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1-2-01 父さんが?‥頑張る! 23/5/22

加筆修正 20210426、20230522

7941文字 → 9937文字 → 11256文字




 ハコが我が家に来て3回目の夏休みが始まる。

 そして、ハコの造船カリキュラムのすり合わせが行われた。

 先日、ハコも第7期に入ったので船の艤装と船本体の各種サポートユニットの開発に入るそうだ。


 今のハコは、こんな感じ。




 恒星間万能移民船『ハコ』諸元

 ※武装はありません

 

 第7期(ハコ端末32面体)

 孵化から727日経過


 船体は亜空間に次元潜行中

 外観 六角柱状のクリスタル、船色 碧色

 基礎船殻・NT1,000トン

 内部拡張中 23,787,620立方km

 (100,000平方km、半径178.41km)

 全高60m 全幅35m

 主機・次元転換炉 現在7基

 

 船殻用ナノマテリアル 在庫 550トン

 未処理の質量 200トンほど

 昴の工作用 在庫 40トン




 ◆




 アハハハッ、広さだけなら軽く北海道を超えちゃったよね。


 それで、本格的にナノマテリアルが足りなくなって来たから取り敢えず後1万トンほど都合して欲しいと、ハコ達がお強請(ねだ)りしてきた。

 いい機会なので、(かね)てより温めていた地下秘密ドックの建設を開始する事と相成ったのだった。

 家の地下秘密シェルターで味を締めた面々は、全員賛成だったのだが、ここで母さんだけは難色をしめした。

 (おもて)(タウルスの経営)で派手に動いているので、尻尾(しっぽ)を掴まれたりボロを出さないように慎重に行動してほしいというのだ。

 確かに、最近は産業スパイやマスコミなどが煩く、頻繁に見かけるようになってきた。

 どこから秘密が漏れるかもしれないという訳だ。

 メンバー全員、気を引き締めて力を付けるまで、慎重の上に慎重を重ねることに同意したのだった。


 地下秘密ドックの予定地は、先日買収したタウルスの倉庫予定地、そうだ、あのニセ産業廃棄物処理施設の跡地大深度地下に建造されることになった。

 あそこには予定通りテント倉庫を一般業者に建てて(もら)ってカムフラージュした後、ハコと七姉妹(シスターズ)のみんなで夜中に穴掘りを開始する。

 俺たち家族は、防護スーツを着てお手伝いという名の野次馬である。


 まず俺達は、誰にも感知できない様にステルス状態でテント倉庫の中に侵入、その中心部にマーキングされている安全地帯(物を置かない所)の前に立っている。

 ハコを中心に姉妹達(シスターズ)が等間隔に周りを囲み、ハコから暗いレーザー光が真下に発せられる度に、空中に跳ね上がる小さな三角ブロック状に切り刻まれたコンクリートと地面は、周りを囲んでいる姉妹達(シスターズ)に吸い込まれて消えていった。

 アッと言う間に、其処には直径2mの円形の立坑(ピット)が出来上がり、ハコ達はその立坑(ピット)に消えてゆくのだった。


「何か、呆気なく穴が空いてハコ達が消えたけど、後をついて行けば良いんだよね?」


「このまま飛び降りればいいらしいぞ。スーツが自動で重力制御してくれるらしいし、下にはハコ達がいるから心配ないそうだ」


「安全だって云われていても、真っ暗な穴に飛び降りるっていうのは勇気が要るわね……エイッ女は、度胸! キャ~~……」


「流石、希美さんは思い切りがいいな~。昴は後からゆっくり来いよォ~~ォ~……」


「落差100mって結構深いよね……、さて俺も逝きますか!」 ヒョイ!


