1-1-01 俺10歳…天体観測が趣味です 23/5/24
加筆修正 20210421、20220714、20230524
3715文字 → 4207文字 → 4687文字 → 5326文字
俺の名前は、天河 昴。
天体観測とパソコンゲームが趣味のごく普通の日本の小学生だ。
やや小太りだがそこが可愛いキュートな10歳児である。
もっとも見掛け通りで運動神経は、あまりよろしく無い。
うちの両親は、地方の天文観測所に勤めているのでほとんど家にはいない。
就いている仕事からも分かるように、完全な夜型家庭である。
両親が家に居る時は、食事の時か寝てる時、後は一緒に機械や望遠鏡を弄ってる時ぐらいだと思う。(事実は、昴が学校に行っている間に洗濯物や家の掃除に帰ってきているが擦れ違っていて気がついていないだけである)
天文観測所って人工の灯りの少ない山の中や、砂漠なんかに建てられる事が多いらしくて、俺達の住んでいる家も天文観測所にほど近い今では過疎の進んだ山奥の小さな村落の古民家である。
この村の人口は、兎に角少ない。
天文観測所の職員家族を入れても50人に満たないほどである。
子供は、現在俺を入れても12歳に満たない5人しか住んでいない。
中学生に成ると、ここから30km以上も離れた町の中学校に通う事になるので、ほとんどの子供が村を出ていってしまうのだ。
仕方ないよね。
今は、この村の村長さんちの2人の兄妹と 小さな雑貨屋(スーパーやコンビニじゃ無いよ)兼民宿の末っ子の健ちゃん。
うちの両親が勤めている天文観測所の所長さんの一人娘に俺をいれて5人。
これで子供は、全部である。
残りの住民は一人暮らしの爺ちゃん婆ちゃんが 両手両足の指で数えられるほどしか住んでいない様な小さな村落である。
俺の名前からも想像できるかもしれないが うちの一家は天文一家だ。
俺の名前が昴なのも、その由来が星座から来ているくらいだ。
両親の趣味は、仕事も生活もほぼその全てが天体観測に収束するくらいに徹底している。
父さんの天河 譲 38歳は、光学望遠鏡の技師で観測者。
母さんの天河 希美 39歳(歳の事を言うと角が出る)は、電波望遠鏡のデータ解析者、そして凄腕のシステムエンジニアらしい。
更にふたりとも、頭にヘビーの付くほどのスカイウォッチャーでもある。
普段は、2人とも観測機器のある天文観測所の方に詰めている事が多く、家に帰ってくるのは週に2・3回くらいだと思う。(昴くんの勘違いです!)
うちは、田舎の古民家に似合わずハイテク機器が並び、個人宅なのに各種分析やデータ解析などの仕事が出来る環境が揃っている。
書斎には最新のワークステーションやサーバが並び、サンルームに父さんが手ずから組んだ大型の反射望遠鏡はそれだけで小さな天文台と言っても過言ではないほどの迫力を示している。
そしてこれらの設備をいつでも使えるように、物心つく頃から俺が両親の代わりに面倒を見ている。(専門家から言わせると子供のお手伝いに毛の生えたレベル、可愛いものである)
その結果息子の俺も『門前の小僧習わぬ経を読む』を地でゆくといった感じに育っているのだ。
特に俺の母さんは、仕事が佳境に入るとよく家のワークステーションを天文観測所からリモートでアクセス起動しており、真夜中だというのにサーバが唸りを上げてブイブイ言っている事も日常茶飯事である。
そんな訳で、家に両親が常時居る事なんて俺が熱だして寝込んでる時ぐらいだから、他所様から見るとネグレクトだなんて言われる事もあったりする。
だけど、俺は自分の好きな事に邁進している両親が大好きだ。
そして、俺も自分の好きな事が何の束縛も無く出来ている、この環境が気に入っているのである。
『放任主義バンザイ!』であるのだ。
後で分かった事なんだけど、実はこの家には多数の隠しカメラが設置されており、俺の行動の一部始終が母さんによって常時モニターされていたらしい。
すべて記録映像として撮られていたんだ、恥ずかしいー!!
