第五話 勇者パーティー、国王からの依頼を受ける
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※昨日、第一話と第二話を少々修正致しました。
ヨハンが魔王城建築のために大地育成を行っていたころ、ビルグにミーシィ、そしてケーネの勇者三人は、王のもとへと呼ばれていた。
彼らの所属する冒険者ギルドのある街から、数百キロも離れた場所にある王都。その中心にそびえ立つ煌びやかな黄金の城が、王族の暮らす『サーンクタ城』だ。
大きな城門に広く高い城壁、幾つも建ち並ぶ塔に至るまで、全てが金でできたこの城は圧倒的な輝きを放って、見る者に尊敬の念を抱かせる。
建物の造りは特に奇をてらったところはなく、シンプルな形の王城だ。しかし、黄金の輝きとシンプル故の重厚感が王の威厳を感じさせる。
そんな王城の謁見の間。
勇者たち三人が跪く先に、この国を統べる王がいた。
ウィスタード国王、アレクセン・ロナウティス。
彼はどっしりと玉座に構え、高い位置からビルグたちのことを見下ろしている。
「ビルグ君、今回はよくぞやってくれた」
渋く、威厳のある声がビルグに向けて放たれる。
「国の古くからの念願だった魔王討伐を果たせたのは、偏に君たちのおかげだろう。国王として礼を言う」
「はっ! もったいないお言葉です!」
ビルグはより深く頭を下げ、恭しい態度を強調する。
心の中で毒づきながら。
(全く、面倒なイベントだぜ。なんで俺がこんなおっさんに頭下げなきゃならねぇんだよ)
今にも舌打ちしそうになるのを、ビルグは必死にこらえていた。
(ま、これも魔王討伐の報酬を得るために必要なこと。このおっさんも、金ヅルと思えば腹もたたねぇか)
彼の目的はただ一つ。魔王討伐の報奨金として王から渡される大金だ。
ビルグは、王からの報酬はかなりの額になると踏んでいた。莫大な富が手に入り、その上勇者としての地位も魔王を倒したことで築いた。これでもう一生遊んで暮らすことが出来る。
ビルグが勇者になったのは、『魔物から皆を守りたい』や『人の役に立つことがしたい』などの大それた理由からじゃない。ただたまたまSSSランクの強力なスキルに目覚めたから、敵を倒してお金を稼いでいただけだ。人々が怖がる魔物たちを強力なスキルでなぶり殺すのは実に気持ちが良かったし、その結果みんなに勇者勇者と崇められるのはもっと気持ち良いことだった。そしてお金までもらえるのだから、勇者をやらない理由は無い。
しかし、お金さえ十分手に入れてしまえば勇者の仕事に未練はない。最強の魔王も倒したし、あとはその富と名声に溺れ、怠惰な暮らしをしていたい。
そしてそれは、ミーシィとケーネも同じである。
彼らには、人々が勇者に求めるような立派な志は存在しない。普通の人と同じくらい、いや、それより遥かに低俗だった。
「ところで、勇者は四人いると聞いていたが、もう一人はどこにいったのだ?」
ビクッ、と微かにビルグの肩が強張る。
「よ、ヨハンのことですか……? 彼は、魔王との戦いで傷を負ってしまいまして。療養中でございます」
「そうか。それは残念だ。その者は確か建築スキルを持っているんだったな? 珍しい力、一目見てみたかったのだが」
「アイツも残念がっていましたよ。一度でいいから国王様に直接お会いしたかった、と」
しれっと嘘を言いながら、胸中でホッと息を吐くビルグ。
ヨハンがもう仲間じゃないことがバレたら、その分の金がもらえなくなってしまうかもしれない。
ビルグは左右で跪いているミーシィとケーネに目配せをする。
(危なかったぜ……。いいか、お前ら。ちゃんと話を合わせてくれよ?)
