第六話 冒険者
俺のギルドカードを見た瞬間、フランさんが綺麗に椅子から転げ落ち、頭を地面にぶつけた。
「あいたたた!」
「大丈夫ですか!?」
俺は急いでフランさんの所まで駆け寄った。
フランさんはぶつけたところを、手で押さえて 、少し涙目になっている。
「だっ大丈夫です。すみません! お恥ずかしいところをお見せしてしまって」
慌てて椅子に座りなおすフランさん。
何故かフランさんの俺を見る目がおかしい。
「それで、ギルドカードにはなんて書いてあったんですか?」
俺がフランさんに聞くと、『ガチャ!』っとトビラが勢い良く開く。
そして、一人の男性が部屋の中に入ってきた。
「なんだ!? 今の音は!! 」
入ってきたのは、30代後半の年で背が高く、筋肉がムキムキのヤクザ顏のおっさんだった。
「すっすみませんギルドマスター。私が椅子から落ちただけです」
(このおっさんがギルドマスター? 怖っ!)
「怪我はないか? 一応、回復魔法を掛けとくぞ」
ギルドマスターは手をフランさんに向ける。そして、唱えた「ハーク」と。
青白い光が、フランさんを包み込む。
(確かあの魔法は……)
対象の傷を直す事ができる中級の回復魔法だったはずだ。
ハークの上には上級のマハークが存在する。
何故、俺がハークという魔法を知っているのかというと、前にマーシさんに俺の傷をどうやって直したのか聞いた時に回復魔法について教えてもらったからだ。
「フラン、今度からは気をつけろよ」
ギルドマスターは見た目とは裏腹に、ものすごく優しかった。
「自己紹介が遅れたな。俺はザルーガ・マライアこの街のギルドマスターをしているものだ」
俺とリラもザルーガさんに簡単に自己紹介をした後、俺たちは再び椅子に腰をかけた。
「それで……何があったんだ」
フランさんはザルーガさんに、俺のギルドカードを見せる。
すると、ザルーガさんの目が大きく開き、俺の方を見た。
どうやら驚いているようだ。
が、俺とリラは、未だに何が起こっているのか全然わからない。
「どうしたんですか? いきなり?」
「それが……だな……」
俺はザルーガさんにギルドカードに書いてあったことを教えてもらった。
−ギルドカード−
ソラ・カナタ 16歳 男 ヒト族
冒険者レベル1 駆け出し冒険者
魔力量 50000
適正属性 火、水、風、光、闇、無、回復
と、いう内容だった。
「お前、どんだけ魔力持ってんだよ!」
「しかも、適正属性は全部ですよ! 私もびっくりしましたよ」
ザルーガさんとフランさんが驚いたのは、俺の魔力の量と適正属性の数だった。
この世界の人間は、適正のある属性魔法しか使えない。
魔法の才能がどれだけあったとしても、適正属性の数は、最高でも三つだそうだ。
魔力量は、魔力を全て使ったり、訓練次第で増えるらしいが、ここまで魔力量が多いいのは見た事がないらしい。
「ソラはまるでこの世界を救った勇者ツバサ様みたいだな。適正属性は全てだし、王都で見た肖像画にも、なんとなくだが似ている」
すると、 先ほどまで静かにしていたリラが口を開いた。
「ソラは……勇者だもん。それに、ツバサって人のまぐっ……」
俺はとっさにリラの口を塞ぐ。俺が勇者だって事は聖剣アルダート同様に内緒にしていないといけなかったからだ。
が、遅かった。
「「えっ!?」」
ザルーガさんとフランさんは再び驚い顔になっていた。
「王都が勇者召喚成功したって聞いたが、ソラがその中の一人だったとは」
フランさんもうんうんとザルーガさんの言葉に頷く
。
「少し違いますが……俺は勇者です」
少し違うといったのは、俺の場合、召喚に成功したのか不明だったからだ。
「だから髪が黒色だったのか……」
ザルーガさんが俺の髪の毛を見ながら、ポツリと呟く。
(黒髪に何かあるのか?)
