藤の花に魅せられて~サイド原子朗~
…今回も3話(各パート+解決編)となります。
電車のダイアの時間。
それは出勤する人にとっては大事な時間。。
そして、新たな出会いを育むことができるかもしれない希望の時間。
そんな時間が、知らぬ間に変更されていたら…。
そのダイア変更によって生じた物語を、ご紹介したいと思います。
僕の名前は猪井賀原子朗。
これといって特徴もなく、かといって悪く言われるようなところもない。平々凡々とした普通のサラリーマンだ。
去年の5月のある日、僕はいつもと同じ時間に電車に乗った。その日はすごい雨で、電車の入り口が濡れていて、すごく滑りやすかった。
車内はそれなりに人がいるので、そんな駆け込み乗車するほどのスペースもないくらいだ。
[次は~跡呂歩洲~、跡呂歩洲でございます。跡呂歩洲の次は羅消司に止まります。]
いつ聞いてもおかしな名前だと思うのだが、この辺にはロポス遺跡なるものがあって、それにあやかってつけた名前らしい。
プシュー…ガラガラガラ。扉が開いた。
このロポス遺跡のまわりには藤や桜が咲き乱れるのだが、ちょうどいま藤祭りが催されているようで、その関係かこの駅でたくさんいた乗客の半分くらいが降りていく。普段はそんなに混んでいないのだ。
扉がしまろうかとしたその時、
『すいませーん! のりまーす!』
ひとりの若い女の子が車内へ駆け込んできた。高校生くらいだろうか?
『わわわっ! 止まれないよ~!!!! なら…。』
彼女は勢いをつけて走りすぎた。
濡れた車内では急に止まれないとわかると、何を考えたのか急に飛び上がった。まるで走り幅跳びのようである。
危ない!
そう思った僕は思わず駆け寄ってキャッチしてしまった。
柔らかいかと思っていた姿態は、意外としっかりとした肉付きだった。
『あ、ありがとうございます! 助かりましたぁ!』
その後、僕らは目的の駅でそれぞれ別れるまで会話を楽しんだ。
それからというもの、毎日の行きの電車のなかでは、かたわらには常に彼女がいるようになった。
そんな日々が続き2年が経った頃、ダイアの変更が告知された。
いつもの時間の電車はなくなり、それにともなってこれまでよりも早い時間に乗るようになったのだ。
彼女の連絡先は知らない。いつも隣に来てくれて、また奥手な僕に聞く勇気はなかったのだ。
その日を境に彼女には会わないようになった。
日に日に募る彼女とまた会いたいという欲望。
その欲望に導かれるまま、僕は名前も知らない彼女へと続く道を探し始めたのだった。
1話完結って難しいですよねー!(・・;)
がんばりますー。