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異世界作家生活<なろう連載版>  作者: 森田季節


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天才は教育に向いてなかった(前編)

 その日の授業、俺はなんとなくごきげん斜めだった。


 理由は特別講師がちやほやされているからだ。


「え~と、本日、王国書き方教室にゲスト講師として参加させてもらいます、堀松ひらです。よろしくね」


「アニメ化した作家さんだ!」

「すごい売れてる人だよね!」

「全部読んでる!」


 いつもよりも生徒たちの目がきらきらしている。


 くそ! 修学旅行で東京に来て芸能人を見た地方中学生みたいな瞳をしおって!


 俺は横でふてくされた顔をして、様子を観察していた。


 シーナさんに「せっかくだから、ひら先生もゲストに呼びましょう!」と言われたら、雇われている側としては嫌とは言えない。それに普通に考えて、生徒にいい刺激にもなるし、許可せざるをえない。


 とはいえ、うらやましいのは事実である。


「そ、それじゃ、今日は堀松先生に何でも質問してやってくれ……。きっと、俺の知らない話をいろいろ知ってるからな……。なにせアニメ化してるからな……。今やってる小説もアニメ化しそうだしな……。俺とは格が違うだろうしな……」


「なんで、あんた、そんなに卑屈なのよ!」


「仕方ないだろう。アニメ化とはそういうものなのだ」


 たとえば、お相撲さんが役力士(小結とか関脇とか大関とかいった地位)のポジションについたら、ほかによほど問題を起こさない限り、力士として成功したと言われるだろう。


 ライトノベル作家におけるアニメ化もそういう感じのものなのだ。作家の両親や友達も、「ああ、こいつはそれなりの成功をおさめたんだな」と考えるだろう。


 アニメ化してない俺は所詮平幕力士なのだ。前頭九枚目ぐらいである。

 ※相撲が好きなので、相撲で表現しました。


「はい、チカラのことは無視して、何か質問あったらどうぞ」


 一斉に手が挙がる。


「はい、あなた」と手前の生徒をひらが指差した。


「あの、書いてて楽しいシーンの時はいいんですが、あまりいいなと思えないシーンの時はなかなか筆が進まないんです。堀松先生はこういう時、どうしますか?」


 ああ、筆が乗らないシーンもあるよな。


 そういう時は、これすごくつまらないんじゃないかと自己嫌悪になったりもする。たしかに切実な問題だ。


「え? つまりあまり楽しく書けないシーンがあるってこと?」


 きょとんとした顔になるひら。


「は、はい」


「なんで、楽しく書けないのに、小説家とか目指してるの?」


 ナチュラルにこいつ、聞き返した!


「え、堀松先生は何でも楽しいんですか……?」


「だって、楽しいからこの仕事を選んでるわけでしょ。苦痛だったら転職するわよ。何を書くのも私の自由なんだから、どうして楽しくないこと書くの? マゾなの?」


 生徒が青い顔をして着席した。


 こいつ、いきなり生徒の心に鈍器で殴りかかるような打撃をっ!


「じゃあ、次、あなた」


「あの、小説の新人賞に投稿していた頃って、どうやってモチベーションを保っていましたか? やっぱり落選した時は落ちこみましたか?」


 ああ、これも小説家を目指す人間なら気になることだよな。


 落選っていうことは自分の努力が無駄だと突きつけられる瞬間だ。しかも、交通標語みたいなのと違って、長編はすぐにできるものでもない。二か月、三か月、あるいはそれ以上、それなりの時間を注ぎこんだものがボツになるのだから怖さもある。


「私、最初に書いた小説で大賞とったから、よくわかんない」


「そうですか……」


 また生徒が青い顔で座った!


「あとさ、世の中に仕事って無数にあるしさ、一次選考で落ちるようだったら向いてない可能性高いから、やめたほうがいいよ。もっと向いてる仕事あると思うよ」


 おい、座った生徒になんで追い打ちかけてんだよ! そこは教師らしく夢を諦めるなとか言えよ! 初対面から引導渡してどうすんだよ!


 少しばかり危惧があったのだが、それが形になっている。


 ひらは天才型の作家なのだ。


 そこそこ本を読むのが好きな奴が小説を書いて送ってみたらプロになってしまった、言ってみればそれだけなのだ。


 だから、イチから小説について学ぼうとして教室にまで通っている生徒の気持ちなど、まったく理解できない。過去に居酒屋でこう言ってたことすらある。


 ――デビューしたいんだったら、デビューすればいいのに。


 これが、ひらの価値観なのだ。マジで。


 怖くなったのか、まだ当てられてないのに手をひっこめた生徒がいた。


 それでも手を挙げ続けている生徒に俺は教室の横からそっとエールを送りたい。


 生きろよ……。俺はお前たちの味方だ。


「じゃあ、次はあなた」


「尊敬する作家さんは誰ですか?」


「作家って尊敬するようなものなの?」


 だから質問に質問で返すの、やめろや!


「えっ……誰かにあこがれたりとかってないんですか……?」


「だって、文字ぐらい教育受けてれば誰だって書けるでしょ。でなきゃ、こんなに作家いないわよ。過去に新人の本も一応読んだりもしたけど、ぶっちゃけ大半はザコだなって感じだったわ。これだったら自分もいけそうって、ほっとしたのはあるかな」


 いや、ひらの言うことも少しはわかるぞ。プロになるつもりだったら、プロに必要以上に心酔するべきではない。なぜなら「神」と崇めてしまうと、超えられなくなってしまうからだ。神にあこがれて神より偉くなろうとする信者はいない。


 所詮同じ人間が書いたものだから俺でもできる、俺のほうがむしろ上手いと思うぐらいの不遜さが必要だったりする。


 けど、言い方ってものがあるだろ。


「たとえば、この作品とかってどうでしたか……? 私、すごい好きなんですけど……」

 生徒がいくつか有名作品の名をあげた。


 おそらく、尊敬している作家の作品なんだろう。


「読んでないから知らない」


 コミュニケーションとは何かについて、今度授業でやろう。


 あんなに活発だった教室が知らないうちに暗くなっている。


 俺は子羊の群れにドラゴンを放りこんでしまった……。


「なんか手を挙げる子、減ったわね」


 くそ! 授業後に説教したいが、こいつのほうが売れてる上に社会的にも成功しているので、俺からの小言に説得力がない! 個人事業主は性格が破綻しててもどうにかなるケースがあるのだ!

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