第三話 建築士、魔王城を建てる(前編)
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フェルキアと出会った二時間後。
この日はもう遅いということで、ヨハンは土を上手くスキルで加工して小さな家を建築し、その中で一夜を過ごすことにした。ちなみに家の名は『土』を意味する『グルンド』だ。
家具や寝具もヨハンのスキル、『家財生成』でうまく調達できたので、しばらく住処には困らない。
もちろんフェルキアも一緒である。彼女はヨハンが作ったベッドで、健やかな顔をして眠っている。
「すやぁ……すやぁ……」
「はぁ……」
そんな寝顔を、ヨハンが椅子に座って眺める。
彼はフェルキアと約束をしてから、一人でずっと悩んでいた。
「やっぱり、今すぐ言うべきなのかな……」
フェルキアは、魔王の娘である。
そして魔王を殺したのは、自分が所属していたギルド。さらに言えば、かつてのパーティーメンバーだ。直接手をくだしてはいないが、魔王討伐にはヨハンも深く関わっている。
この事実をすぐに伝えるべきか、ヨハンは悩んでいるのだった。
「でも、今すぐそれを言ったら……」
もしも事実を伝えたら、間違いなくフェルキアはヨハンを恨む。当然、一緒にいることはなくなるだろう。
しかしそれでは、彼女が一人になってしまう。魔族の幼女がたった一人でこの辺りをうろついていたら、ビルグあたりに見つかって殺されてしまう可能性が高い。
フェルキアには、彼女を守る保護者が必要不可欠だ。そしてその役目を果たせるのは、現時点ではヨハンしかいない……。
いつかは、真実を言わねばならない。
しかし、それは今ではない。
「…………魔王城が完成したら、真実を言ってここを去ろう」
ヨハンはぽつりと呟いた。
ヨハンが上手く城を造れば、それはフェルキアを守り続ける最強の要塞になるだろう。そうなれば、自分の役目はお終いだ。真実を告げて嫌われても、フェルキアの命は守られる。
ようやく自分の考えを固めて、ヨハンはもう一つのベッドに入った。
※
「おっしっろ♪ おっしっろ♪」
翌日の早朝、フェルキアはすでにはりきっていた。
ヨハンに城を作ってもらうのがよほど楽しみなのだろう。ピョンピョンと拙いスキップをしながら、森の中を抜けていく。ヨハンはそんな彼女の様子を、微笑ましそうに見つめていた。
今日からはフェルキアとの約束通りに魔王城を建築する。そのために、ヨハンたちは魔王城の残骸が残るあの広場へと向かっていた。
広場に辿り着き、改めてお城の様子を見るヨハン。
「うーん……。やっぱり内部の損傷がひどいな……。完全に壊して1から造り直すしかないね」
元がしっかりした造りなので修繕とリフォームで済ませるという考えもあったが、どうやらそれは無理そうだ。
それに……。
「ふぇるきあのおしろー♪ おしろー♪ おしろー♪」
後ろで期待している彼女のためにも、中途半端には終わらせたくない。全力をふるわせてもらうとしよう。
「じゃあ、まずは準備から。防音結界&隠密結界!」
ヨハンが広場全体に二重の広域結界を発動。防音結界はその名の通り、結界内の全ての音を外に漏れないようにする。そして隠密結界は、結界内の人の行動やそこで起こった変化を隠す。つまり普通の人がこの場所を見ても、ここで行われていることに決して気が付くことはできない。
これで、工事の音や遠目からの景色で魔王城建築がバレることはない。もしペェルフェクテーソにまだビルグたちがいたとしても、決して邪魔はされないだろう。
「よしっ! それじゃあ工事開始だ! とりあえずまずは『崩壊!』
ヨハンが魔王城に手をかざすと同時、半壊状態だったお城が盛大な音を立て崩れ出す。魔王城の全体がひび割れ、細かい瓦礫になりながら地面に沈むように崩れる。
このスキルは、対象が建築物でさえあれば一瞬で破壊することが出来る。元の魔王城は特殊なバフがついていたためこの技で崩せはしなかったが、半壊状態の今ならば余裕で瓦礫にまで崩せる。
ヨハンの後ろで、フェルキアが「おぉぉーーー!」と歓声を上げた。
巨大な建物が崩れ去るさまは、中々刺激的なのだろう。もとは彼女の城なのだが……。
