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異世界作家生活<なろう連載版>  作者: 森田季節


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19/50

ご近所さんに出会った(後編)

「もしかして、チカラ、あなた、ここで本を出せば、王国トップのラノベ作家になれるとでも考えてるんじゃないでしょうね?」


「お前を俺を疑ってるな。ふざけるな。そうに決まってるだろ!」


「潔すぎるぐらい、すぐ認めたっ!」


 すぐばれそうだし、「ああ、こいつ、痛いこと考えてるな」とずっと思われるのも癪だ。


「同期に痛い人扱いされるのはつらいからな。そうさ、俺はな、ここならオンリーワンもナンバーワンも狙えると考えたさ! プロチームの補欠よりも、草野球の四番を選ぶ! それが俺の生き方だ!」


「そっか、なんか悪いことしちゃったかもね……」


 俺はその場で力なく崩れ――かけた。さすがに本当にへたれこんだりはしない。


「くそ……小説の世界で異世界無双ができると思ったのに、俺より売れている奴が来てしまった……アニメ化作家だけ殺せるマジックアイテムないかな……」


「あなた、思ってること、もうちょっと心で留めておいたほうがいいわよ……」


「つーか、なんでこんな豪華な家なんだ……。居住環境ですでに負けてる……」


 豪奢な二階建てと築何十年かもわからんボロボロの平屋では比較するのもおこがましい。


「ああ、これ、自分のお金で借りたの。家賃は月に日本円で十五万円ぐらい」


 自分の日本在住時の家賃と倍以上違っていた。


 深く考えるのはやめる。


「でもさ、お前、ファンタジー世界には難色示してなかったか?」


 こいつ、引越しの手伝いをしてくれてた時、信じられないという顔をしていたはずだ。


 あれから、二か月ぐらいしか経ってないのに自分が移住するってどういうことだ。


「それは、その……つまり……そういうことよ……」


「何一つ伝わらんぞ」


 まずいことだったのか、ひらの態度がぎこちなくなっている。


「同期の作家がどんな生活してるか気になったっていうか……あなたが一人で異郷の地に住んでて心細くなってないかなというか……」


「ウソをつくな。俺への妨害のためだろう。すべてわかっているぞ」


 あっ。かなりイラっとした顔に変わった。


「イラッ」


 わざわざ口でも言った。


「あんた、他人が人生かけて邪魔しようとするぐらい偉い存在だって思ってるの?」


 俺はよろけて郵便受けにもたれかかった。


 本当にダウンするぐらい心に傷を負ったのだ。


「あれ、なんかごめん! なんかよくわからないけど、傷つけた流れ!?」


「レベル五十の勇者がスライムに会心の一撃喰らわせたみたいなことになった。あのさ、本当にそれ、人権問題だよ」


「心に闇、抱えすぎでしょ」


 通行人の目もあるので、どうにか立ち上がる。


「まあ、真に残念だがお前が残念ながら引越してきたことは残念なことにわかった。は~、残念残念」


「どんだけ残念なのよ!」


 事実なのだから、仕方あるまい。


「さて、俺も散歩の続きをするか。パジャマのまま話に付き合わせるのも悪いしな」


「あっ、多少は気づかってくれるんだ。このまま、大通りに出ようぜとか言うのかと思った」


 俺の評価が低すぎる。


「ねえ……せっかく家も近いことだし、今度、またうちに遊びに、き、来たら?」


 わざわざ顔を横に向けて、ひらは言った。人を呼ぶなら、ちゃんと正面向いて言えよ。


 とはいえ、それは置いておくとしても――


「まずくないか? だって腐っても、女の一人暮らしだぞ……」


 ひらとは、たしかに長年の付き合いだが、家に行ったことまではない。


 これはごく普通のことだ。


 同業者と友達は違うので、男同士でも相手の作家の家に実際に行くということはほぼない。


「でも、この国に数少ない日本人の、しかも、同業者なんだしさ……」


「ううむ……。ひらが気にしてないなら俺はかまわんが……」


「じゃあ、 た、たとえば、今晩あたりは……」


 たしかに今日は休日だし、徒歩圏内だし、女子の家といってもこいつだしな。


「わかった。それじゃ、今日行く。何時だ?」


「ほんと? ちゃんと来てね! 部屋、掃除しとくからね!」


 こいつ、妙にうれしそうだな。


 実は異世界で心細かったのだろうか。


「よ~し、せっかくだから模様替えもしちゃおっかな……」


 どんだけ気合い入れてもてなす気なんだ。もしや、パーティーとかするの好きな人種か? リア充なのか?


「ご近所さんみたいなもんだしな。言われた時間に行くぞ」


 ひらと会うのは居酒屋が多かったが、こうも家が近ければ、家呑みもありか。


「そうね、じゃあ、夜の八時頃――あっ、ダメだ」


 ひらがきまりの悪い顔になる。


 これは先約でも思い出したな。


「ごめん、今夜はばたばたしてるんだ」


「いい、いい。別に近所だし、日ぐらいいくらでも改めれば――」


「明日から台湾でサイン会あるから、少し早目に起きなきゃ……」


「イラッ!」


 俺はあえて口に出して言った。マジでイライラしたのだ。


 他国に呼ばれるというのは、作家ステータスの一つなのだ。有名じゃなきゃ絶対に呼ばれることなどないからな。


「ふん! 勝ち組アピールしおって! ああ、好きなだけ楷書でも隷書でも甲骨文字でも好きな書体でサインしたらいいわい! 俺は異世界の地でのんびり一人酒でもしとるわ!」


「えっ!? なんでひがんでんの?」


「俺だってな、いつの日か、台湾でサイン会してやるからなっ! お前の家には、俺が外国のイベントに呼ばれるまで行かん!」


「ちょっ! そんなの一生ないかもしれないじゃない! 変な目標やめてよ!」


「俺は負けんからな! 覚えてろよ! 次に会った時には俺はビッグになってるからな!」


 ※散歩の帰り、普通にまた、ひらに会ったので、公言した内容は失敗に終わりました。


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