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異世界作家生活<なろう連載版>  作者: 森田季節


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昼食代が浮いた(前編)

「ミクニ、お前、文章を書くこと自体はできてるけど、リズムが悪い。全部、過去形で揃えすぎだ。たまに現在形を入れたりしろ」


「そ、それぐらいわかってるですう……。お前ごときに言われるまでもないですう……」


「わかりました」の代わりに 文句が返ってくる。


 が、それでもちゃんと言われたところをミクニは修正する。


 作家志望者の中にはひとりよがりの世界で完結してしまって、他人の意見にまったく耳を傾けない奴もいるが、ミクニはそういうタイプではない。


 ちゃんと成長可能性を持っている。


「あと、一文が長い傾向がある。一行で収まらないような文章は基本的に長すぎ。もちろん、はわざと全然改行しない作家もいるし、文体次第だけどな」


「それも今からやろうと思っていました……。よ、余計なお世話ですう!」


 また、鉛筆で「みじかく!」と書きこむミクニ。


「そっか。悪いな。余計なお世話もしないと授業料がもらえんのでな」


「ふん! どうせお前に教えてもらることぐらいはすでに知ってるですう!」


 だんだんとミクニの扱いにも慣れてきた。


 あと、ミクニも成長してきた。


 最初のうちは、書く能力が表現したいことに追いついてなかったが、徐々にその差が埋まってきた。


 ミクニだけじゃなく、クラス全体のレベルも高くなってきている。


 この調子だと、プロットの授業をしたうえで百ページの中編を書く授業に入らせてもいいか。


 授業時間だけを使って百ページ書かせるわけにはいかないから宿題になりそうだけど。


 野良ドレイクもそんなに校舎の窓に当たらない季節になったらしく、比較的平穏だ。


 ――ぐい、ぐいぐい。


「なあ、お前、聞きたいことがあるですう」


 ミクニが俺の裾を引っ張ってきた。


「最近、授業のあと、講師控室に残ってるのはなんでですう?」


 そうやって残って一人で作業しているのは事実だった。


「放課後も仕事があるのが教師なんだよ」


「一丁前に教師ぶるなですう。今日も残るつもりですかあ?」


「そうだな、小一時間はな。なんだ、マンツーマンで専門的に教えてほしいのか?」


「ザコが頭に乗るなですう」


 こいつ、罵倒語の語彙ばかり豊富になってきてるな……。



 そのまま無事に授業は終了した。


 授業のあと、俺は二階の講師用の部屋に入った。


 プロットの説明用にポイントを箇条書きした紙を作成するためだ。


 黒板に貼り付ければ、直接文字を書く時間が短縮できる。


 自宅で作ると持ってくるのを忘れる危険もあるので、ここで用意できるものはすませてしまったほうがよい。まあ、急いで戻れば間に合うほどの近距離なのだが。


 プロットの教え方は、はっきり言って、難しい。


 というか正解など多分ない。


 ベタベタな二時間のアクション映画みたいなものの作り方は教えられるが、それだけが正解だと誤解されても困る。


 かといってハードSFやミステリのプロットなんて俺が教えてほしいぐらいだし。


 そもそもプロットは小説を書くための設計図でしかない。


 設計図があることとビルが建つことが別であるように、プロットだけ完璧になっても意味がないのだ。


 なかにはテキトーな設計図で書ける奴も、設計図なしで書ける奴もいる。


 そういう奴には、もしかするとプロットの授業自体が不要である可能性もある。


 なので、最終的には個々人にあった設計図の作り方を習得してもらうしかないが、とはいえ、一般論を教えることにも意味はあるだろう。


 なにせ、ここは学校なのだから。


「そのあたりは授業中に話せばいいか……」


 正確に、完璧に教えるなんて、小説ってジャンルの時点で無理だしな。


 四十分ほど作業をしていると、ぐぅ~と腹が鳴った。


 昼食を食べてないから当然か。


 もうちょっと時間が経てば街の食堂がすいてくるし、あと十五分ほど頑張――


 ――とんとん、とんとん。


 ドアがノックされている。いったい誰だといぶかしみながらドアを開けた。


 そこにはミクニが立っていた。


「お前、何しに来たんだ? もしかして居残りして書いてたのか?」


 自分のプライドに見合うところまで自主的にやってたなら、かなり偉いぞ。


「違いますう。授業が終わるなりすぐに家に帰ったですう」


 そういえば、ミクニはなにやら大きなリュックのようなものを背負っている。


 こんなの、小説書き方教室には絶対にいらんだろう。


「お前、食事はまだのはずですう」


「うん、もうちょっとやったら食べにいくつもりだった」


「……なら、よかったですう」


 ミクニはリュックをおろすと――


 中からたこ焼きを焼く機械と、炎の魔法が出るコンロを取り出した。


「ここでクラーケン焼きを作ってやるですう……。昼食代わりにでもすればいいですう」


「あぁ、前のイベントでやってたやつだな。うん……ありがとう……」


 生徒に料理? を作ってもらうという、妙な展開になった。


「お前、そのたこ焼きプレート、もしかして自前なのか? イベントで機材借りてただけだと思ってたけど……」


「シーナという女騎士の私物ですう」


 あの人、何でも持ってんな!


「けど、どういう風の吹き回しなんだ?」


「無粋なことを聞く男ですう」


 何を聞いてもだいたいバカにされる。


「クラーケン焼きを自主的に練習中なのですう。これなら両親にもふるまえるのですう。練習といっても、食べさせる相手がいないと張り合いがないですからね。以上、非の打ち所のない説明ですう」


「非の打ち所がないから、逆に説明くさいな……」


「……っち。黙って死にやがれですう。それ以外の他意はないですう。あんな程度の低い授業なら感謝する必要はありませんし。今日指摘されたところも、すでに把握してたところですし~」


「へいへい」


 誤読の恐れもあるが、これは感謝されてると解釈していいのかな?


 いや、いいようにとりすぎか。


 こんな小説家ごときに教えられてしまったから、天秤を戻すために飯でも作ろうとしているのかもしれん。


 どちらにしろ、食べに行く手間が省けるならありがたい。


 ミクニは小麦粉を溶くと、たこ焼きプレートに投入していく。


「お前、こういうの上手いな」


「我が家は両親揃って王都から三十キロほど離れた鉱山で働いてるですう。ミクニと弟のごはんは、自分で作るのですう」


 こいつ、けっこう苦労してたんだな。


「鉱山作業は若いうちはいいですが、年をとってくると大変ですう。だから、小説で一山当てて両親を楽にしてやりたいのですう。小説なら十代でデビューしてお金を稼いでる者もいるはずですう。体が小さくて肉体労働に向いてないミクニにはちょうどいいですう」


 うわ、なんか、すごくいい話になってる。


 そうか、カルチャースクールの気分じゃなくて、本気でお金稼ぎたい奴もいるんだな。


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