「オオオオオオ~~♪」


 ハコと姉妹達(シスターズ)は、穴が崩落したりしないように壁や柱を強化しながら、地下100mほどまで俺達が通る通路代わりの立坑(ピット)を掘り、其処から更にドック予定の大空間を堀り抜いていく事になる。

 下に空間が確保できたら立坑(ピット)は、(ふさ)いでしまうそうだ。

 手始めに、高さ10m横20m奥行き100mでおよそ2万立方mの空間を確保した。

 (えぐ)り出して確保した質量はナノマテリアル化され、実際には取得した質量の三分の一ほどを建材に使用し、残った1万トンを少しオーバーするくらいが実際に確保される事になった。

 この空間を最終的には、5倍から10倍ほどに拡張して秘密ドックにする予定だ。

 ドックが完成したら、ハコの船体をココに隠して、次元潜行用のエネルギーもフルに使って空間拡張にスパートをかけるそうな。

 これ以降は、ハコが主導で24時間リモートで動くパワーローダーやオートワーカーを使い拡張工事を行う。

 そして最初におれの工房(ファクトリー)が構築され、自宅地下との連絡用シューターを用意するそうだ。


 ここは、完全に秘密の地下基地として建設されるので間違いなく違法建築である。

 まあ当たり前の話だけど、宇宙船のドックなんて(おおやけ)にして建築出来る訳が無いのである。


 日本の法律で土地の地下所有限界は、40mということらしいけれど、2001年に大深度地下法ていうのが整備されて、使ってない地下も色々とうるさくなったんだってさ……。

 基地の出入り口になる最初のゲートには転移を使う予定なので、ここには完全に外界から密閉されている環境を作ってしまうそうだ。

 どんなに頑張っても見つけられない様にするし、見つかっても100mの地下だ。

 地面を100m掘るか破壊しない限り、中には絶対に入れない建物になるんだ。


[アァ~ハハハハハ♪ 壊せるものなら壊してみると良いんです!]

 と、ハコが変な方向に振り切れていたのは別の話……。




 ◆




 ここで、我が家のマイカーも紹介しておこうと思う。

 俺がずっと小さい頃、父さんによくフィールドワークの天体観測に連れ出されていた。

 車に機材と寝袋を積みこんでは、雲のない夜空と綺麗な星々を探しに気の向くままにドライブして、テントを張る時間も惜しんで星を見て、そのまま車の中に寝泊まりしていた。

 そして。文字通りそんな事が出来るようにハイエースカスタムに更に手を入れて使っていたのだ。

 中古で草臥れてはいても長年の愛着も有るし、親子で積み重ねた思い出は何物にも代えがたい宝物だと思っている。


 父さんからは、車検に通るようにあまり過激な改造はしてくれるなよと言われていたんだけど~、実はアルキオネと色々弄り回しているうちに別物に化けていたのだ、アハハハッ♪

 イヤ~、毎晩ア~でも無いコ~でも無いとコツコツコツコツ20日間ほど弄り回した結果であるのだが、反省はしても後悔はしていない。

 まずは、ハコから船外活動用ユニットの動作規格データを引っ張り出し、アルキオネには日本の自動車検査制度の事を隅から隅まで調べてもらって穴を探しまわり……その結果、自分で車検を通す事が出来るユーザー車検制度があるという事に行き着いたのである。

 腐腐腐のフ♪

 俺たちに掛かれば、『車のメンテナンスぐらいお茶の子さいさいさ』となれば話は早い、ヤッチャイマショウ! ソウシヨウ♪

 と、云うことで、我らの安全なマイカーライフの為に我が家の使い込まれたハイエースカスタムに、魔改造を実施する事となったのでした。

 イヤイヤ~、我ながら良い仕事をしたよ、ホントに。


 ディーゼル2800ccのエンジンと4WDの足回りの機能は残して、前部運転席に2人と姉妹達(シスターズ)の管制用ユニットをセットしてフルコントロール。

 後部キャビンにはベンチシート3人掛け、残った車の後部半分はキャンピングカー用のオブジェクトを配置した中にクローゼットに偽装した10畳間ほどの拡張空間を確保することに成功した。

 そして、こちらは機能的な1LDKにシャワーとトイレを詰め込み、壁の要所に残った姉妹達(シスターズ)の接続ユニットと窓型モニター(普段は車窓を映している)を配置した。

 見かけは、5人乗りのキャンピングカー、その実態はってな感じである。


 船外活動用ユニットの規格データを元に、ボディーを再構築し完全に予圧できる機能と強度を持たせて全環境対応にすることで、姉妹達(シスターズ)による管制と巡航制御でハコが言っていた言葉通り、月までドライブできるハイエースにしてしまったのだ。

