帰ってきた
休みに投稿するので、不定期になるかもです
「遅刻だ」
二年十組の室長であり、俺の親友でもある伊集院春樹が腕をくみながら、俺へ告げる。
眼鏡のサイズだかなんだかがあってないのか、よく眼鏡をくいっと直す癖を持つ、面白いヤツだが、今は般若みたいな顔をしている。ちなみに、般若って女の鬼らしい。辞書で知った。
それはさておき。
「悪い」
「入るぞ」
春樹は先にカラオケに入っていく。
今日は、テスト明けの打ち上げという事で、俺のクラスの面子が地元のカラオケに集まっているのだ。
「怒ってんの?」
俺は肩で風をきるように歩く春樹に聞いてみた。
「むろんだ」
即答だった。
「ちょっと編集さんと打ち合わせがあって…」
「言い訳か?」
ボックスの前に着いたのか、春樹はこちらを向き攻撃体制。
「そもそも、いくらでも方法はあっただろう。俺にメールするとか」
「いきなりだったんだよ」
「少しずらしてもらうとか」
「いきなりだったつってんだろうが」
「せめて遅刻すると電話の一本くらいいれろ!それでも社会人か!」
「すみません申し訳ありません」
高校生兼漫画家。
こいつが、俺の肩書だ。
「つっても、まだ連載一月目だぜ?」
「それでも連載持ちだろう。仮にも社会人なんだ。示しをつけろよ、進」
「は〜いよ」
説教も終わったみたいなので、ドアを押し開く。
途端に、デスボイスがボェボェ聞こえてきた。これは俺にはよくわからないジャンルだ。
クラスメートが一斉にこちらを向いた。ま、一瞬だがな。
「遅れた、悪い」
二人でボックスに入る。
すぐに、二人の男子が寄ってきた。
中学の頃からよくつるんでいる
森川と吉田だ。
「宮っちゃん、これ!」
二人が持つのは、俺のマンガの載ってる月刊誌。
「面白れぇじゃんよ」
森川に続き、吉田も声をかけてきた。
「どうどう」
二人を馬のごとくあしらってから、空いている席を探す。
「こっちこっち」
ボウズ頭で鋭い顔つきをしてるくせに、きまじめな森川が俺の分も席をとっておいてくれた。
「ま、座れ」
ロン毛で軽薄そうな雰囲気のくせに、学年十指に入る頭脳を持つ吉田が俺に言う。
「偉そうに言うな」
俺は森川に礼を言い、吉田の頭を小突いてから座る。
「よし、全員いるな」
春樹がなんか言ってるが室長としての注意事項とか、そんなんだろう。
話しが終わったのか、春樹はこちらに来て、俺の横に座った。
「いんちょー様は歌とか歌うん?」
吉田がいんちょー様こと、春樹に聞く。
「むろんだ」
ちょっと想像してみた。マイク片手にボェボェと熱唱している春樹。
………。
うわぁ、これはない。ありえないっすよ。
キモい妄想を頭の片隅で、殺菌消毒して、よく焼いて灰にしてから処理しておく。
横に座る春樹を見ると、眼鏡をはずして、拭いていた。
整った顔だちしてやがる。
ふと、顔をあげると、数人の女子がこちらを見ていた
生徒会長で、学年首席で、室長でバドミントン部部長な春樹
厳つい顔をしてるのに、優しくて、女子に人気な森川。
顔もよく、校則違反であれ、ファッションセンスもいい吉田。
この三人が女子の注目の的だ。
「いんちょー様が歌!クッフハハハ!」
意味不明な笑い声を吉田があげている。
「選曲しないのか」
一向に歌う気配のない春樹に聞いてみた。春樹が歌ってるとこを見て見たかったのだ。
「いや、ちょっと気になってな…」
春樹にしてはめずらしく、歯切れの割る返事。
春樹がどこかを見ているようなので、俺もそっちを見てみた。
ドア、いや違うな。その向こうに立っている女の子だ。
「ずっと見ているようで気になってな」
なんて、春樹が言っているが俺は聞いちゃいなかった。
艶やかな黒い髪。
キャミ、ミニスカ、軽く羽織った、スパンコールの上着。
あまりの可愛さに思わず見とれて…
「ねぇよ!?」
思わず叫んでしまった。
彼女は俺に気付いて、もとい、目が合って、嬉しそうな顔をすると、ドアを開け放った。
ちょうど、誰も歌っていない瞬間で、ボックス内が沈黙した。
俺はほとんど無意識に立ち上がっていた。
皆の視線を全身に浴び、俺の前に立った彼女は言う。
「約束」
二人きりの時に交わしたそれ。
なんでお前がここに。
だっているハズない。
そんな考えで頭はいっぱいだったが、口は思うように動いてくれた。
「叶えた」
ただ、一言。
つか、この約束自体ヒキョウだろう。
だってお前が日本にいるって事は…。
「私は…無理だったよ…」
夏生が告げた。
誰も身じろぎもせず、声も出さない。
夏生は泣いていた。
おいおい、待て。忠犬ハチ公のごとく待て。
ここで泣くか?
俺との約束は?
もし、無理でも絶対泣かずに帰って来いって言ったよな?
夏生は泣き止まない。
クラスメートの視線は俺にお前女の子泣かせてんじゃねぇよと主に男子から。
あれだ、もう自棄だ自棄!
一種の羞恥プレイだと思う。
ギュッと夏生を抱きしめる。
小さい頃も、こいつが泣いた時、こうしてやったっけ。
「泣くなって、な?」
背中をさすってやる。ヤベ今の俺顔赤いでしょうそうでしょう。
「すす…むぅ!私…がんばった…けど!でも…!」
俺の腕の中で泣きじゃくる夏生。
そんなの今更だろ。お前が頑張ってんのは俺が一番よく知ってるよ。
と、心の中でつぶやくに留める。だってハズカシイから。
「ね……進…」
「うん?」
腕の中の少女がそうつぶやくので、少し体を離して。
……。
あれ?
目の前に見えるのは天井。背中には床の冷たい感触。
そうか。こいつは柔道の有段者だった。
つまり、床に放られたワケだ。
「何故でしょうか」
つか、あれは嘘泣きですか。
「そう、思う?」
いや、思わない。ないけどさ。
「あのね、よく見えるのだよ、夏生君。」
今、夏生は俺の上にまたがっている。
「何がだね、進君」
いやいや、この状況よく見てから言ってごらん?
「俗に言う、下着が、だよ」
言ってから、しまったと思う。いつだったか、偶然こいつのパンツが見えた時は骨が折れた。リアルに折られた。
なのに、そんな俺の予想−予感かも−を裏切って、夏生は潤んだ瞳で微笑んだ。
「ごめん」
そしてつぶやいた。
「いや、謝るのはおかしいっつかむしろ俺としてはバンバンザイな訳でむぐぅ!?」
今日の星占い、一番だったんだよな、そういやぁ。
キスされてた。
嬉しい?いんや、しびれてよくわかんねぇ。
なぁ、森川。凄い顔で睨まないでくれよ。
ちょい、吉田。にやけ半分、嫉妬半分みたいな顔になってんぞ。
おい、春樹。これを見てなお、いつもの無表情かよ。
気がついたら、顔を焼けた鉄にも負けねんじゃね?ってくらいに赤くした夏生が俺の様子をうかがうように覗き込んでいた。
ま、あれよ。
「おかえり」
パッ、と夏生が笑顔になる。
「うん!」
文章拙くてすみません