(分かってるわよ。お金のためにもヘマはしないわ)
(……わたしも、そんなにバカじゃない)
「して、報奨金の件なのだが……」
「は、はいっ!」
国王がついに、ビルグたちの望む話題を始めた。
「実はその前に、一つ君たちにお願いしたいことがある」
「お願い……?」
話が予期せぬ方向に傾き、ビルグが思わず顔をしかめる。
「うむ。今回は魔王討伐の報奨金ということで、かなりの大金を用意させてもらった。しかしそれ故、用意するのに少し時間がかかるのだ」
大金という言葉を聞いて、今度は口角を吊り上げるビルグ。
「そこで、金が用意できるまでの間に、君たち勇者パーティーには、このクエストを受けてもらいたい」
王に仕える側近の一人がビルグの前に歩み寄り、彼に一枚の紙を渡した。
それは、クエストの依頼書だった。
サンダードラゴン、討伐の。
「ど、ドラゴンの討伐ですか……?」
ドラゴンと言えば、魔王に次いで恐れられている最強クラスの魔族である。山や峡谷などを好み、あまり人とは関わらない。
彼らは基本、争いを好まないことで知られている。しかしその力は絶大で、彼らの住処を汚すなどしてひ
とたび怒りをかってしまえば、必ず命を落とすという。
「まさか、コイツが国の近くに……?」
「うむ。少し前に報告を受けたのだが、隣国クリアデスとの国境沿いにある山に、サンダードラゴンが住み着いたようだ。この国とは貿易を盛んに行っていてな。この山も交易ルートの近くにある。今のところ悪い影響は出ていないらしいが、この先もそうとは限らない。そこで、何か問題が起こる前にドラゴンを退治して欲しいのだ」
「……アレクセン様、よろしいでしょうか?」
ケーネが挙手し、発言の機会を王に求める。
「うむ、許す。申してみよ」
「……ドラゴンたちは、基本温厚な種族です。放っておいても、問題はないと思います。……むしろ、戦いを挑んで刺激した方が、危険であると思います」
「む……。それは、確かにそうなのだが……」
彼女の主張に、王は顎髭をいじりだす。悩んだ時の彼の癖だ。
「しかし……やはり可能なら討伐してもらいたいんだがな……。君たちほどの実力ならば、簡単に倒せるのではないか?」
「……それは、やってみなければ――」
「やります」
ケーネのセリフを遮って、ビルグが王の目を見て言う。
「アレクセン様。このクエスト、我々にお任せくださいませ」
「……ビルグ」
ケーネを無視し、ビルグは続ける。
「たとえ我々の命にかえても、必ず成し遂げて見せましょう」
「おお、そうか! やってくれるか!」
喜びのあまり、王が玉座から立ち上がる。
「いやぁ、ありがたい。実は昨日、クリアデスの王に君たち勇者が魔王を倒したと話したら、是非ドラゴンもとせがまれてな。私の顔を立てると思って、よろしく頼むよ。ビルグ君」
「はっ! 期待してお待ちくださいませ!」
※
王城を後にした三人は、早速サンダードラゴンのいる国境付近の山へと向かった。
「ねぇ、ちょっと! 本当に大丈夫なの!? ドラゴンなんて相手したことないんだけど!」
「……私も反対。今からでも、ちゃんと断るべき」
広い交易路を歩きつつ、ミーシィとケーネがビルグを責める。
しかし彼は、涼しい顔で反論する。
「そういう訳にもいかねえだろ? 王からの頼みを断ったら心証が悪くなっちまう。それに、もし俺たちが断った後に何か問題が起こったら、俺らが責任とらされるぜ?『勇者が退治しないから、こんなことになったんだ』ってな」
「うっ……! 確かに、それはありそうね」
「……そうなったら、もっと厄介かも」
ビルグの意外とまともな意見に、二人も納得してしまう。
「それに何より、見ろよクエスト成功の賞金! 金貨七百枚だとよ! これだけありゃあ、可愛い奴隷を何十人も雇えるぜ?」
結局、一番の理由は金であったが。
「でも、やっぱちょっと不安じゃない? ドラゴンって、魔王に匹敵する強さだって言うし……」
「心配すんなよ。俺たちは魔王を倒してるんだぜ? ドラゴンだって目じゃないさ。お前らのこともしっかり守ってやるからよ」
ビルグが二人の肩を掴んで、自分の方に引き寄せた。
その強引な彼の態度に、ミーシィもケーネも頬を赤らめる。
「まあ、ビルグがそう言うなら、いいけど……」
「……私も、あなたについていく」
二人は自分からビルグの腰に手を回し、甘える。
「へへっ……。やっぱ勇者はこうじゃねぇとな」
ヨハンがいない今、邪魔をする者は誰もいない。パーティーの中に他の男がいることは、ビルグにとって大きな不快要素だった。ミーシィもケーネもヨハンを嫌っていたとはいえ、自分に旅に他の男は不要なのである。勇者のパーティーメンバーは、全員可愛い女の子に限る。それが彼の信条だった。
彼らはしばらく交易路を進み、やがて山へと向かうため正規のルートを外れて歩く。その途中、近くにいたハーピィやゴブリンを狩りながら。
