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『雨』

作者: 南 屋

 ――私は梅雨が嫌いだ。


 風に負け、骨を折られ、裏返り意味を無くす、役に立たない傘が嫌いだ。

 屋根に護られれば邪魔でしか無いそれを差す私の、労苦を嘲笑するかのように肩を濡らす。

 有無を言わさず靴を濡らし、内側までをも侵して不快な重みを負荷させる。

 癖のある髪はうねり、広がり、絡まり、纏らないそれは私の心そのものだ。


 ――私は梅雨が嫌いだ。


 飛び込み、あるいは呼び込み、傘も差さず浴びる様に、雨の中をはしゃぎ回る無邪気な子供が嫌いだ。

 彼ら彼女らは滴と泥に塗れながらも、笑い、叫び、歌い、まるで宴かの様に踊り狂う。

 無数の粒の中で両腕を広げ、さも己の力で呼び寄せたかの様に振舞う。

 そこから撥ねた飛沫を受け、汚れていく服は私の心そのものだ。


 乾いた大地を潤し、作物を育て、河川を動かし、花を咲かせる。

 それでも私は梅雨は嫌いだ。



 ――けれど私は雨が好きだ。


 窓の外、ふとした瞬間に眺める伝う滴が好きだ。

 静かに、時に猛々しく鳴くその声が好きだ。

 届かない叫びで枯れた私の喉を、潤してくれる空気が好きだ。


 ――だから私は雨が好きだ。


 私の髪を洗い流し、捻じ曲がってしまった心を伸ばしてくれる雨が好きだ。

 私の服を洗い流し、穢れそうになる心を清めてくれる雨が好きだ。

 私の涙を覆い隠し、手を引き連れて行ってくれる雨が好きだ。


 雨上がりの匂いが好きだ。

 私を映す静かな水溜まりが好きだ。

 空に架かる虹が好きだ。



 私は世界にばら撒かれる、小さな滴の散弾が嫌いだ。

 私は心で落とされる、大きな一粒の滴が好きだ。


 焼け焦がれる胸を冷やし、涙を流し、穢れを払う。

 そんなまだ見ぬ一粒の滴に、私の魂が届くようにと。


 ――私は今日も空を創る。

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