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4-1-05 これって侵略?…イエッ善意のお節介

6927文字




 軌道エレベーターは、テラ同盟に譲渡(じょうと)される事になりました。

 この決定に不満を述べたのは、あの地球連邦政府準備委員会、そう元の国際連合の残り(かす)です。

 地球を真っ二つに分けた様に見えますが、この時には取り巻きは去り、既に組織として形骸化(けいがいか)した名前だけの組織となっていた。

 911から再建された国際連合ビルには、組織とは名ばかりの委員会に占拠されて居る状態になっていた。

 占拠されている状態とは?

 主な国には脱退され国際連合はその名を変えたが、国連ビルにそのまま残っていた。

 国連に変わり新たにテラ同盟が組織され、その本部は軌道エレベーターに移されたからである。

 そして残された委員会は、維持費さえも払えず国連ビルに居座っているのだ。

 (ろく)に分担金も集まらず、今までの様に踏み倒す事も出来ないでいた。


「ウンサンギガ帝国の昴帝(すばるてい)への謁見は、まだ目処が立たないのかね? 居所ぐらいは分かりそうなもんじゃ無いのかね」


「それが議長、何度公式の呼び出しを行いましても暖簾(のれん)に腕押し、(らち)が空きません。株式会社タウルスに問い合わせたところでは、『企業を通しての取引以外は、今後、如何なる地球上の国家とも直接の交渉は行わない予定』との事です。地球が一つの惑星国家として踏み出すまでは静観する方針の様ですね」


「それでは、我々には手が出せないでは無いかね。地球の統一など戦争でもしろというのかね?」


「イエッ、企業取引は今まで通り行われるとの事ですから、ビジネスパートナーとしての関係を構築すれば宜しいのではありませんか?」


「そんな物が確立出来ると君は思っているのかね? 我々が今までいったいどれだけ彼らにチョッカイを出してると思っているんだ。関係の修復など無理な事は分かりきってるじゃ無いか」


「それこそ自業自得としか言えませんな。この際です、謝罪されてはいかがですかな? 一度として謝る事をせずに前に進む事は出来ませんよ。関係改善など夢のまた夢、烏滸(おこ)がましいにも程があると思っているでしょうな~……まさか、一国家元首(いちこっかげんしゅ)を呼びつけるおつもりなど無いのでしょう? 如何(いか)に新国家として誕生したばかりとは言え、彼方(あちら)は惑星国家。聞けば古代の地球に文明を起こしたのは彼らの祖先で、40万年以上まえから存在したらしいじゃ無いですか。一度は星ごと破壊され滅亡した一族を破壊された星ごと見事に復活させた……地球の常識など通用しませんぞ。もうお諦めなさい、失礼ながら私ももう付き合い切れませんな、これで抜けさせていただきますぞ。後はあなたのお国と気心の知れたお仲間だけで頑張って見なさい」


「そんな? 貴国に抜けられては組織としての対面も保てません。どうかお考え直しいただきたい……」


「ええ、だからこうして考え直したのですよ。我が国は国家としての関係を諦めビジネスパートナーとして割り切った関係を結ぶ事と致しました。色々と見直した結果、下衆(げす)な官僚や役人に(そで)の下を渡さないと成り立たない国がらみの商売より、機械を相手にした堅実な商売の方が儲かる事が分かりましてね。皆、商才のある者達は国を出て自由に取引した方が、家族や一族に貢献出来て進歩も出来ると今更ながら気がついたのですよ。我が国は一族の繁栄のために他国に時間をかけて入り込み、街を作りその国の一部となる事で足場を作り生き残って来ました」


「其れでは貴方は国を捨てると仰るのですか?」


「ある意味でそうとも取れますね。しかし国家なんて物は、個人が寄せ集まって国になったのであって、国が人を作ったのでは無いのですよ。結局、国を動かしているのも人です。貴方がその地位にいるのも国が決めた訳じゃ無い、貴方がその椅子に座っていると都合がいい人間が座らせているんであって、都合が悪くなれば有無を言わさず切られるのは貴方だ。本当は、分かっているのでしょう? 貴方にもお国に、もう後がないって事は……」


「………」


「悪い事は言わない、早いところ逃げ出しませんか?」


 この日、国連ビルから全ての関係者が消えた。

 ()まっていた家賃を一円も払わずに、夜逃げ(・・・)したのだ。

 当然、大家は大激怒!

