ソクラテスは何も残さなかった。
無関係な大人は逃げても良いと言う。
けれども、両親は、『あなたの人生なのよ』と悲しげに俯く。
どちらが正しいのかは分からないけれど、僕は、ふっとコンビニの駐車場の隅にしゃがみこんでいる。
月千円のお小遣いでは、少し高すぎるジュースを飲みながら。
親の財布から金をくすねる妄想に耽りながら、一時間目を過ごしている。
コンビニの制服を着た大人の人が、僕を見て、何かを言おうとした。
掛ける言葉を探して、探して、探して、それでも思い浮かばずに止めて、ただ、
「大丈夫?」と、それだけだった。
僕はそれでも、それだけできっと十分だったんだと思う。
でも、巧く応えることが出来そうにもなくて。
応える言葉を探して、探して、探して…。
その内に、店員さんは、店内から怒声を受けて。
躊躇いがちに店内へと戻って行った。
僕は、申し訳なくて、でも、他に行き場もなくて、そのままでいる。
車の往来、向けられる不躾な視線、僕は何も気にしていないふりで空を見ている。
三時間目が終わる頃になってようやく、僕は腰をあげた。
僕の未来を考えながら、僕は家へと帰る。
誰もいない家で、僕の部屋で、僕は、きっとまた怒られる時間を恐れながら。
無関係な大人は逃げれば良いと言う。
本気でそう思ってるんなら、頭がおかしいと僕は思う。
きっと、この人たちは僕の未来に興味などない。
きっと、この人たちは僕の孤独に興味などない。
僕が大人になった時、この人たちは助けてなどくれないのだから。
それでも、僕は、明日また、コンビニの駐車場で、空を見ているのだろう。
行き過ぎる人たちの同情と嘲笑を身に浴びながら。
人は何故、生まれさせられるのだろう。
何故、皆、完璧な人間として生まれ落ちないのだろう。
何故、こんな落ちこぼれな生まれるのだろう。
何故、不幸になる人間を作るのだろう。
どうして、僕は泣いているんだろう。
どうして、僕は自分を傷つけるんだろう。
どうして、僕は誰からも理解されないんだろう。
どうして、僕は…。