 通常は、今までどおりディーゼルの4WDで走行しているが、燃料タンクの部分が見た目は変わらないが1割ほどの空間を残して別の何かに入れ替わっている。

 実はこの車、走行中は車両重量が数分の1に軽減制御されており、燃費がおかしな事になっている。

 発進停車時のタイヤの摩擦係数などにも関わっているのでその辺は、慣性制御によって道路の上を走っていると言うよりも滑らかに移動する。

 その理由は車検でボディーを調べられた時に、制御装置や環境循環系のメカを隠せるところが燃料タンクしか無かったのだ。

 その他には、姉妹達(シスターズ)による慣性制御と、空間置換に依る短距離転移が出来るようにもなったのだ。

 後部拡張空間は、レイアウトを変えるとリビングにも寝室にも司令室にもなり、床下のクローゼットに望遠鏡も完備している。

 基本的な機能は、姉妹達(シスターズ)が使う行動強化ユニットに準拠しているので、時間をかければ火星にだって行けるはずだ。

 短距離の空間置換はテレポートにも似ていて、試しにやってみたら乗員の乗り降りにも使えるんだよね、真空中で予圧室も無しで船外と出入り出来ないもん。

 そしたらさ、ハコ達の宇宙船の乗り降りは短距離空間置換による転送で行うのが当たり前なんだって、ただし防護スーツ着用が前提らしいんだけどね。

 さあ、この車なら地球の裏側にだって数十分でいけるぞ。

 どこに行こうか?


 やっぱり種子島かな……。




 ◆




「希美さん、ハコ達が我が家に来てもう2年経つ事になるんだけど、特にこの頃の昴は常識のタガが外れてきている様なんだ。大規模な施設の建設も始まったし、俺達だけじゃこの先隠し通せるとは思えないんだ。この辺で国の上の方にも味方作っとかないと不味いような気がするんだけど、どう思う?」


「ア~ラッ、譲さん。コソコソと隠れて昴と2人で楽しげに、色々と世に出せない様な物を開発しているのを、あたしが知らないとでも思っているの? 昴のタガを外しているのは、貴方のほうじゃないのかしら?」


「ウッ! そっそれは……打てば響くと言うか……何と言うか……」


「ハァ~親子でモノ作りするのが楽しいのは分かるし、譲さんの心配している事も分かるのよね。だからあたしも鷺ノ宮(さぎのみや)校長を抱き込んで、文部科学省に居る御子息の(ゆたか)さんに便宜はかってもらってるんじゃない。もっと上に顔を繋ぐとなると大臣くらい引っ張り出さないと厳しいかしらね、そこのところどう思って?」


「……分かったよ。俺の先輩に経済産業省の事務次官してる人がいるから、そっちから当たってみるよ」


「あら、天文観測所の上の方じゃないんだ? 」


「天文観測所は、国立天文台の出先だから上って言うと文部科学だろ。大学共同利用機関だからそんなに力は無いよ。希美も山で会ったこと有るだろ?」


「エエッ~あの人、そんなお偉いさんになってたの? 人は見かけによらないって言うけど本当なのね~。……そっか、経済産業省っていうと資源エネルギーに特許、あと工業技術関連も抑えられるかもしれないわね。取り敢えず息子がエイリアンから宇宙船をもらったってところは秘密よ! 昴が天才児で、今までにない技術を開発したって事にするのよ。どうせ前例なんて無いんだから、現物突き付けて押し切りなさいな。何かあるんでしょ? 使えそうな昴と作った玩具(・・)が……」


「オウッ、まあ~な。打って付けのが幾つか有る。俺たち大人は、出来る息子の恩恵に預かる代わりに盾と矛になればいいって事だな」


「そ~いう事よ、分かって来たじゃない。まずはあんた達親子が影でコソコソ造ってる物から、使えそうなのを小出しにしていきなさいな。でもあんまり突拍子もない過激なのは()しなさいよ、後が大変なんだからね……」


