第8話 料理人クレア
イモータルの事を聞き、ついでに現状受けている仕事の話なんかも聞いた。丁寧にサラは話してくれたのでとても分かりやすかった。
一通り聞き終えたところで、部屋の扉をノックする音がし、続けて女性の声がする。
「おーい、サラ居るかい?」
「ああ、クレア。入っていいぞ」
「ほーい、失礼しまーす。ん? おいおい来客中じゃないか? アタイの用は大した事ないから、また出直すよ」
入って来た女性は、赤いエプロンを身に着けた自分より少し年上と思われる女性だ。その姿から察するに、もしかしてオッサンやマリアさんが言っていた料理人というのは彼女ではないだろうか。
「大丈夫、新しくうちに入る奴だ」
「ん? 新人なのか? そうかそうか、初めまして。アタイは料理担当のクレアだよ。この宿を出て野営や本拠地に戻った時には私が料理をするから楽しみにしてな。宿に泊まってる時は料理しない事にして…………その持っているのはなんだい?」
「そういえば、ここに来た時から持って来ていたな。何だそれ?」
二人が俺の持っている魔力樹の実に注目する。
俺はタロスからお詫びとして魔力樹の実を貰った事。そしてイモータルの料理人に、料理して貰えと言われた事を伝えた。するとクレアは目を輝かせて実に視線を向ける。
「へーこれが魔力樹の実かー。こいつを料理した事がなかったなぁ。面白そうだ。よしっ! じゃあ特別に今すぐ料理してあげるよ! 他の奴等が戦場から帰って来ちまうと食べられちまうかもしれないから、すぐ料理しよう!」
そう言ってクレアさんは、俺から実を奪って部屋を出て行く。
「あ、ちょっと!」
「大丈夫だ。しっかり美味しく料理をして持って来てくれると思うから、ここで待っていろ。料理になると、特に扱った事のない素材を見ると暴走するんだ」
いつもの事なのか……。
まあ、このまま持ち去らないならいいけどな。
「そうなんですか。でも、クレアさん何か用があったんじゃ……」
「まあ大した事じゃないって言ってたから、大丈夫だろう。それとイモータルでは基本敬語、敬称禁止。タメ口で問題ない。見た目と実年齢が一致しないのが多いからな。いちいち気にしてると面倒なんだ」
「そうなんで、そうなのか。じゃあこれからはサラって呼ぶな」
「ええ、そうしてくれ。さてと……じゃあ悪いけど、私は仕事をしないといけないから、適当に座って待って」
「料理ができたよ!」
「「早っ!?」」
ガラスの器を手にしてクレアが戻って来た。
器には青いシャーベットらしきものが盛られている。
「も、もしかして、それが魔力樹の実で作った……」
「ああ、シャーベットにしてみた。もっと凝ったのを作ろうかと思ったんだけどね……。あんまり時間を掛けちゃうと奴等が戻って来るから魔法を使いながら速攻で作ったんだ。ほら、早く食べな!」
クレアはシャーベットが盛られた器とスプーンを差し出す。
あの実を丸々一つ使って作ったシャーベットだけあって量は二、三人前はある。全部食べ切れるだろうか……。
残しちゃうだろうな……と思ってシャーベットを食べようとすると、サラが近付いて来て、そっと耳打ちをする。
「……絶対残すなよ」
その言葉を聞いて思わず俺は動きを止める。残しちゃ駄目というのはどういう意味なのかと、サラに視線を向けると彼女の目は真剣だった。
「食べ物を粗末にしたり、料理なんて食べられれば何でもいいなんて考えていると、罰として暫く出す料理は全て激マズ料理になる。一口食べれば、あの世が見えるほどのマズさ。不死身の私達があの世を見るの……ヤバさが分かるだろう?」
「…………」
これは完食しないと駄目だ。
不死身なのにあの世が見えるマズさって……絶対に食べたくない!
「……いただきます!」
こうして俺は山盛りのシャーベットを崩しに掛かった。スプーンですくって一口食べてみると、冷やかな塊が口内の熱で溶けて濃厚な甘さが広がっていく。砂糖とは違う自然の甘さで、濃厚でありながらしつこく口の中に残らない。
「美味いな……」
これなら余裕で食べられそうだと、スプーンですくい口に運ぶ作業に熱中する。
そんな俺の様子にクレアは満足そうだ。一方でサラは冷たいものをそんな勢いよく食べて大丈夫かと心配そうに俺を見ている。
確かにお腹が冷えそうだが、これ止まらないんだよ。口の中に入れると、すぐに甘さが広がり消えてしまう。この素晴らしき甘さを欲して必死にシャーベットを口に運ぶのだ。ああ、たまらないなこの甘さ!
「はっはっは! 良い食べっぷりだねー! 食べさせがいのある奴が入ってくれてアタイは嬉しいよ!」
「……そんなにガツガツ食べて大丈夫なのか?」
サラが何か言っていたが気にしない。
それほどまでに魔力樹の実のシャーベットは美味かった。