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第六話 勇者パーティー、ドラゴンと戦う

おかげさまで、日間ランキングトップ10に入りました!(7月28日現在)

応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!

これからも頑張って続けさせていただきます。



 冒険二日目の道中は、それはもうひどいものだった。


「腹減った……。喉乾いた……」

「ううぅ……お風呂入りたい……」

「……体、痛い。……ベッドで寝たい」


 サンダードラゴン討伐のため、朝から山道を登るビルグたち。

 しかし、二日目にしてその精神はボロボロだった。

 彼らは仮にも勇者である。体力だけはあるために何とか歩き続けてはいるが、空腹からくる脱力感と、お風呂に入れない不快感や寝不足からくるストレスは、どうしようもないものがある。


 本来、訓練された冒険者ならばこの状態でも辛抱強く冒険を続けられるだろう。しかし、彼らは今までヨハンの力に甘えていた。楽な冒険しか知らない彼らからすれば、この状態での登山活動は自殺行為に等しかった。


「肉の照り焼き……食べたい……な……」


 昼になる頃には、空腹で半分おかしくなっていた。

 ビルグはフラフラと歩きつつ、昨日ミーシィたちが持ってきたキノコ(毒)を見つめていた。明らかに毒々しい警戒色。平常時ならば、こうして手に持つことすら躊躇い、食べることなどありえない代物。


「……………………」


 しかし、ビルグは。


「……………………(かじっ)」


 それを食べた。

 途端、ごぎゅるるるるるる! と腹が鳴動。


「んごおおおおおおおおおおおおおおっ!??」


 直後に襲い来る激しい腹痛。まるでキノコ(毒)を拒絶した胃が暴れまわっているようだ。

 ビルグは慌てて木々の影に隠れる。そして、体内の毒素の排出に努めた。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 次に顔を見せた時、ビルグはげっそりと痩せていた。


「お、お前ら……。昨日持って来たあのキノコ、絶対口にするんじゃねぇぞ……」


 新たな犠牲者が出ないよう、ビルグが二人に呼びかける。


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「……ふふっ、ふふふっ、ふふふふふふふっ」


 キノコ(笑)を齧った二人が、腹を抱えて倒れていた。


「チクショウ! 一歩遅かったか!」

 

 しかも、まだ状況は悪化する

 いつの間にかどんより曇っていた空から、大粒の雨が降り出した。それも、激しい雷付きで。

 ビルグたちの身体を冷たく激しい雨が叩き、体温を一気に奪っていく。


「や、ヤベェ! おい、早くどっかに…………あそこの洞窟に避難するぞ!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 雨だ! 雨だ! うひゃははははははははは!」

「笑ってる場合か! 早く来い!」

「……ウフフッ。あなたごときが私を満足させられるかしら?」

「笑いキノコってそういうんじゃねーだろ!」


 ビルグは近くにあった洞窟へ二人を無理やり引っ張り、避難。

 そのまま降り続ける雨を見ながら、しばらくの待機を余儀なくされた。


「これじゃ、ドラゴン倒すどころか遭難して死んじまうじゃねーか……」


 自然の厳しさを実感し、さすがのビルグも虚ろな顔つきになっていた。


「はははっ……ははっ……はあぁ……。ふぅ……。笑い死ぬかと思った~……」

「……疲れた」


 少し休み、二人は毒から立ち直る。そして辛そうな声で言う。


「ねぇ、ビルグ……。もう転移結晶使っちゃわない? コレ、帰らないとヤバいでしょ?」

「……私も、さすがに帰りたくなってきた」


 昨日は反対したケーネも、すでに意見を変えていた。


「ああ……。やっぱそれしかねえな……」


 ここまで事態が悪化した以上、冒険を続けるのは危険だ。このままでは大自然に殺される。またちゃんと冒険の準備をし、改めてここにくるしかない。二度手間になるが、それがベストだ。サンダードラゴン討伐に余計時間がかかることになるが、国王もそれくらい許すだろう。