 しかし、この忠告はあまり役にたつ事はなかった。

 だって、何もかもが規格外の物ばかりなのだから……。




 ◆




 俺は、大学時代に所属していた部活の先輩に連絡を取るつもりでいる。

 見た目からして大柄でクマみたいな人だが、とても面倒見のいい先輩(ひと)だった。

 天文部なのに、いつも登山部と一緒に山に登っては、星を写真に撮って来る人で、散々写真の現像に付き合わされたり登山に引っぱって行かれたものである。。


 卒業以来パッタリと会っていないから、俺の事を覚えててくれるといいんだが……。

 俺達天文部の中では、一番の出世頭だし声をかける政府のお偉いさんと云ったら先輩以外にいないよな~。


 ピポパ…ポッ……プルルルー…プルルルー…ガチャ……


「はい、経済産業省総務課です。どういったご用件でしょうか? 御要件と御名前を御願いいたします」


「あっはい。わたくし、国立天文台XX天文観測所に在籍して居ります、天河譲(あまかわゆずる)と申します。事務次官の荒垣(あらがき) (さとし)さんお手すきでしたらお願いしたいのですが…。大学時代お世話になった天河からと言っていただければお分かりになると思います」


「国立天文台の アマカワ ユズル 様ですね? 少々お待ち下さい、確認いたします」


 3分ほど経過…ガチャ…


「おう天河ァ~、随分とご無沙汰じゃねーかよ。大学以来だから17~8年ぶりか? 今は国立天文台か~夢追っかけてるよな~お前は相変わらず♪」


 うっ、相変わらずのマシンガントーク、テンション高いな~荒垣先輩……。


「ハイッ、随分とご無沙汰してます。先輩もご活躍されているようで、天文部の後輩としては鼻が高いですよ」


「そんな、活躍ってほどじゃねーけどな。それで今日はどうしたんだ? お前のことだ、態々世間話するために電話してきたんじゃネ~よな? 」


「ええ、是非先輩に相談に乗っていただきたい話なんですが、電話ではチョット……」


「フムッ、天河、お前今夜出てこられるか? 場所を(おさ)えておくから飯でも食いながら話そうぜ。今まで何ヤッてたのかも聞きて~しよ、場所と時間をメールするから、アドレス教えろよ」


「わかりました、私のアドレスは、Yuzuru.a.####@&&&&.$$$.com です」


「おう分かった、それじゃまた後でな」 ガチャン……ツーツーツー


 アハハッ、台風みたいな人だよな~荒垣先輩。

 これで後は見せ札として何を持っていくか……何だが……。


[……譲さま、こちらの品物などオススメですが……]


 ドッキーン!


「……ハコ? 盗み聞きとは行儀が悪いぞ」


[否定。盗み聞きではありません。我が家の防諜は、完璧でなくてはいけません。ウイルスや盗聴に対するカウンターの為にも全て確認しているだけです]


「俺たちの話もダダ漏れか。仕方ないよな~、ハコだし」


[今の発言は納得がゆきませんが、今回は聞き流しておきます。話を先の件に戻しましょう。譲さまは、この国の官僚とお会いになるようですが、これからの我々の行動に自由度を持たせる為に国家権力に伝手を得ることは良い事かと思います。いつになったらこの国を乗っ取るのかと、無い首をなが~くして待っておりました、やっと行動に移すのですね♪]


「オイッ、チョット待とうか。乗っ取らないからな、国なんて。絶対に駄目だぞ」


[クーデターを起こすならお手伝いしたかったのですが残念です。それにしても結構温いのですね]


「ヤメてくれ! 本当に、お願いします」


[肯定。残念ですが、マスターの為に断念しましょう。では、どの様に進めるおつもりですか? 予定をお教え下さい]


「ウンッ、ま~良いか……。電話の話は聴いてたと思うが、俺の大学時代の先輩に荒垣(あらがき)って人がいるんだ。今は、経済産業省の事務次官っていう偉い人になってるから、そこから話を進めようと思っているんだ。日本のエネルギーと技術全般を実質的に握ってるのは、経済産業省だからね」


[肯定。……データ照合…確認…、了解致しました。作戦に必要な事がございましたら、何時でもテレパシーでご連絡ください。現時点で世界中の電子媒体の情報は、ほぼ抑えましたので、必ずお役に立てるかと存じます]


「エッ、世界中全部……分かった。……姉妹達(シスターズ)も聴いてるかもしれないがフォローの方をよろしく頼むよ」


[[[[[[[肯定]]]]]]]


[では、これからの決戦に持参するお土産の選定に入りましょうか? 譲さま♪]


