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新たな街  作者: 瑠璃
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-- ランルー 01

「ルードルフ!」




「ん? ランドルフか? 今朝エルと旅立ったんじゃなかったか?」

「ちょ。待って、先にトイレ行かせて!」




「あれ? ジークさんは?」

「ジークは城だ。で、今朝旅立ったはずがどうした? まだ旅立ってなかったのか?」

「いや。ちゃんと旅立ったよ。指輪使って戻ってきた」

「ああ、エルの呪いの指輪か」

「マジか! 呪いの指輪かのか! これ」

「どうやっても外れない上にお前とペアなんだぞ。呪いの指輪じゃなくて何だというんだ」

「……あ、確かに」

「で、旅立って直ぐに戻ってきたのは?」

「いやさ、もうトイレがさー。あれないわ。俺すでに心折れたわ」

「確か莉恵も最初の頃同じような事言ってたが……」

「いや、レベルが違うよ。ここはまだ桶に浄化の魔法陣が刻まれているだろう?」

「ああ」

「ないんだよ、浄化の魔法陣。ただの壺なんだよ」

「……」

「な、心が折れるだろ?」

「確かにな」

「しかも街中臭いし。俺速攻自分の周りに浄化の結界張ったもん」

「もんって……いい歳した男が使っていい言葉じゃないぞ」

「……」

「……」

「俺さ、浄化の魔法があるってだけで、この世界はパラダイスだって分かったよ」

「莉恵も浄化の魔法のすばらしさを一時熱心に訴えていたな……」

「王都にもさ、貧民街ってあるじゃん」

「ああ」

「あれさ、天国だよ」

「そこまでか?」

「そこまでなんだよ」

「そりゃ、心も折れるな」

「だろ?」

「しかもさ、俺の唯一、がりっがりなんだよ」

「おっ! 早速唯一と出会ったのか?」

「早速どころか、エルに世界の真ん中に降ろされたその直ぐ側にいたよ。ツバサの気配に魔物たちが一目散に逃げ出して、その中の一匹に危うく殺されるところだったんだよ。全くエルのヤツ。なにがまだ余裕あるだ。全然余裕ないほどの栄養状態だったわ」

「そんなにか」

「どうも孤児みたいでさ、家に送っていくって連れて行かれたのがでっかい木のうろなんだよ。吹けば飛びそうな屋根を掛けてさ。俺、それ見たとき泣きそうになったよ」

「……」

「しかも十歳かそこらにしか見えないのに、十五歳らしいし。生きてきて初めてこんなに旨いもん食ったって泣くんだよ。たかがサンドイッチで」

「……俺も初めて莉恵にサンドイッチを食べさせられたとき、感動して泣きそうになったがな」

「は? マジで?」

「ああ。莉恵が来るまでこの国の……いやこの世界の料理にはしっかりとした味がなかったからな。クラブハウスサンドを初めて食べたとき、みんな涙目になったぞ。あのカールさえ涙目だったからな」

「うそだろ。カールおじさんまで……」

「お前、カールの前でカールおじさん言うなよ」

「当たり前だろ。ちゃんとカールさんって言ってるよ」

「ならいいが」

「でも城下の屋台だってかなり旨いぞ?」

「それは料理顧問がレシピを公開したおかげだよ。次々とレシピを公開してな、それと合わせて香辛料の栽培を推奨して、一気に国中に味が溢れたんだよ。莉恵が来て、三年目くらいまでは凄まじかったぞ」

「へーえ」

「あとデザート関係はロッテだな。ロッテが新しいデザートの作り方を覚える度に、周りに教えたんだ。ほら王都のカフェがあるだろう? あれはミーナが作って、当初はそこでロッテのお菓子教室が開かれていたんだ」

