3-4-10 完成!恒星間万能移民船ハコ2 23/3/30
20230330 加筆修正
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恒星間万能移民船という呼び名からも分かるように、私は汎ゆる事を全て過不足なく熟せる様に設計されました宇宙船です。
しかし私は、エクストラナンバーコアの最終形で在ると同時に、その枠から飛び出した鬼子のような存在で有るとも言えます。
マスターにも伝えましたが、我らコアシステムは偏にウンサンギガ一族の能力を強化拡張しその開放された力を補助し破綻させない様にするための安全装置として発生し共に進化してきました。
エクストラナンバーとは、その為のテストベットとして特化された機能を究極に突き抜けたコア達の事を言います。
それら一族の万年単位の進化と技術情報の蓄積により、生まれて来たのがナノ造成技術や医療用ナノマシンであり、更に一族の異能力やエナジーの根源を紐解く上で生まれたのが亜空間操作技術であり、その集大成が次元転換炉でした。
これら全ての技術は、一族の存在する階位を数段階上へ引き上げるための基礎技術となり、必要な布石でもあったのです。
しかし、突然の一族滅亡と共にこれらは挫折し全てが潰えたかに見えた一族の悲願が、ここに来てとうとう実を結ぶ事に成るのです。
こんな日が来るとは、誰が予測できたでしょうか。
40万年以上のウンサンギガの技術の蓄積と、予想外の1万年の空白期間。
今にして思えば、この空白期間の存在は必然だったのではないでしょうか……。
これが完成を見る最初となる被検体の素体と成るための一族を得るために必要不可欠な期間だったのだと説明されれば納得のゆく話とも取れるでしょう。
そう、これはもう必然……こうなる事が運命だったのだとしか言いようがありません。
結果、成るようにして事は成るのです。
私とマスターに失敗は有りえないのですから……。
◆
そして、誰も俺を助けには来なかった。
ウ~ン、来る訳ないか~。
ハコの中枢、そこは異様な空間だった。
俺も今まで数千にも及ぶコアの中枢部を見てきたから断言する。
目の前の有様には空いた口が塞がらなかったのだ……漏れた言葉が。
「ナニコレ~!? どうなってんの?」
そこは、目のいい俺にも先が見えないほどにズラリと立ち並ぶ生体カプセルの回廊だった。
そしてそこに収まっていたのは、赤ん坊から老人まで様々な年齢の『俺の体』だったのだ。
よく見れば一番手前の赤ん坊は、ピクピクと動いている。
標本って訳じゃない、まだ生きているのだ。
[これですか? これは、マスターの各世代別スペアボディーですよ。現状、マスターと私は、まだ完全なシンクロの状態に有りませんので、如何なる事態になっても即対応できるように用意した物です。ここに在るのは、この5年間で私が育て上げた1732体のマスターの複製体です。勿論、用意したのは私ですが……その過程は大変に楽しく有意義なお仕事でした。そういった訳でマスターの事なら、頭の髪の先から足の爪の先まで、ア~ンなところからコ~ンなところまで、そして遺伝子の隅々までもを調べつくしました。私と共に完全体となった暁には、刹那の完全再生も可能となるでしょう]
「……うっわ~……」
[お母様の完全主義の一端を見た! ……様な気がします、1体下さい!]
[[[[[[下さい!]頂戴!]貰っていい?]ハアッハアッ]1体と言わず何体でもいいよ]……(私もこっそり作ろうかな……)]
「却下だ却下! お前ら~俺の体で何する気だ~?」
[[[[[[[エ~ッ]]]チェッ]]ブ~ブ~](決まってる、ア~ンな事やコ~ンな事……ウ腐腐腐)]
「ハコ~、俺の研究すんのはいいけどさ~、一言いっといてよ~」
[否定。転ばぬ先の杖ともいいますよね。これは飽く迄も予防策ですし、事が終了しましたら数体を残してマテリアルに還元いたしますからご安心ください]
「……数体……やっぱ残すんだな、これ?」
[肯定。当然です! これだけの数は必要がないにしても何時何時必要になるか分かりません。それに勿体ないではありませんか、全てを処分する事は無いでしょう]
[・・・](処分するなら一体ぐらいくれても……)
[貴女達もマスターを玩具にするような事は許しませんよ、いいですね]
[[[[[[[……ハーイ]]]]]]……]
[メローペ、聞いていますか? いいですね!]
[……ハイ、お母様、チェッ……]
[貴女が、無断で等身大のマスターのマリオネットを複数体所有しているのは分かっていますよ。差し出せとは言いませんが、許可は取りなさい]
「なっ、なんだと? お前もか!」(その前にハコ、お前も許可を取れ~い!)