 最後に関係していた国家に請求するにはしたが、当時の議長をはじめ事務員の一人として国には帰らずに行方知れずとなっており、全ては消えた個人の責任だと返答が返って来たのみで、支払いを放棄されてしまった。

 こんな対応をすれば信用が無くなるのは当然で、今まで以上に国家の信用は失墜していく事になる。

 そうなると如何なるか……今までなら軍事クーデター等が勃発して体制が変わったりするんだが、そんな信用の低下した国を立て直すより逃げ出した方が早いと誰もが思う物で、金の有る財閥や政治家が真っ先に逃げ出す事になった。

 ここに金持ちと政治家のいない国が出来上がったのである。

 普通なら敵対国あたりが植民地として手を出して来たりするものなのだが、今は何処の国家も自分のところで精一杯、そんなお金や労力をかけている余裕なんて何処にもないと放置された。


 それじゃ国が無くなったかと云うとそうはならず、所謂支配層や富裕層が居なくなった事で搾取されていた今までの国家構造が壊れる事で、これまで以上に豊かな国になったという落ちである。


 ぶっちゃけると新体制を確立したのは逃げ出さなかった貧乏大学の先生や学生達だった。

 逃げ出した人間は、国家反逆罪ともなるのだが、そんな(くず)どもを(とら)える事の為に時間と金を使うのは無駄なだけである。

 そしてこの貧乏な方達、いったい如何(どう)したのか?

 今まで国家の運営になど関わった事も無く、出来れば自分達では(ふれ)るのも嫌だった。

 下手に国のトップになど立つと最後には絞首刑(こうしゅけい)の13階段が待っている様な国である。

 頭の良い人間はそんな面倒には関わり合いには成りたくないもんだ。

 しかし、貧乏だからこそこんな処に優秀な人がいたとも言えるのだが……。


 切っ掛けは、唯一学生時代の友人をたどって獲得したプレアデスアカデミーのVRネットへのアクセス権だった。

 飽く迄もお試しのアカウントだったので、VR共有空間でお茶を飲む程度のアクセス権だが、ここで『みんなで理想的な国家運営の原型(アーキタイプ)を作って、実際に試して見ないか?』 とブチ上げたのだ。

 結果は、面白そうだと云う事で一大プロジェクトが立ち上がる事になる。

 このナンチャッテ国家運営プロジェクトが元になり、余計な無駄を削ぎ落とした物が出来上がっていった。


 1、国家元首の意味合いは?

 2、国に政治家は必要か?

 3、公務員は最低何人いればよい?

 4、税金の意味するところの割合は?

 5、軍や警察の役割の見直しも必用?

 6、その他


 挙げれば切りが無いが、人は最初に有った物を妥協して使い生きているに過ぎないのだという事です。

 人は国家という物に所属する場合、その最初の選択権は0です。

 先に述べた1〜6は、後に教えられる事柄であり、個人が選択した物では無いからです。

 子が親を選べない様に、子供が国を選ぶ事などは出来ません。

 それを云ったら親だって国は選べないだろうというかも知れないが、それは違うのです。

 家族や子孫のために国を移る決断、または努力して国を変えようと努力した事が1度でも有ったのでしょうか?

 そんなのは当たり前だ! 努力した事があるというのならば、先の意見にも耳を貸しましょう。

 ですが、そう云った努力もせず只これまで生きて来たのだとすれば、其れはいい訳でしかありません。


 人の幸せは人それぞれですが、一度でも可笑しいと思った事はないでしょうか?

 自分の人生が、理不尽だと思った事はないでしょうか?

 確かに守らなければならない法律はあるでしょう、しかしこれも人の作った物であり、全てが正しい訳ではないのですからより良い未来を勝ち取るには国家やを法立を良くしてゆく努力をしなければならないという訳です。

 往々にして人任せにして自分からは手を出さずに、批判だけを垂れ流すのが現代人の悪い処でしょう。


 難しい話はこの辺にして、具体的に人が暮らしてゆくのには最低どれだけの物が必用で、其れを維持するにはどれだけの労力又は資産が必用になるのかを試算すると……。

 現在、世界で文化的な生活と言われているものを比べてみると、其処には余りに差がありすぎる事が良く分かります

 日本の一般家庭を例に取ると非常に快適である事が分かりますが、経済的に一人が必用最低限生活してゆくのに必用な金額は月12万〜13万円と言われています。

 これを単純に80年で計算すると1億2千500万円ほどです。

 更には、サラリーマンの生涯年収は3億円ほどであると言われています。

 ただしこの数字も、1993年をピークに3千万〜4千万円減少しているのです。

 そして子供一人を22歳まで独り立ちさせるのには、学費だけで800万円〜3千万円と大きな差があるのにも注目したいところです。

 現在のサラリーマンの年収から逆算して結婚して子供を作り、一人独り立ちさせると考えるとほぼ釣り合う金額になります。

 しかし、塾や私立の学校、医学部などの特別な教育費用は更に加算されて行く事になります。

 株の運用やギャンブルなどの不労所得や奥さんのパート代、最近は共働きの家庭も多数に及びますが、そう云った追加所得などの努力があって生活しているのです。

 こうして見ると、経済的にギリギリの生活とも見る事が出来るのが現実です。

 

