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生徒が年上すぎて教えづらかった(前編)

 二日目以降は、かろうじて授業はまともに機能しだした。


 ※窓には格子をはめて、ドレイクその他が入ってこないように補強した。


 ライトノベルを読んでいる生徒の数が多いので、授業内容をある程度具体的にしないといけないぐらいだ。


 どうやら、もともと日本の出版物は図書館に入っていて、最近では書籍に関しては規制がゆるくなったらしく、購入も可能になったという。


 なので異世界とはいえ生徒は、有名作品なら普通に受容しているのだ。


 とくにファンタジー小説は世界観が近いのでわかりやすいらしい。


 とはいえ、「このエルフ、いくらなんでも耳とがりすぎwww」とか「オーク、どう見ても豚で涙目」とかこの世界ならではの意見や苦情もあるのだが、俺の責任ではないので知らん。


 ということで、授業内容も漠然とした内容ではなく、けっこう細かい点を扱うことにした。


 俺は黒板に一本の縦線を引く。

「――(ダッシュ)」のつもりである。


「今日は『――』について教える。これは絶対使わないといけないというわけではないんだけど、知らないよりは知ってるほうがいいので、簡単にレクチャーするぞ」


「「はーい!」」


 生徒も専門的なことのほうが授業に集中してくれるらしいし、ちょうどいい。


「じゃあ、例文を見てくれ」


 黒板に、文字を書いていく。文字も翻訳機能があるので、日本語でOKだ。



『帝国騎士団の動きは夜の野良猫よりも素早かった。』



「これで帝国騎士団に情報を足したい場合、『――』ではさみこむように使うことがある。つまり」


 その横にさっきより長い一文を書く。



『帝国騎士団――別名、地獄の執行者と呼ばれてるぐらいだからどんなにヤバいか想像はつくだろう――の動きは夜の野良猫よりも素早かった。』



「なんて感じにするわけだ。ほかにも文末につけて、なんとなく勢いよく次の一文につなげたりとか、逆に文の冒頭に使ったりもするが、あまり規則性はないな」


 生徒の目が真剣なのがよくわかる。

 よし、今日はいい調子だ。


「では、内容を修飾するタイプの『――』を使って例文を書いてみよう」


 生徒たちは早速、黙々とノートに向き合っていく――わけではなかった。


 教室はわいわいがやがや声が聞こえてくる。もう、慣れたけどな。


 ただし、私語をしているわけではない。


 アルクス王国では、黙読という概念が浸透してないのだ。


 これはそんなにおかしなことでもない。


 日本でも戦前は声に出して読んじゃうおっちゃんとか多かったと聞く。


 現代人は黙って読むのが当たり前だからよくわからないが、声を出すのが自然である地域が存在する可能性はありうる。実際、みんな声に出している。


 でも、騒がしい以外の問題はないからいいか……と思ったら、一人やたらとよく通る子供っぽい声があって、ほかの生徒に影響を与えていた。


 小学校低学年での音楽の授業などで、大声で叫ぶように歌う生徒がいるが、あれに似ている。


 一番左の列の一番後ろ。


「ええとっ……ルトナス地方の猟師――顔に獣の刺青を入れているのですぐにそれとわかる――は、ええと、ウサギの肝を滋養強壮に効くと信じて、ええとっ、これを大切に干して残しておくっ!」


 あそこの席はシヴァ・アルカータだな。


 離れたところからだと、黒いとんがった帽子しか見えないが、極端に背が低いせいだ。


 だいたい見た目の年齢だと七歳ぐらいに見える。


 見た目の年齢ということは実際とは違うということだ。


 その証拠に名簿に経歴が書いてある。


 本名:シヴァ・アルカータ

 職業:魔道士ソーサラー

 性別:女性

 年齢:百三十七歳

 入学動機:後世に残して恥ずかしくない、名文の魔道書を作成したいため。

 備考:若返りの魔法を使っているため、実年齢より幼く見える。


 ぶっちゃけ、クラス最年長である。


 ううむ、小学校や中学校とは違うので、自分より年上の生徒がいる可能性はありうるとわかっていたが、ここまで年長者だと接し方がわからんぞ。


「あの、シヴァおばあちゃん……? いいですか?」


「シヴァでよいぞ。こちらは生徒じゃからの。それにおばあちゃんではない。ぴちぴちのムチムチじゃ」


 見た目が七歳ぐらいなのでムチムチではないが、呼び捨てでよいと許可を得たのでそれに従う。


「シ、シヴァ、よくできてるな。正しい『――』の用法になってる」


「この程度、呪文の詠唱と比べれば、余裕のよっちゃんなのじゃ」


 表現に年齢が感じられるが。日本語に翻訳されて聞こえるけど、アルクス語だと、余裕のよっちゃんの部分、どういう表現になってんだ?


「よくできてるんだけど、声のトーン下げられないかな……。ほかの奴の気が散る……」


「それはすまなんだ。まだ黙読するという風習に慣れておらぬのでな……。魔道士は詠唱によって魔法を発動させるゆえ……」


 シヴァが頭を下げた。


 完全に顔が黒い帽子に隠れた。

 そもそも授業中は帽子とれよ。


 けど、すごいこだわりとかありそうだしな。

 平安貴族も烏帽子をとられるのが侮辱だったはずだし。


「どうしても、魔道士はよく通る声で詠唱するように訓練されておるので……抑制が難しいのじゃ……ごめんちゃいなのじゃ」


「わかった。まあ、ちょっとずつお願いする……」


「では詠唱しないように練習するので横で見ておいてほしいのじゃ」


「それって、意味あるの……?」


 文章読んで感想言うようなことならできるが、黙読の訓練なんてできんぞ。


「そばにいてもらえるだけでも、黙読が意識できるのじゃ。頼む」


「わかった。立ってるだけならできるしな」

少しあとにもう一話更新します!

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