1-3-01 父と准教授の頑張り…協会設立 21/5/10
20210510 加筆修正
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世暦2002年8月12日深夜
今夜は21時に月が沈んでしまったので天体観測にはうってつけだ。
ペルセウス座流星群の極大に合わせて観測ビデオを撮りながら、他の夏の星座を記録する。
今年は、父さんも一緒だ。
そばには、ハコも居る。
「父さん、先月発表された地球に衝突する小惑星ってほんとにぶつかるのかな?」
「先月発表されたっていうと、小惑星2002 NT7の事かな。大きさは、およそ2Kmで、17年後の予想だから、2019年ごろらしいね。20万分の1の確率らしいから多分衝突はしないだろうと思うけど、もしもぶつかったとしたら大陸一つ無くなって地球規模の気候変動が起こるだろうね」
「ほえ~、そん時は映画のアルマ○ドンみたいにその小惑星を壊しに行くのかな?」
[否定。大丈夫ですよ、昴さま。その頃には、私も完成していますので逃げ出せます]
「その手もあるんだね、でも他の選択肢も有るんでしょ?」
[肯定。小惑星を壊すのでは無く、船でマテリアルに変えてしまえば後腐れもなくて良いかも知れません]
……2kmぐらいの金属の塊なんか一瞬で消せますが……
「そっか、安心だね♪」
「おいおい、行動に移す前に相談してくれよ。たのむからな」
[……昴さま。夏休みの宿題はもう終わったのですよね? 明日からは、譲さま用のナノマテリアル用マザーマシンを完成させちゃって下さいね]
「え~、あれ難しいよ~、どうしても急ぎ?」
「オイオイッ、返事くらいしてくれよ~」
[肯定。特急です。あれを作っておかないと、水素発電装置のコアユニットを量産できません。一個づつ昴さまが作るハメになりますよ。それでも良いんですか]
「うっ、それも嫌だな~」
[否定。今回の冴島先生との打ち合わせで、今後は国の管理でコアユニットだけブラックボックスのまま提供する事に成りましたよね。ケースや安定器にスイッチや起動用のバッテリーなどは再設計を行い、出来るだけ既成品の中から適時選択して使用するそうです。一番バランスの良い物を大手の電力会社と電気部品メーカーで提携して出す予定ですからね。対外的な調整や特許については、全て経済産業省が手を回してくれる手筈になっています。下手にゴネて、ニコラ・テ○ラ博士やユージーン・○ローブ氏やトム・○ーグルみたいに闇に葬られるなんて洒落にもなりませんから諦めてください。ある程度は、利権の分散を図って身の安全を確保しながら、装置の量産と拡散を行いましょう。装置そのものは、国管理の元でレンタル契約とする予定だそうです]
「ふ~ん」
「昴。これで、当面の国からの保護と協力を取り付ける事に成功した訳だけど、この間の襲撃みたいに人間は善人ばかりじゃないんだ。周りに配慮した備えは必要だよ。人を信用するのも大切な事だけど、信用しすぎるのも危険だ。人間は、一人では生きていけない物なんだよ。昴には、ハコ達が居るから心配は無いと思うけど、人間は特殊な個体を排除したり攻撃したりするんだ、所謂イジメや孤立だね。無視してくれていれば都合がいいんだが、こちらが関わり合いに成りたく無いと言ってもほおって置いてはくれないものなんだよ。昴、人を見極められるように成りなさい、そして賢い大人になってほしいと思うんだ」
「うん、わかった!」
◆
会談から帰ってきてからは、荒垣と水素発電装置の普及プランを練り上げた。
先ず、一般社団法人として水素発電協会を立ち上げる。
電力関係各社と、今回はポータブル発電機関連にも声を掛け、まずプロトタイプの形を何例か作り実用試験を行う。
買い取ったコアユニット、初期ロット1000個でポータブル水素発電機を設計し、自衛隊、消防庁、学術研究所等へ設置して運用試験を行う。
電力各社には、複数コアユニット使用による中型から大型の水素発電機の設計製作を依頼し、協会が管理運営を行う。
コアユニットの1001個目以降は、レンタルとしているが、特許申請したとしても実質製造できるのは、(株)タウルスだけなので特許料のようなものである。
しばらくは、国内のみで普及させ、水素発電機として規格が完成したら輸出製品として各メーカーから売り出す。
