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王国での家が決まった(中編)

「中もご覧になります?」


 シーナさんは肩にかけていた小さなカバンから真鍮製のカギを取り出していた。


「もちろんです!」


 内部はかなり広々としていた。

 以前に使っていたらしい椅子や机を隅に寄せてあるせいもあるのだが。


 床や天井といった内部は木製らしい。


 おそらく、こちらの世界では高価な魔法で起動するライトも天井に備えつけてある。


 その天井だってかなり高くて開放感がある。


「もともとは銀行として使用されていた建物ですが、現在は国の所有物です。残ってる備品は明日には引き上げる予定ですが、ご入用のものがあれば、おっしゃってください」


 俺の生活水準偏差値が二十ぐらい上がった。


 これは本当に専属メイドや執事ぐらいついてくるのではないか。一生、王国で小説について教えてもいいぞ。


 堀松ひら、お前が住んでる駅前高層マンションよりいいところに俺は住む!


 つまり、俺は住居的な意味ではアニメ化作家のお前を超えたということだ!


「シーナさん、大変素晴らしいです!」


「ご満足いただけたようでなによりです! 私もうれしいです!」


「これで満足できないようなら、森の中で仙人生活でもやったほうがいいですよ!」




「では、次に先生のお住まいの建物に向かいますね」



 …………。

 ……………………。


「はへ?」


 変な声が出た。


「ここは俺の住む部屋じゃないんですか……?」


「ここは小説書き方教室の校舎です」


 にっこりとシーナさんは素敵な笑顔でおっしゃった。


 異世界という電波の入らない環境でよかった。


 でないと、ひらにお前よりいいとこに住むぞとか謎の勝利宣言の電話をかけていた危険がある。


 いやいや、まだ校舎が豪華という情報しか俺は得ていない。

 講師である俺の住居がさらにリッチ&ゴージャスな可能性だって残されているのだ。


 ――五分後。


「ここがチカラ先生のお住まい候補です」


 平屋のくたびれた雰囲気の建物が前にあった。


 一応、奥には庭があるようなのだが、手入れがされていないので雑草が生えているだけのスペースと化している。夏は虫が多そうだ。


 ファンタジー世界だから屋根も煉瓦造りかなと思ったが板葺き。


 板が飛ばないように大きな石を載せているのが侘しさにとどめを刺している。


 こういう建物を示すよい熟語を知っている。


 茅屋ぼうおく。これは茅屋だ。


「これまでマスクリフ家に仕えていた古株の使用人さんのおうちだったのですが、半年前にお孫さんの家に引き取られまして、空き家になっていたんですね」


「そうですか、死人が出た事故物件じゃなくてよかったです」


 俺は半笑いだ。


 絶望した時、人は笑うしかなくなるのだ。


「学校までゆっくり歩いて五分、商店街まで早歩きで六分、お城にも早歩きで六分、マスクリフ家の所有地でこれだけ好立地の場所はここしかありませんでした」


「ですよね。職住近接って大事ですもんね」


「見た目はボロっちいですが、水道もありますし、お湯も出ます」


「認めた! 今、ボロいって認めた!」


「すいません……事前にチカラ先生のお住まいを確認したところ、ワンルームという、あまり広くも立派でもない形式のものだったため、それに近いものを選びました……。生活環境が激変すると執筆にさしつかえがあるかと思いまして……ぐす……」


 えっ……もはや泣いてる!?


 シーナさんは顔を覆って涙声を出している。


 この家がボロいのも、彼女の好意だとしたら、俺はその好意を踏みにじったことになる。

「ぐすっ……ごめんなさい……」


 どんな理由であれ、女の子を泣かせるというのは男として恥ずべきことだ。もはや猶予はない。


「ここでいいですから! よく見たら平屋でもかなり広いし! だから、落ちこまないで! 泣く必要ないですから!」


「まあ、泣いていませんけどね」


 シーナさんが顔を上げた。ドヤ顔だった。


 当然、涙など一滴も垂れてはいなかった。


「泣き真似……。騙された……」


「マスクリフ家は武門の一族ですので、使える武器は何でも使うのが信条なのです。涙は女の武器と申しますからこんな泣いたふりも幼少の頃から学んでます」


「俺の純情はきっちり弄ばれたってわけですか」


 いっそ、校舎に住めないのか?

 いや、冷静になれ。職場と住居を同じにするとメリハリがつかなくなる。

 絶対に分けておいたほうがいい。


「あと、この建物にはちょうどいい設備があるんですよ!」


 ほう、いったい何なんだろう。


「これです!」


 平屋から庇で接続された先には、仮設住宅一棟ぐらいの小屋があった。


 空っぽだし、水道設備もトイレもないので、本当にただの箱である。


「物置ですか?」


「夢の箱です」


「はい?」


「大事なことなので、説明しますね」


 シーナさんは真面目なことを話す前置きなのか、こほんと咳払いした。


 そこからシーナさんは長々と説明をした。


「ここに、チカラ先生が所有している漫画、小説、資料、ゲーム、同人誌、アニメDVD、とにかく一切合財を保管しておいてもらうんです」


「なるほど」


「実家のものも全部移しちゃってください。もちろん、よく使う資料などはお住まいの建物のほうに置いておいてもらえばけっこうです」


「ふむ」


「アルクス王国には当然ながら、日本の文化に関するものが充実していませんので、ここを日本文化普及の拠点施設にしていただければと思います!」


「言うまでもなく、重要な場所ですから盗難などの被害に遭わないように随時この私が見回りに来ます」


「えっ!?」


「過去のものだけでなく、日本で出た新作、新刊も遠慮なく国費で購入してください。むしろ、あまり興味ないなあと思う作品でもとりあえず購入してください! 私からは以上です!」


「つまり――――本を読みに来るってことですね」


「できれば週四で来たいです」


 来すぎだろ。

今日、出かける前にもう一度ぐらい更新できればと思います。

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