3-2-02 銀河騒乱1…出立 22/9/17
20220917 加筆修正
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私は、ディーバ族の女王、名をヴィシュヌと申します。
先日手に入れた私の船、ハヌマーンⅠ世は現在クルーザー形態で天の川銀河連合の中枢、天帝の居る銀河中央ステーションという名のダイソン球に向かっています。
そのスピードは、ラーフⅡ世に迫る物です。
昴殿に強請った甲斐がありました。
ハヌマーンⅠ世のリニューアルには成功しましたが、散々と昴殿に無理を云ったので最後には口も聞いてくれなく成ったくらいです。
我ながら、大人気なかったと反省はしましたが、後悔はしていません。
ハヌマーンⅠ世のリニューアルは、それほどの出来栄えだったのです。
元の格闘形態をブラッシュアップしてスマートな女性形態へ、そして高速移動用のクルーザー形態への変形!
昴殿のところのプレアデスシスターズと云うコアシップ、特にメローペと云う船を参考に、それぞれの形態に変形することでその性能をグンと上げることに成功したのです。
誰かに見せびらかしたくて、先行したアプサラス殿の艦隊に追いついて一緒に演習に参加してしまったくらいですよ、オーホホホホ♪
流石にアプサラス殿も苦笑いでいらっしゃいました。
私は気も済んだので一度王宮に帰ると、それを待ち構えていたカーリーに絞られる事になりました。
「何やってんですか?貴方は、私に全部押しつけて……」
[カーリーちゃん、御主人に何云っても無駄よぉ~。唯我独尊! 人の話なんか参考程度にも思ってないんだからぁ~。大体さ~ぁ、女王に成ったのだって他の煩いのを排除してたら誰もなり手が居なくなってたんですってよ~。仕方なくやってるって私に愚痴ばっか零すのはどうにかしてくれないかしら~? あたし困っちゃうわ~]
「オーホホホホ♪ おだまりなさい! 誰が貴方を自由にしてあげたと思ってるんですか?」
[「マスター昴キュンよ♪」昴殿ですかな……]
「チョッと待ちなさい! 封印されている扉に逸早く気付いて昴殿に頼んだのは私ですよ……。兎に角、アプサラス殿が阿修羅王よりもその取り巻きを説得して中央に出張るのにおよそ半年は掛かるでしょう。私達もタイミングを合わせて出かけますよ! 準備をなさい。ハヌマーンにはディーバ武術の真髄を叩き込みますわよ、オーホホホホ♪」
「話をそらしましたね……」
[うん! 思いっきり~]
「さあ、息抜きも出来たし溜まっている公務をサッサと終わらせて、次は戦争よ♪」
「イヤッ、戦争にしちゃ駄目でしょう」
「軍人の貴方がそれを云うの? カーリー」
「当然です。命をすり減らすのは部下達なのですから……」
「ウフフフ♪(そんな貴方だから一軍を任せているのですよ)」
この後、私は怒涛の政務と、周辺種族との外堀を埋める為の外交に飛び回った。
カーリー達には阿修羅王と共に先行させて、私はおっとり刀で乗り込むつもり。
さあ、正念場よ!