 これは日本を例に取りましたが、では日本は国民の所得に対して税金を取りどれだけの公的サービスを提供しているのでしょうか?


 まず所得税という物がありますがおよそ5%〜23%、地方税が前年分課税所得に対して10%かかります。

 消費税は日本なら一律3%です。(2008年当時の税率)


 その他に健康保険料や厚生年金保険料という物が徴収されます。

 これらを合わせると一般的なサラリーマンは給与総額の25%〜30%を差し引かれる事になる訳です。

 個人経営の商店や農業従事者は、年所得から必要経費を差し引いて確定申告する事で税金を支払いますがサラリーマンほど厳密に計算されているわけではありません。

 ある意味、安定して日本の税制を支えているのはこう云ったサラリーマンだと云ってもいいでしょう。


 最近ヨーロッパでは、生活できる最低賃金を確保した状態で、何処まで就労時間を短縮できるかという取り組みが成されたとか……。

 短縮された就労時間の代わりにどれだけ個人の自由な時間、文化的な活動が出来るだろうか? という訳ですがどうなのでしょう……。

 文化的活動といっても様々です。

 ある人は無駄と見る事も違う人から見れば、とても素晴らしい文化財にもなる訳ですから……。

 そう云った見方をすれば、経済的に貧乏でも精神的には素晴らしく文化的な生活をしている人たちもいる訳なので、これは幸せでこっちは不幸せと断定できない案件でもあります。


 思いっきり話が逸れましたが、社会的ストレスを極力抑えて、人が生活できるレベルを算出し、其れを誰がサポートするのかというシミュレーションを行なった結果、人が介在するサービスには必ず差が出る事が分かって来ました。

 この差というのは、時間的経済的人的な差別(さべつ)が発生するという事です。

 偉い人に(おもね)るのは人の常であり、身内には便宜(べんぎ)を図りたくなります。

 そして、賄賂(わいろ)で方針が変わる事もあります。 

 ハッキリ云って行政サービスを人に任せると、必ず双方に不満が出るという事です。

 確かに住みやすいと言われる日本でも、不満を数え上げれば切りがありません。

 では、国民に分け隔て無くサービスを受けられる体制とはどんな物でしょうか。


 今回、理想の国家行政を目指す場合、基本的に人が介在した時点で破綻する事が最初から分かってしまいました。

 其れじゃ、何処までを機械で再現出来るのかトコトン挑戦してみようという話となりました。

 話は簡単です。

 現在の社会システムを全てシスターズ由来のAIに置き換えてみたのです。

 飽く迄もシミュレーションですよ!


 軍隊も警察もアンドロイドです。

 役所の窓口も管理もAIに任せ、国家運営は全て機械に判断してもらいます。

 これは、人間以上に人間らしいAIが有ってこそ出来る必殺技とも言える方法でした。

 機械は休みませんから夜討ち朝駆けは当たり前、24時間働けますよ!

 政治家はいないが政治も休みませんし、官僚公務員も居ないのに役所も休みません。


 管理される事を容認した場合に、人は2種類に別れる事になります。

 人間しぶとい物で快適な環境だと其れが完全管理された環境でも馴染んでしまい、挙句に怠惰(たいだ)(おちい)る者達が現れます。

 キチンと決められたノルマを働いていただき、規則正しい生活をしていただく代わりに、至れり尽くせりの生活。

 片や、どんな快適な環境でも機械に管理されている事が我慢出来ずに、開放を望む者達。

 ただし此方は、解放された後に必ずしも自立してやっていけるとは限らないという落とし穴も存在します。

 有りもしない自己の能力と肥大化したプライドに振り回され、一番周囲に迷惑をかける(やから)ですね。

 権利ばかりを主張して、与えられた仕事を果たす事も出来ない妄想の塊。


 そう、完璧な国家を作ってみたら、真面目で勤勉な国民には天国の様な環境と対応となり、クズな国民は弾き出され、犯罪者は刑務所待遇で強制労働という結果に相なったのでした。