そんな訳で俺の日頃の行動や生態は、その全てが母さんに覗かれていた訳である。
これは後年、スバルの観察日記としてベストセラーになる……予定らしい。
まぁそんな訳で、蛙の子は蛙、俺も立派でヘビーなスカイウォッチャーに成長しているのである。
夜は、もっぱら天体観測とインターネットで天体情報の収集、たまにオンラインゲーム。
幸いな事にこんな山奥の過疎った村でも、国立の天文観測所が有るお陰で太い光回線が通っていたりする。
実はここって、ヘビーゲーマーにとって天国の様な場所なのである。
人が少ないからこそ回線が重くなる事も無く、業務用光回線の名に恥じないその通信速度は、一切のストレスを感じさせること無く速いこと速いこと。
今は、世暦2000年の夏、時はミレニアム。
今年が世紀末だか千年紀の始まりだとかで何だかんだと世の中が騒がしいけれど、こんな過疎った山奥の貧村では特にこれと云って変わった事は何にも起こっていないのだった。
そして、俺は今日から待ちに待った夏休み。
一晩中起きていても誰にも怒られない(家だけ)し、当然明日から学校も休みだ。
俺は、いつもの様に自前の天体望遠鏡を庭にセットして、周りに蚊取り線香を複数設置して準備万端、家の明かりを落とすのだった。
今夜は、雲一つ無い快晴、天体観測日和だ。
梅雨開けの夏の大三角が、南の空に輝いている。
デネブ、アルタイル、ベガ。
ベガとアルタイルは、七夕の織姫と彦星の事だ。
今夜は、この2つの星の間を流れるように見える天の川もいつにも増して輝いて良く見える。
そんな星空をしばらくのんびり見上げていると、上空にぼんやりと青く輝く人魂みたいなのがフラフラ~と飛んでいるでは在りませんか。
「何だ、あれ?」 思わず声に出た……。
よく見ると、フラフラ~フラフラ~と今にも地上に落っこちてきそうだ。
オカルトを信じない質の俺は、たまたま手に持っていたブラックライトを青い人魂の方に向けて点滅させてみた。
するとビックリしたことに、今までフラフラ~と飛んでいた物体が空中で急停止したと思ったら、ツツツーとこっちに向かって降りて来るじゃないか。
良く見るとその物体は、直径50センチ位の淡く光る球体の様に見える。
宙に浮いて淡く光ってるけど、どう見ても毛玉だよな~これ。
自慢じゃないが俺は目がとてもいいんだ。
両目ともに3.0で見間違える筈も無い。
しばらくこの未確認物体を観察していると、ゆっくりと俺の頭上まで降りてきた光る毛玉から手足が伸び、そのまま目の前の芝生に降りたんだ。
見た目は、動物園の獏を2本足で立たせたような生き物だった。
妖怪に『ふったち』って言うのが居るらしいけどそれとも違うみたいだ。
表面の毛足が長く、所々の毛色がメタリックに見えるのは宇宙服の様な物だろうか。
頭には透けたゴーグルの様に見える物体を付けていて、クリックリとした円らな瞳がこっちをジッと見ている。
人はビックリすると『開いた口が塞がらない』とは良く聞くけれど、まさか自分がそうなるとは思わなかったよ。
自分で言うのも恥ずかしいんだけど、ポカ~ンとアホ面をさらして様子をうかがっていると、その生き物は疲れていたのかそのまま芝生の上に座り込んでしまったんだ。
そして唐突に頭の中に声が聞こえたんだ……。
『お腹がへって動けないノ~。なんか食べるものな~い~?』ってね。
◆
俺は、こうして未知との遭遇を体験した訳なんだ。
現在は、お腹の減っているという謎の生き物にうちの常備食としてキッチンのパントリーに積んであったカップ麺をご馳してあげている。
この謎生物は、作るそばからカップ麺を7つも掻っ込むように貪り食い、やっと人心地が付いたのか8つ目をユックリと完食したんだ。
電気ポット(子供なので火は使えない)じゃお湯を沸かすのが間に合わなかったのでお湯が必要だと説明したら、この謎生物はヤカンの水を直接触れただけでお湯にしていた。
此奴生意気に魔法も使えるらしい……空も飛んでたくらいだしね!
