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本当にありそうでなかった怖い話  作者: 久悠ふみ
さぁお立合いお立合い、真夜中の訪問者の続編があらわれたよ♪

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35/41

北方小僧の寒太郎

昔々、ある村に寒太郎という名の少年がいました。

彼は村一番の悪ガキで、口を開けば嘘ばかり。村人からの信頼度は、冬の気温よりも低い「0」でした。

しかし、村人の誰も知らない真実がありました。寒太郎はこの村を代々守る「寒冷の守護神」の末裔だったのです。ある日、村を未曾有の超巨大寒波が襲った際、寒太郎は人知れず吹雪の渦中へと飛び込み、その強大な冷気を自らの体一つでねじ伏せ、鎮めました。

けれど、彼は村に戻っても何も言いません。ただ鼻をすすりながら、「へへっ、ちょっと風が止んだだけだろ?」とうそぶくだけでした。


寒波が去った直後、どこからともなく一人の有名な政治家が現れました。彼は「私の政治力で寒波を追い払った」と豪語し、全国から「復興支援」の名目で莫大なカンパ(寄付金)を集め始めました。

ある夜、政治家は側近と共に、集まったカンパをどう着服するか企みながら、暗い路地裏を歩いていました。


「この『寒波』は最高の集金装置だったな。もう少し寒さが続けば、もっと『カンパ』が絞り出せたものを……」


その時、向こうからボロ布を纏った寒太郎がフラリと歩いてきました。政治家は鼻を鳴らして通り過ぎようとしましたが、すれ違いざま、寒太郎が足を止めずにボソリと呟きました。


「……村に悪さしたら、食ってやるからな」


その声は、人間の子供のものとは思えないほど冷たく、底知れない飢えを孕んでいました。政治家は背筋に氷を突っ込まれたような戦慄を覚えましたが、「フン、ガキの戯言か」と虚勢を張って立ち去りました。


復興祝賀会の夜。政治家は壇上で、カンパの詰まった重い鞄を抱えて演説していました。


「この浄財こそが、私の正義の証です!」


しかし、その鞄の中には、彼が着服しようとした汚い欲望と、先ほど寒太郎が放った「守護神の魔力」が混じり合っていました。寒太郎が飲み込んで抑えていた「寒波の残り香」が、政治家のどす黒い欲に反応したのです。


「ひ、ひえぇ! カ、カンパが……熱い! 体が……!」


鞄が眩しく発光したかと思うと、集まった金銭カンパに宿った執念が、政治家の肉体を内側から作り替えていきました。

ブクブクと膨らむ腹、ヌルリと光る銀色の鱗。あぶく銭の泡が口から溢れ出し、高級スーツを突き破って、そこには一匹の巨大な魚が転がっていました。


静まり返る会場。寒太郎が群衆の後ろからゆっくりと歩み寄り、ピチピチと跳ねるその巨大な魚を見下ろして言いました。


「おいおい、そんなに太りやがって。政治家がカンパで肥え太った結果がこれかよ。……こいつの名前はそうだな、『政治カンパチ』とでも呼んでやれ」


「政治」と「カンパ」を吸って「カンパチ」になったその怪魚を、寒太郎は冷ややかに名付けたのです。

村人たちは腰を抜かしましたが、寒太郎はあくびをしながら続けました。


「さっさと食わねぇと腐っちまうぞ?」


その夜、村では豪華な「政治カンパチの解体ショー」が行われました。脂の乗り切ったその身は、皮肉なほどに絶品でした。

翌朝、政治家は文字通り影も形もなくなりました。村人たちは相変わらず「政治家様が身を挺して我々を救った」と信じ込み、寒太郎を「不吉なことを言う嘘つき」として遠ざけました。

寒太郎は一人、村外れの丘で空を眺めています。


寒太郎が指を鳴らすと、小さな雪の結晶が一つ、春の陽気の中に溶けていきました。彼の信頼度は「0」のまま。しかし、彼がそこにいる限り、この村に本当の冬が来ることはないのでした。


数日後。


「政治カンパチ」を食した村人たちの胃袋から、ヌルリとした呪いが全身に回りました。

彼らは自覚のないまま「本音」しか言えなくなっていたのです。これまで寒太郎を叱り、構うことで繋ぎ止めていた「教育的な優しさ」という名の建前が、脂と共に溶け落ちました。

寒太郎がいつものように広場で「村長、あんたの財布、俺が肥溜めに捨てたぜ!」と嘘を吐いた時、返ってきたのは沈黙と、剥き出しの「殺意」でした。


「……もういい。こいつの嘘に付き合うのは、もう限界だ」


「処分しよう。明日の朝、村外れの崖で事故に見せかけるのが一番効率的だ」

村人たちは、淡々と、事務的に「寒太郎の殺害計画」を練り始めました。そこには怒りすらなく、ただ邪魔なゴミを捨てるような、純粋で残酷な真実だけがありました。


寒太郎は、路地裏でその計画を聞いてしまいました。

彼はふっと、いつものようにニヤリと笑いました。


「……へへ。どいつもこいつも、急に正直者になりやがって。……そんなに俺が邪魔かよ」


彼は、村人たちが自分を殺そうとしていることさえも看破していましたが、逃げることはしませんでした。なぜなら、彼が村を去れば、彼が抑え込んでいる「真の寒波」が解き放たれてしまうからです。

