これだから奴隷商人は嫌いなんだ。
「お前、もしかして……奴隷商人から逃げてきたのか?」
おれが問い掛けると、エルフの少女は無言で首を縦に振った。
「奴隷なんて嫌なんです! だから隙を見て逃げ出して来たんですけど、見つかって追い掛けられて……。お願いです! 匿ってください!」
「え、あ、いや……匿ってあげたいのは山々何だが……」
少女に涙目で懇願されるも、俺は半ば渋ったような対応しか出来ない。
理由は簡単。
──匿い方が分からんっ!!
このシチュエーションが、家に飛び込んできて助けを求められる物だったら話は分かる。追っ手が来ても家の奥に隠れてもらって、追っ手にはシラを切ればいい。
──だが、考えてみてくれ。
ここは草原の中の街道。周りは短い草と腰掛けられる程度の大きさの岩ばかり。どう足掻いてもこのエルフたんを隠す場所などない。
もう一度言おう──匿い方が分からんっ!!
「ふぇぇ……奴隷生活なんてまっぴらごめんですよぉ! だからお願いします、助けてくださいっ!!」
「あ、あーもう分かった分かった! 取り合えず今は逃げろ! 追っ手には明後日の方向に逃げたって」
「見ぃーつけたわよぅ!! 奴隷No.753!!」
と、その時。俺の台詞を掻き消すように、何処からともなく響き渡るオカマ口調の男性の声。
見ると、少女のやって来た方向から3人の人影が。その内2人は取り巻き的のようで、特に目立つということはない。
だが、その2人の存在を視界から抹消出来る存在感を放つ──3人目。
その3人目の特徴を挙げるとするならば──
──男性、身長190センチ、髪は茶髪のモヒカン、手には鞭、筋肉モリモリマッチョマンの変態。
──これに限る。
なのでこちらも言わせて貰おう。
「変態だーーーーーーーーっ!!?」
わざとらしく両手でメガホン作って空にそう叫んだ。
「どぅわれが変態よぉう!!」
どっからどう見てもお前は変態だ。
「それとっ! 変態じゃなくてオカマと呼びなさい! オ・カ・マ!!」
「うわー、変態だけに飽きたらず自らオカマを自称するとかマジで引くわー」
若干オーバー気味に引いてやると、変態は苛立った様子でこちらを睨み付ける。言わせてもらうが、変態言われて反論する気があるならその姿を1回鏡で見てみることをお薦めする。もしくは警察行け。
「お頭ぁ、そこのお頭のセンスを微塵も理解出来ないアホは放っておいて早くNo.753を連れ戻しやしょうよー?」
「あら、それもそうね。こーんな最低のセンスを持ったアホんだらなんて放っておいて、早くNo.753を連れて行きましょう♪」
──なーんか最低のセンス持ちの2人に激しく罵倒された気がするのは気のせいですかねぇ?
確かに俺はファッションセンスは多少常人よりは低いさ。
だがそれをっ!! こんなっ!! センスのへったくれも欠片もない変態にっ!! 罵倒されたなどとっ!! そんなのっ!! 許される事であろうかぁっ!!?
「さて、帰りましょうNo.753。帰ったら逃げ出した罰にたーっぷりお仕置きしてあげるわよぉ?」
「帰るわけ無いでしょ!! 私を無理矢理拐って来たくせに偉そうな口をきかないでっ!」
近寄ってくる変態奴隷商人に罵声を浴びせながら、少女は後ずさっていく。
が、その先には、いつから居たのか取り巻きのもう一人が。
「あらぁ、そっちこそ偉そうな口叩くのね? ──いいわ。力ずくで連れ戻しなさいっ!!」
変態奴隷商人が命じると、取り巻きの2人が少女の両手を掴んで連れ戻そうとする。
「いやぁっ!! 離して! 離してよぉっ!!」
「へへっ、お頭に逆らった罰だ。帰ったらしっかりお仕置きさせるんだなっ」
じたばたと抵抗するも、少女は取り巻き2人の小脇に引きずられ変態の元に。
その目からは涙が溢れ、帰った先に待ち構えている地獄を容易に想像させる。
「奴隷風情が! てめぇは黙って売られときゃいいんだよゴミが!!」
──ぶちん。
変態のその一言で、俺の中の何がが切れた。
「おい……まてよ、そこの変態」
「──あ? 誰よ変態って?」
「お前に決まってんだろ、モヒカンオカマ」
「なっ──モヒカンオカマァッ!?」
今までそんな名で呼ばれたことが無かったのか、目を見開いて驚愕する変態改めモヒカンオカマ。
だが、そんなの正直どうでもいい。
こいつらは、奴隷を人間として見ていない。現に先程、少女を「ゴミ」と言い放った。
そんなの、許されて良いことなのか。
また、少女は無理矢理拐われてきたとも言っていた。
その結果が奴隷化?
──全くもってふざけている。
そんなことが許されるわけが、無いだろう。
俺は、確かにちっぽけなニート。社会の底辺だ。
筋力もなければそれほど頭が言い訳でもないし、ましてや魔法なんぞ使えない。
だが、そんな俺でも。
──奴隷の少女一人を助けることは出来るだろう。
「単刀直入に言わせてもらう。その子を買わせてもらおう──100円で」
俺は、下衆3人に対し鬼気迫る気迫で──言い放つ。
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