「ああ、頼む。フフフッ、君達には敵わないよ、全く……」




 ◆




 数時間後、ここは赤坂の料亭……なんて所に呼び出すんだ、先輩は……。

 駐車場があってよかったよ、電車じゃ今日中に帰れないからな……。

 家は、あんまりのド田舎で電車もバスも最終が早過ぎて車じゃないと帰れないと来たもんだ。

 まあ、酒が入ってもこの車なら寝てる間にエレクトラが村まで送ってくれるし問題ない。

 車でそのまま寝るにしても、後部の拡張された部屋を使えばその辺の高級ホテルより快適だ。


「オイッ天河~いい車乗ってるじゃないか、今度俺にも貸してくれよ。今流行のバン型キャンピングカーだよな、こいつは随分と手が入ってると見たぞ♪ この歳になると山行った時に寝床に困るんだよ。もう若くネ~からな、テントに寝袋はキッツイんだわ♪」


「先輩、まだ山行ってるんですか? 俺の事言えないじゃないですか、全く」


「溜まりに溜まった写真持ってきたからな、後で見てくれよ、なっ♪ いいだろ?」


「分かりましたよ、()ずは俺の話を聞いて下さいね」


「おう、じゃあサッサと飯にするか、腹も減ったし硬い話はその後でな」



 ……食事中……

 ウァ~、高そう …これ一人前いくらになるんだ……



「それで、折り入って俺に話ってのは何なんだ? お前が俺に相談ってことは其れなりに込み入った話なんだろ」


「エエッ、実は俺には今年12歳になる息子がいるんですが……」


「イイね~♪ 俺も結婚は出来たが子供が出来なかったんだよな~まだ諦めてはいねえんだが……今度紹介してくれ、嫁さんもな!」


「あっハイ、それでその息子なんですが、少しばかり困ったやつでして……」


「ムッ、難しい病気でも持ってんのか? いい病院なら紹介してやれるが……」


「イエ、病気では無いんですが、頭の方のタガが外れてると云うか何というか」


「んんん? どういうことなんだ? そりゃ~」


「先ずは、これを見てもらえますか? 息子が造った物なんですが…」


「オイッ、こりゃ~最近やっと実用化された高解像度のCMOSセンサーだよな。でも、こんな形の製品、俺は見たことね~し、こっちに付いてるのはUSBの端子だよな? 直接PCに繋げられるのか…これ。確か(株)タウロスって会社が新しいセンサーの開発に成功したって、下の連中が言ってたが、それとも違うような……」


「ええ、それは(株)タウロスで発売した製品のオリジナル、試作機です。(株)タウロスは、妻が始めた会社なんですがそこで開発してる製品は、全て息子の昴が開発したものなんですよ」


「なんだと! その昴くんってまだ12歳だよな……」


「そうなんです。それで先輩に相談に来たんですよ。さっきは、駐車場で暗がりでしたから、気が付かれなかったかもしれませんが、先輩から見て今の俺はいったい何歳ぐらいに見えますか?」


「いや~、さっきから聞こうか聞くまいか悩んではいたんだが、眼の前にいるのは大学時代から全然年取ってないお前なんだよ。俺はさっきから自分の目がオカシクなってんのかなと思っていたんだが、天河の容姿(ようし)の方がおかしくなってたんだな……」


「それは、コレのせいですね。うちで出してる美肌クリームです」


 ……コトン……


「アッ、其れはノルンだよな。ウチのかみさんが騒いでたヤツだ。紹介がないと絶対売ってもらえないらしくて、俺にどうにかしろって言ってたヤツだよ。化粧品でお国の(ちから)なんか使えね~よと突っぱねてたんだが……」


「開発当初、最初に行ったそのクリームの臨床試験の後遺症って言ったら、先輩は信じられますか? 今商品化しているのは、かなり効能を弱くした物ですが、それでも10歳くらいは若く見える様になりますよ」


「……オイ、これは……体に変な影響は出ないのか?」


「ええ、大丈夫です。前より健康になったくらいですよ。でもこれが表沙汰(おもてざた)になったら大丈夫じゃないでしょう? 先輩」


「ああ、大丈夫どころじゃネ~な、大問題だ!」




 ◆




 俺が入省してから一度も顔を見せなかった後輩から、一本の電話が来た。

 大学の時、天文部で一番につるんでた天河(あまかわ) (ゆずる)って言う1学年下の奴だ。

 見掛けは優男なんだが、フィールドワークが好きで良くテントと望遠鏡をかついで一緒に山に登ったツワモノだ。

 なにも山に登らなくてもと奴はブツブツ言うが、綺麗な星空を見るならやっぱり山だろう。

 何故か俺だけが登山部の合宿にいつも混ざってたのは、今ではいい思い出だがな。


 奴は、ウ~ン……悪い奴じゃ~無い!