但し、その場合は国内の倍の価格として販売するか、海外に水素発電協会を設置してレンタル品として管理する。
ブラックボックス化したコアユニットの分解は当然不可であり、製造番号と製造日時が刻印されている。
刻印の削り取りは、ダイヤモンドドリルでも不可能で、強行すると電磁パルスを発信して自壊する仕様になっているらしい。
分解しようとしても同じ動作をするので、ECM耐用になっていない周囲100mの、電子機器は道連れにされる。
此の時、電磁パルスに自分の製造番号を乗せて発信するので、何処でどの番号の製品が自壊したか分かる仕組みになるそうだ。
自壊電磁パルスの受信装置は、(株)タウルスより協会に提供される。
協会は、自壊信号を受信した場合、それが販売したものであった時は自壊を確認した旨の通知を行い、それがレンタル品であった時は違約金の請求を行い、違約金のうち規定額をタウルスに支払う。
プロトタイプは、次のような仕様となる。
水素発電装置・普及型プロトタイプ 再設計監修:冴島浩司
設置時初期費用概算 Aタイプ100万円、Bタイプ80万円
(コアユニットはAB同じものを使用)
水素発電用コアユニット タウルス製 製造Noにより管理
初期ロット1000個×50万 国が立替て協会に売却
(5億円 売却分なのでレンタル対象外)
1001個目以降はレンタル料月1000円/個
(コアユニットは、リースではなくレンタル)
ポータブル水素発電機A ホンタ技工製・設置型
定格出力5KVA 単相100vー50A 単相200Vー25A
反応用注水タンク18リットル(30日) ステンレスタンク使用
60万(原価30万円ほど)
ポータブル水素発電機B ヤマナミ製・設置型
定格出力3KVA 単相100vー30A 単相200Vー15A
反応用注水タンク10リットル(18日) ステンレスタンク使用
45万(原価20万円ほど)
水素発電協会 メンテナンス及び水素発電コアユニットの管理
起動用電池 リチウム電池3V/1年
浄水用中空糸フィルターカートリッジ 耐用年数5年
売電用電力量メーター
電力会社設置 耐用年数15年 無料
24時間365日無停電発電するので、余剰電力は売電とした場合、かなりの早い段階でモトが取れてしまう計算だ。
初期費用は確かに掛かるが、ソーラー発電のおよそ三分の一、屋根の改造もいらず、設置場所もほとんど問題にならない、天候や昼夜に左右されず常に発電し続ける。
始動スイッチを切らない限り、常に発電しているので備蓄用バッテリーは必要ない。
無音で可動し、振動もないので夜間の苦情も発生しない。
コンパクトサイズのユニットを車両に乗せれば、電気自動車として使用できるだろう。
プリ○スα(2002年モデル)は、1500Wだから1.5KWとして見れば、おおよそ皮相電力1.5KVAに置き換えられる。
3KVAの発電ユニットと比べると二分の一のパワーになる計算だ。
バッテリーとエンジンに燃料タンクが要らなくなるから、その分軽く出来てパワーが倍の発電ユニットとか……、どんな車ができるか恐ろしい。
5KVAの発電ユニットなら、大型バスもなんとかなるのでは無いだろうか。
ウ~ン、夢が広がるな~。
そして、あと2つの重要な件だが
「荒垣、AIの事についてはいずれ広まるだろう。アメリカさんにも同類が派遣されたようだし、外交の政府筋から接触が有るはずだ。外務大臣には早めに根回しをしとけよ。それから遺伝子治療に関してだが……幸いな事に彼処で話を聞いたのは、権堂主任と俺たちとお前の嫁さんの4人だけだ。この件はデリケートすぎて今は手がつけられないだろう?」
「ああ、確かに遺伝子治療に関しては、厚生労働省ほか医療関係の既得権益と老害の巣だからな、治療に関わる病院だけでなく、医療機器と医薬品メーカーの魑魅魍魎共が放おって置かないだろうとおもう」
「ハコさんの言葉が正しければ、昴くんが検査処方したナノマシンを使用しただけでは半分、その後経過を見ながら調整を重ねるらしいが、これも今の所は昴くんしか出来ないとなると、臨床試験もしようがない。飛び抜けた個人に依る専門治療ってことで保険の対象外だし、国も保険会社も保証の対象外だろう」
