王国のオタクイベントに行った(前編)
土曜日、朝からドアがノックされた。
「来たわよ。四秒で支度しなさーい」
さすがに無理だろ。
外で待っていたのは堀松ひら。
最近、(迷惑なことに)日本から引越してきたライトノベル作家である。
「それじゃ、行くわよ。――って、あんた、王国の服は着ないのね」
「すでに持ってる服を使えばいいだろ。むしろ、お前のほうこそ順応が早すぎる」
ひらはサブカル女子が着ていそうな、布をぐるぐる巻いたような赤い服を着ていた。
中東系っぽい雰囲気も少しある。
王国ではこういう服を着ている女性も多い。
「ほら、どうせならこういうファッションも試したいし、あと……チカラにも見てもらって感想聞きたかったていうか……」
なんで、こいつ、ここで顔赤らめてるんだ。風邪か。
「お前、風邪だったら無理していかなくていいぞ。風邪薬、やろうか」
「風邪じゃないわよ! ほら、チカラ……こういう服って似合う、かな……?」
「その服っていくらしたんだ?」
「値段から聞かないでよ! 似合うかどうか聞いてるのに、値段に興味持つな! 『YES』か『はい』で答えろ!」
「似合うとしか言わせないのかよ……。いや、お前の年収だったら高い服、買ったのかなとか」
「だから金銭面以外に興味持ちなさいよ!」
「赤い色をしてるな」
「小学生未満の感想か!」
「俺がファッションなんて知るわけないだろ……。似合うか似合わないかで言えば、似合うんじゃないか?」
「じゃあ……チカラ、かわいいと思う?」
「業界で俺の数倍稼いでる奴なんてかわいく映るわけないだろうが。敵だ、敵」
「死ねっ!!!!! 初版部数下がれ!!!!!」
マジで足を蹴られた!
「お前、木靴履いてんじゃねえか! それで蹴るの痛いからやめろ!」
「王国仕様にちゃんと合わせてるのよ!」
「まあ、お前は顔はいいから、そういう意味ではかわいいんじゃないか」
「なら……許す」
どうにか許された。
女子だからって男をいきなり蹴るとかやっちゃダメだと思う。
「それじゃ、とっととお祭りにいきましょ」
そう、今日はお祭りの日なのだ。
といっても、祭礼という意味ではない。
もっと気楽なフェスティバルである。
王都の大通りに行くと、なかなかにぎわっていた。
その中央の噴水のあたりには特設会場ができていて、看板もかかっている。
第一回アルクス王国 日本文化の会
日本文化と書いてあるが、和食を食べるコーナーも、歌舞伎を見るコーナーも、盆栽の展示もなく、あくまでも漫画やアニメ中心のイベントである。ちなみに盆栽の主要生産地は香川県だ。土産品を売ってるところに盆栽置いてる店もある。
「あっ、チカラ先生とひら先生ですね! お越しくださいましてありがとうございます!」
シーナさんの声だ。
「うわ、またすごい格好してますね……」
シーナさんはメイド服姿で、なぜか垂れたウサ耳までつけていた。
本来の英国メイドではなく、日本で謎の変貌を遂げたメイドのほうである。
その格好でどうやらチラシみたいなものを配っていた。
チラシには「もっと漫画に予算を!」と書いてある。
こんなの、政府の人間が活動していいのか。思いっきり、政治活動だぞ。
「こういうのは楽しんだもの勝ちですから!」
「そうね、楽しまないともったいないわ。その精神は尊重する。自分が楽しくない小説なんて一行だって書いてもしょうがないもの」
偉そうなことをひらが言った。
こういう発言は売れてる人間が言ってこそ説得力がある(なので説得力がある)。
ぶっちゃけ、言葉って誰が言うかなんだよなあ……。俺が言っても、「じゃあ、他社でやってください」って言われたら頭下げるしかないもんなあ……。
「チカラ先生には黙っていましたが、生徒さんにもコスプレなどで参加してもらっています!」
「あ~、あんまり生徒に変なことさせないでくださいよ……」
シーナさんはオタクとして訓練されているので大丈夫だが、すべての人間がそうではない。
無理矢理変なコスプレさせて、オタクにネガティブイメージを持たれても困る。
「その点なら問題ありません。私が厳選しました」
厳選ってどういうことだ?
ぶっちゃけ、すでにいやな予感しかしないのだけど。
「では、厳選したコスプレイヤーさんたちの数々をご覧ください!」
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