4-1-12 地上での姦しい話
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「あゝもう、早く昴兄ちゃんのところに行きたい!」
「まあまあ、そんなに慌てなくても、もう直ぐじゃないですか。アカデミーも私と一緒に一年早く卒業させてもらえるみたいですし、双葉ちゃんはドーンと構えてればいいんですよ」
「祐美ちゃんはそんな事言うけど、あと一年はアカデミーに居なくちゃいけないなんて私には耐えらんないよ。銀河ちゃんは卒業と同時にサッサと昴兄ちゃんにくっついて宇宙に行っちゃうし、女の友情はどこ行った? って私は言いたい。それに私は知ってるんだからね。祐美ちゃん、もし自分が昴兄ちゃんに選ばれなかったら如何しようって夜も眠れないで居た事を……」
「ッ、そっ、そんな事はありませんわよ。私は当然選ばれると思っていましたもの……大体が日本の法律がいけないのですわ。今時、重婚が違法だから結婚できませんなんて言われても私は納得出来ませんわ」
「そうだよね〜! だから私がハコさん達に吹き込んで、昴兄ちゃんに独立国家作って王様になって貰えば『ハコさん達もお嫁さんになれるよね』って焚き付けたんだもん。銀河ちゃんは最初ブーたれてたけど、姫様達に説得されて渋々OKしたんだよ。今は鼻息荒く先頭に立って準備してるけどね、そんな風には全然見えないでしょ?」
この時、太陽系の片隅で盛大にくしゃみをする銀河がいたとか……。
「確かに……」
「昴兄ちゃんのは浮気って云うのとはチョッと違うんだよね……目の前で困ってるのを放おって置けないだけなんだから、ほんとに目の前だけだけど……。みんなそんな処にコロッと逝っちゃうんだよね。あ~の罪作り……」
「でもそれも人徳って云うんでしょう? でも、あれはお人好しなだけだよね……誰かついてないと騙されそうだし……」
「そうでしょ? それで私こそはって誰もが思っちゃうんだよ。あゝ罪作り罪作り!」
「アハハハ……」
「それにくらべて愛子ちゃんは、安心だよね。健太はあんな浮ついた性格してる割に一途だし面倒見イイもんね。でも、これからは健太も狙われるから気をつけないとね。それで、愛子ちゃん達はいつ頃の予定なの? もう決めたんでしょ? そこんとこ詳しく!」
興味津々で空気に成って二人の話に聞き耳を立てていた愛子は、いきなり話を振られてあたふたとあわてた。
「ッ! 流れ弾がこっちに……じ、じつは私が18に成ったら一緒に成ろうって、健ちゃんが……あっ、云っちゃった……」
「ほうほう、それで相良のおばさんにはもう話したの?」
「良かったねって……はやく孫を抱かせろって…最近は割と煩いかな? でも、まだ早いよね?」
「あ~何となく分かる~。うちも一緒だし……別に早い遅いは関係無いんじゃないかな。子供が出来ても育てるのに不自由はしないし、私達には地球の常識は通用しなくなるだろうし……やっぱり家族は沢山居たほうが良いよ、にぎやかで♪」
「三河さんところは、家族が多いけど、いまとっても苦労してるみたいよ。健太さんは昴くんの親友枠でしょ。それで実家は総合スーパーと旅館って事でお身内に成りたい所から凄い数の縁談が来てるって聞いたわ。それで健太さんは早々に宇宙に逃げたって聞いたんだけど、そこんとこ詳しく……」
「……煩いのは確かみたいですね。商売柄、取引先を無下にも出来ないし、中には本当に良いお話も有るみたいで……特にタウルスのエージェントしてる早苗お姉さんには凄い数のお見合い写真が送られてきてるって聞いてます」
「ふむふむ、余市ちゃんも大変だね~」
「林先生は相変わらず三河屋さんに下宿してるんですよね? 諦めが悪いと云うか何というか……職員宿舎の方に移ればいいのに……」
「そこは武士の情け、見て見ぬ振りをするのが人の世の情けってモノだよ~、裕美ちゃん」
「村の学校はこの3年で人数が一気に増えたから、先生も増えて職員宿舎が出来たんでしたね」
「そうそう、お巡りさんの官舎の隣に高級マンションってな感じのがドーンと一晩で建ったよ」
「もう、其のくらいではびっくりしなくなりましたね、私達……」
「何でも引っ越して住みたい村・日本一に成ったとかお祖父ちゃんが云ってたよ。毎日、移住の問い合わせが凄くて、仕事が増えたってお父さんが泣いてた。職員募集したら収拾が着かなくなったんだって……参っちゃうよね~」
「日本一治安が良くて住みやすいのは確かですね。今は授業も半分はVRで済みますから、後は都会より環境が良いに越したことはありませんわね。昴さんと同じ学校の卒業生ってだけでもネームバリューになりますし……」
「もう昔の過疎った村じゃなくて、閑静な別荘地って感じだしね。今じゃ全部タウルスの管理地になってるから、厳しい審査に通んないと住めないんだよ」
「変なのに住み着かれても困るし良いんじゃないですか。それよりも、御二人ともアカデミーから卒業したあとに教授待遇で残ってくれって言われたらしいじゃないですか。どうするんですかなんて聞くのは野暮ですよね」
「「当然!」当たり前!」
「うふふ、私も健ちゃんを追って宇宙に上がりますから宜しくお願いしますね」
「うん、先に行って待ってるよ」
「まだ、1年は先だけどね……」 ボソッ
「にゃ~それを言っちゃだめ~~……」 ガックリ……
「アハハハ」
◆
「おう、タケ坊。昴の野郎は一人に決められなかったみて~だな! フハハハ。嬢ちゃんたち連名の招待状が届いたぜ」
「はい、みんなまとめて面倒見るって啖呵切ってましたけど……背中が煤けて見えましたよ。健太さんは笑い転げてましたけど」
「だけどよ~これは違法だよな? 夫婦のどっちかが日本人の場合は重婚罪が成立するんじゃなかったか……どうせ何か企んでるんだろうけどよ~教えろよ~」
「駄目ですよ、シゲさん。お楽しみは後に取っておかないと、騒げないじゃないですか。それに僕たちも多分使えると思いますから、内緒です」
「そんな事言わね~で教えてくれよ~。気になって寝られね~じゃね~かよ。頼むよ、な!」
「駄目です、自分で考えてください。それに、僕も詳しくは聞いてませんから教えられませんよ、残念でしたね」
「そんな殺生な~」
「こらシゲ! 油売ってね~で仕事しね~か。尊は儂に付いてこい、特別授業だ」
「はい「おやっさ~ん」」
「馬鹿野郎、おめえの肩の上にのってるのは飾りか? 昴が今ヤッてる事をよく見て考えれば、分かる話じゃね~か。な~尊」
「えっ、ウ~ンそうですね。僕は何となく分かりますよ」
「分かんね~の、俺だけかよ」 ショボ~ン
「昴の事だ、世間をアッと言わせる様な事を思いついたんだろうさ……」




