リア充と丑の刻参り 霊と共振する女
婚約者の男の生首が、あるべき場所を離れ、女性の腕より地面へと跳ね、そして落ちた。
その場面をただただ呆然と見つめていた女は何かにとり憑かれたかのように笑い、生首をがしっとつかんで、乱暴気味に拾い上げて、あるべき場所に据えてみる。
くっつかない。
結果のわかりきっている行為だが、何度も何度も彼女は彼の血で手を汚しながらもそれを繰り返し、また同時に彼の首を落とし続けた。
まるで幼子が積み木をしているかのようにけたたましい笑い声を上げる今の彼女の姿には、もう婚約者の彼がみた面影は欠片もなかった。
半刻ばかりやって、彼の首が原型をとどめなくなった頃、ようやく落ち着いた彼女は、ひとまず公衆便所から出ることにした。
反対側の個室の便器に、頭から引きづりこまれたような体勢の誰かが見える。
頭の片隅で、あの丑の刻参りの老人だと思いながらも放置して、彼の遺体をズルズルと引きずっていく彼女。
引きずられた彼の遺体は、泥にまみれていくが彼女の自意識はいまだここになく、ズルズル、ズルズルと運んでいく。
チュンチュン、チッチッチッチ!
なにやら雀たちが彼女をみているが、今の彼女は婚約者の女性であって、そうではないのでまったく気にもとめることはなかった。
そうしてたどり着いたのは、あの大きな木の場所であった。
その木が切っ掛けだったのか、彼女の瞳に生気が宿る。
さっきまで公衆便所にいたはずなのに、いつの間にか森の中へ戻っていると感じた彼女。
最初、丑の刻参りを見かけた辺りから夢を見たのかと思い、大きな木の幹を観察すると、確かに五寸釘が至るところに打ち込んである。
しかし、もしあれが夢であったのならば、彼女のとなりには彼がいなくてはならない。
そう思い横を見ると、
犬がいた。
性格には狼とでも言った方がいいのであろうか?
そしてその犬には、顔がなかった。
のっぺらぼうとゆうあれだ。
顔のない犬であったが、すぐにその飼い主が誰かがわかった。
婚約者の彼の飼っていた犬が、帰ってきたのだ。
森にはいり、どこへいったか分からなかった犬。
殺されたと聞いて、もう出会えないと思っていた犬。
婚約者の亡き今、こうして出会えたのは彼女に並みならぬ勇気を与えた。
彼亡きいま、この子に『おかえり』と言えるのはわたししかいないんだ!
そう思い、小走りで数歩踏み出したとき。
ずてっ!
そんな矢先、何かにつまずいてこけた。
何にこけたのか確認しようとするも、そこにあるのはただの赤茶色の枯れ木。
彼女の身長とだいたい同じくらいの大きさの枯れ木で、固いのに表面は軟らかいという謎の質感だった。
その枯れ木に触ってからというもの、手が赤く染まってしまった。これでは犬を撫でてあげられない。
そうおもって犬を見ると、なにやらすごく彼女をにらんでいる。
にらんでいるというよりは、今にもエサとしてわたしを狩らんとしているかのようだ。
妖怪大好きな彼女の知識のなかに、送り犬と言うものがある。
それは、狼か犬かよくわからないものが後ろをついてきて、転けると食べられるというものである。
「あー…。疲れた。もうちょっと休みたいけどそろそろ行こうかしら。」
そう言うと、何事もなかったようにわたしはまた歩きだした。
数時間前に婚約者と犬を探して木までたどり着いたとき、時間はそんなにかかっていなかったと思うが、会話する相手のいない一人になったからこそ、出口への道のりが遠く感じる。
その間も、まるで彼女を守るかのようにピタッとついてくる犬。
石につまずき、草に足をとられながらもなんとか森の出口へたどりつき、自宅へと帰ってきた彼女は、ベッドの上の天井に貼り付けてある大きな婚約者の写真をはがし、顔の部分を切り取ってお面を作った。
そして、犬にたいしてこう言ったのだ。
「ここまで送ってくれてありがとう。」
まるでその言葉が鍵だったように姿が薄れ行く顔のない犬にお面を被せ、消える間際に一言、
「さようなら、わたしの恋人。」
そう言葉を残し、彼と彼の犬に別れを告げたのであった。
遺体のない彼の告別式を終えた彼女はその後、慰めてくれた彼の友人と結婚し、幸せに暮らしましたとさ。
婚約者の遺体は今だ見つかっていません。
その遺体があるのは、
あなたの家の近所にある森林…、かもしれません。
ブクマ、評価よろしくお願いいたします。
彼の最後の姿は、花子さんが彼女の記憶より消してしまったのかもしれません。
あんがいトイレの花子さんはいい子なのかも?