翌朝、寒太郎は抵抗することなく、村人たちによって村外れの深い谷底へと突き落とされました。

「これで、村も静かになる」

村人たちは満足げに頷き、平然と日常に戻っていきました。


数日後。寒太郎という「呪いの触媒」がいなくなったことで、村人たちの体から政治カンパチの呪いが不意に解けました。

彼らはハッと我に返ります。


「……私たちは、なんてことをしてしまったんだ?」


「寒太郎を、あの子を……殺したのか?」


彼らは「優しい嘘」を吐ける元の自分たちに戻ったのです。しかし、正気に戻った彼らを待っていたのは、寒太郎が命懸けで抑えていた「真実の寒波」でした。

守護神を失った村に、空を裂くような咆哮と共に、かつてない規模の吹雪が雪崩れ込みました。


空は見たこともない不気味な紫色に染まり、寒太郎という「重石」が消えた世界に、真の寒波が牙を剥いて襲いかかります。


「なんでだ……。あんなに祈ったのに、なんで寒波が来るんだ!」


「おい、政治家様のカンパはどうした! あの金があれば助かるって言ったじゃないか!」


村人たちは、かつて政治家が抱えていたカバンから溢れ出した札束や硬貨を、迫り来る吹雪に向かって必死に投げつけました。


「くるな……くるな! ほら、この大金カンパをやる! これで勘弁してくれ!」


しかし、自然の猛威に人間の強欲(金銭)が通じるはずもありません。紙切れは風に舞い、硬貨は雪に埋もれ、村人たちは自分たちが何を間違えたのかさえ理解せぬまま、最後の一人まで凍りつき、あたり一面を凍土と化して沈黙しました。


寒太郎の遺体は、冬眠前のクマが「ちょうどいい肉が落ちている」とばかりに、おいしくいただきました。守護神の誇りも、孤独な魂も、すべては野生の生命力へと還元され、静かに山の一部となりました。

一方で、村の広場で一箇所に固まり、札束を握りしめたまま凍りついた村人たち、そして彼らが貪り食った「政治カンパチ」の膨大な脂……。それらは長い年月をかけて厚い土砂に飲み込まれ、地圧に押し潰され、ドロドロとした黒い液体――「石油(純粋な欲望)」へと姿を変えていきました。

かつて他人の善意や守護神の犠牲を吸い尽くして肥え太った者たちが、今度は「資源」という名の欲望の対象として、地底に封じ込められたのです。

やがて地球のサイクルが巡り、凍土は溶け、村があった場所は草木も生えぬ乾いた荒野となりました。

今では、かつてそこに村があったことを示す石積みさえも砂に還り、語り継ぐ者も、悔やむ者も、英雄視する者もいません。ただ、荒野の真ん中に、石油を含んだ地層から栄養を吸い上げた、奇妙な形の植物が一本だけ芽吹いています。

しかし、人の寄り付かなくなった地のことですので、その小さな命に気づく者は誰もいません。

終幕:新しい時代の足音

それからさらに数百年。

この地は、新しい時代の人間たちが繰り広げる「国取り合戦」の戦火にさらされることになります。彼らが奪い合っているのは、かつての村人たちの成れの果てである「石油」でした。

歴史は繰り返され、欲望は形を変えてまたこの地を汚しますが……それはまた、別のお話。




風の音しか聞こえない乾いた荒野。

かつて村があり、絶望が凍りつき、そしてすべてが砂に還ったその場所に、一本の小さな、しかし力強い緑の芽が揺れていました。

そこへ、どこからともなく一人の男と、一人の女がふらりと現れました。

男は、ボロ布を纏った少年のようにも、数千年の時を生きた老人のようにも見えました。女は、その男の影に寄り添うように立ち、手にした古びた水瓶から、静かに芽の根元へ水を注ぎます。


「あーあ。……だから言ったのに」


男が、地底深くに眠る「ドロドロとした村人たちの成れの果て」を見透かすように呟きました。その声は、かつて路地裏で政治家を震え上がらせたあの冷たさを孕みつつ、どこか退屈そうな響きを含んでいます。


「ホントにねぇ! 人間って馬鹿だよね!」


女が、男の言葉を引き取るようにしてコロコロと笑いました。その笑い声は、枯れた大地に不釣り合いなほど無邪気で、残酷なほどに明るいものでした。

二人は、遠くの空の下で「石油」を奪い合い、黒い煙を上げて争い続ける新しい時代の人間たちを眺めます。その瞳には、憐れみも怒りもなく、ただ、何度も同じ演劇を観ている観客のような淡々とした色が浮かんでいました。


「……次は、もう少しマシな嘘を吐けるようになるといいんだけどな」


男――かつて寒太郎と呼ばれた守護神が、呆れたように吐き捨てます。

寒太郎が指をパチンと鳴らすと、小さな雪の結晶が一つ、灼熱の太陽の下で溶けずにキラリと輝きました。

二人は顔を見合わせ、また楽しそうに笑い合います。

植物を揺らす風だけが、彼らの楽しげな声を、誰もいない空へと運んでいきました。


「その愚かなところも可愛いからいいんじゃない?」


傍らでジョウロを傾ける少女――桃太郎が、鈴の鳴るような声で笑いました。彼女がかつて退治した「鬼」とは、本当は誰のことだったのか。

鬼ヶ島という島国の正体は‥。

その答えは、今、彼女が踏みつけている石油の地層が物語っています。

二人は顔を見合わせ、また楽しそうに笑い合います。

人間たちの嘘を看破し続けた男と、人間の強欲を退治し終えた女。

二人の太郎が去ったあとの荒野には、ただ一輪の、毒々しくも美しい花が咲き誇っていました。

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地震からめざめると男性だけの異世界でした!

田舎の怪盗夫婦。消えた財布はどこへいった!

上記連載の2作品も、どうぞよろしくお願いいたします♪

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