 たまに俺が偉くなったからと擦り寄ってくる奴らはいるが、譲はそんな奴じゃないと思う。

 いったいどんな相談が有るのか不安でもあり逆に楽しみでもある……と、さっき迄の俺は考えていた。

 相談の内容である譲の息子、(すばる)くんと云うのか……。

 どんな頭脳と技術を持ってすれば、12歳でこんな代物が作れるんだ?


 普通に考えて12歳の子供なら、綺麗な絵を書くぐらいは認めよう。

 百歩譲って、漫画にするくらいまでならば今の子供は凄いな~、くらいで流せた。

 だが、現物を作って実証して、今の技術ではまだ踏み込んでないところまで実現しちゃってるって辺り、信じられないよな、本当に。

 すでに会社を立ち上げて企業としてやっていけるだけの、技術力が有るって事なんだよな。

 これは、もう認めるしかネーだろ。

 実際に目にしている現実に蓋をして、大人が逃げだす訳には行かね~よな~。


「それで、天河はどうして欲しいんだ? 俺に出来る事なんて、高が知れてる。そんなに多くはないと思うぞ」


「はい、うちは()が付くほどの田舎なので今のところは、まだ大きな問題も発生してないんですが、あと3年で昴の義務教育期間も終了します。今は、校長先生に協力してもらって、昴の異常性が世間に出ないようにしてもらっていますが、これも時間の問題でしょう。昴は、MITの工科大学院の博士課程でさえも、鼻歌交じりで読み解いて論文書き出すんですよ……信じられますか?」


 ……実際にこの間やらせてみたら、1時間で見事な論文を書き上げやがった。

 そのままMITに送ろうかと思ったくらいだ……


「今の日本、いや世界中何処を探したって昴に学問を教えられる学校があると思いますか? そんな所何処にも有りませんよ。ちなみに、今、国際的に確認されている言語って7097有るそうなんですが、うちの昴は其のほとんどを読み書きして喋れますよ……」


「そりゃ~間違いなく世の中がひっくり返るな。囲い込みと言ったら言葉は悪いが、ある意味保護するって意味で何らかの対策を考えないとほんとに不味い事になる。其れこそ悪い大人が食い物にするために群がってくるぞ」


「ええ、其れで結局のところ文部科学省はあまり当てに出来ないので、先輩の所に相談に来たって訳です。経済産業省なら、技術や知的財産、エネルギーなんかも抑えてますよね」


「エネルギーって、オイッまさかそっちも何かあんのか?」


 天河がポケットからひらサイズの模型を出した。

 ん!……これは、玩具じゃないのか……


「これは、小型の水素発電装置のコアユニットだそうです。風呂桶一杯およそ200リットルの水が有れば1年間家庭の電気をまかなえるだけの電気を発生するそうですよ。昴が言うには『これは、コアの強度が問題で、大きくすると駄目なんだ』そうです。小さくしたから造れたと言っていました。横に見えるSR626swの水銀電池で起動して1年は動くそうです」


「……吃驚(びっくり)だ、言葉が出てこんな~……」


「これは、先輩にお預けします。多分、同じ物を再現しようとしても現在の冶金技術では誰にも造れないでしょう。でも検証は、必要でしょう? 国が動くとなったら、其れなりの根拠が必要でしょうしね。見た目はこんな子供の工作ですが、国を動かすにはそれだけの代償となる物を提示しなければ信用もしてもらえないと思うので……」


「分かった、これは俺が責任を持って預かるよ。何とか上を動かせるように、知恵を絞ってみる」




 ……さあ、チップは払ったぞ。この後、国はどう動く……




 ◆




「お帰りなさい。でっどんな感じだったの? 国は動いてくれそう……」


「うっ……、ただいま。ま~手応えは上々かな。先輩は、フォローに回ってくれる事を確約してくれたから何とかなると思うんだ。このあと問題になりそうなのは、馬鹿な政治家が出て来ることくらいかな~」