そんなことを考えていると、フランさんが身を乗り出し、俺に近づいた。
「他の勇者の方も、ソラくんみたいにすごいんですか?」
フランさんがキラキラした顔で俺に聞いてくる。
「俺よりすごいですよ。たぶん……」
最後の方は小さい声で言った。
「それなら魔王討伐にも期待できるな!」
「俺には期待しないでくださいね。まだ、初級魔法のアクアショットしか使えませんし」
俺は聖剣がなければ、Fランク級の魔物にしか勝てないだろう。
そもそも、あれから一度も聖剣の力を使っていないので、やれと言われても、できるかはわからない。
「それなら、誰かに教わればいいじゃねーか。そうだな……」
急にザルーガさんが考えごとを始めてしまった。
「あっ! ギルドの横の酒場に、丁度いい人物がいるぜ!」
「酒場ですか?」
「そうだ。今日は疲れているだろうから、ゆっくり宿で休め。フラン! 後でソラくんたちにいい宿を教えてやってくれ」
「わっ、わかりました」
俺たちはその後、フランさんにお風呂が付いているオススメの宿を聞いて、ギルドを後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここがフランさんが言ってたところか……」
俺たちはフランさんがオススメする宿の前まで来ていた。
宿の扉を開け俺たちは中に足を運ぶ。
店内は綺麗で、たくさんの人で賑わっていた。
そのまま俺は受け付けの所まで進む。
「いらっしゃい! 」
30代くらいのおばちゃんが受け付けをしていた。
「取り敢えず一週間、一人部屋を食事付きで、二つ借りたいんですが大丈夫ですか?」
「ちょっと待ってね……」
おばちゃんが部屋の空きがあるかを確認している。
「大丈夫だよ。一人部屋を二……」
「二人部屋を一つでお願いします!」
おばちゃんの言葉を遮り、リラが耳を疑うようなことを言った。
「なっ……何言ってんだよリラ! 」
「冒険者なら男女一緒は基本だよ! それに一部屋の方が安いし」
確かにリラが入っていることは的を得ている。 冒険者はクエストで野宿する可能性もあるので、遅かれ早かれ、結局は同じところで寝ることなるかもしれない。
それに、一人部屋より二人部屋の方が断然安いのだ。
「それでも……」
「ほら! ソラ文字が読めないんでしょ! 私が夜に教えてあげるから」
「それはそうだけど……」
実際文字が読めないのは相当困っている。
俺は決心して、宿屋のおばちゃんの方に向き直った。
「二人部屋を一週間食事付きでお願いします」
「はいよ。銀貨4枚ね」
俺はサフィークから銀貨4枚を取り出し渡した。
おばちゃんはニヤニヤしながら銀貨を受け取り、俺に部屋の鍵を渡した。
「お風呂は男女別で、二階に上がったらすぐあるから、食事は出来たら呼ぶわね。お二人さん、後はごゆっくり」
おばちゃんに見送られ俺たちは階段を登り、部屋向かう。
「201号室だからここだな」
俺は鍵を開けドアを開けた。
そして、そのままドアを閉める。
(あれ? 今、なんかおかしくなかったか?)
ぱっと見、部屋の中は綺麗だった。
2人で寝泊まりするには十分な広さもある。
けれど……
「どうしたの? 早く中に入ろうよ」
「いや、今……。俺の見間違いだよな」
俺は再びドアを開けた。そして、部屋の中に入る。
「なんだよ……これ? 」
やっぱり、さっきのは見間違いではなかった。
俺たちが泊まる部屋にはベットが一つしかなかった。
「おばちゃんに部屋の変更をお願いしてくる」
俺は急いで回れ右をして部屋を出ようとしたら、リラが俺の服の袖を掴んだ。
「私はソラと同じベットで大丈夫だよ」
少し顔を赤らめて言うリラ。
(かっ可愛い)
俺はそっと部屋の扉を閉めた。
お風呂に入って食事を食べた後、俺はリラに文字を教わった。
この世界の文字は意外と単純で、このままいけば、すぐに覚えられそうだ。
「そろそろ寝よっか」
ついに寝るときがきた。
リラと俺はベットの上に横になる。
「おやすみソラ」
「おっおやすみリラ」
おやすみの言葉を交わし、俺はすぐにでも眠ろうと目を閉じたが、こんな状況で眠れるはずがない。
(なんかいい匂いがするし、隣にリラがいると考えたら……寝れるわけないだろ!)
そんなことを思っていると、隣から『すぅー すうー』と寝息が聞こえてきた。
(寝るの早!?)
それ程疲れていたのだろう。俺も疲れたし。
それだけ、今日はいろいろなことがあったてことだ。
リラにとっても俺にとっても……