◆
アプサラスで御座います。
まったく、ヴィシュヌ女王にも困ったものです。
阿修羅族の主恒星系外苑で行っていた観艦式に、単艦でのり込んで来られて、派手なデモンストレーションをしたと思ったら、友好と支援の言葉を投げつけて嵐のようにお帰りに成りました。
あの船は、昴殿の手によるものでしょうね~。
ああっ、あんな大変な人にあんな大層な玩具を与えたら……。
ヴィシュヌ女王の言葉をこの観艦式に出席したお歴々も直に耳にしましたから、この後の説得は随分と楽になることでしょう。
あの方は、破天荒に行動している様に見えてその辺もキッチリと織り込み済みで答えを出す方ですから……私も娘と一族の為に行動に移すとしましょう。
ヴィシュヌ女王の援護射撃もあり、天帝寄りだった者達も反天帝または中立に持ち込むことに成功しました。
王様は、意見の纏まった所で中央に諫言(ウンサンギガ関連)し、シャシの婚約解消に動きます。
ピオニーⅠ世に王様の御座船と護衛艦隊3000隻を積み込み、亜空間の宮殿でお姉さま達と歓談していると聞かれるのは地球での話ばかり、特に昴殿達についてとその使用している施設や船のこと。
先日同行した兵士達から、木星の反物質生成ステーションでのバカンスが印象的に語られているようで、今度は一緒に連れて行けだの、似たものを阿修羅主星の近い所に作って貰えないものか?とか、割と好き勝手なことをおっしゃられる。
婿にするなら身内も同じ、兎に角一度は遊びに連れて行かないとおさまらない様子にうんざりしました。
王様はというと、ピオニーの中の王宮を見て回り、今は無くなっている昔の王宮を思い出しているようでした。
「アプサラスよ、大昔、私が子供だった頃の王宮にそっくりだ! よもやこんな物が残っていようとは、礼を申すぞ♪」
「勿体無いお言葉。掘り起こしたシャシと使用できるようにした匠の一族の功績で御座います」
「しかし、本当にウンサンギガの血族が生き残っていようとはのう。聞いた話では天帝の息子マルドゥークの謀からのお家騒動、ウンサンギガはその巻き添えを食らって主星ごと消されたとは……不憫よのう……」
「彼等生き残りには何の罪科も有りません。未だ取り消されぬ天帝の勅命、ウンサンギガ一族に下された抹殺令を撤回させねば、彼らには未来永劫安息の時は訪れないでしょう。しかし、私が心配しているのは別の所にあります」
「ほう、それは?」
「今は地球と云う星に生き残る彼等ですが、この1万年の間血を血で洗う弱肉強食を強要されてきました。マルドゥークの支配から始まる呪いのような後遺症によるものですが同種族同士で相争う事を延々と続け生き残ってきた者達です。この意味がお分かりになりますか? 黙って討たれるような軟な者達では無いということです」
「窮鼠猫を噛むと云うからのう……」
「ネズミなどとは烏滸がましい。彼等はれっきとした猛獣ですよ、虎や獅子と変わりがありません。理不尽にはそれ相応のお返しをすると、ウンサンギガ現当主が云っておりましたよ」
「ふむっ、この船やシャシの船、ヴィシュヌ女王が駆る先日の軍船もその者の手によるものに間違いはないのだな?」
「はい、そして先日シャシが持ち帰った医療用ナノマシンポッドは、現在首都中央病院にてフル稼働をしております。我らにおいても不治の病と言われ諦めていた者達、不妊で悩む者達にも笑顔が戻っております。ちなみにお姉様たちがこぞって通っておりますよ♪」
「なんと、そうであったか! アヤツ等最近夜が激しいと……ッ。相わかった! 天帝に物申すはいつもの事じゃ、私に任せておけ。それにシャシの婚礼の話も破談に持ち込めるやもしれん」
「たぶん、地球人類はそう時を待たずに銀河に進出して参るでしょう。その時に、彼らの手を取っているか鉾を交えているかで我々の運命も変わるやも知れません。それほどの可能性を秘めた者達であると推測いたします。嘗ては銀河連合の礎を築いたほどの者達の末裔です、蔑ろにする事は出来ません。特に復活した今代のウンサンギガ当主は、わずか4年にして主星のある恒星系を自分の庭のように使い、草木を育てるように独自の文化圏を成そうとしております。それも単独での所業だというのですから驚きです」
「ッ! それほどであるか?」
「一度でもあれを味わったら、元には戻れません。ちなみにこのピオニーⅠ世の糧食も地球圏のものが再現されております。リゾートと云うらしいのですが観光や娯楽の数々、医療や美容にも通じるスパやエステ。先日、同行した兵の中には移住したいと申すものまで現れております」
