ユズルさん……」
「うっ、まあストーカーって言うのは人聞きが悪いけど、追っかけをしていたのは確かだね。でも、山伏が苦行を行う様なところを苦も無くスイスイと渡り歩く希美さんを追いかけるのはほんとに大変だったな~、アハハハハ」
「笑い事じゃ無かったんだからね……最初は、見てると危なっかしくてヒヤヒヤしたんだから……」
[……と、言うことは満更でも無かったと?]
「う~ん、まあっ……知り合いの山関係者がみんなして譲さんを応援しだしちゃってね、何時になったら私が落ちるかって賭にもなってたくらいだし……」
「そうだね~、たくさん応援してもらったな~。みんなどうしてるだろう……希美さんと籍を入れてから一度挨拶に行ったきりだしな~」
「その辺に抜かりは無いわよ。ちゃんと付け届けはつづけていたし、会社起こしたときにも連絡して、お世話になったみんなにはうちの名誉会員になってもらっているわよ」
「さすが希美さん」
◆
深い森の中、僅かに日の当たる倒木の上に瞑想するように半眼に目をつぶりブツブツと呟く人物が居た、シャシ姫だ。
「ふむっ、随分とバラバラに落とされたようじゃのぅ~。銀河達は、こっちの方じゃな。……ラクシュ殿は、あっちの様じゃが凄い早さでこちらに近づいて居るのぅ。リリアナは……よう分からんな~森に融け込んだようにあやふやで……存在感だけが膨らんで居るんじゃがよう分からん。そして、のんびりと海の方に移動しているのはジェニー殿じゃな、こちらは心配は無かろう。ラクシュ殿を待つ必要もなかろうな、ボチボチと儂も動くとするかのぅ……」
途端にシャシ姫の姿がその場から掻き消えた。
驚異的なスピードで移動を開始したのである。
まるで風のようだ。
森の中を移動する様なスピードでは決して無いだろう移動速度である。
普通に移動するには割と深い下草が邪魔をするが、そんな下草や藪を跳び越え大木の幹や枝を足場に、蹴り飛ぶように移動してゆく。
だがしばらくすると、並ぶように移動する人影が現れた……。
「シャシ様、非道いです。もう少しで合流できましたのに、待っていてくれても良かったのではありませんか……私を置いて先にゆかれるなんて……」
「直ぐに追い着いたでは無いか、そう目くじらを立てるでない。今は皆との合流を急ごうではないか」
「プンプンッ、今はそういう事にいたしましょう……この森は少し様子がおかしい様ですしね」
「ふむっ、普通の森では無いのじゃろうな。生き物の気配が一切為んと言うのが解せん……」
「色々と制限が有るとは言っていましたが、身体能力にリミッターは掛けられていない様で安心しました。その他の権能は届かないようですが……」
「そうじゃのぅ、心通も跳びも使えぬ様じゃな。携行品も確認したが僅かに衣料品が使える程度のようじゃ」
「流石にハコさんは徹底していますね」
「儂は、希美殿の趣向の様な気がするのぅ。何気にうちのアプサラス王妃と同じ匂いがするのじゃ……武闘派じゃからな~、最近は拳骨が飛んでこなくなったが昔は非道かったのじゃ……」
「その辺は、うちも一緒ですよ。ヴィシュヌ様は、肉体言語の方が主言語ですから気にしたら負けです」
二人は、競う様にスピードを上げると、銀河達のいる方向に向かうのだった。
この後、二人は200kmほどもある距離を世間話に花を咲かせながら僅かな時間で駆け抜けていった。
さて、更に深い森の中ではリリアナが虚空を見上げていた。
どうも人ならざる者達と会話をしている様である。
風も無いのに森に木々がザワザワと枝葉を揺すり、木漏れ日がキラキラと零れ落ちリリアナを取り囲む様に目に見えない何者かの存在感だけが渦巻いていた。
リリアナは、赤子を抱く慈母の様に微笑み、人ならざる者達の声に耳を傾けていた。
「フフフ♪ そうですか。あなた達は、まだ生まれたばかりなのですね。そして、私達が初めて此処を訪れる生有る者で在ると……分かるのですね?」
まだ色々な物が混じっていない、しっかりとした生命体としての意思を感じますね。
「まだ、動物は発生していないようですね。原初の森……と言うことでしょうか」
肌に伝わってくるのは、言葉と言うよりもイメージ。
ここを最初に創った物達のイメージは、白髪の老人……これは、セバスチャンでしょう。
あとは、その手下として動く無数の無機物からなる意思無き存在……オートワーカーの群れでしょうか?
大地の広さは、旦那様の生まれた地の3倍ほどでしょうか。
わずか数年で無からここまで深い森を作り上げるとはビックリです。
しかし、私から見ると歪な成長にかわりはありません。
ここにある木々は、他の生命を知りません。
森や植物は、生命を守り育み共に成長する物のはずです。
この森の木々は、多大な好奇心とわずかな敵対心によって我々を見ています。
他の存在を知らない無垢なる集合意識体……対話無く森を傷つけると我々と敵対する事も考えられますね。
「我々は、あなた達を産み育てた者の主の伴侶となる者です。決して敵ではありません……と言ったところで敵や味方という概念を知らないのでしたね……どうしましょう?」
ここまで大きくなった森には、それに釣り合うだけの精霊とも言うべき意思が存在します。
最適に育てられた森には嵐も無ければ病害も無く、ましてや根や枝葉を食い荒らす獣や害虫もいない……初めて接触した別の存在が私達って言うのは……強いて言えばこの森は、赤子の様な者。
機嫌を損ねて臍を曲げられたら周りが全て敵と同じになってしまいます。
これは、思ったよりも大変かも知れません。
取り敢えず、出来るだけの会話を試みる事といたしましょう。
銀河さん達に何も無ければ良いのですが……。