「続いて、還元! 瓦礫を素材に!」
さらにヨハンがスキルを発動。瓦礫の固まりが輝き出し、レンガのような片手サイズの物体に分かれる。銀の光沢を放つそれは、ヨハンの隣に山のように積み上がっていく。
それは、魔王城の素材の『メタル化石材』。その加工前の姿であった。
ヨハンはこれを材料に使い、魔王城を立て直すのだ。
「結局、この土地にはこの材料が一番向いてるみたいだからね。僕の建築スキルがあれば、前よりいい城が出来るはずだ」
次々と瓦礫を素材に還元。そうして魔王城の残骸がきれいさっぱりなくなる頃には、かなりの量の石材がヨハンの側に積まれていた。積みあがったレンガ状のそれは、おそらく千個を超えている。
「これで材料の一部は確保。でも、まだまだ足りそうにないな……」
どうせならば以前の城よりも大きなものを造ってあげたい。そう考えると今の材料じゃ、まだまだ半分くらいだろう。
「それじゃあ、土人形生成!」
次にヨハンが使ったのは、土人形を作るスキルだ。もこもこと地面が膨らんで、ヨハンと同じ大きさになる。やがて二十体の土人形がヨハンの周りを取り囲んだ。
「おぉぉーー! ふぉぉーー!」と驚いているフェルキアの反応がとても楽しい。
いくら魔王の娘と言えど、このスキルは見たことないようだ。
「よし、お前たち! ありったけのメタル化石材を運んで来い!」
ヨハンが指示すると、ゴーレムたちは機敏な動きで去っていった。
メタル化石材はこの近くにある鉱山で採掘可能である。ゴーレムたちに任せれば、数日あれば今の倍ほどは集まるだろう。
「さて、と。これで材料は待てばいいから……。今できるのは、アレぐらいか」
ヨハンは広場の中央に移動。ついさっきまで魔王城の建っていた位置だ。そこに胡坐を掻いて座り込み、静かにスキルを発動させる。
「大地育成」
数えて三つ目の魔方陣が広場全体に広がっていく。今度のスキルは、魔王城を支える基礎工事の役割を担うスキルである。地盤を固め、さらに土地自体に『建築物自動修復』や『侵入者阻止結界』などの様々なバフを付与できる。
『大地育成』で育てられた土地に建つ城は、あらゆる能力が加えられ非常な強固な造りになる。以前の魔王城も建物自体は悪くなかったが、土地まで強化されてはいなかった。このスキルを持っているのは、SSSランク建築士であるヨハンくらいのものである。
そのかわり『大地育成』は術が完了するまでの間その土地に座っていなければならない。その間別のスキルも使えないので、少し時間がもったいない。
ただ、より良い建物を作るためには絶対に必要な工程なのだ。
「多分この作業、数日はかかるな……。これが終わる頃には石材は全部揃ってるから、すぐに次の工程にいけるね。あっ、あと邪魔な木もどこかに移そう」
魔王城を大きくする以上、周囲の木が少しだけ邪魔になる。育成が終わってスキルが使えるようになったら、取り除いておく必要がある。
「ねーねー、よはんー」
と、その時。これまで後ろで様子を見ていたフェルキアが、ヨハンの服の裾を引っ張る。
「ふぇるきあがやるのー。おてつだいー」
「え?」
「ふぇるきあがあのき、どけてあげるー」
そう言い、近くに生えている数本の木を指差すフェルキア。
「あはは。いいよいいよ。後で僕がやるからさ。フェルキアは適当に遊んでていいよ?」
可愛らしい申し出に、ヨハンは彼女の頭を撫でる。
フェルキアの気持ちは嬉しいが、幼女に木がどかせるわけがない。
「むー……。ふぇるきあも、てつだうのっ!」
しかし彼女は言うことを聞かず、一人で木の方へ駆けていく。そして一際大きな巨木に抱きつき、小さな体に力を込めた。
「せーのっ……。うりゃあああああああああ」
「っっっ!!?!!!?!?!?!!?!?!?!!!???」
フェルキアの抱きかかえた大木が、メリッと根元から綺麗に抜けた。
「やあっ」
彼女はそれを広場の一角に放り投げ、その後ドヤ顔でヨハンを見る。
「ふぇるきあ、やればできるこー!」
「う、うん…………………………」
ドン引きしながら、ヨハンは思う。
そう言えば、魔王の子だったね……。それくらいできて当然、なのかな……?