「……納得だ。それを聞いた奥たちが煩く息抜きに連れてゆけと……その震源地はアプサラス、お前じゃな!」
「ホホホ♪」
「フムッ、シャシの夢中になっている者がどの様な者であるか、この目で見定めてやろうではないか……、それで良いのだな? お前達」
「「「「「「「キャ~キャ~♪」」」」」」」」
柱の影で様子を伺っていた奥方や姫たちが王様の言葉を聞いて喜んで騒いでいる。
そんなに嬉しいのか……。
◆
少し前、陳情に出発をする前の阿修羅王宮での出来事。
「それでは、天帝に鉾をお向けに成るのですか?なんと大それた事を・・」
「導師シャンカラよ、お主のすすめる融和政策も全てが悪いとは云っていない。しかし、年若い姫を何故天帝シャダイ(8000歳オーバー)に差し出さねばならぬ? 三眼族の皇太子でさえ私より年上ぞ。確かに天帝位は輪番制であるから、次代に跡目を譲る時には一時的にでも他の種族が天帝位を負うことに成るだろう。しかし、それも銀河連合の議決権の数と支持率による物だ。勝手に出来る物ではないし、普段から治めるものを確りと治め人心を掴んでおれば自然と巡ってくるものであろう」
「王よ、まこと王の仰言ることは至極当たり前の事なれど、それが通らぬのが世の中と言うもの。どうかお聞き分け下さい」
「その様な不条理がまかり通る世の中が、真っ当である筈が無かろう?」
「……どうあっても天帝に弓引かれますか? ……私はお止めいたしましたぞ!」
宰相のシャンカラは、阿修羅王の気持ちが変わらない事にがっかりする素振りで玉座の間を出てゆくのだった。
部屋を出る時の顔は苦虫を噛み潰したように、ひどく忌々しいと顔に出ていた。
「アヤツも天帝の紐付きよ。事を構えるとなれば妨害もあるやもしれん、監視の目を厚くするようにいたせ……」
『……御意……』
阿修羅王の言葉に、姿を見せずに女の声だけが応えた。
「仕方が無いとはいえ、獅子身中の虫を飼いならすのも王の務めか? 誰か変わってくれないものかのう……」
阿修羅王は、玉座を後にして宇宙港に転移するのだった。
・
・
一方、宰相シャンカラは、屋敷に戻り隠れて連合中央の天帝府と通信を行っていた。
『何っ、阿修羅王は天帝に逆らうと申すのか? 既に阿修羅王はそこを発ったのだな?』
「はい、既に天帝の命数は尽きたと……」
『ッ! 相わかった、貴様は追って沙汰を待て。悪いようにはしない』
「ハハッ!」
プツン……。
「フフフ、これで王も終わりよ。残った一族は俺に任せて、先にあの世で待っていて下され♪」
トントン、とドアを叩き宰相の私室に入ってくるのは、妙齢の美女だった。
「アラッ彼方、今日はどうしたの? 仕事はもうおしまい?」
「おおっ、我が妻よ♪ いやいや、少々王の不興を買ってな、自主謹慎じゃよ」
「そうなの? 私は、てっきり天帝にご注進して、我が王を亡き者にしようと企てている真っ最中なのかと思っていたのだけれど……」
「なっ、お前は何を……」
「駄目よ~♪ お悪が過ぎるとお仕置きされるんですからね~! ……捕らえなさい!」
バタンッ、ザザザッ、ダンダンダン!
部屋のドアが蹴破られ、数人の兵士が駆け込んで宰相を組み伏せた。
「苦ッ! お前、夫である私に何を……」
「何をですって? 私は、彼方の妻である前に阿修羅王の妹でもあるのですからね。一族に害するものを捉えるのに何かおかしな所が有るかしら~? でも本当に残念だわ~、その野心さえなければ頭の切れるイイオトコだったのに……また、新しいのを探さなくちゃ♪」
「おっ、おのれ~……」
「連れていきなさい! 王の居ない間は私、王妹のソーマが王宮を取り仕切ります。良いですね」
「「「「「ハハァー!」」」」」
◆
ピオニーⅠ世の王宮の玉座に座り、阿修羅王は妹の報告を聞いていた。
「そうか、ご苦労……」
『シャンカラは他にも余罪が有るようですので、一滴の雫も残さず絞り上げましょう♪』
「程々にな、後は任せた……」
『御意。……それで兄様、地球のお土産は期待して良いのですよね? アプサラスやシャシばかりでは無く、私にも何か欲しいのですが……』
「……ウ~ム、何か…か……」
『何でしたら私が、直接うかがっても宜しくてよ♪ 新しい男も見つけないといけないし~』
「イヤッまあ待て、私が戻るまでの辛抱だ。そう焦ることも無かろう」
『期待して待ってますからね! ニイサマ♪』
プツン!
