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三賢者、邪神復活の儀をみる

 ファンたち観客信者だけでなく、ヒルヴァレイのメンバーもステージ後ろにあった邪神像に向かって跪いて祈り始めていた。

「魔王復活の今こそ、この地に邪悪な炎を操る偉大なる神、モエ・ルンバァ様を復活させ、腐りきったこの世界を破壊しつくし、我らが世界を創造するのだぁ!」

 ヒルヴァレイのメンバーを代表するかのように顔に赤いペイントを施した男が大きく叫んだ。

「あ、あれブラッディケイゼルじゃん」

「え? あの禍々しいフェイスペイントして上半身裸に皮パン履いてるの、昼間案内してくれたオッちゃんかよ!」

「いや、人間こうも変われるものなのか……」

 ルイとテイがいろんな意味で驚きを隠せずにいると、邪神像の前の床が開いた。開いた床の下には真っ赤な血のような液体がうねるように渦巻いていた。

「あれは!」

 レピスが漏らした驚きの声を聞いて、リモンがレピスの頭の中に話しかけてきた。

(ちょっと、あれはなに?)

(あれは、モエ・ルンバァを封印した時にわたしが流し込んだ沈黙の血肉よ)

(沈黙という割にはうねうねと活動的じゃない)

(信者たちのモエに対しての信心力が封印を融解しているのよ)

 ドラムの音にあわせ、先ほどのような速いテンポではなくおどろおどろしい呪文が合唱されながら邪神像の前で信者とバンドメンバーが祈りを捧げ始めていた。

「さぁ、今宵の生贄をここに!」

 5体の包帯を巻かれたエジプトのミイラのようなものが運び込まれた。

「なんだありゃ」

「おい、おい、なんか本格的になってきたぞ」

 三賢者たちは天井裏の穴から身を乗り出すようにして、儀式の進行に注目していた。

 真っ赤な液体が渦巻く穴の前でヒルヴァレイのメンバーであるケイゼルが両手を挙げて高らかに叫び始めた。

「今宵は魔王復活を阻止せんと、この神聖なる地に土足で踏み込んできた三賢者の末裔どもだぁ!」

「え、俺たち?」

 思わずテイが声を出した。

「バ、バカ! 静かにしろよ。気付かれたらどうするんだよ」

 幸いにして延々と唱えられている呪文とドラムの音でテイの声は下へは届いていなかったようだった。

「この邪悪なる包帯で身体を拘束されたこいつらは、今宵、邪神様の生贄となるのだぁ!」

 ケイゼルの言葉を聞いて、ルイとボウスは冷めた目で見つめていた。

「俺らここにいるんだけど」

「だから中身は人形か何かだろう。結局パフォーマンスだよな」

 それでも会場は盛り上がってゆき、火のような色をした渦巻く液体の中に次々と人形が放り込まれていった。真っ赤な溶岩のような液体は、人形が放り込まれるたびに、液面がボコボコと盛り上がり、噴水のように一瞬液体を上へと噴出していた。

「いいぞぉ!」

「すげ!」

 信者たちは盛り上がっていたが、テイとボウスはもはや冷め切っていた。

「なんかマジで復活の儀式やっているのかと期待したけど単なるパフォーマンスで、正直引いたわ」

「でも、本来この儀式に手を貸して邪神復活させるって言ったのルイじゃんかよ」

 そんな会話をしている三賢者たちの横で、逆に食い入るように儀式を見つめているレピスがいた。

(だ、ダメだって! そんなに物を投げ込んじゃ)

 リモンがレピスの横に来て覗き込んだ。

(どうしたのよ。何か問題でもあるの?)

(問題も何も、あの下にモエが寝ているのに、起きちゃったらどうするのよ)

(はぁ? 封印してあるんでしょ?)

(封印って言うか、あれ、ただ寝ているだけなのよ)

(封印したんじゃないの?)

(眠りにつかせるのが精一杯だったのよ。起きないようにあの血肉で外界から遮断しておいたのに)

