貴族の食事はやっぱり美味かった
今回フラグっぽいですが、ぶっちゃけフラグです。
小説書き方教室の授業時間は朝八時四十五分スタート、途中十五分の休憩をはさんで、十二時に終わる。
都合三時間が一日のカリキュラムである。
大学の講義だと二コマ分に相当する。土日は休み。
じゃあ、昼は何をしてるのかと言われそうだが、次回以降にある授業の用意などをしていたりする。
黒板に文字を実際に書いてみて感じたが、あれはけっこう面倒だし時間もかかるので、事前に紙に書いて吊り下げる方式をとろうと思う。
どうせ授業をするのなら、生徒に高密度なものを提供したい。
さらに余った時間は本業の小説執筆の時間に充てている。
これまでも午前はだらだらしていたので、今のところ、原稿が遅れるような気配はなかったのでよかった。
それと、日本用の小説執筆の合間に、王国初の本格的ライトノベルを書いている。
ライトノベル自体は王国に入ってきているので存在は子供世代に知られつつあるし、習作のようなものを試している人間はいないこともないらしい。
だが、ライトノベルに習熟しているわけではないから、商品価値は高くないのが現状だ。
そこで、今、俺が真剣にライトノベルを書いて、それを上梓すれば、アルクス王国史上初の文句なしの完璧なライトノベルになる。
歴史に燦然とその名前が輝くのである。
発売一週間しか平積みになってなくて、あとは棚差しで見向きもされないことはないのだ。
正直、日本では本のサイクルが早すぎるのが、作家にも読者にもマイナスになってると思う。
お前の本が百年後も読まれてるぞと言われるのと、一週間で忘れられるよと言われのとどっちがやる気になるかと言えば前者に決まっている。
クオリティも無意識のうちに上がるのが人情だ。読者もいい読書体験が得られやすい。
小説を書いてお金をもらうのが小説家だから実践は極めて難しいが、商業主義から一定の距離をおくことが結果的によい小説を発表することにつながるのだと俺は思っている。
最高のライトノベルを、長谷部チカラの最高傑作を書いてやる。
堀松ひら、お前がどれだけ日本のラノべ業界で頑張ってもせいぜい十番手や二十番手だ。
なぜなら、二十年前とか、無茶苦茶本が売れた時代の先人をセールスで抜くのは能力とか以前にほぼ無理だからだ!
だが、俺は王国の一番手になるのだ!
たしかに、お前が最近出した『サイトル帝国の酒場を旅する』もアニメ化ぐらいはしそうな売れ行きだけど……悔しいけど……悔しくない!
――などということを考えながらも、話すのは授業のことだが。
休日、俺はシーナさんの邸宅で一緒に食事をしていた。
「へえ! それでは授業と執筆は同時並行で進められているわけですね! さすがです!」
シーナさんは両手を合わせて「いただきます」みたいな格好で俺を褒めてくれた。
夕食は原則、商店街で適当なものを買ってきて、ボロい自宅で食べているが、たまにシーナさんがマスクリフ家に食事に呼んでくれる。
今、並んでいるのは家専属の料理人が作ってくれたものである。
「早く王国からもたくさんライトノベルや小説が出るようになってほしいです。楽しみです!」
香草が載ってるのは臭みを消すためなのだろう。たしかに肉の旨味だけが残ってる。
「そうだ、最近はシーナさんは何かライトノベル読んでいますか?」
参考までに聞いておこう。
この人はガチなオタクだし。
「やっぱり、『サイトル帝国の酒場を旅する』ですね」
それ、ひらが出したやつ!
「まだ二巻までしか出てないけど、斬新ですごく面白いです。この重版のペースだとアニメ化企画進行中じゃないですかね」
「ごほっ、けほっ、ごほっ!」
「どうしました? 葡萄酒がお口に合いませんでしたか……?」
「いえ……ちょっと作者に心当たりがありまして……」
一応内容紹介をしておくと、『サイトル帝国の酒場を旅する』は居酒屋ライターがサルトル帝国という異世界の大国家に入りこんでしまい、そこで居酒屋ライター業を続けるという食事系ライトノベルである。
きっちり今、流行の食事要素を入れて、売ってきたあたり、抜け目がない。
なんとも小憎らしい。何割かは本気で憎い。
デビュー直後は、俺とひらはどちらも期待の若手として評価もされたのだ。
しかし、俺のほうはマニア的評価で終わってしまった。
編集さんに「こんなんじゃ売れませんから、もっとわかりやすくしましょう。長谷部さんの小説はグロすぎるし、鬱すぎます」と言われて、少し作風を変えて、今に至る。
なかには魔改造という読者もいたが、それは言いすぎだと思う。
だって、実際に初期作品は売れてなかったからな。
「魔改造」後の作品のほうが、俺の小説の中でも売り上げがいいのが答えになっている。改造自体に意味はあったのだ。
もうちょっとたくさん売れてくれればもっとありがたいのだけど。
一方、ひらは「女性ラノベ作家の時点で珍しいのだから、自分が特殊なのは当然である」という謎理論を突き通して、ちょっとずれた方向性のまま、三作目でブレイクして、アニメ化した。
近著も売れていて、いまや業界を代表する作家と言っても過言じゃない。
自分はこれでよかったとは思うものの、あいつを見てるとこう考えることもある。
俺も独自の方向性のまま進んだほうがよかったかもなと。
でも、歴史にIFはないし、同人誌ではない以上、売り上げは無視できなかった。
俺は俺の選んだ道の中で、ベストを尽くしていくしかないのだ。
「堀松ひら先生と、チカラ先生は正直、どちらの方を招聘するか迷っていたんです」
なるほど……。
「ですが、私は『君に決めた!』とばかりにチカラ先生をお呼びしました!」
「ありがとうございます!」
個々は素直に礼を言う。
おかげで異世界を満喫できてるわけだからな。
「でも、堀松ひら先生にもお会いしたくはあるんですよね~」
なんか、嫌な予感がした。
まあ、異世界にひらが来るわけないから、大丈夫だよね!




