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スワンハイシャトー会議録

「あの雷箱への執心はどうなったんだよ?」

 緊急三賢者会議と称して、また何か嫌な提案を始めるのではないかという不安に駆られながら、テイは目の前に立つルイに言った。

 部屋の中には三賢者、テイ、ルイ、ボウスがいたが、レピスとリモンは別部屋のため会議には出席しておらず、知らされてもいない。

 ルイは涼しい顔でテイを見た。

「あ、あれはもういい。これ以上俺的には興味ないし」

 その言葉を聞いてテイとボウスは苦い表情になった。

(相変わらず熱しやすくさめやすいなぁ)

(ま、ここで新たに変なものに興味持たなきゃいいけどな)

 二人の不安をよそに、ルイは大きな身振りを入れながら話し始めた。

「いいか。俺たちはなんの為に存在しているのか? わかるか?」

(なんかまた、すごいこと聞いてきちゃったぞ)

 沈黙したテイとボウスに向かってルイは熱弁を振るった。

「わからんだろう? のんびりと日々の生活を過ごしてきたお前らには。俺は常にこれからの事を考えて生きてきた。雷箱だってそうだ。今のこの魔王討伐の生活が終わった時に自立していけるような事業を立ち上げようと思ってやっていたんだ」

「お前、魔王討伐の先考えるよりも、まず魔王討伐のこと考えろよ」

「そうだよルイ。順番が逆じゃないか?」

 ボウスとルイが突込むも、ルイは平然としていた。想定範囲内の突込みだというように。

「おまえらなぁ、魔王討伐とか言って、結局俺たち魔王らしいやつに今まで遭遇したか?」

「し、していないなぁ」

「だろ? いないんだよ、だから。魔王なんてさ」

「ええ!」

「お前それ普通に言っちゃうのかよ」

 テイとボウスが突込むも、ルイは全く動じなかった。

「ああ。俺は確信している。魔王はいないと」

「じゃあ、俺たち一体」

 ぼそりと呟くテイを睨みながらルイが大きく机を叩いた。

「だから、先のこと考えろって言ってるんじゃねえか。もうすぐ一年たって魔王いませんでしたなんて事になってみろ。今の給金生活も終了するぞ。そうしたら俺たち、世間の荒波に放り出されて、一般人のように生活だよ、いや、一般人以下になる可能性大だよ」

「ど、どういうことだよ」

「俺たち、金入ってこなくなるんだぜ? つまり働かなきゃいけなくなるんだよ。その時に俺たち、まともに就職できると思うか?」

「そ、それは」

「今の時代おいそれと就職も出来んしなぁ」

 テイとボウスが深刻な表情で考え出した。

「貴重な一年を無為に過ごすと大きいぞ。面接でここ一年何をしていたのか聞かれたらどうするんだよ?」

 ルイがボウスを指差しながら質問した。

「魔王討伐、だろう?」

「で、実際倒したのかよ、何か?」

「う、うーん」

「なにもしなかった空白の一年間と思われてもしょうがねぇぞ」

「思ったより事態は深刻だなぁ」

 テイとボウスが、やっとルイの言わんとする事を理解してきていた。

「だろ? どうするんだよ? このままじゃ、俺たち無職だぞ」

「せめてここ一年間に胸を張って履歴書に書けるような内容があればいいんだよなぁ」

 テイの発言を聞いてルイが得意げな表情で頷いた。

「そう。履歴書にしっかりしたこと書ければいいんだよ。そこで俺はここに提案する!」

「何か、いい考えでもあるのか?」

「ああ。俺はちゃんと考えてきたんだよ。そして一つの答えを導き出した」

「な、なんだってぇ!」

 テイとボウスが口を揃えてルイに問いかけ、そして次の一言に注目した。

「答えは一つ!」

「その答えは?」

 ルイが大きく胸を張って、高々と右手の人差し指を天井に向けた。

「ズバリ、魔王に変わる、なにかどでかい奴を倒す! これしかねぇよ」

 一瞬沈黙……。

 少し気持ちを落ち着けてから、ボウスがルイに訊ねた。

「どでかいものって、な、なんだ?」

「俺がこの間『蒸気でルイルイ』を投稿しにいった時に郵便局で聞いたんだよ。それがこれだ」

 ルイは一枚の絵が描かれた半紙を取り出し、示した。

 テイとボウスは、

(今まで考えてきたんじゃなくて、たまたま昨日聞いたんじゃねえかよ……)

 という突込みを心の中でしつつ、ルイが広げた半紙を見つめた。

「な、なんだこれ?」

 そこには厳ついペイントを顔に施し、楽器を持った五人の男たちとおどろおどろしい悪魔のような絵が描かれていた。

「お前らこいつら知ってるか?」

「ヒルヴァレイ邪教音楽団、って書いてあるけど」

 テイが半紙の下の文字を読むとボウスが頷きながら手を叩いた。

「ああ、知ってるよ。最近破滅的音楽が一部で受けている世紀末的音楽集団とかいう奴だろう? で、その楽団がどうしたんだよ?」

「そいつらすごいタニマチがいてさ、ネイモス・スパを買い取ってそこで邪教音楽を宗教化させて盛り上がっているらしいんだよ。それが今話題の新興宗教フレイムキッサーなんだよ」

