時をかける親父と、おっきなニャンコ
街中を自転車でぶらぶら走っていて、十字路に差し掛かると、進行方向に対して右側から一匹のヒョウがやってくる。
自転車で「わたしは気にしてませんよ」という感じでゆっくりと目の前を通りすぎてから全力でペダルをこいだ。
もうそろそろ離せたかなとおもって後ろを振り返ると、もうすぐそばにヒョウが迫っていた。
ヤバイ!
俺は焦ってこぐ、しかし本気のヒョウから逃げ切れるわけもなく、ヒョウのごはんになった。
フッと気がついたとき、そこはあのヒョウの出てくる十字路の手前だった。
(あ、あれ?! 俺は確かに食われたはずだ…。時間が戻った? いや、もしかしたらあれは予知夢だったのかもしれない。)
そう思った俺は大慌てで自転車から降りて車体を逆方向にして全力で来た道を引き返していった。
走りながらチラチラと十字路を確認していると、しばらくしてやはり十字路へとヒョウが現れた。
だが幸いなことに、今回はかなり距離が稼げていたので安心してそのまま全力で走っていた。
緩やかなカーブに差し掛かったとき、息をハァハァと吐きながらなんのけなしに振り返ると、いまにも飛びかからんとしているヒョウがすぐそばにまで迫ってきていた。
(なぜだ?! 十分な距離をとったはずなのに、なんで?!)
俺は手首から腕時計をはずし、ヒョウの意識をそらそうと横へ向けて腕時計を投げた。
その頃、進行方向の先では。
息子のミツルと妻の冴子が畑仕事にいそしんでいた。
「ミツル~?? あんた進学どうするんね?」
「かぁちゃん、おらはまだなーんもおもいつかん。どうすりゃいいっぺ?」
「ほんだなー…。わるいんだけんどもー、かあちゃんにもわっかんねぇさー。」
種を植えていた冴子は、腰が疲れたのか身体を起こして背伸びをしようとした。
すると、なにやらすごい勢いで走ってくる一台の自転車が見えた。
「ミツルみてみー? とぉちゃん、ありゃなにしてんだかなー?」
母にいわれ、母の視線の先に目を向けると、確かに父親が自転車で走っていた。
よく見るとなにかに追われているようだ。
「かぁちゃん、なんかとぉちゃんはおいかけられてんべ?」
そうのんびりと眺めていると、父親が近づいてきて、後ろの追いかけている生き物の正体が見えてきた。
ヒョウだ!!
すると一目散に走っていてこちらに気づいてもいないだろう父親が、唐突になにかをこちらへと投げてきた!
父親は手首から、ローンで買ったばかりの自慢の腕時計をはずした。
『光り物なら気を引けるはずだ!』
祈るように、道路脇の茂みへ向けて全力で投げ飛ばした。……まさかその茂みの先が、わたしのいる自分の家の畑だとは、パニックになった父親の頭からは完全に抜け落ちていたのだ。
時計はまだ元気なようでこちらへと転がったあともカチコチと音を刻んでいる。
フリーズしていると、ヒョウが進路を変え、こちらへと走ってきた。
「か、かぁちゃん! ヒョウだ! ヒョウがくる!」
「はぁ~? ミツルあんたまで父ちゃんみたいにあったまおかしくなったげな?」
「そんなこといっちょる場合やなか! おらぁ先に、にげるでの!」
「ぁっ…。もぅ、あんこはまたすぅーぐにげようとすんだよ…。誰に似たんだか…あっ?!」
走り去っていくミツルをあきらめ、振り返った冴子。
その時点になってようやく彼女もヒョウに気づいた。
「あらぁ、お腹すかせてんだねぇ? よしよし、おばちゃんが今、掘り立てのサツマイモを……ってたぁっ!!」
最後まで言わせて貰うことすらできず、冴子はサツマイモを差し出したポーズのまま、頭から食べられた。
最後まで言わせて貰うことすらできず、冴子は頭から食べられた。
もぐもぐもぐ。
「かぁぁぁぁちゃーーーーーん!!!!」
息子は泣いた。それはもう、母を食べていたヒョウがおもわず息子に気づいてしまうほどに泣いた。ヒョウの血走った目がミツルを捉え、その巨大な顎が開かれた瞬間――。
ハッ!!
気がつくと、ミツルは先ほどの畑の畝の前に立っていた。
「ミツル~?? あんた進学どうするんね?」
横を見ると、死んだはずのかぁちゃんがのんきに種を植えている。
そして、道路の向こうからは、猛スピードで自転車を立ち漕ぎしてくる親父の姿が……。
(あ、これ、おらたち家族、絶対に助からんやつだべ……)
後日、無事にヒョウは捕まえられ動物園へと護送されました。
三人が生き延びるためにはいったい、どうすればよかったのでしょうか…。
もしかすると、みなさんが進んだ先にある十字路にも、いるかもしれませんね。
ヒョウが…。
各家庭で飼われてるペット。
近年ではいろんな生き物が飼われるようになりました。
犬や猫はもちろん、カワウソやイグアナ。
なかにはホントにヒョウやライオンを飼ってる人。
将来的には、現代にマンモスや恐竜がよみがえって飼われるかもしれません。
もしそれらが逃げたとき、そしてあなたが出会ったとき。
どうしますか?