魔王がいなくなったとはいえ、魔物がこの世から消えたわけじゃない。人里離れた場所には特に、多くの魔物が生息している。
そういった敵を、ビルグたちは容赦なく狩っていく。
そして、山のふもとに着くころには日がほぼ沈みかけていた。
「ねぇビルグ。今日はこの辺で休まない?」
「ああ、そうだな。そろそろ風呂も入りたいし」
「……私も、さすがに歩き疲れた」
王の話では、サンダードラゴンがいるという山頂へと到着するまで、三日はかかるという話であった。どうせすぐには着かないのだから、無理をするべきではないだろう。
三人がそれぞれ、近場にあった岩へと座る。
そして、しばらく無言の間。
「……おい、誰か。風呂と飯の用意してくれよ。俺もう腹減って死にそうだぜ?」
「え~? そんなこと言っても、私食料持ってないし」
「……私も、アイテム以外は持ってない」
「はぁ!? 何でだよ! これまでは誰かが持ってきて……あ」
言いながら、ビルグは思い出した。
追い出したヨハンの存在を。
「そう言えば、今までは全部ヨハンの係だったわね……」
「……あの役立たず、料理とかはしてた」
今までクエストで遠出をするときは、ヨハンの建築スキルによって不自由ない生活を送っていたのだ。
その辺りの土や石、木材などを使用して即興で家を建築し、そこで快適な一夜を過ごす。そんな彼の能力は、やはり冒険者にとって貴重であった。
彼の作る家にはベッドなども用意されていて、場合によっては王都の宿より豪華なのである。その上食事もヨハンが毎回担当していた。当然、食料を持っていたのも彼だ。
このパーティーで、敵と戦うこと以外について頭が回るのはヨハンだけだった。
「しょうがねぇ……。こうなったら転移結晶使うか。王都まで戻って、どっか宿とるぞ」
「あ、いいねぇ! そうしよう!」
転移結晶を使用すれば、一度訪れた場所ならば一瞬で移動することができる。今日のところは王都でしっかり疲れを取り、翌日また転移結晶を使ってここに戻ってくればいい。
しかし、ケーネが首を横に振る。
「……ダメ。転移結晶は、貴重品。……お金を出しても、そうそう買えるものじゃない」
転移結晶は使い捨てのアイテム。そして結晶が手に入るのは、貴重品のみを扱うショップか、ダンジョンなどでのレアドロップだ。しかもショップでも入荷数は少なく、置いていないことの方が多い。
勇者と言えど、簡単には入手できないのである。
「……今、幸い一人一つずつ結晶を持ってると思うけど、戻ってくるには結局歩く必要がある」
「つまり、野宿するしかねぇわけか……クソッ!」
道に落ちていた石を蹴飛ばす。
道中での暮らしをヨハンに頼り切っていた彼らは、野宿の術など知らなかった。それはもう、必要な道具を一切持っていない程に。
「とりあえず、食べ物探さない? 私、すごくお腹空いたし」
「……同感。まずは食料集めが先決」
「んじゃ、急いで探そうぜ。もうすぐ暗くなるからよ」
こうして、ビルグたちの野宿生活が始まった。
※
「おい……ふざけんなよ……。なんだこりゃあ……?」
数十分後、ビルグは二人が集めてきた食料を睨み付けていた。
薬草
薬草
薬草
キノコ(毒)
薬草
薬草
薬草
キノコ(笑)
薬草
薬草
「ほとんど薬草ばっかじゃねえか!」
「そ、そんなこと言われても……」
「……これしか、生えていなかった」
「ふざけんなよ! 別にHPは減ってねえんだ! 俺は腹が減ってんだよ! 腹にたまるもの持って来い!」
「でも、ビルグは何も見つけてないじゃん? それを思えばマシじゃない?」
「んだとぉ……っ!」
「それにさ、ホラ。キノコもあるし」
「おもっくそ『(毒)』って書いてあんだろーが! 食って死んだらどうすんだ!?」
「……キノコ食べた後、薬草で回復すればいい」
「ケーネ、天才っ!」
「『天才っ!』じゃねえ! ならせめて毒消し草を見つけてこいよ!」
「……じゃあ、こっちのキノコ(笑)にする?」
「結局毒キノコじゃねえか! クソがっ! もういい! 飯なんかいるか!」
ビルグがキレ、その場にゴロンと横になる。
「もう今日は寝るぞ! 明日はさっさとドラゴン倒して、王都で金をもらうんだっ!」
空腹など、寝てしまえばもう感じない。ビルグは目を閉じ、夢の世界へ旅立とうとする。
しかし……。
「…………ゴツゴツしてて、寝られねぇ……」
ビルグは、意外と繊細だった。
「チクショウ……! 何で勇者の俺が野宿なんかしなきゃならねえんだよ!」
怒りに震え、地面に拳を打ち付けるビルグ。
しかし、この程度の苦労は序の口だった。
翌日の地獄に比べれば……。
フェルキア「ふぇるきあのでばんはー?」
ヨハン「まだもう少し先かなー……?」
と、言う訳で勇者パーティーのターンです。ざまぁ感は少しずつ強くしていきたいです。