「はあ~、あやつの男漁りはどうにかならんのか……」
「ソーマ様は聡明なお方ですが、殿方の理想が高すぎるのかも知れませんね。何もかも包み込んでくれるような大きな殿方が見つかれば良いのですが・・(あの方はブラザーコンプレックスをこじらせてますからね~、王の様な方は滅多なことでは現れないでしょう)」
「何時に成ることやら……はあ~。アプサラスよ、何処かに心当たりは無いか?」
「こればかりは、めぐり合わせですので……」
艦長のダーナから報告がはいった。
『王様、この船は2時間後には天の川銀河連合の中央ステーションに到着いたします。どうも、先程から警戒レベルを上げたようで、中央ステーションでの消費エネルギー量が急激に増加した事を確認いたしました』
「2時間とは早いな、それにこんなに離れていてそこ迄相手の動きが分かるものなのか?」
『ハイ、何でも『敵を知り己を知らば百戦危うからず』と言うそうで、予知にも近いような精度で各種情報が得られるようにとこの船は調整された様です。情報は何物にもまさる武器だそうですよ。そして引き際を見極め、逃げ足で優ればこの世に敵は無いそうです』
「……ゾッと背筋が冷えたぞ。地球人とはそういう者達か?」
『イエッ、この船を調整したウンサンギガ当主の言にございます』
「其奴、まだ14と申したな? シャシと変わらんではないか……末恐ろしいのう」
「会えば分かりますが、いたって凡庸な若者です。出来れば日がな一日昼寝をしていたいと申しておりましたよ。実際には周りが放おっておかず、誰よりも働かされて居りましたが、ホホホ♪」
「……それも不憫よのう~、その有り様は既に王ではないか?」
『「云われてみれば……」確かに……』
[デーヴァ族第三王女親衛艦隊旗艦ロータスⅠ世、カーリー艦長より通信が入っております]
「ピオニー、ありがとう。繋いでくださる?」
[了解いたしました。繋ぎます、こちら阿修羅族第7妃専用艦ピオニーⅠ世です]
『こちらロータスⅠ世、艦長のカーリーです。ご無沙汰しております、阿修羅王様』
「久しぶりだなカーリー、息災か?」
『ハイ、相変わらず飛び回っております』
「それは重畳、して何用であるか?」
『この度の陳情にデーヴァ族も同行いたしたく、ご連絡申し上げた次第です。先日は、うちのヴィシュヌ様がそちらで馬鹿をしてきたと聞いて顔から火がでる思いでした、大変申し訳有りません』
「イヤイヤ、素晴らしい性能の宇宙船だと皆で話していたのだ。ヴィシュヌ殿も余程に嬉しかったと見える、クッククク♪」
『このロータスⅠ世もそちらのピオニーⅠ世の同型艦です。お役に立てると思いデーヴァ族基幹艦隊2000隻を連れて参りました』
「ほう、それは心強い。願ってもない、同行を許そう」
『ありがとうございます』
「そういえば、ヴィシュヌ殿が見えぬ様だが一緒ではないのか?」
『はい、援軍を連れて遅参すると申しまして、別行動を取っております』
「あの方もフットワークの軽い御仁よな。専用の船を手に入れて更に磨きが掛かったのではないのか?」
『保険という訳ではありませんが、ラクシュ姫をシャシ姫のラーフに便乗する形で昴殿の所に向かわせております。今頃は共に地球に着いていることでしょう』
「ラーフが付いておれば安心では有るな。聞く所によればバクーンもそこに居るというではないか?」
『はい、サーベイヤーⅠ世も整備を受け新造艦の様でした。安全という意味では間違いは無いでしょう』
「では、我々は一足先に連合の銀河中央ステーションでヴィシュヌ殿を待つとしよう」
 




