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異世界作家生活<なろう連載版>  作者: 森田季節


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48/50

巨乳と真剣に向き合ってみた(後編)

「もう! 皆さん、言いたい放題にもほどがありますわ! わたくしだって普通の女の子ですわよ!」


 一応、ユサからも抗議があったみたいだったが、ほとんど効いていなかった。


「普通? その胸で?」

「普通とは」

「分けて」

「顔うずめたい」

「谷間に手を入れてはさまれたい」

「鉛筆とか折れるんじゃない?」

「女は胸じゃないって言う人はこれを見てから同じこと言えるのか聞きたいよね」

「もませてほしい」

「まずはそのおっぱいを包む邪魔なものをとるべきよね」

「そうそう、自然主義」

「かかれ!」


 なんか、とんでもないことになってる!


 そうか、同性だからこそ逆に恥じらいみたいなのがなくて、リミッターがはずれるとこういうことになるんだな……。

「シーナさん、助けてくださいませ!」


「皆さん、乱暴はダメですよ! やさしく包みこむように触りなさい!」

 触るのは容認した!?


「シーナさん、先生失格ですわ!」


「残念ですが私は先生ではありません! 女騎士です!」


 阿鼻叫喚と酒池肉林、どっちの四字熟語が正しいだろう。

 ううむ……生徒のピンチといえばピンチだが、これは加勢できない……。


 悪い、無力な先生を恨んでくれ……。

 当たり前だが、授業の準備は本当に何も手についていない。


 これで平然と作業ができてた場合、あまりにも一般の価値観からかけ離れているため、人の共感を得る小説を書くことは難しいと思う。


「わ、わかりましたわ……。では、取引をしましょう……」

 おっ、交渉フェイズに入ったらしい。

「む、胸は見せますから……その、もむのはナシでお願いしますわ……。でないとこのまま抵抗しますわよ!」


 なんか、とんでもない話になってきたぞ……。


「どうしよう?」

「この手で感じないとわからないことがあるよ。ほら先生も作家は経験が大事だって」

「しかし見ることもまた経験なのでは?」

「しかり。男子よりはるかにリアルに胸の描写ができるかもしれない」

「「よし」」


 なんか、同意する流れで決まったらしい。


「で、では…………約束どおり、は、はずしますから……」

 いかん、なぜか俺まで興奮、もとい緊張してきた……。

 また、無言の時間がやってきた。


 ……………………。

 …………………………………………。


 しかも今回、やけに長いぞ。

 もっと、眼福とか悪魔だとかテキトーなこと言うかと思ったのだが。


「っく、ひっく……うぇ~ん! うぇ~~~~ん!」


 また泣き声が最初に来た!


「イデアにたどりついてしまったですう……。みんな、みんな、無益なことをしていたですう……」


 そのあと、ぞろぞろと階段を降りていく音がした。

 解散になったらしい。結局何が起こったんだ? ある意味ミステリーだぞ。

 そのあと、コンコンとドアがノックされて、そのまま開いた。


 わかってたけど、シーナさんだ。


 なぜか、すごく真面目な顔をしていた。

 今から国際会議に出ますみたいな顔だった。


「チカラ先生、終わりました」

「あ、そうみたいですね……。あの、生徒の卒業を見届けた教師然とした表情なんですけど……」

「私は間違っていました」


 間違った発言を多数していたとは思う。


「巨乳キャラがどうとか、ついつい日本のフィクションの価値観に自分のものの見方を誘導されていました。つまり、フィクションに慣れすぎて、現実をありのままに見る準備を怠っていたんです」


 哲学者みたいなことを言い出したぞ。


「本当に素晴らしいものは言語化できないんです。言語化しようとすると、その体験は逃げてしまう。だから感じるしかないのです。それを私も生徒さんたちもわかっていませんでした。それで言語上の仮の概念みたいなもので代用していたのです」


 今度は禅の僧侶みたいなこと言い出したぞ。


「だから、あれは文章にはできない。チカラ先生、あなたの負けですよ」


 よくわからんが、負けたことにされた!?


 それからシーナさんは去り際にこう言い残した。

「いいおっぱいを見なさい。人生観が変わりますよ」


 仕事する気にもなれなかったので、早めに学校を閉めたら、街中で憔悴しきってるユサを見つけた。


「あっ、先生、お疲れ様ですわ……」

 いや、お前の顔のほうが明らかに疲れてるんだけど。

「今日の昼飯はおごるぞ。ちょっとリラックスしろ」


「では、お言葉に甘えますわ……」

 できるだけ広々としたお店にしよう。くつろげるところ。


「先生、胸を小さくする技術というのは日本にありますの? わたくし、今日は胸に振り回されましたわ。ちなみに、胸を振り回したんじゃありませんわよ……」


 俺はいい笑顔で首を横に振った。

「お前はありのままでいい」


「でも、その……今日、わたくしの胸を皆さんがとても真摯な姿勢で見つめる時間があって……その……はやし立てられたりする時より何倍も恐ろしかったんですわ……。礼拝するような人までいて……」


「気にするな。胸を張って生きろ」

「これ以上、胸を強調する生き方は嫌ですわ!」

 言葉どおりの意味ではない!


 その日から数日、女子が全体的に賢者モードぽい雰囲気だったので不気味でした。

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