「そうね~、でもまさか譲さんに事務次官なんて偉い人の知り合いが居たとは、ビックリ仰天よね。それにしても41歳で事務次官ってずいぶん若いんじゃないの……何かワケありの人?」


「うん、去年の省庁再編とアメリカで起きた911テロ対応の過剰なストレスが(たた)ったらしくて、前任の次官が半年で入院リタイヤ。とりあえず後任が決まるまでの緊急人事らしいよ。普通なら55歳くらいで退官前の人が就くことが多いらしいし、臨時とは言え一応官僚としては事務方のトップだからね。今は、国際情勢も流動的でみんな責任を取るのが嫌らしくてさ、次の次官のなり手が決まんないらしいんだ。この際だから思いっきり好きな事して早期退官した後、悠々自適を決め込むんだって言ってたよ。事務次官上がりともなれば箔も付くし、退官後の心配は要らないだろうってね。ま~頼りにはなる人だから大丈夫さ」


「ふ~ん、山男なんて脳筋ばかりかと思ってたけど、出来そうな人なのね。今度チャント紹介してよ」


「ああ、奥さんと息子をチャント紹介しろって言ってたよ。あと先輩の奥さんがノルン欲しさに、偉くなったんだから何とかしろって先輩に強請(ネダ)ったらしいんだ。そっちの方は任せるから、よろしく頼むよ」


「あらっそう云うこと? 其れじゃその奥さんもこっちに引き込みましょうか。この際、味方は多い方がいいわ。フフフ、世の中半分は女なんですからね。馬鹿な男には、勝手させないわよ」


「お手柔らかに頼むよ、トホホ…」




 ◆




「ただいま。帰ったぞ~」


「あら、お帰りなさい。割と早かったのね。それでお友達とはどうだったの、お変わりは無さそう?」


「イヤイヤ~、それが全然変わってないんだ、ほんとに。びっくりしたよ」


「びっくりしたって……、変わりが無い様なら良かったんじゃないの? 」


「違う違う、俺の一個下なんだが見た目が大学の時のままなんだって、全然歳取ってないんだよ!」


「んっ? それってどうゆうことよ?」


「この間お前が言ってた化粧品あったろ、そう……ノルンだったよな。あれの開発者っていうのがその後輩の息子でな。家族して臨床実験に付き合ったら若くなりすぎたらしいんだ。発売してる会社は、奥さんが社長なんだが俺と同い年だとさ」


「エ~~~~、是非紹介して。使ってる芸能人は、整形だって噂されてたけど、私はあれは絶対に本物だと確信があったのよ。私の勘が本物だって……ビビビッと…」


「あっあぁ…、間違いなく本物だよ。次に奥さんと息子を紹介するって言ってたから大丈夫だろう。そん時は、お前も連れて行くからな」


「約束よ、絶対に絶対だからね。ウフフフフフ~~♪」




 こりゃ~ホントに世の中が引っくり返るかもしれネ~ぞ……。

 兎に角早急に次官会議を召集して対策たてねーとな~、もう鼻の効く連中は動いてるかもしれね~し、忙しくなりそうだ。



 ピポパプ……プルルーー……プルルーー……ガチャ…ピー-


「貴方のお掛けになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめの上、お掛け直しください……」


「待て、切るなよ……、俺だ」


「オレオレ詐欺は、間に合っております。では、失礼し……」


「待てっつてんだろ! 荒垣だよ、話を聞けよ!」


「こんな夜中に何のようだ。こっちは寝てたんだぞ……叩き起こしやがって……」


「お前に是非見てもらいたい製品(もの)が有る。率直な意見を聞きたいんだ。モノがモノなら世間が引っくり返る代物だ。いつなら時間取れる? 超特急で(いそ)ぎなんだよ!」


「マッタク、お前がこれまで持ってきた仕事で(いそ)ぎじゃなかった事が有るのかよ? ちょっと待ってろよ……え~と、 明日の昼飯は期待していいよな? 午後は丁度休講なんだ……」


「わかった、昼飯は好きな物食わせてやる。その代わり絶対に逃げんなよ」


「ホウッ、随分と話が分かるじゃないか。今回のは、それ(ほど)のモノか……」


「ああ、お前でも目をむく様な代物だ。楽しみにしててくれ。じゃー明日の昼、忘れんなよ? おやすみ」


 ガチャン……





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