「へーえ。初めて聞いた。でもお袋が持ち込んだ知識だろ? お袋が教えたんじゃないんだ?」

「あー。莉恵はほら、冷蔵庫から取り出すの専門だ」

「ああ。確かに。お袋ひそかにぐうたらだよな」

「お前、莉恵の前で言うなよ」

「当たり前だろ。陰でしか言わないよ」

「陰でも言うなよ」

「……」

「……」

「あとさ。名前の文字数が身分によって違うらしい」

「そうなのか?」

「平民だと二文字なんだって。ランドルフって名乗ったら、王族か上流貴族だって言われたよ」

「間違ってはいないが……」

「エルなんて七文字だから神様だってさ」

「それは違うな」

「だろ?」

「だな」

「しかも名付けられるのは魔法師だけだとかふざけたこと言って、名付けるのに金貨一枚要求するらしい。だから名前のない人が多いんだよ」

「なんだそれ?」

「だろ? 俺の唯一も名前なかったし」

「そうか……」

「俺が付けたけどね、アレクシアって」

「お前にしてはいい名を付けたな」

「お前にしてはって何だよ!」

「お前、翼を『わしし』って名付けようとしてただろうが」

「分かりやすくていいだろ」

「……お前たちの名付けのセンスは本当に莉恵譲りだな」

「違うだろ! 俺はフェンリルに『ギン』って名付けようとは思わねーよ」

「エルも『くま太郎』って名付けようとしてたし、ロルフは言うに事欠いて『竜』だぞ。そのままじゃないか!」

「分かりやすくていいだろ」

「あのな、ランドフル。分かりやすいとそのままは別物だからな」

「オヤジは変なところで細かいよな」

「……」

「そんなことよりな」

「……」

「なんて言うか、貴族と平民の間に完全に越えられない壁があるんだよ。しかも実際にあるの、壁が。ここってさ、王都に限らず街の外周に街壁があって、その中に貧民街だろうがなんだろうが、人が住んでいるだろ?」

「ああ」

「違うんだよ。街壁の中には貴族が住んで、その外に平民が住んでいるんだよ。魔物が襲ってきても平民だけが襲われるんだよ。で、その平民の住んでいるところが非常に臭いと。あれはよくないよ、絶対」

「魔力で体を調節してないんだろう?」

「そう。エルと一緒。だから絶対病気になる」

「だろうな」

「だから俺、まず最初に浄化の魔法を広めようと思って」

「そうだな。莉恵に相談すると広める優先順位が分かるかもな。聞いておく」

「ああ。頼むよ。あっあと、旨い肉料理も聞いといて」

「肉料理?」

「そう。今餌付け中なの」

「……お前。カールみたいだぞ」

「マジか! カールおじさん、ティアさんを餌付けたの?」

「いや、餌付けって言うより自分好みに育てたんだよ」

「なんだっけ。光源氏だっけ?」

「お前よく知ってるな」

「こないだエルに教えて貰った漫画にあったんだよ。妙にエロい感じの」

「あいつは日本で何をやってるんだか……」

「友達出来たって言ってたよ、こないだ」

「そうか! それはよかった。その友達があの笑い方を直してくれるといいんだが……」

「ああ。あれはないよな」

「母上が唯一矯正できなかった振る舞いだって嘆いていたよ」

「お祖母様でも無理なら無理じゃね?」

「そうだろうか」

「そうだと思うよ」

「なんとかならんか?」

「ならんと思うよ」






────用語の説明────


ルードルフ──ランドルフの父。王弟。五人兄弟の三男で長男は国王。


ジーク──ランドルフの侍従長。秘書的な存在。


莉恵──ランドルフの母。力あるものから至宝とされる存在。途方もなく膨大な魔力を持つ。


桶に浄化の魔法陣──便器代わりの背の高い桶に浄化の魔法陣が刻まれたもの。用を足すと自動で浄化される。


冷蔵庫から取り出す──冷蔵庫に望む物が入っている状態となる特殊な魔法陣が刻まれている。元日本人のランドルフの母である莉恵が取り出すと、日本で食べたことがあるものが、その世界の材料にて再現される。


ロッテ──ランドルフの母の女官長であり親友。ジークの妻。


ミーナ──ランドルフの叔母。ルードルフの弟の伴侶。


ギン・くま太郎・竜──それぞれ力あるものの上位体。ギンはランドルフの母莉恵の契りしもので銀の狼の姿、フェンリルと名付けられている。くま太郎はランドルフの妹の契りしもので白い熊の姿。竜はランドルフの兄の契りしものでドラゴンの姿。


カール・ティア──ランドルフの伯父と伯母夫妻。ルードルフの兄夫妻。カールは伴侶となるティアが十歳の時から手元に置き、自ら育てた。カールは国王補佐。ティアは他国の王族。






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