第四話 旅立ち
漢字に直したら、奏多 翼、それは俺の祖父と同じ名前だった。
「マーシさん! ツバサ・カナタは……俺の祖父と同じ名前なんですが……偶然ですよね?」
「同じも何も、お主が言っておるツバサ・カナタと同一人物じゃ。ツバサとお主は顔がよく似ておるからのぉ」
今でもじいちゃんはばぁちゃんと仲良く日本で暮らし、農家をしながら生きている。
でも、じいちゃんは700年も生きていない。60歳ぐらいの年だ。
ましてや、魔王を倒すなんてありえない。
じいちゃんからそんな話も聞いたことがなかった。
ここが異世界だってことよりも驚いている。
「何より、その剣が扱えたことが証拠じゃ。元々はツバサが女神様にもらったものじゃからな、わしらじゃ、アルダートを鞘から抜くことすらできん。もし、その剣を扱える者が現れたなら、ツバサの子孫ぐらいじゃ」
俺はいとも簡単に鞘から剣を抜くことができた。
マーシーさんが言っていることが本当ならば、リラには抜けないはずだ。
本当かどうか確かめるために、リラに聖剣を鞘から抜いてみてくれと頼むと、リラは快く引き受けてくれた。
俺は聖剣をリラに渡す。
結果、マーシーさんが言っているとうり、リラでは鞘から抜くことはできなかった。
「俺はどうしてこの世界に来たんでしょうか?」
俺はマーシーさんの言うことを信じ、話を進めることにした。
「一週間前ぐらいに、この村に物資を届けに来た者がいっておったが、王都が新たな魔王を倒すために召喚魔法を使い、30人の勇者の召喚に成功させたそうじゃ」
「30人の勇者ですか?」
30人、それは昼休みに教室にいた人数と同じくらいの人数だ。もしかしたら輝たちのことかもしれない。
「その召喚された勇者たちのお披露目会があったそうじゃが、確か勇者のリーダーの名前はアキラ・タザトだったはずじゃ。知り合いではないのか?」
やっぱり輝たちだ。
と、言うことはみんなもこの世界にいるのか。
「俺の親友です。でも、何で俺だけ別の場所だったんでしょうか?」
俺もみんなと同じように消えたんだ。なのに何故俺はオズタートという場所に召喚されたのだろうか。
「お主だけは、特別な理由でオズタートに召喚されたのじゃろう」
「特別な理由ですか?」
「その聖剣を手に入れるためじゃ」
これから俺はどうすれば良いんだろうか? じいちゃんが日本にいるって事は、帰る手段はあるって事になる。
その手段を探すか、それとも、王都に行ってみんなに会うべきか……
どちらにしろこの村を出て行かないといけないだろう。
俺はマーシさんの方を見る。
そして、頭を下げて言った。
「お願いです。この世界のことを教えてください」
と、
行動を起こすには知識は必要だ。けれど、俺はこの世界のことを何も知らない。
だから、知る必要がある。この世界について。
「良いじゃろう……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マフカースには、大まかに五つの大陸がある。
一年は地球と同じ365日だそうだが、この世界に、四季は無い。
ただ、場所によって気候が違うらしい。
一年中雨が降っている地域などもあるそうだ。
マフカースには現在、ヒト族、エルフ、獣人、ドワーフ、精霊族、魔族の6種族が生息している。
それぞれの種族は国を持っているそうだが、その中でも精霊族は特殊だそうだ。
国の場所は精霊族にしか知らず。精霊族の国に足を運んだ他の種族は、じいちゃんとその仲間ぐらいらしい。
次にこの世界の現状だ。勇者ツバサに救われ、平和にだったこの世界は、魔族が二つに分かれた事により、再び争いが始まった。
6種族と仲良く暮らす世界に、賛成派と反対派に分かれたのだ。
反対派は新たな魔王を中心に、活動を開始し、見つけることのできない精霊族を除いた五種族を襲い始めたのだ。
当時は対処できていたらしいが、10年前、新魔王軍による被害が急激に酷くなった。
いつの間にか新魔王軍には様々な種族が所属する事なり、反対派としてはなく、ただ単に争いを好む集団へと変化していったのだ。
ギルドの冒険者が、新魔王討伐に向かったそうだが敗北。
だから、700年前にも行ったように、再び世界を平和にする為に異世界召喚が行われたのだ。
最後にこの聖剣についてだ。この剣の名称は、聖剣 アルダート。詳しい事は未だにわかっていないようだが、自身の魔力を注ぐことで本来の力を発揮する剣らしい。
俺は聖剣……というより魔剣じゃないのかって俺は思う。
