4-2-12 迷走する者達3
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難産です、一番迷走しているのは、筆者かも……。
「でっ、お主はこんな湖畔で何をしておるのじゃ? まさか呑気に我らの出迎えをする為などでは在るまい……それはそれで嬉しいが……」
挨拶もそこそこにDr.に詰問される昴という珍事が起こっていた。
他のメンバーもその辺は不思議に思っていたらしく、そばで聞き耳を立てている。
「暇潰しも兼ねてなんですけどね、まあお客さんのお出迎えには変わりないんですけど~…、『そろそろ顔を見せて頂けませんか? こちらもあまり暇な身では無いもので……』」
昴が空間が震えるような不思議な声で呼びかけると、目の前の空間がブルッと震えて縦に裂けたのでした。
そして、虹色に輝く見知らぬ空間から何かが抜け出てこようとしてしているではありませんか。
しかし、何故かこちらに向いているのは、どう見てもヒューマノイドのお尻の様に見えるのですが……。
騒然とした雰囲気の中、ハコは云うに及ばずロータスやラーフにオヒューカスまでがいつの間にか完全武装にシフトして身構えています。
Dr.を庇うようにキシャールも毛を逆立てて臨戦態勢を取っていました。
『すいませんが…ちょっと後ろから引っ張って頂けませんか? 頭が引っかかってしまったようで……』
引っ張ってくれと声がする空間の裂け目から飛び出している足をバタつかせているのは、どっからどう見てもヒューマノイドの下半身の様に見えます。
「……ハコお願い、引っ張ってあげて……」
[肯定。少々お待ち下さい……ヨイショ!]
ハコに両足をつかまれて補助を受け転げ出てきたのは、何と形容して良いのかよく分からない人物でした。
それは何故か……髪や瞳の色は違いますが容姿がハコにそっくりだったのです。
但し、胸はペッタンコで……男性でしょうか? 声は女性のようですが……。
『お初にお目にかかります。私、時空神の一柱、%#s&ea01soto-su……嗚呼っすみません、ソトと申します』
……随分と腰の低い神様がお出ましになったのだった……。
◆
『イヤイヤ、申し訳ありません。ご迷惑をお掛けしてしまってほんとにお恥ずかしい……アハハハ』
その後の会話から紐解くと、彼は時空神としてこの銀河を管理する物の一つなのだそうだ。
割と頻繁に起こっている時空間の歪みなどを、管理修復する役割を与えられたシステムの一つだと自らを説明した……それがホントウかどうかは怪しいけどね。
だから己のことを者では無く、物と呼称した様である。
『イヤ~こちらの宙域で継続的な空間の歪みを観測しましたのでね見に来てみたのですが、自然に発生したにしては大きすぎるし綺麗に制御され統制が整っているので人工的が物だという事は直ぐに分かりました。しかし、まさか一生命体がそれも個人で成し遂げているとは及びも付きませんでしたのでビックリしてしまいまして、しばらく観察させて頂いていた次第です(まさか、竜をけしかけたらこんな物を創り出すとは思ってなかったよ……ソトくんもビックリ!)』
「それでご用件は?」
『嗚呼~ご心配には及びません。ここを破壊しろとかどっか別の銀河に行ってくれなどと野暮な事は言いません。しっかり管理して頂ければ問題はありませんよ……ただし、出来ればこの周辺の空間の管理を私に変わって肩代わり頂けると私としましては大変有り難いのですが……出来ますよね?』
[……肯定。可能です]
『それは重畳♪ ウンウンこれで結構なリソースが浮きますね~……もっと広げるのでしたらこちらでもお手伝いいたしますよ。私は楽が出来るというものですからね~♪』
何とも人間臭い言いぐさであるが、あのニヤけ顔に裏が有りそうで少々胡散臭い……。
しかし、時空を管理する神の一柱と名乗っているのは嘘では無いようにも感じる。
兎に角その存在感が半端ないのだ……耐性の低いものは膝をついている。
『ではそろそろ帰るとしましょう。あまりこの空間に存在していますと私が空間を歪ませてしまって本末転倒ですからね~。そうそう、私は遍くこの銀河に偏在していますので御用の際は気軽に「ソトちゃん!」と声を掛けて頂ければ幸いです。では、みなさん御機嫌よう♪』
そう言って時空神ソトは、霞のように消えていったのだった……。
その場に居た者達は、全員が冷や汗を流しながらお互いの顔を確認していた。
どうも、それぞれが自分の知り合いや理想の存在に見えていたようで、ハコの記録にも顔の判別の出来ない存在であるとしか分からなかった。
「あれは何者じゃ? 時空神と言っていたのは嘘ではあるまいが……善良な顔に垣間見える邪悪な雰囲気といい関わってただで済むとは思えんぞ……」
「ここを創る前辺りから誰かに見られているような気がしていたんですが、どんなセンサーにも引っかからなかったので、気のせいかとなと思っていたんです。ダメ元で呼んでみたんですがまさかあんなのが出てくるとは……ちょっと軽率でしたかね~」
「軽率だったで済めば良いがのう……」
シャシ姫、冷や汗を拭いながらつぶやいた。
[肯定。先程の存在は高位次元の生命体だと思われます。私でもその存在をはっきりと観測できませんでした。間違いなく存在するのに、観測が出来ない存在とは……。そして、先程の存在に依る物だと思われますが、この人工惑星の空間制御プログラムに一部書き換えられた痕跡があります……これは……空間制御効率が3000%に改変されました……消費エネルギー効率が以前の30分の1にまで下がっております]
「「「「「……」」」」」
誰も一言も発せられずに、焚き火台の炎だけが高く燃え上がるのだった。