その後もフェルキアは同じような場所に生えている邪魔な木々を数本引っこ抜き、ドスンドスンと積んでいく。まるで雑草を抜くかの如く。
そして、あっという間に十本以上の大木を処理した。これも素材に使えそうである。
「よはんー。おわったー」
「そ、そうだね……。あっという間だね……」
「なでてー。なでてー」
「あ、うん。はいはい……」
にゅっと頭を突き出すフェルキア。
彼女の美しいピンクの髪を、優しくわしゃわしゃと撫でてやる。
「うーーーっ♪」
なんだかとってもご機嫌であった。
しばらく撫でると満足したのか、フェルキアがまたヨハンに尋ねる。
「ほかにおてつだいすることはー?」
どうやら彼女、お手伝いをして褒めてもらいたいお年頃らしい。
ヨハンは少し考えたあと、無難な答えを口にする。
「それじゃあ、お城のデザインを考えてみてくれるかな?」
「でざいんー?」
「うん。フェルキアの考える理想のお城を、紙に書いて来て欲しいんだ」
「うーーーっ!」
理想のお城、という単語にフェルキアの目が輝いた。彼女はすぐに仮の家へと駆けていく。
実はどんな感じのお城にするかは大体考えてあるのだが、やる気になっているフェルキアを無下にするのも心苦しい。
それに、今作っているのはフェルキアのためのお城なのだ。彼女の意見を取り入れてこそ、フェルキアのものと言えるだろう。
「さて、どんなデザインを描いて来るかな……?」
ヨハンは、少し楽しみだった。やはり彼女も魔王の娘。さぞかし堅牢で立派なお城をデザインしてくることだろう。
これまでいくつもの建築物を産み出してきたヨハンにとっても、魔王城を造るのは初めてだ。どんな良い城が出来上がるのか、彼自身も今からワクワクしている。
その上、パートナーは魔王の娘。魔族の王としての感性が、ヨハンの味方についている。ペェルフェクテーソ以上の力作が誕生するような予感がし、ヨハンの職人魂はメラメラと燃えているのだった。
「よはんー! できたのー!」
しばらくすると、フェルキアが一枚の紙をもって嬉しそうに駆けてくる。
「まずは『じょうもん』からかいてみたー!」
「なるほど、城門か! さすがフェルキア! いい考えだね!」
ヨハンもちょうど格好良いのを考えていたのだ。やはり魔王城と言えば、厳かな門がなければいけない。勇者を恐怖で震えさせるような魔族の象徴たる門が。彼女もそれを分かっている。
これはデザインも期待大だ。一体どんな恐ろしい城門を用意してきてくれたのだろうか。
魔王の血を引く者の感性、しっかりと見せてもらうとしよう!
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| じょうもん |
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| △ △ |
| (=・ω・=)にゃ~♥ |
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| (ノ*ФωФ)ノ | |(ノ*ФωФ)ノ |
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| | い | |
| | り | |
| | ぐ | |
| | ち | |
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「ねぇフェルキア……。これは城門、なのかなぁ……?」
「えっへん」
なぜか胸を張り、「ふんす」と鼻から息を吐くフェルキア。
正直、門なのかどうかも分からない……!
でもまあ、確かに。子供だからね……? 絵が下手なのはしょうがないよ、うん。
でもさ、明らかに変なとこ、あるね?
「この、三匹の謎の生物は……?」
「ねこさん」
ねこさん…………。
どうして魔王城にねこさんが……?
「おしろで、ねこさんかうの。ねこさんすき」
「ああ、そうか……。そうだね。ねこさんかわいいね」
でもね、どうしてここに描いちゃうんだろ……。これじゃあ魔王城らしさが台無し……。
フェルキアには悪い気もするが、残念ながらこの案はカットさせていただくことに……。
「このとおりに、つくってくれる?」
「うっ……!」
キラキラと潤んだ赤い瞳でヨハンのことを見つめるフェルキア。
純粋な子供の眼差しが、ヨハンの心につき刺さる。
「も、もちろんさ! 可能な限り忠実に造るよ!」
「うーーーっ!」
まあ、いいや。フェルキアのためのお城だからね。フェルキアがいいならそれでいいか……。
厳かさとか、二の次だよね!
「つぎは、おしろかいてくるー!」
上がり切ったテンションをそのままに、ピューッと家に駆けていくフェルキア。
彼女の生み出す力作を、ヨハンは震えながら待った。
城門、もう少し上手く書きたかった……!
パソコンでないと城門が見られないという意見を頂いております。
どうにかできないか色々模索しておりますので、しばらくお待ちいただければと思います。
こういったことに疎いので、時間がかかるかも知れません。大変申し訳ございません。
フェルキアと仲良くお城造って、なるべく早く勇者のざまぁに入っていこうと思います。