4-1-07 昴の呟き…地球の進む先は?
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新しい国家機構が誕生したのを受けて、それまで見向きもしなかった周りの国家が騒ぎ出すのは必然と言える出来事だった。
国を私物化していた政治家や高級官僚が居なくなり、ある意味で国民の国民による国家が誕生したのだから仕方がない、面倒くさい処は機械任せという事を除けばだが……。
しかし、それらの説明をされても『私達の国にも導入出来ないだろうか?』 との問い合わせが多数寄せられる始末である、一般市民から……。
如何に現代の政治家や官僚が、自国民から信頼されていないかが分かる思いだった。
但し、これが長く続くとは考えないほうが良さそうだと、ハコ達管制AIの当初の予想だった。
人間、楽が出来るようになると、駄目になる人種と更に上を目指す人種に分かれるというのだ。
怠惰に過ごすことを当たり前と捉えて、その後の一生を過ごす者と、更なる高みを目指して努力する者とどちらが国の主体になるかで大きく変わってゆくというのだ。
統治機構が同じならば、働かない国民と働き者の国民では受けられる社会保障サービスに差が出来るのは当たり前で、今まで国の上位者が搾取していた物が無くなったことで、ボカされていた優劣の差が今まで以上にハッキリしてくるというのだ。
土地や地域によって風土や風習も変わるのは当たり前で、同じ道具を使ったからと云って国民の性格や気質までは変えようがない。
ある程度はAIが調整するとしても、全く同じ豊かさを享受出来るかは、やはり国民の努力次第となる訳である。
最低限、周囲の国家群に迷惑の掛からない程度に国家を維持するか、周りの国々を牽引するリーダー的な国家になれるかは、国民の意識次第とも言える訳である。
「それで、なんて云って来てるのさ? 他の国が……」
[肯定。我々にも、ノウハウを寄越せと……随分と勝手なものですよね? 1国家の滅亡を横目にして見殺しにしておいて、自分達の利益になりそうならお溢れに与ろうとする。今回云ってきているのは余り頭の良くない所ばかりですね。大手は静観の姿勢です]
「そうだろうね……、このシステムは現状の最適化と維持はしてくれるけれどそれ以上の事をする場合には血の滲むような努力が必要だ。ある意味で理想的な支配システムだけれどそれを許容できる者ばかりでは無いだろうね。特に排除対象のセレブは戦々恐々としているだろうね、しかし、どんな素晴らしいシステムも壊して想い通りにしようとするのが野心のある人間だからね。マ~壊してから気が付くのさ……、自分達が今まで如何に大切なものを壊してきたのかと云うことにネ。例えばこの地球とかさ…」
地球の立体映像を手のひらに浮かべて、しみじみと想いにふける昴でした。
◆
この3年で日本も随分と様変わりした。
寝たきり老人や介護施設のお年寄りが劇的に減少し、社会復帰しだしたのです。
一度でも老人ホームでの生活を経験した老人は、こぞって家族の元へまたは自分達でコミュニティーを作り生活の場を移していきました。
これを支援したのは、水素発電協会と株式会社タウルスの共同で発足したスペースコロニー開発公社である事は周知の事実です。
何故お年寄りが選ばれたのか……その訳は、一度人生を経験しある程度成熟した知性を有していると認められたからだと言われています。
そして、聞こえてくるのは……、
『もう一度人生をやり直せるとしたら、あなたはどうしますか?』
『新しいフロンティアの開拓にその人生を掛けてみませんか?』
『こんな処で過去を見ていないで、私達と一緒に新しい未来を見てみませんか?』
もうボケの進んだご老人や寝たきりの重病人に届いた小さなブレスレットの小箱は、後に大きな社会現象を引き起こすことになりました。
これを盗んで自分でハメようとした者たちは、自発的に漏れなく強制労働へと出頭し悔い改めることになったそうです。
もう一度家族と暮らしたいと願う者達も多数存在しますが、結局全てが元の鞘に収まることはありませんでした。
すでに処分された思い出の数々、一時の喜びの後に苦い思いで新しい人生に旅立つ者達の何と多いことか……。
すでに居ない者として数えられていた人達は、最初は歓迎されますが時間が経つにつれて居場所が無くなり、孤立することになって結局は新天地へと旅立ってゆきました。
これらを受けて、軒並み介護施設や老人ホームは、経営が立ち行かなくなりました。
そしてその反面、医療関係者の負担も軽減されることになりました。
国からの補助金で成り立っていた介護施設や医療費の負担が減少することで、公的資金に余裕が生まれるようになりました。
社会の高齢化は止められませんが、老人介護や医療費負担が激減したこと、エネルギー問題が解決したこと、廃棄物問題が解決したことで社会が健全化されてゆくのは間違いありません。
ある程度成熟した人類による第二の人生、地球を飛び出してコロニーの開発や他の惑星への移住、それらの事が密かに進められてゆくのでした。
日本にあった原子炉はすべて解体され、文字通り原子に還りました。
火力発電は、積層化して大電力化された水素発電ユニットの開発により順次置き換えられています。
実際には各家庭に発電ユニットが行き渡れば、大型発電所はその存在意義を無くしてゆくのですが、それは又別のお話し。
現在は、水素発電ユニットを使用した移動手段の開発に全メーカーが躍起になっています。
やがてガソリンスタンドは無くなるでしょう。
小型の起電用電池と水素発電ユニットに水のタンクがあれば、超電導モーターによって走る車両の開発はすでに8割方成功しています。
ちなみに高効率な超電導モーターの開発にも、うちは何口か噛ませて頂いています。
石油は化学繊維などの原材料として輸入され、その存在価値が大きく変わっていきます。
これからの燃料として有力なのは石油ではなくメタンに成ってゆく事でしょう。
海底のメタンハイドレートやシベリアや極地の地下に眠るメタンがこれからの燃料に成ってゆくのでしょう。
二酸化炭素以上の温室ガスであるメタンの開放は、出来るだけ避けて貰いたいものです。
しかし、一気に二酸化炭素の排出量が減少すれば、温暖化も収まりメタンの開放も減少するのではないか……これは都合の良い希望的観測と言うものでしょうか。