そしてまたさっきの声が頭の中に聞こえてきたんだ。
『テラは~、美味しい物が沢山あるって聞いてたんけど~嘘じゃなかったんだね~。僕も立ち寄った甲斐があったというものさ~。でもここに来てからどうやって食べ物を分けてもらおうかな~って、フラフラ彷徨っているうちに~手持ちの携帯食料が~無くなっちゃったんだ~』
「カップ麺は、そんな大層な食べ物じゃないんだけどね。俺は昴。君は何者なんだい?」
『僕は~、&%$#$w-bakun-%~$!&%<>LHG~。地球人には発音できないから~、バクーンと呼んでよ~』
「うん、解った。バクーンだね、地球へようこそ!」
『スバル、ご馳走してくれて、ありがとう~♪』
その後は、バクーンと色々な事を話した。
バクーンの話を簡単に説明するとこういう事らしい。
随分と前から地球は、要監視対象惑星になっていて、バクーンは天の川銀河連合の辺境調査員でこの周辺が担当、というか縄張りらしい。
今回オリオン腕辺境の太陽系の調査に来たついでに、第3惑星・地球に寄り道をした。
本当は、地球に降りてくる必要は無くて、ほんの一寸センサーでサーチしたら転移して帰る筈だった所を、どうしても地球の珍味を一度見て味わって帰ろうと降りて来ちゃったらしいんだ。
船から持ってきた食料が尽きて困っていた所、俺を発見。
危険だと言われてる地球人だけど子供だし危険が少ないだろうと接触してきたんだって……。
要監視対象惑星・地球の情報としては、およそこんな感じなんだってさ。
・兎に角、地球には美味しい物が沢山ある。
・動植物の宝庫であり、同時に病原菌や未知のウイルスの坩堝でもある。
・銀河系オリオン腕の辺境、太陽系にあって、奇跡?の惑星として有名。
・地球は争いが絶えず、必ずどっかで戦争をしていて、とっても危ない事でも有名。
・やっと最近30周期ほど前になって重力井戸の底から衛星までの有人飛行に成功し、今は有人宇宙ステーションの建設と実験を繰り返している。
・宇宙に飛び出すのには、好戦的で危ない種族なんじゃないの? と言われている。
・今は、少し数が増えすぎて 惑星規模で環境破壊の影響が出てきた。
・地球人に捕まったら、何をされるか分からないから、接触は極力控える事になっている。
・地球でもこの島国は、追いかけられたり攻撃とかはされなくて比較的安全な所である。
ウ~ン、確かに地球人が危ないのはその通りだよな~。
その認識に否定は出来ないし……。
でも、日本は評価が高け~な。
『昴~、地球人が全部危ない訳じゃないって~解ったし~、僕は~美味しい物が食べられて~とっても満足したよ~。この事は、ちゃんと連合に報告しておくからね~』
「友好的な交流が出来る様に、もっと地球上から争いが無くなればいいんだけどね」
『でも地球人には~競争心があるから~今が有るんじゃないのかな~。少し血の気が多すぎて僕たちから見ると怖いところあるんだけどね~。これから~滅亡に向かわないようにする事が出来れば~いずれは他の異星人とも~平和的な交流が出来るようになるんじゃないのかな~。僕らみたいにね~』
その後バクーンは、気に入ったカップ麺3ケース(しょうゆ・みそ・ソース焼きそば)をおみやげに持ち、夜が明けて少し東の空が明るくなってきた頃に帰っていった。
「サヨナラ、又来てよ! 次にはもっと美味しい物を用意しておくからね」
『うん、又ね~♪ きっと来るよ~』と、昴の手に小さな『碧い箱』を友情の証にと残して……。
◆
[監査官、よろしかったのですか? あんな物騒な物を渡してしまって……]
さっきから僕の宇宙船の管制人格が煩く喚いている。
僕を心配してくれているのが分かるから、嬉しいんだけれどもね。
僕は、銀河連合・宙域調査部・特別監査官 &%$#$w-bakun-%~$!&%<>LHG~、通称バクーン。
宇宙船の管制人格が僕の行動を咎めているのも分からないでも無いんだけどね、不審に思ったんなら物を渡す前に声かけてほしかったよね~。
『ウ~ン、多分大丈夫だと思うよ~彼ならばね~。それに~、あんな物って随分と酷いんじゃないのかな~?。一応は、君の妹でしょ~あれ。それに又来た時~、昴に違った食糧も貰いたいしね~。あれ渡しとけば~次に来るときに連絡出来るじゃな~い』
[監査官こそ、あれあれって……。いえ、心配なのはスバルさんでは無くて、地球人類が過分なテクノロジーを取得した場合の顛末ですよ。まぁその時は、あの娘が何とかするでしょうけど……]
『それは、地球人類がお互いに解決して行かなければいけない事で~、僕達がとやかく言う事じゃないでしょ~。テクノロジーは、あくまでも道具でしかないんだからどう使うかは、彼等が決める事さ~。文明を発展させて共に先に進むのか~、お互いを信用できずに自滅するのか~、そんなのは神のみぞ知るってところだよネ~』
[うわ~、確信犯ですね。私は忠告しましたからね。上から懲罰食らっても知りませんよ]
『多分大丈夫さ~、地球の美味しいお土産の現物があるからね~。これ解析して製造構成データ持って帰れば直ぐに量産できるだろうし~、僕は褒められる事はあっても懲罰なんて受けないハズさ~。食いしん坊なのは、なにも僕だけって訳じゃないからね~♪』
[うわ~、うわ~……]