三賢者と禁断なる邪教音楽演奏会
「なんかある意味ぜんぜん怪しくないし、明日になったら帰ろうぜ」
ルイがテーブルに置かれた三個の壷を恨めしそうに睨んでからベッドに横になった。
「ある意味ってなんだよ」
ボウスがルイと同じくベッドに横になりながら聞いた。
「だから、リアルには怪しいけど」
「おま、だからリアルとかファンタジーとか言うなよ」
「あー、もういいじゃん。王様のご要望どおりチケットもらって帰ろうぜ。そんでさ、ついでに今夜のシークレットライブ? それに俺らも入れてもらおうぜ」
ライブのことが話に出たせいか、ヒルヴァレイ音楽隊ファンのボウスが起き上がった。
「おし、聞いてきてやるよ」
ボウスが部屋を出て行ってから、ルイもテイもなんとなく時間を過ごしてボウスを待った。
約三十分後、ボウスがチケットを手に部屋に戻ってきた。
「一ヵ月後のチケット二枚はもらったぞ」
「王様にはこれで顔が立つね」
チケットを受け取ったテイが大事そうに貴重品バックにしまいこんだ。
「でも今夜のライブはダメらしいよ。今夜のは特に信者限定のライブだから、信者以外はダメだって」
「じゃあ、しょうがないよ。夜も更けてきたし寝るか」
テイがそう提案したが、ルイは大きく首を振って起き上がった。
「いや、俺は納得いかないぞ!」
「なんだよルイ」
「こんな壷に大金払っちまったんだ。元は取らせてもらおうぜ」
ルイは大きな声でまくし立てながら壷の表面をペチペチと叩いた。
「どうするんだよ?」
「シークレットライブに潜入して、ソウル&ビートを堪能して帰るんだよ」
「マジで?」
テイは少し乗り気じゃなかったが、対照的にボウスはルイの言葉に真剣な顔をして頷いていた。
「……確かにライブは興味あるなぁ」
「だろ? 早めに寝たふりして、こっそり会場に潜入しよう。会場は地下聖堂でやるらしいぞ」
それから二時間ほど経過した夜半前頃。
三賢者たちがそんな事を話しているとは知らないリモンとレピスは、向かいの部屋にいた。
「ねえ」
リモンに話し仕掛けられたレピスは、満足げに何度も眺めていた掛け軸をしまった。
「なに?」
「なんか騒々しくない? その、重低音がズンズンと」
「そうね。きっとライブやっているからじゃない?」
「ちょっと苦情言ってくる」
「ちょっとリモン、ここはそういう所なんだからしょうがないじゃない。ちょっと!」
レピスの静止に構わずリモンは不機嫌そうにドアを開けて廊下に出た。
すると部屋を出たところで、リモンは三賢者たちと鉢合わせた。
「あら、あんたたちどこいくのよ」
一瞬驚いた三賢者たちであったが、隠すことでもないかと思い、ルイが説明を始めた。
「あ、いや、ちょっとライブを見学に行こうって事になったんですよ。このまま壷だけ買わされて帰るのも癪だし」
「あら、ちょうどよかったわ」
「リモン、待ってよ。あれ?」
リモンの後ろからレピスも部屋から出て来て、皆が勢ぞろいしている事に驚いた顔をした。
「テイ君たち、どうしたの?」
「あ、ちょっとライブに潜入しようかと。レピスさんも一緒に行きます?」
「い、一緒に?」
(テイ君に演奏会に誘われたって事よね? すごい! 掛け軸効果が早くも……)
(もともとあたしたち抜きで行こうとしていたところに鉢合わせただけじゃない)
(じゃあ……掛け軸の効果でないなら、これは運命が二人を導いたってこと?)
(……もう、どうでもいいわ)
「レピスさん?」
「え、あ、はい! 喜んで!」
「リモンさんも」
「いくわ。行って文句言ってやる」
「はい?」
なんだかうやむやのうちに、一行はライブ会場へ潜入することとなった。
「昼間の内に少し探っておいたんだ」
ボウスの案内で人気のない廊下の奥にある扉を開けて、そのまた奥にある薄暗い階段を登って行った。
「さすがボウスだな」
「この機材搬送ルートを通って、ここから会場の天井裏に入り込めるんだよ」
「天井裏じゃあ、ノリノリでも身体も動かせずに息潜めているしかないじゃないか」
ルイが文句をいったがボウスは取り合おうとしなかったので、テイがルイをフォローした。
「ライブ見れないよりいいだろ? とりあえず言ってみようよ」
階段を登った先に見えた木の扉を開けると、その先は真っ暗な空間が広がっていた。どうやらここがボウスのいう地下聖堂の天井裏のようであった。
天井を踏み抜かないように、しばらく暗い中をゆっくりと歩くと、先ほどから聞こえていた騒々しい音が大きくなってきていた。
「この辺だな」
そう言ってボウスが足元の板を力任せに外した。
外した穴から眩しい光とともに、重低音の波動があふれ出してきた。
光と音が差し込む穴の下には、大きなステージがあり、そこでヒルヴァレイ音楽隊のメンバーが過激な演奏を繰り広げていた。
ステージの後ろには禍々しい邪神の像が立ち、周辺には多くの信者たちが右手を挙げてライブを盛り上げていた。
「見えた見えた。すげえ騒々しい音楽だなぁ」
「ひでえな。歌も何歌っているかよくわからんし、あんな激しいことしてピアノの鍵盤壊れないのか?」
来てみたはいいがテイたち一行は、この騒々しい音楽のどこがいいのかよく理解できずにいた。
一人ボウスだけは例外で、リズムに合わせて頭を前後に振っていた。
ボウスがノリノリでなければ早々に帰ろうかと思っていたテイたちであったが、しばらくして会場が大きく盛り上がって演奏会は終了となった。
「やっと終わったみたいだな」
「帰るか」
そう言ってテイとルイが背を向けた時だった。
「待て待て、なんかパフォーマンス始めたぞ」
「いや、もういいよ」
「でも、なんか雰囲気がさっきと違うわね」
レピスにそう言われてテイとルイも再び穴を覗き込んだ。