「たぶん、個人契約に依る治療行為って事になるだろうけど、半端じゃない金額と人脈が動くぞ。そんな所に昴くんたちを放り込みたくはないよな」
「俺も同意見だ。この事は箝口令をしいて来るべき時が来るまで俺たちの腹ん中に呑み込んでおくしか無いだろう。権堂主任には、今回の報告書に警備以外の一切の記録をするなと念を押しておいた。それでも情報が漏れてしまった時は仕方がない、俺達が盾になるしか無いぞ」
「それがいいだろう。昴くんたちにも、時期が来るまでは他言無用! どうしても身内以外に使用する場合は、俺に一報入れてもらうように伝えておくよ」
「そっちは任せた。俺は、経済産業省の事務次官として最大限の根回しと下地作りをする。日本のエネルギーバランスが根底から引っくり返るぞ。まずは協会発足に向けてのガイドラインと電力各社への根回し、電気事業団辺りのトップと拡散時期とバランス調整……みんなひとっ所に集めてセミナーでも開くしかないか……」
「俺は早速モックを作って、デモンストレーション用の資料作成に入るぞ。モック用にロット外のコアユニット2つ貰ってきたんだ。最初に検証に使ったのと三台分は俺が自由に使って良いそうだからな、ウッハウハだぜ♪」
「ナニ? それはもらい過ぎだろう」
「昴くん曰く、授業料の先払いだって言ってたが、オープンカレッジにでも来る気なのかな。俺としては学外受講生扱いで何時でも大歓迎なんだが、どっちかって言うと俺が教えてもらう立場になりそうなんだよな~」
「その辺は、警護の都合も関わってくるからな、大検取るにしても16歳以上じゃないと日本では受験資格を満たせないしな~」
「昴くんの事だから、遠距離参加用のプローブぐらい作っちゃいそうだよな~、本気で……」
「う~ん、笑って聞き流せない処が辛いな~……」
◆
その頃、30代で黒髪だが彫りの深い顔立ちの外国人が、昴と広大な天河邸の敷地内を走り回っていた。
先ず、2人共スピードが尋常じゃない。
人の出せる速度ではないし、多分見えたとしても反応できないだろう速さで木と木の間を駆け抜けていく。
障害物だらけで普通に歩くのも大変そうな森の中を、風のように過ぎていく。
それも、木の枝一本折らずにである。
最後にジャンプ一つで森から飛び出した2人は、軽く30mほど飛び上がってムーンサルトを決めてから駐車場のド真ん中に見事に着地した。
大人の方は、外見が随分変わっているがキャプテン・ジョージである。
現在、新しい体に慣らす為のリハビリ中であるらしいが、すでに全盛期の時より動きが良くなっている様だ。
まず、体が軽い。
体重は、ほとんど同年代の成人男性と変わらない。
体の反応速度は、通常で3倍、加速時は30倍以上となり、そのまま動こうとすると衝撃波が発生する。
着ているものが千切れたりするので普段はリミッターが掛かり、防護服着用時のみフル稼働が出来るように調整された。
「どうですか? 新しい体は、使いこなせそう?」
「OF COURSE! いやいや~、限界が見えなくてチョット怖いぐらいだね。体が軽くなったのは良いんだが、パワーが有りすぎて踏ん張りが効かないんだ。バランスを取るのにもう少し時間がかかりそうだよ」
「今はリミッターが効いてるからね。防護服着たらリミッターが外れてもっとビックリすると思うよ。キャプテンの防護服は、特注のにしたから丈夫なだけじゃなくてパワーも出るようにしといたし」
「Thank you BOY、俺にもこの先の時間が出来たことだし、ぼちぼちと慣らしていくさ」
「そうそう、日本では武器の所持は認められてないから、ベルトにパチンコ玉出せるようにしといたからね、指弾とか投擲の練習はしといてね」
昴がパチンコ玉を指で弾いた、すると…。 ビシッ……ズドン……
10mほど離れた太さ30cmほどの木立に煙が上がり、パチンコ玉がめり込んでいる。
「俺でも此れ位は出来るようになるんだから、キャプテンなら鉄板にも穴開けられるようになるよ」
「オウッ、YES!SIRー」
「前の手足と違って、ちゃんと痛覚も在るからね、指先で細かいことも出来るようになってるはずだよ。でも、15年近く使ってなかったから、体の方は忘れてると思うんだ。今度の体は、生身以上に繊細な動きもフォローしてくれる筈だから頑張って使いこなしてね」
「了解だ、BOSS」