 そう結論付け、三人がそれぞれ転移結晶の準備をする。


「あーあ。こんなとき、ヨハンがいればなぁ」


 ふとミーシィが零した呟き。

 それは、本人も無意識の内に口にしていた言葉だろう。こういうときにヨハンがいれば、快適な家で休めるのに。そう呟いてしまうのは、冒険者ならば誰しも仕方ないことだ。


 だが。


 プライドの高いビルグには、到底受け入れられなかった。


「おい、テメェ……。今、何つった?」

「え……?」

「ヨハンがいればよかっただと!? テメエ、今そう言ったよな!?」

「い、いや……。えっと、言った……かな?」


 いきなり怒られ、困った顔をするミーシィ。


「で、でも! あれだから! あくまで野宿とかが嫌だってだけで! アイツ自体がいいとかじゃないし!」


 ミーシィは慌てて言い訳をするが、すでにビルグは聞いていない。

 彼は結晶をポケットに戻し、苛立たし気に立ち上がる。


「……ちょっと、ビルグ。どこ行くの?」

「山頂に決まってんだろーが! さっさとドラゴン倒しに行くぞ!」


 一方的に怒鳴り付け、そのまま洞窟から出ていくビルグ。


「ちょ、待ってよ! こんな雨の中歩き回る気!?」

「……無謀。帰った方がいい」


 しかし、その後いくら二人が止めてもビルグは無視して歩き続けた。意地だけで山道をぐんぐん進んでいくビルグ。その異様な圧力に、ミーシィとケーネも後に続かざるを得なかった。


「ぶっ殺す……。殺す、殺すっ!」


 誰にともなく、八つ当たり気味にビルグが叫ぶ。

 ビルグにとってさっきのミーシィの発言は、自身への否定とほぼ同義だった。ヨハンを追い出そうと言ったのは、もともとビルグの案である。それによって何か不便が生じれば、それはビルグの責任だ。彼はそれを認めたくなかった。

 そして、自分がいながらヨハンを頼るということは、ヨハンの能力の方が上だと思っているということだ。自分のパーティーの女たちが自分以外の男を頼る。ビルグにはそれが許せない。

 

 ――絶対にドラゴンを討伐し、俺の有能さを見せつけてやる。

 そんな思いが空腹や雨の冷たさをも忘れさせ、ビルグの足を進ませた。

 さすがに勇者と言われるだけのことはある。普通なら登頂に二日はかかる道のりを、彼らはその日の内に踏破する。


 そして、彼らは山頂で見た。

 大きな翼で空を飛び、自分たちを見下ろすドラゴンを。


『コオォォォォ……』


 角が生えた爬虫類のような頭部に、四本の足をもつ体躯。その全身を覆う鱗は、白くバチバチと帯電している。間違いなく、討伐対象のサンダードラゴン。

 このドラゴンが雷雨を降らせているのだろう。ドラゴンの呼吸に連動し、雨が強まったような気がした。


『ゴォォォォ……!』


 ドラゴンがその目を見開き、唸る

 ビルグたちは直感した。ドラゴンは今、怒っていると。


「へっ……。縄張りに踏み入られて気が立ってるのか。安心しろよ。すぐに出てくさ」


 その眼光に一歩も引かず、ビルグは腰の剣を抜く。


「お前を、ぶっ殺してからな!」


 ビルグのスキルは、SSSランク『ソードマスター』。剣術の練度向上や、剣による攻撃威力の向上、さらに剣を自在に創造し操る能力を持っている。

 ビルグは、自分ほどの強さがあれば何でもできると思い込んでいた。事実、このスキルにはそれだけ大きな力があった。このスキルを発動するだけで、どんな剣の達人だってビルグに勝つことはできなくなったし、あらゆる魔物も凌駕した。少なくとも戦闘面では、彼に敵う者はいなかった。

 だからこそドラゴン相手に一歩も引かず、こうしてスキルを発動できる。


「『断罪刃ジャッジメント・ソード』」


 唱えた瞬間、ドラゴンの頭上に何かが出現。それはビルグのスキルで作り出した、あり得ない程巨大な剣。サンダードラゴンの体にも匹敵するような大剣だ。 


「悪いが、一撃で終わらすぜ!」


 ビルグが言うと、剣がまるでギロチンのようにドラゴンの首に振り下ろされる。


「その頭斬り落としてやるぜえええええぇぇ!」


 剣がドラゴンの首筋に直撃。鈍い音がし、固い鱗にヒビが入る。

 そして、剣が粉々に砕け散った。


「…………っっ!?」


 鱗の堅さと帯電していた電気によって、首筋を切断することなく自慢の剣が消滅した。


「んだとぉ……っ?」

「ビルグの、一番強力な技が……」

「……ありえない。……アレが効かないなんて初めて」


 目の前の出来事を受け入れられず、勇者三人が呆然とする。


『ゴォォ……。ゴオオオオオオオオオオオオオ!』


 一方サンダードラゴンは、攻撃を受けたことによってさらに怒りを膨らませた。

 その天を揺らすような咆哮に、ビルグがいち早く危険を察する。


「お、おいミーシィ! 結界を!」

「え……? あっ! うん! 防御展開アクティブ・シールド!」

 