俺が洞窟の中で倒れ、気を失った理由は、身体中の魔力を無意識に、アルダートに注ぎ込み、魔力切れを起こしたからだそうだ。
「お主はこれからどうするのじゃ」
俺の答えは決まっていた。
「俺は旅をしたいと思っています」
もっとこの世界のことを知らないといけない。
俺にも魔力があるなら魔法が使える。
それなら……
「旅をしながら自身の力をつけて、この世界の情報をもっと集めたいんです」
帰る方法を探しながら、強くなる。
いつかは、輝たちにも合うことができるだろう。
不安はもちろんある。ないわけがない。何しろここは日本ではない、異世界なのだから。
けれど、俺の知らない未知の世界だからこそ、この世界を見て回りたい気持ちが不安よりも強いのだ。
マーシさんは急に立ち上がり、後ろの棚から何かを取り出した。
「旅をするならお金は必要じゃろ」
そう言ってマーシさんは小袋を俺に渡す。
小袋の中には大銀貨が5枚入っていた。
「こんなに頂いてもいいんですか? 」
先程、お金についても聞いていたので、袋の中に入っていた金額をみて俺は驚いた。
マフカース通貨一枚の価値を日本円に訳すとこうなる。
大金貨 100万円
金貨 10万円
大銀貨 1万円
銀貨 1000円
大銅貨 100円
銅貨 10円
だから、大銀貨5枚は5万円の価値があるのだ。
「その代わりなんじゃが……リーラを一緒に連れて行ってくれぬか」
(一緒にって旅にってことだよな?)
そんなことを思っていると、リラが勢いよく立ち上がった。
「おばば様!?」
「わしは知っとる。あれからも外の世界に憧れ、いつも1人で森に行っておったことは」
「わしが言わなかったら、無理やりにでも付いて行こうと思っていたじゃろ?」
マーシさんの言葉にリラが“ビクッッ!”っと震える。
どうやら図星のようだ。
マーシーさんとリラは無言で俺を見てきた。
「俺も一人だと心細いし、リラだったら大歓迎です」
俺はそう言ってその場に立ち上がり、マーシさんに頭を下げた。
そして、リラの方を向く。
「リラ、俺と一緒に来てくれ!」
俺はリラに手を差し伸べた。
リラは顔を赤くしながら俺の手を握り答える。
「こちらこそ、連れて行ってください」
と、
出発は、リラの準備があるので一週間後となった。
俺はその一週間の間で魔法と剣の基礎をかじる程度にロナテーナの人たちから教えてもらえるらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして出発の日はすぐにやって来た。
俺の服装は、旅ようにとマーシさんにもらった服を着ている。
「ソラよ、これを持っていけ」
マーシさんが俺に丈夫そうな袋を渡した。
「これは?」
「それは、サフィークといってのぉ…て」
サフィークは時空間魔法が施されている魔道具らしい。サフィークの中に入った物は時間が止まるので、食料も腐らないうえに、容量や質量もなく、どんなときでも出し入れができるそうだ。
「これって、価値の高いものでは!」
時空間魔法が使える人は、この世界にほとんどいないと、前にマーシさんから聞いた。
それを魔道具にしてしまうのは、今の俺でもありえないことだとわかる。
「その聖剣を隠すのには、丁度良いじゃろ」
俺の腰には二本の剣がある。一本は聖剣アルダート、もう一本はどこにでもある鉄製の剣だ。
聖剣アルダートを隠す理由は、アルダートは見る人によっては聖剣だとわかるらしく、そのアルダートを扱うことができたら、元勇者の血縁だと言っているもので、いろいろと問題になるからだそうだ。
顔が似ているのはどうしようもできないが……
あと聖剣アルダートは、魔力の制御ができない間は出来るだけ使うなと言われた。
俺は魔力量の多いらしいのだが、魔力量の多い人が魔力切れを起こすと、一週間以上意識が戻らない可能性もある。
それは危険な事だそうだ。
俺は聖剣アルダートをサフィークの中にに入れた。
「ありがとうございます。マーシさん」
リラは村の人たちと別れを済ませて、俺の横に立っている。
「ロナテーナの皆さん、お世話になりました」
俺は深く頭を下げた後、俺たちは村の門を出る。
「ソラ行こう!」
リラが俺の腕を勢いよく引っ張った。
「りっリラ! 引っ張ったらあぶ……」
急に引っ張られたことにより、俺はバランスを崩し、そのまま石につまずいて転んでしまった。
「ごっごめん! ソラ大丈夫? 」
幸先不安だがこうして俺とリラの旅が始まった。