第十二話 勇者パーティー苦悩する
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リアルお仕事のため、更新遅れてしまいました……。
申し訳ございませんでした!
「くそ……っ! クソがあっ……! 何でうまくいかねえんだよぉ!」
二度目のドラゴン討伐に失敗し、ビルグたちは酒場で愚痴をこぼしていた。
一番奥のテーブル席で、年齢的に最近飲めるようになったばかりの、酒やカクテルを流し込むビルグ。
「ちょっと、ビルグ。その辺にしとけば?」
「……もう、止めた方がいい」
「うるせえ! 俺に指図すんな!」
明らかに不機嫌になり、仲間に当たり散らすビルグ。
彼の頭に浮かぶのは、やはりサンダードラゴンとの戦いだ。
一回目の敗北は、まだいくらでも言い訳ができた。無理な野宿で疲れていたとか、相手を甘く見過ぎていたとか。しかし、問題は二回目だ。あの時は王都で体を休め、しっかりと旅の準備をしてから万全の状態で戦いに臨んだ。もちろん、油断などしていない。
しかし結果は一回目の時と同じだった。ビルグの剣ではダメージが通らず、ミーシィの結界はすぐに破られ、ケーネの念も通じない。運よくアイテムショップで見かけて保険のために用意しておいた転移結晶で逃げなかったら、確実に殺されていただろう。
魔王を破ったSSSランクの勇者たちが、格下のはずのサンダードラゴンを倒せない。
この結果が意味するところとは……。
「……パーティーの実力が落ちている」
ケーネがぽつりと呟いた。
「チッ……!」
思っていたことを改めて認識させられて、ビルグはしかめ面をする。
「嘘でしょ、ケーネ……。そんなことってあり得るの?」
「……私たちは元々、魔王を倒せる実力者。……それなのにドラゴンを倒せないのは、間違いなく何かの理由で私たちの力が落ちてる証拠。……考えられる、原因は――」
「ヨハンの脱退。とでも言う気か?」
ケーネがまだ話している途中、ビルグがそれを遮り言った。
怒りで震えるような声で。
「魔王を倒した時と今とで変わったことは、それくらいしかねぇからなぁ……。大方奴のバフ効果が重要だったと言いたいんだろ?」
ヨハンが建築スキルによって味方にバフをかけることは、当然ビルグたちも知っている。そして事実、ビルグたちが今まで勇者として活躍できたのは、ヨハンの助けが大きかった。彼が冒険のサポートをし、さらに強力なバフをかけていたからこそ、ビルグたちは実力以上の力を振るうことが出来たのだ。彼らが持つ通常のSSSランクスキルだけでは、魔王を倒すなどの華々しい功績をあげることはできなかっただろう。
しかし彼らは、その効果を今まで軽視していた。昔からずっとパーティーを組んでいたせいで、そのありがたみに気が付く機会が無かったのだ。
しかし、ヨハンが脱退した直後から敵に勝てなくなった以上、軽視し続けることはできない。ほぼ間違いなく、このパーティーの弱体化にはヨハンが関係しているのだから。
「つまり、今のこの状況は俺のせいだと思ってるわけだ。俺がヨハンをクビにしたから、俺たちは苦労していると。全ては俺が悪いんだと。そう考えてんだろ、お前は? あぁ!?」
「……別に、ビルグを責めてるわけじゃ……」
「黙れ! 俺は絶対に認めねえ。俺たちの、俺の強さはアイツのおかげなんかじゃねえよ!」
「ちょ! やめなってビルグ! 騒がないでよ!」
叫びながら立ち上がったビルグを、ミーシィが慌ててなだめようとする。
「今は言い争ってる場合じゃないでしょ? それよりもこれからの事を考えないと」
「……くそっ!」
その場は押さえ、椅子に座るビルグ。
彼も頭では分かっている。仲間割れをしている余裕がないことくらい。
王が指定したミッションは、十日以内にサンダードラゴンを倒すこと。期限まではあと七日間。その間になんとかあの強敵を討伐しなければならなかった。
もしできなければ、魔王を倒したことで得られる報奨金は全てパア。その上国王の信頼も失い、この国にいられなくなるかもしれない。
ちなみに二回目の失敗は、まだ報告をしていなかった。一度ならず二度も負けたと知れたら、間違いなく見切りをつけられるからだ。
「今回の失敗がバレる前に、何とか結果を出さないと」
「……次はもう、絶対許してもらえない」
「ふざけやがって……。アレクセンのクソが……!」
もとはといえば、あの国王が悪いのだ。ドラゴンの類が滅多に人に危害を加えないことは、国王だって知っていたはず。その上ケーネも進言していた。放っておいても問題ないと。国王がそれを聞き入れていれば、こんなことにはならなかった。
――と、ビルグは自分から任務を引き受けたのも忘れ、心の中で国王に責任を転嫁する。
しかしいくら言い訳をしても、責任を取らされるのは自分たちだ。
今日またサンダードラゴンを倒し損ねたことにより、新たな犠牲が出るかもしれない。そうなったらもう終わりだろう。早急にどうやってドラゴンを倒すか、死ぬ気で考える必要がある。
しばらく黙り込み、暗い顔でこれからの事を考える三人。
やがて、一人が口を開いた。
「ねぇ、ビルグ……。やっぱり、ヨハンを探さない?」
ミーシィがビルグを刺激しないよう、なるべく慎重に切り出していく。
「あぁ……?」
「私もヨハンの脱退には、何か関係があると思う。私達が弱くなったことに。ここは素直にアイツを呼び戻した方がよくない?」
「……私も、ヨハンを探すべきだと思う。……彼が関係あるにしろないにしろ、確認をしておく価値はある」
「………………」
二人の意見に、黙り込むビルグ。
本当は、ビルグもそう思っている。今の状況をどうにかするのは、ヨハンを連れ戻すしかないと。しかしそれには自分の非を認め、ヨハンに謝罪しなければならない。プライドの固まりのビルグにとって、それは何よりの苦行である。
プライドを捨ててヨハンに謝り助けてもらうか、それともこのまま王からの信頼を失うか。今の彼には、そのどちらかを選ぶしかない。
「……知ったことかよ。あんな奴の力なんかかりるか!」
結局ビルグはそれだけ言い、一人で宿へと歩いて行った。
※
「あの野郎……! あの野郎ッ!」
裏路地で毒を吐きながら、ビルグが建物の壁を殴る。
「マジで気に食わねえ奴だ! せっかくいなくなってせいせいしたのに、いつまでも名前が出てきやがる……!」
しかし事実、ヨハンを追い出したのは痛手だ。ビルグも認められないだけで、本当は気付いているのだから。自分たちのパーティーにとって、彼がどれほど重要であったか。
おそらくミーシィとケーネはヨハンを探そうとするだろう。ドラゴンを討伐し国王の信頼を守るためには、それが最善なのだから。
「…………こうなったら、あの野郎をまた利用してやる……。俺は断じてアイツの力は認めねぇ。だが、利用できるものは何だって利用するべきだ……。そうだ、俺はあいつを利用するだけだ……。見つけだして、もう一度だけ馬車馬のように使ってやる……!」
意地を張っている場合でもないが、ヨハンを認めることはできない。「利用する」という彼の言葉は、自分のプライドを守るため自然に出て来た言葉であった。
ヨハンに謝ることもせず、その力だけ使おうとする。そんな身勝手な思惑を抱き、ビルグは邪悪に口元を歪めた。