 ミーシィが自分たちの周囲にドーム状の結界を張る。SSSランク『結界師』による全力の防御結界だ。

 その直後、激しい稲妻がビルグたちの元に降り注いだ。

 目を焼くような閃光に、鼓膜を破壊するような轟音。結界に雷撃が直撃し、その衝撃で大地が震える。


「ううっ……。何この威力……強い……!」


 かつて数百の魔物の攻撃を防ぎ通した結界が、一撃で悲鳴を上げていた。


『ゴオオオオオオオオオオオオオッ!』


 稲妻はまだ収まらない。

 どす黒い雲から無数の落雷。ミーシィの結界だけでなく、大地や周囲の木々に至るまで無差別に辺りを攻撃し、破壊の爪痕を刻んでいく。

 その様は、まるで神の裁き。

 恐ろしい光景を目の当たりにしつつ、ビルグは一人考えていた。


(おかしい……。いつもだったら、断罪刃ジャジメント・ソードで、楽に殺せたハズなのに……)


 さっき使ったビルグの技は、魔王にとどめを刺した一撃だ。いくらドラゴンが強いと言えど、魔王を労せず葬った技が簡単に破られるはずがない。魔族のランクでは圧倒的に魔王の方が強いのだから。


(それに、ミーシィの防御結界もいつもはもっと堅かったはず……。変だ。何かがいつもと違う……)


 正体不明の違和感を抱く。胸に満ちていく言葉にできない大きな不安。早くケリをつけなければ、とビルグの気持ちを焦らせる。


「ケーネ! アイツの攻撃、少しの間止められるか!? 鱗が帯びてる電気も含めて!」

「……大丈夫。二分は余裕」


 ケーネが両手をサンダードラゴンに向けて構える。

 彼女の能力は、SSSランク『念操者』。自身に宿る強いオーラのエネルギーを使い、敵を攻撃・拘束できる能力だ。その他にも、念じ方次第で色々応用することができる。

 ケーネは力を集中し、サンダードラゴンを凝視する。


「……はあっ!」


 叫ぶと同時、ドラゴンがビクッと身体を震わせる。その後、動きを停止した。念の力による拘束。これにより落雷がピタリと止んで、鱗の電撃も止められた。


「よしっ! 『殺戮千本サウザンド・スレイヤー』!」


 無防備になった隙をつき、ビルグがスキルを発動する。

 サンダードラゴンが飛ぶ空の周囲。その虚空に無数の大剣が次から次へと産み出される。そのそれぞれの大きさ自体は先ほどの剣よりもやや小さいが、刃の鋭さは比類ない。その切っ先は全てドラゴンに向いており、あっという間にサンダードラゴンは千本の剣に囲まれた。


「はあっ……はあっ……!」


 これだけの剣を作り出すスキル。ビルグもさすがに疲労を感じる。しかし、口元には笑みが浮かんでいた。


「これで、終わりにしてやるぜっ!」


 周囲を取り囲んだ剣が、一斉にサンダードラゴンに迫る。逃げることは出来ず、鱗の電撃で防ぐこともできない。その状態でこれだけの剣に刺されれば、一瞬で命が散るだろう。

 ビルグが勝利を確信する。


 直後、巨大な稲妻がドラゴンのもとに注がれた。


「なにィ!?」


 超極太の雷撃がサンダードラゴン自身を直撃。その電撃の余波を受け、敵の側に迫っていた剣は一つ残らず壊された。


「……そんな。……念の拘束が、外された……」


 ケーネの見立てでは、二分間は敵を拘束し、攻撃や防御、移動すらも封じることが出来るはずだった。

 しかし、敵はものの数秒でケーネの拘束を解除した。魔王すら苦しめたこの念を……。


『ゴオオオオオオオオオオオオオッ!』


 その上、自らに雷を落したためか、サンダードラゴンの全身が力強く輝いている。雷撃でダメージを受けるどころか、力を充電したらしい。鱗を守る電撃も、やはり復活しているようだ。


「キャアッ!」


 さらに落雷が結界に直撃。傷ついていた結界はその衝撃に耐えられず、バリン! と音を立て砕け散る。


「おいおい、マジかよ……?」


 それと同時に、サンダードラゴンが顎を開いた。

 口の中には、光り輝く電気エネルギーの固まりがある。

 サンダーブレス。

 本気で怒ったドラゴンが放つ、ブレス攻撃の一種であった。


「お、おい! ミーシィ! 早く結界を張りやがれ!」

「む、無理だって! 防げないわよ! なんか今日結界調子悪いし!」

「……もう、逃げるべき。……これ以上は、マズい!」


 ケーネが転移結晶を取り出し、ビルグたちにも使うよう促す。

 その切羽詰まった言い方に、二人も反射的に結晶を取り出し――


 サンダーブレスが放たれた。






フェルキア「すやぁ……すやぁ……」(出番がないので寝ています)

この次の次くらいから、ヨハンたちの話に戻ります。近い内に新ヒロインも出したいです。


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