 テイとボウスが驚いて顔を上げた。

「フレイムキッサーって大昔に邪神を崇めて鎮圧された伝説の邪教集団の名前じゃん」

「それ復活させたのかよ」

「ま、その名を語って古の邪神モエ・ルンバァを復活させるとか言ってるんだってさ。でも一向に復活する予兆もないし、多分ダメだろ。そこで」

「そこで?」

「そこに俺たちが入信するんだ」

「なんのために?」

「邪神を復活させるんだよ!」

「はぁ?」

「復活させなきゃ邪神倒せないだろ? こいつらに任せてもダメっぽいし、俺たちが手を貸してやろうってことさ」

 なぜか得意気に話すルイに対してボウスもルイもため息をついた。

「ルイ、お前馬鹿だろ?」

「ああ? どういうことだよ」

 逆切れ気味にルイがボウスを睨んだ。

「復活させた邪神が手も付けられないすごい奴だったらどうするんだよ」

「その時はその時だろうが」

 小学生の喧嘩のようににらみ合うルイとボウスをなだめるようにテイが二人の間に入った。

「わかった。わかった。リモンさんとレピスさんに聞いてみようよ。知っているかも」


「まぁ、あんたらじゃ秒殺されちゃうと思うけど」

 三賢者がそろってレピスとリモンの部屋を訪れ、先ほど話していた邪神モエ・ルンバァに関して二人に尋ねたところ、リモンが涼しい顔で言い放った。

「え?」

「かつて、わた……いや、魔王とこの世界を二分する戦いを繰り広げたくらいだしね」

 レピスも少し難しそうな笑顔で話し始めた。

「マジで?」

「あの時の余波で、デスフィールドが焼け野原になっちゃったのよね?」

「そうね。あの時はなんとか封じ込めたけど、おかげで力が無くなっちゃって。そこを当時の三賢者にやられちゃったんだからね」

「ああ、あの時の三賢者は抜け目なかったわね」

レピスとリモンの会話を聞きながらテイが不思議そうな表情でレピスに訊ねた。

「いつの話なんですか。って言うかリモンさんはともかく、レピスさんまで、なんでその話知っているんですか?」

 レピスはハッとした表情になって、すぐに手を振って答えた。

「わ、わたしは、あれよ、伝聞よ、図書館で読んだ歴史書にも書いてあったし、実際は、知らないわよ」

「そっか、そうですよね。さすが博識ですね」

 相変わらずのギリギリトークをしているレピスのことなど気付かない三賢者たちは、少々落胆したルイを連れて自室に戻った。

「ま、あの二人がやばいって言うんだから、手を出さないに限るな」

 ボウスがそう言って椅子に腰掛けて飲み物を飲もうとした時だった。

 ルイが、急に手を打って叫びだした。

「わかった! ひらめいた!」

「今度はなんだよ」

 少々あきれ気味にボウスがすかさず訊ねた。

「復活したことにして、倒したことにもするんだよ」

「はぁ?」

 ボウスとテイが不思議な表情でルイに注目した。

「復活したって伝聞させてさ、そして真実が明るみになる前に俺達が倒したことにすれば証拠も残らない。どうよ、これ!」

「でも、俺達が勝手に言ってただけってことにもならないか?」

「なにかしらそれっぽいこと起こせばいいんだよ、邪神が復活したような」

「どうやって?」

 ボウスとテイの疑問に対してルイは少し天井を見つめて考えた後、二人の顔を見た。

「そこはホレ、うちには偉大な魔法使いが二人もいるじゃん。うまいこと説明してさ、何か派手な爆発とか起こせばいいんじゃない?」

 ルイの得意げな発言に対して、しかしながらテイとボウスは冷静だった。

「それ、誰がどうやって二人に頼むんだよ?」

「テイ、なんとか、ほら」

 ルイがすかさずテイに振った。

「俺? 無理だよ。意外に二人とも曲がったこと好きそうじゃないし」

「でも俺たちの生活が、今後がかかっているんだぞ」

「う、うーん」

 煮え切らないテイに対してルイは怒ることなく、にこやかな表情でテイとボウスの肩に手を置いた。

「よし、わかった。とりあえず二人にはうまいこといって同行してもらってさ、後々どう頼むか考えよう」

 ルイの提案にボウスがため息をついた。

「先延ばし、得意だよなぁ」

「ああ? 他に名案があれば聞くぜ?」

 なぜか一転して切れ気味になってきたルイに、ボウスとテイもしょうがなく同意することにした。

「ま、わかったよ。とりあえず、やってみるか」

「うーん、あまり気がすすまないけど、世を乱しているって感じはあるしなぁ。行ってみようか」

「よっしゃぁ! じゃあ、善は急げで、明日には出発だ!」

 二人の同意も得られ、ルイはやる気満々で荷造りを始めた。、

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