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死なない奴等の愚行  作者: 山口五日
第1章「イモータルへようこそ!」
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第5話 心優しい巨人タロス

「? 誰か居るのか?」


 二人の視線が俺の背後にある窓へと向かっているように思えたので、振り返って確認してみた。すると、そこには確かに人が居た。いや、人の顔があった。窓を覆うような大きな男の顔が。


「おおおっ!?」

「そんな驚くなよ! タロスが怖がるだろ!」

「お、おおう悪い……いやいや! こんな大きな顔が窓を覆ってたら驚くわ! って、あれ? こいつ、何処かで見た事が……」


 この大きな顔に見覚えがあった。


 あ、そうだ! こいつは俺を掴んで投げた奴だ!


 オッサンは窓を開けながら、外に居る大男の紹介を始める。


「こいつはタロス。うちの人間投擲担当。巨人族っていう種族なんだが、昔たまたま出会ってな。言葉は喋らないんだが、心優しい奴でな。俺は気にするなって言ってんだが、お前を投げた事を気にしててな」

「いや気にしろよ。反省しろよ。また一般人を敵に投げ込むつもりか、おい」

「急にあんなところに現れたのも悪いだろ!」

「逆ギレしてんじゃねえ!」


 仮にもイモータルの一番偉い奴だろ? 普通お前が一番気にするべきで、叱らないといけない立場じゃないのか? こいつが団長で大丈夫か、この傭兵団。


 オッサンはタロスに話し掛ける。


「タロス、こいつに謝りに来たのか?」

「…………!!」


 小刻みに顔を上下に振ってタロスは肯定の仕草を見せた。


「…………」


 タロスは俺をジッと見た。怯えているような、悲しんでいるような、辛そうな表情をしていて、謝罪の言葉は聞けないようだが、彼の顔を見ているだけで申し訳なさが伝わって来た。


 ……こんな顔をされては怒る事もできない。


「分かった、許すよ。だからそんな顔をするのはやめろ」

「…………!!」


 俺が許すと、タロスの表情は途端に明るくなって再び顔を上下に振る。おそらく、「ありがとう」と伝えたいのだろうか。


 表情と仕草からなんとなく彼が伝えたい事を分析すると、顔が下に移動して窓から消えた。そして大きな手が窓から入って来て、親指と人差し指で何かが摘ままれている。青くて人の拳ぐらいの大きさの……果物か?


「……これは」

「おいおい、いいのかよ。それを渡して」


 二人が目を見開いて、その果物らしきものに注目している。

 何だ? そんなに珍しいものなのか?


 俺が、それが何か分かっていない事に気付いたマリアが説明してくれる。


「これは魔力樹の実です。食べると人の魔力の保有限界値を増加させるもので…………一つで軽く家が建ちます」

「…………は?」


 軽く家が建つ価値がある実?

 そんな高価なものをどうしてタロスは目の前に、俺に差し出すように……まさか。


「タロスさん、お詫びの品として買って来たみたいですね」

「そんな高価なもの受け取れないって!」


 いやいや、お詫びの品ってこんな高価なものじゃなくていいよ。気持ちだから。これ、お詫びに家を渡されているようなもんでしょ? 逆に申し訳なくなるから!


 受け取る事を躊躇っているとオッサンが俺の背中を叩く。


「……受け取ってやれ」

「いや、でも……こんな高いもの……」

「いいから。それにタロスは古参だからな。何百年と生きていて、そこそこ金は持ってる。だから実を一つくらい買ってもどうって事ない。だから受け取ってやれ」

「……分かった」


 俺は実を受け取った。俺が実を手にしたのが分かったのか、手を引っ込ませて再び顔を出した。俺が受け取ったのを見ると、ニコニコと笑顔になって嬉しそうだ。


 そして一度だけ頷くとズシンズシンと建物を揺らしながら何処かに行ってしまう。


 最後の仕草は「じゃあね」だろう。


「良かったな、いいもの貰ってよ。まあ限界値の増加量なんてそんな多い訳じゃないが、傭兵としてやっていくなら少しでも魔力は多い方がいいしな」

「それでデザート作って貰うといいんじゃない。うちの料理人は良い腕をしていますから」

「……ああ」


 二人の言葉に、この実を売ってしまおうという考えは封じ込めた。

読んでくださりありがとうございます。

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