第1話 記憶を失った男、フライアウェイ
新作始めます。
初回は短めです。
「…………」
気付いたら見知らぬ場所に居た。
それも自分の名前や住んでいた場所、自分がどんな仕事をしていたか。自分に関する記憶が一切思い出せない。この状態をきっと記憶喪失というのだろう。当然焦る。焦ると思う……だけど、目の前の光景に焦るよりも呆然とするしかなかった。
鎧を身に着け、剣や槍を持って走って行く何百、いや何千、もしかすると何万もの兵。そして向こうからも多くの兵が迫って来ている。敵味方問わず、飛んで来る矢や、魔法によって倒れていく。まるで戦争のような光景だ。
…………あれ？ もしかして戦争？ 戦場に居るの俺？
分かった。俺は兵の一人なんだ。おそらく敵から飛んで来た投石か何かで頭を強く打った。そして記憶を失った。そうに違いない。
…………だけど兵にしては装備が心許ないな。何処にでも居るような一般人のような軽装だ。武器すら持っていない、手ぶらだ。
おいおい、記憶を失う前の俺。こんな軽装でよく戦争に参加するな。馬鹿なのか？ 馬鹿なのか俺は？
仕方ない、ここは一度撤退をして装備を整えて…………ん？ 体が動かない？
というか何だこれ？ 俺の体、なんか大きな手に掴まれているみたいなんだけど…………へえ、大きな手だと思ったら五メートル以上身長がありそうな男の人でしたか。そりゃ手もこれだけの大きさになりますよね。で、どうして俺は掴まれ、あれ？ 持ち上げるの？ あの、なんか振りかぶっているような気が。
「タロス！ それ、うちの団員じゃないぞ！」
誰かが叫ぶがもう遅い。俺は大男によって投げられ、既に宙を飛んでいた。風圧にろくに目を開けられないが、投げられた方向から察するに敵が居る方向だ。俺は敵に向かって投げられたのだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ！」
腹の底から叫ぶ。
どうして？ どうしてこんな事に？ マズい、非常にマズい！ 地面とだいぶ離れてるし！ このままだと落下して死ぬ！ 生存したとしても、敵兵に踏み潰されるなり、斬られるなりして死ぬうっ！
しだいに地面に近付いて行くのを見て、俺は恐怖のあまり気絶した。だが、それで良かったのかもしれない。痛みを感じる事なく死ねるのだから。
読んで下さりありがとうございます。
2018.08.10 全話1500字ほどに統一致しました。
もし、話の辻褄が合わないなどの不備がありましたら教えていただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