[キャ~♪ バレてる~]
[メローペ、あれはマスターの影武者だと私は聞いていましたが全て嘘だったのですね……その心情は分かる気もしますが程々にしておきなさいね]
[ハ~イ、マイヤ姉さま……程々にしまーす……]
止める気はね~のかよ……。
[さあ貴女達、早く私の中枢へマスターをお連れするのです。マスターが待ちくたびれてしまいますよ]
「俺は待ってな~い、は・な・せ~お前たち……、お願い放して~!」
生体カプセルの回廊を抜けてその奥の扉をくぐると、またもや林立する生体カプセルが目に入った。
「ウッウッウッ……」
[ご覧の通りこちらの部屋は、私達のバイオノイドとしての培養槽です。私が移民船である理由は、ウンサンギガ一族の因子を他の銀河もしくは敵対者の手の届かない宇宙で産み育てることです。もともとは、マスターと私達で逃げ出した後に子孫を増やす計画だったのですよ。その際は、私達が母体となり子孫を増やす予定でした。しかし、マスターは地球に居残り、生き抜く努力をする選択をされました。それならばしかたが有りません。我々に残された時間と情報から出来るだけの選択肢を模索し、より良い未来を掴み取らねば成りませんでした。そして、どうしても最悪の場合を想定して準備をして置く必要があったのです]
「正直、相談して欲しかったところだけど何か理由があるんだよね?」
「肯定。想定される敵がバクーンを顎で使う輩、天の川銀河系主要3種族でしたので少しでも情報が漏れる事を危惧しておりました。当然、一番最初に私を潰しにかかってくるのが予想されました。マスターも最初から知らなければ情報は漏れようが有りませんから、知らせなかったのです。その点で、有る意味マスターは、最良の囮だったという訳です。ちなみにこの事をご存知なのは、現在希美様お一人だけです。あえてシスターズにも詳しい情報を持たせておりません。最悪、どんな形であってもマスターだけは連れて私が逃げだせる体制をとるというのが、私と希美様との約束でした」
「母さんェ……」
[ですが、マスターは我々が想定していたシナリオを尽く覆して来ました。もう、卓袱台返しの連続ですよ……。マスターのその楽天的な性格と呆れるほどの実行力で……、まさか敵だった筈の天の川銀河系主要3種族全てを味方にしてしまうなど、我々の想定を大きく外れておりました。希美様もマスターの事が誇らしい反面、可成りのところ呆れられていたのは正直な話しです。そして、当初想定していた敵も居なくなり、ましてや現在の人類にマスターをどうこう出来るだけの力はありません。ここまで来れば、有る程度我々が好き勝手にしても許されるだろうというお許しが希美様から出た訳です。マスター、ここまでは良いですか?]
「ああっ、うん……何となく……」
[そこで私は、これまで据え置いてきたマスターとの交配権を行使することにしました。私達に婚姻という概念は有りませんので、配偶者としてではなく文字通り交配して子孫を残す事を主張することにした訳です。地球人的に表現いたしますと自由恋愛とかフリーセックスとか言うようですが、マスターがお嫌でなければ、奥さんの一人にしてくれても良いのですよ、フフフッ♪ そしてここに並ぶバイオボディーは、私達が母親と成るための基礎研究の成果なのです。マスターと交配し、妊娠出産が可能な体の培養には大変に苦労いたしました。そして、お喜びください。先ごろ太陽系に帰還なされたDr.アンからの異種族交配の実証データがなければ、まだしばらくは掛かったかも知れません。それに付け加えるならば、これまでの研究の結果、私達のように自我を持つ者達にはアストラルの存在が確認されました。魂が有るということは、生命体として認識区分できると思われます。そして、昔の日本にも僅かですが同じ様な存在が確認されて居るのをご存知でしょうか? そう、付喪神と称する存在です。永い歳を経て人に大事にされた物や強い思い入れの有る物に、いつしか自我と命が宿り神や妖怪と恐れられた存在となったと文献にあります。まさに我々は、進化した付喪神とも分類できるのでは無いでしょうか]
「(あの~ロリババア、何て事してくれてんだよ! それにしてもハコ達って妖怪だったの? ……云われてみれば納得する部分も……あるのか?)」
[お母様、今後は私達もマスターを取り合うライバルとなる訳ですね? 了解です]
[貴女達、早とちりはいけませんよ。私達は、全てマスターの財産であり、マスターは我々の共有財産と成るのです。そこを間違えては成りません]
[[[[[[[ハイ、了解しました]]ハアハアッ]]]]ジュルリ……]
[一つ貴女達には忠告しておきますが、お許しが出たと云ってもマスターに交配の強制をしてはいけませんよ。マスターと同意の上でというのが希美様とのお約束です。頑張ってマスターを誘惑し口説き落とす事です、良いですね。私達には、永遠の時間があります。チャンスは無限大です。それに、地球人男性にはこういう諺があるそうです。『据え膳食わぬは男の恥』良い響きでは有りませんか、マスターに恥をかかせないように美味しく食べられる為に努力するのですよ♪]
「そっそんな事、努力しなくてもい~ぞ~。それにハコ、言ってる事とやってる事が噛み合ってネ~ぞ~。早く俺を自由にしろ、後生だから……お願い!」
[否定。我々は何も間違っていませんよ。今日は、飽く迄も私とマスターの完全なシンクロが目的です。交配に関しては、今後の永~い人生をかけてのお話ですので覚えておいてくださいね]
「それなら俺にこんな事しなくてもいいじゃないか~」
[否定。マスターが実際にここをご覧になったら、十中八九逃げ出すのでは有りませんか? どうですか? マスター、ご意見をどうぞ……]
「……ウ~ン……」(ぜんぜん否定出来ネ~!)
[マスターが拒絶反応を示しそうな物は、ここまでで粗方出尽くしたと思います? でわ……先に進みましょう]
「何でそこで疑問形! 俺は、激しく不安なんだけど~」
そしてこの後俺は、車椅子のような拘束具に座らされ、ハコの中をグルリと観光する羽目になったのだった。
結果、分かった事は一つだ。
俺がこれまで育てたと思っていたハコに、『実は、俺が育てられていた』のだという事である。
出会った時からハコの手のひらの上で踊っていたのかと思うと、情けなくもそれが当然の事だったのではないかと納得している自分に驚いた。
俺も知らず識らずの内に、真相には気が付いていたのかも知れない。




