三題噺 ロケット 台風 風船
昔書いた三題噺を発掘したのでテスト投稿。
※pixivにも投稿してます。
「さあ、記念すべき第一回大会の日がやってまいりました! 天気は生憎の台風です。こんな日に我々は海でなにをやっているのでしょうか! おっと、実況席まで波が届いたあぁぁぁ!!」
「アホだ!」
実況の言葉に思わず突っ込んでしまった。普通に中止にすればいいだけじゃないか!
「まあまあ、落ち着きなさいな」
「部長! それは無理な相談です」
このいかにもお嬢様って感じのひとが我がペットボトルロケット部の部長、羽石香紅夜だ。長く綺麗な黒髪が暴風に流され、怨霊とかしている。全身びしょ濡れだから恐怖が二乗だ。
必死にはためく紺色のスカートを抑えているがチラチラと水色の布が見えている。白が基調のセーラー服も透けて胸元にも水色。視線そ逸らすようにして隣の人物に目を向ける。
「そうよ、まったく――きゃっ」
「お前は飛ばされるなよ」
こっちのちっこいのは、幼なじみで部員の佐伯楓。飛ばされないようにと僕にしがみついてるが、嬉しいというより同情してしまう。その、部長と比べちゃうとね……胸部がだいぶ……。ちなみにこっちは薄いピンクが透けていた。
「アンタ、失礼なこと考えてない?」
「そんなことない。風を計算するのは無理だから、どうやって飛ばそうかと考えてた」
もちろん嘘だ。
「死ね!」
「いてっ!?」
もちろんバレた。
「グーで殴らなくったっていいだろ?」
「え? チョキがよかった?」
目潰しですね、わかります。隣の家のおじさん……あなたの娘さん、どっかで育ち方を間違えたみたいです。
「それじゃ、エントリーナンバー1、岬高校いってみようかあ!」
バシュ!
角度をつけて発射されたロケットを目で追う。沖合に浮かび荒ぶる風船に向かって飛んだのは、一瞬だけだった。あっという間に風に流されていく。
「ロケットは目標である風船群に真っ直ぐ向かう――なんて奇跡は起きずに、着水してしまいました! 残念なが無得点! 回収班は……あれ? ボートごと流された!? 運営テント! すぐに救助隊を呼ぶんだああァァァ」
あの実況、奇跡ってハッキリと言っちゃったよ。しかも事故起きてるじゃん!
岬高校の面々は……さっさと撤収作業を進めている。
部長と楓はというと――。
「そうですね、発射角度は……適当でいいのでは?」
「はい、そうします。どうせターゲットに当てるなんて不可能だし」
真剣に適当に終わらせることを相談していた。
うん、それでいいと思う。本音を言えば、せっかくみんなで作ったロケットを飛ばしたくない。回収するの無理っぽいし。予備を持ってくればよかったなぁ。
「なにいぃぃ? 救助しようにもヘリが飛べないだ!? 彼らの無事を祈りましょう、南無アーメン」
混ぜるな危険。いろいろなとこから苦情来るから。
「……それではエントリーナンバー2海浜高校どうぞ!!」
「続けるんだ!?」
「当然です。今回の参加チーム数は、たったの二。第一回ということで大して注目されてないんですよ? それを台風の中で実行したんです。話題になって次回はきっと参加者が増えます」
僕の言葉に答えたのは実行委員のひとりだった。
「叩く標的が見つかったってマスコミが喜ぶだけだと思いますけど。そして第二回は無期限延期」
「そのときは、代表者と大会名を変えればいいだけです」
大人って最低だ。
「柳瀬くん、任せましたよ」
「勇! ふぁいと!」
「待った、打ち上げは三人でやろうって約束だったよね!?」
「か弱い女の子にあそこに立てといいますの?」
部長が示した先には、荒れ狂う波に洗われている桟橋。
そう、発射台は砂浜なのに、どうしてか操作者は浜から伸びる桟橋でスイッチを入れないといけない。ほんと、ここの運営はバカだ。
「アンタなら大丈夫よ。アタシが保証するわ」
「……根拠は?」
「女の勘」
ずるい言葉だ。
「「……」」
部長と楓の一割の期待と、九割の威圧が混ざる視線に突き動かされるように桟橋へと歩を進めていく。
こうなったら、ボタンを押してさっさと逃げよう。そうすれば――。
「あら? 柳瀬くん、遺書を書かないでよろしいんですの?」
大丈夫だよ……ね? 生きて帰れるよね?
桟橋をジッと凝視する。波が引いた瞬間を狙えば……いまだっ!!
サッと駆けて。
バシュと打ち上げ。
サッと駆け戻り。
ザザザーンと波に呑まれた。
「――っ!!!???」
慌てて水面から顔を出す。よかった、思ったよりも流されてない。
「なんということだあああ! この悪条件。いや、地獄絵図の中で、ロケットは黄色い風船を掠めて破裂させたあああ! この瞬間、海浜高校の優勝が決定!」
本来は喜ぶシーンなんだろうけど、その気力がない。
なんとか部長たちの元まで戻ると、どっと疲れが出てきた。
「やりました、やりましたよ! 柳瀬くん!」
「さっすが、アタシの幼なじみね」
いや、確実に風の気まぐれだから。そうツッコミを入れる余裕すら僕にはない。そのまま砂浜に倒れこむ。
「ちょっと、大丈夫っ? って、身体冷たっ!?」
どうやら、すんでのところで楓に抱きとめられたらしい。ひとの温もりに安心する。薄れる視界の中、心配そうに僕を見つめる楓の顔がやけに記憶に焼きついた。