 ちなみに無駄な裁判所も刑務所もありません。

 其れらが無い代わりに、AIに寄る即時裁判が実行された(のち)、刑が即時執行されます。

 罪人には首輪を()められて強制労働をさせられる一方、一般人と同じ様に生活させられます。

 罪人の首輪を嵌められているので逃げる事も出来ずに、一般市民と一緒に生活しているので社会に(さら)されている状態となるのです。

 石をぶつけてはいけません、その場であなたも傷害罪で首輪を嵌められます。


 シミュレーションとしては面白い結果となったと思います。

 後は、実際に人間を使って実験をするだけですね。




 ◆




『◯国の皆さん、初めまして。私はウンサンギガ帝国の皇帝をしております天河昴と言います。今回は珍しい御縁がありまして◯国の国家運営を外注される事となりました。元々私の開発しているシステムを入手しようと、貴国の元首脳陣が色々と手を出していた物です。正直な処このシステムを導入すると政治家も官僚も役人も要らなくなってしまうのですが、自分たちを排除する為のシステムを今まで躍起(やっき)になって手に入れようとしていた訳です。チョッと笑えてくると思いませんか? 私がこの4年間掛けて作って来たのは全てが宇宙へ出る為の都市であり宇宙船です。そこは壁の外へ一歩踏み出せば命の無い環境です。宇宙船には余計な意思や無駄な荷物は必要ありません。それがどんなに高価な物で有っても要らなければエネルギーや元素に還元される世界だという事を理解してください。みなさん、誰かに必要とされる存在になってください。そして、国家という大きな船に乗った事で自分がどんな役割を演じればいいのかを学んでください。今までのお仕事を続けていただいて結構です。修正が必要な場合、何故修正するのかの説明を聞いてください。機械は嘘をつきませんしどんなに時間がかかろうとも付き合ってくれます。この苦難を乗り越えるために、敢えて厳しい事を言っています。説明を聞いてください。そして納得するところから始めてください。世界情勢や歴史に対してあらゆる事柄にアクセスできます。学んでください、ちゃんとしたカリキュラムもあります。逃げ出した奴らを見返してやりましょうではありませんか』


 世歴2008年8月1日

 実験を行う為、◯国で放送された『ウンサンギガ帝国皇帝』のスピーチを皮切りに始まったのは、空から一斉に舞い降りる電話ボックスの様なユニットでした。

 一定の間隔で街角(まちかど)に固定されるこれらユニットの他にゴミ収集車ほどの大型ワゴンが街を走り回り、国が回らなくなってから滞っていたゴミや不要物の清掃作業が始まったのでした。

 固定されたボックスユニットは、その4面全てが役所の受付窓口となっており、全ての手続きが(こなせ)る様になっていました。

 そして緊急事態には天井が開き、警官アンドロイドが出動する交番にも成っていたのです。

 国会議事堂の前には、ウンサンギガ帝国の大型揚陸艦が、ビルの様に(そび)え立っていました。

 ここが中央コントロールセンターを兼ねて、国一つを管理する中枢だったのです。


 今回、人の介在を極力廃止する事でコストを極限まで抑え、税金システムを簡略化しました。

 そしてこれは、(はた)から見ると無人武装艦による国家の電撃的占拠作戦に他ならないのでした。


 実際に一部の軍人や警官は、先の皇帝のスピーチを理解せず、抵抗して攻撃を開始しようとする者もいたのです、呆気なく無力化されましたが……。

 軍と警察は、大型揚陸艦が国会議事堂前に現れるのと同時に武装解除されました。

 政治家と並んで税金を無駄遣いしているのは、もちろん軍人で有るのです。

 ですが軍人全てを解雇して、失業者にしてしまう訳にも行きません。

 政治家が逃げ出し、トップ不在で無政府状態が1ヶ月近く続いていた◯国では、このままだと残っていた軍人達により軍事政権が立ち上がるのも時間の問題だったのでした。

 ホンの矢先の事だったのです。





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― 新着の感想 ―
[一言] マジで考えると今の一神教が支配する世界では 世界政府作れる訳ないよねえ? 黄竜さん何故私が黄竜さんにこの竜を使うかと言うと 5本指の竜は位が高く竜は5本指の竜を表す字だと 昔横浜の漢族の華僑…
[良い点] 市民、幸福は義務ですよ? あなたは幸福ですか?
[一言] 偉い人に阿る(おもねる) 身内には便宜(べんぎ)
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