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異世界作家生活<なろう連載版>  作者: 森田季節


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30/50

地下室に監禁された(前編)

 その日の授業も無事に終わった。


 ただ、ぶっちゃけ意識が授業の外にいってる部分もあったので、そこは反省だ。


 ちなみに今日は金曜。土日と二連休である。王国の言葉では聖人の名前をとって、ニキ曜日とか、コー曜日とか言うそうだが、異世界移動用のトンネルにかかってる魔法のおかげで土曜日や日曜日という言葉で通じる。


 なお、言葉は通じても時間的なズレはあるので、たとえば王国の土曜日に日本に戻ると日本は水曜日だったりするのだが、まあ、時差のようなものと思えばいい。


「土日は缶詰めになったほうがいいな」


 黒板に貼った授業用の紙をはがしながら、無意識のうちにつぶやいていた。


 授業に集中できなかったのも、そのことと関係がある。


 シリーズの合間に、急遽、単発の仕事が入ったのだ。


 同時並行でできなくもないが、多少スケジュールが過密になる。


 それに久しぶりの全力投球が許されている媒体だったし、気合いも入っている。


 自分が元々好きだったジャンルに純粋に挑戦できる機会を得たのだ。


 これまでにライトノベルと呼ばれてきたものの中にも、内部でいくつかのジャンル内ジャンルのようなものがある。学園ラブコメもあればファンタジーも、ヤングアダルト的な色合いの強めのものも、人がよく死ぬかなりノワールなものも、ライトノベルというタグで呼ばれていた。


 そして、ジャンル内ジャンルの中でもはやりすたりがある。たとえば現代世界を扱った学園ラブコメが全盛期だった時期はあるが、それがファンタジー中心に変わったりした。


 正直言って、時流からずれたものを出すのはリスクが高いので出版社も避けたがる。「今、魔王って単語はタイトルに入れないほうがいいですよ」とか普通に言われる。出版社も営利企業なんだから当然と言えば当然だ。永久に赤字を垂れ流すわけにはいかない。


 そして、今回はジャンル内ジャンルの中でも、ガチで鬼門の百合要素が入ったものの依頼だったのだ。


 はっきり言って売り上げはふるわないことが多く、最近だとまず世に出ない。


 百合系要素の入った小説はかなり好きだ。というか、百合を意識する前から、なんとなく女性同性愛っぽい要素は自作の中にあった。デビュー作もそんな雰囲気があった。


 俗に、デビュー作にはその作家の描きたいものがすべて入ってる、という。


 ということは百合も俺がやりたいものの本質の一つなのだろう。


 そんなチャレンジングな企画をもらったのだから、売り上げ度外視でやりたい。


 となると、集中できる環境がほしいのだった。


「缶詰めか。シーナさんに部屋でも借りようかな」


 シーナさんだったら、屋敷に余った部屋ぐらい持ってそうだし、そうじゃないとしても、なにかしら融通してくれるだろう。


 あるいはこの学校に籠もるというのも手の一つではあるな。


「それなら、よい案があるぞ」


 声がかかったので黒板から前に振り返った。


 普段より視線を下げないといけなかった。声の主がシヴァだったからだ。


 小学校低学年程度の身長と容姿なのだ。実年齢は百歳を超えているのだが、魔道士ソーサラーの魔法か何かを使っているらしい。



「聞いてたのか。よい案って何だ?」

「わらわの魔法工房には空き室もある。そこで缶詰め執筆作業をすればよいのじゃ。王都の喧騒からは遠い場所じゃし、ちょうどよいぞ」


 王都の喧騒といっても、新宿とか渋谷のデフォルトが祭りみたいな状況と比べるとたいしたことないのだが、この世界では大繁華街なのだ。


 少しばかり迷った。


 たしかに今からいちいちシーナさんに頼むのも手間をかけるし、しかも前日に頼むわけだから、余計に迷惑だ。その点ではシヴァの話は渡りに船だ。


 だが、女子生徒の家を借りるというのはどうなのだろう。


 教師としての職業倫理としてよいものなのか。


「どうも悩んでおるようじゃの」


 シヴァと、あと帽子から出てきた目が俺の煩悶を観察していた。できれば帽子の目はあまり出現させないでほしい。これと目が合うと力が削られるのだ。


「まだ男子の部屋ならいいんだけどさ。女子の部屋はな……」


「よもや、師はペドフィリアなのか?」


「違うわ!」


 ロリコンよりハードな単語だぞ! 肯定したら社会的に死ぬ!


「別に恥じることはないぞ。高名な魔道士にもペドフィリアは何人かいたし、少女を好きこのんで生贄に捧げたマトラス地方の山岳僧侶もおった」


「もう、山岳僧侶は根絶やしにしたほうが世界に平和が訪れると思う。あと、俺の性癖は最低でもリアルではノーマルだ」


「つまり、幼な子には興味ないということでよいのじゃな」


「そうだよ。さすがにそこまで壊れてない」


 そこでシヴァは、にぱっ!、と快活な笑みを浮かべた。


 まさに見た目相応の幼女的スマイルだった。


 きっと保育士さんなどはこういう表情を見たくて働いているのではなかろうか。中身は百三十七歳だけど。


「だったら、何も問題なかろう。わらわは見てのとおりの子供の姿であるしの。師の五倍以上生きておるから人生の先輩じゃ。ここは先輩の言葉を聞いてみてはどうじゃ」


 ううむ、断る理由もなくなってしまった。


 俺は首を縦に振った。


 ――翌日朝。


 俺は馬車鉄道(といっても馬じゃなくて変な動物だが、面倒なので馬車と呼んでいる)を乗り継いで王都郊外のターテの森というところで降りた。


 昨日、シヴァが書いてくれた地図を見ながら歩く。


「停留所から徒歩十分ぐらいか」


 十分ならぎりぎり駅前と言えなくもない距離だが、馬車鉄道の道以外は、まともな広い道もないところで、すぐに薄暗い森に入った。


「こんなところ歩いていって本当に大丈夫なのか……?」


 怖くなって引き返そうか迷いだした頃に、ちょうど巨大な三角屋根が見えた。


「密室殺人とか起こりそうな外観だな。ある意味、魔女らしいけど」


 こんこんとドアをノックすると、すぐにシヴァが出てきた。


 いつもの黒いローブにとんがり帽子の格好だ。


「おお、よく来なさったの。ささ、部屋は用意しておるので、こちらへ」


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