 ボウスとともに覗き込むレピスとリモンの横では、すっかり冷静になったルイが大きくあくびをした。

「もういいわ。眠いしそろそろ帰ろうぜ、ボウス」

 ルイがボウスの肩に手をかけたが、ボウスはそれを振り払った。

「まだ終わってないんだから邪魔するなよ」

「はぁ? あんなやらせパフォーマンスに何マジになっちゃってるの?」

 ルイのからかうような一言にボウスが振り返ってルイの胸を押した。

「うるせえよ! てめえ一人で帰りやがれ」

「ああ? なんだよ、何キレてんだよ。こんな子供だましに。そんなに面白きゃお前も行けよ」

 ルイが冗談半分に軽くボウスの体を押した。

「お、おわ! バカ野郎! あぶねえじゃねえか」

「冗談だよ、ジョーク。はぁ……全くボウスは冗談通じねえからなぁ」

 ルイのこの言動にボウスの目つきが更に鋭くなってルイをにらみ返した。

 二人の状況を見てさすがにまずいと感じたテイが仲裁にはいった。

「ふ、二人とももう止めろよ。そんな子供みたいな喧嘩」

 テイの仲裁の言葉を聞いてボウスとルイがテイを睨んだ。

「はぁ?誰が子供の喧嘩だって?」

「お前こそ引っ込んでろよ」

 良かれと思って笑顔で仲裁にはいったテイは、二人の言葉に表情を一変させた。

「なんだよ、お前ら! くだらない事で毎回毎回喧嘩するからこっちは気苦労が耐えないんだよ。少しは考えろよ、おい」

 もはや一触即発状態で三人はそれぞれの襟首をつかみ合っていた。そして その横でリモンが三賢者たちの仲たがいをげんなりした表情で見つめていた。

「なんなのよこいつら。どこまで子供なんだか」

「まあ、まあ。長いこと一緒に旅していると普段口にしないお互いの嫌な事が蓄積してくるものなのよ」

「ま、男はいいわよね。こうやって殴り合ってすっきりしちゃう単純バカなんだから……って、あんたたち! こんなところで暴れないでよ!」

 気がつくと三人はくんずほぐれつで殴り合いに発展していた。

「ふざけんなこのバカが」

「すかしてんじゃねぇぞ、カス」

「天然ボケ野郎が!」

 リモンの制止も無視して暴れていたところ、あまり丈夫でなかった天井の板が音を立てて割れ始めた。

「お、おい、待った、待った、やばいぞ」

「あんたら、もう遅いわよ」

 リモンがそう言った途端、三賢者たちがいた周辺の天井が崩れて三人は落下してしまった。「うわぁ!」

「い、痛……」

 幸いにして下にあった邪心の祭壇の一部と思われるステージのセットがクッションになって怪我は免れた。

「な、なんだお前らは」

 祭壇の一部を破壊して天井から降ってきた三賢者たちを見てヒルヴァレイのメンバーの一人が叫んだ。

「え、あ、俺たちは」

 ボウスがどう答えようかと迷っていたところ、テイがいつもの鈍ら刀を抜いた。

「お、俺たちは三賢者だ」

 テイが大きな声で叫んだ。

 ルイとボウスが慌ててテイを抑えた。

(馬鹿、テイ、ここで三賢者言うなよ。もめるだろうが)

「なに?」

 ヒルヴァレイのメンバーだけでなく、周囲にいた熱狂的信者たちが大きな声を上げた。

「いけにえにされたはずの三賢者が現れたって事は」

「我々の儀式を邪魔しに来たのかぁ!」

「お前ら生きて帰れると思うなよなぁ」

 口々に三賢者たちを罵る声が聞こえ、徐々に周囲が囲まれて行った。

「どうするんだよ?」

「やるしかないよ。ここで捕まったら本当に生贄にされちゃうかもしれないよ」

 テイたちがやむなく武器を構え始めた時天井の方から声が聞こえた。

「そういうことよ。やるしかないわね」

 上からリモンとレピスがゆっくりと浮遊するように降りてきた。

「レピスさん、リモンさん!」

「よっしゃ、これなら何とかなるかもしれねえぞ」

 さっきまで及び腰だったルイが張り切って立ち上がった。

「現金だなぁ、お前」

「うっせい。正義は我にありぃ!」

「ちょっといい? リモン」

 威勢のいいルイたち三賢者の後ろに降り立ったレピスは、リモンに小声で囁いた。

「なによ?」

「ここで派手に魔力を炸裂させると刺激でモエが目覚めちゃうかもしれないから、三人を魔法強化保護にとどめて欲しいんだけど」

「わかったわ。彼らの作戦指導は任せたからね」

「了解」

 そう言うとレピスは時間の流れを遅くするタクティ・カウスの魔法を唱え、三賢者たちに攻撃手順と作戦を指示した。

「わかりましたレピスさん」

「相変わらずこの時になるとレピスさん別人のようなリーダーシップ発揮するよなぁ」

 感心しているテイたちにレピスが前方を指差して掛声をかけた。

「それでは時間の流れを正常化します。皆さん頑張って!」

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