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本当にありそうでなかった怖い話  作者: 久悠ふみ
さぁお立合いお立合い、真夜中の訪問者の続編があらわれたよ♪

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君はスープカレーが大好きさ♪

ぼくは、選ばれしひよこ。

ぷっくりとしたお腹、きゅっと折りたたんだ足、そして天を仰ぐような美しい首のライン。自分で言うのもなんだけど、完璧なフォルムをしている。

ある日のこと。白い服を着た「巨大な(あるしま)」の優しい手によって、ぼくの体にエステ用の魔法の粉がたっぷりと擦り込まれた。クミン、コリアンダー、カルダモン……。エキゾチックで少し刺激的な香りが、ぼくをふんわりと包み込む。


「よし、いい仕上がりになりそうだ」


主の低い声のあと、ぼくは突然、灼熱の鉄の小部屋に入れられた。

「あちちっ!」と思わず声が出たけど、じっと我慢だ。最高の日焼け(タンニング)を手に入れるための試練だからね。ジューッという激しい音とともに、ぼくのボディはこんがりと美しいきつね色に輝き始めた。

サウナの後は、いよいよ極上のリラックスタイム。

ぐつぐつと泡立つ、深く澄んだダークブラウンの薬草風呂へのダイブだ!

「ぷはーっ、いい湯だな〜!」

何十種類ものハーブのエキスが溶け込んだ熱々のお湯が、ぼくの体の芯までじんわりと染み込んでいく。ピリッとした刺激がたまらない。

湯船の中には、個性豊かな常連客たちが待っていた。

つるんとした肌が自慢の「うずらの卵」きょうだい。

シャキッとした背筋の「アスパラガス」さん。

赤と黄色のドレスを着た、色鮮やかな「パプリカ」ちゃんたち。

「やあ新入り! いい色に焼けてるじゃないか」なんて、ホクホク顔のレンコンおじさんに褒められながら、ぼくらは一緒にじっくりと汗を流した。

そしてついに、お披露目の舞台へ上がる時が来た。

ぽってりとした温かい陶器のステージに、薬草風呂のお湯がたっぷりと注がれる。仲間たちが彩りよく配置されていく中、ぼくが案内されたのは……そう、ど真ん中! センターの特等席だ!

ぼくは、サウナで決めた一番美しいポーズを崩さないようにそっと鎮座した。

右の小さな足をキュッと曲げ、ふっくらした胸を張り、少しだけ上を向く。よし、完璧なポーズだ。横に添えられた真っ白なクッションも、ぼくの晴れ姿を引き立ててくれている。

やがてステージごと持ち上げられ、扉が開いた。

「お待たせいたしました、特製スープカレーです!」

……え?

すーぷ、かれー?

テーブルに置かれ、君と目が合った。

君は、ぼくを見るなり目を丸くして、「あ、なんかひよこみたい!」って顔をしたね。

ふふふ、作戦は大成功だ。ぼくの完璧な美しさに惚れ惚れしているんだろう?

……あれ? 君の右手に握られている、その銀色に光る大きなスプーンはなんだい?

どうしてそんなに、よだれを垂らしそうな、熱を帯びた瞳でぼくを見つめているの?

君の口が、ゆっくりと開いていく。

ねえ、ちょっと待って。

まさか、ぼくを……食べるつもり……!?

君の唇が閉じ、すべてが暗転した。

次の瞬間、巨大なスプーンがぼくの「完璧なポーズ」を無残に打ち砕いた。

「あぐッ!」

圧力。信じられないほどの圧力だ。ぼくのふっくらとしたお腹が、君の硬い歯によって引き裂かれる。骨の関節が砕ける音が、暗闇の中で響き渡る。

でも、その瞬間、ぼくは気づいたんだ。

ぼくの体に擦り込まれた魔法のスパイスと、温泉スープの旨味が、君の口の中で爆発したのを。

「完璧だ……! ぼくの味は、まさに芸術!」

痛みの中に、奇妙な高揚感が生まれた。ぼくのソウルが、君の味覚と一体化していく。

砕かれたぼくの残骸と、一緒に食べられたシャキッとしたアスパラガスの破片が、君の喉の奥へと押しやられる。

「さあ、次のステージへ!」

重力がぼくを捕らえた。

そこは、果てしなく続く、暗く湿った、筋肉のトンネルだった。

「うわああああ!」

ぼくは、その壁を猛スピードで滑り落ち始めた。これは、人生最速のウォータースライダーだ!

筋肉の壁が蠕動運動うねりを始め、ぼくをさらに下へ、下へと押し流す。

「レンコンおじさん! パプリカちゃん!」

一緒に落ちていく仲間の残骸の声が聞こえた気がした。ぼくたちは、君の体の中で、最後の一体化へ向かっているんだ。

暗闇の中で、時折、ぼくの砕けた骨が壁に触れてチクリと痛む。でも、その滑落は、不思議と心地よいリズムを持っていた。

そして、ついに。

ぼくは、暗い、酸性の海へとダイブした。

「ざぶーん!」

そこは、温かくて、同時にすべてを溶かす、最後の安息の地。

ぼくは、そこで、ゆっくりと、君の体の一部へと溶け込んでいった。

最後の「完璧なポーズ」は、もうない。

でも、ぼくのスパイスと旨味は、君の血となり肉となる。

「ごちそうさま。完璧なひよこでした」

君のその言葉を聞くことはできないけれど、ぼくの大冒険は、大成功に終わったんだ。

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地震からめざめると男性だけの異世界でした!

田舎の怪盗夫婦。消えた財布はどこへいった!

上記連載の2作品も、どうぞよろしくお願いいたします♪

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