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大蛇の顛末とダイナの存在

 その日の夕食時

「え? あの蛇、作り物だったんですか?」

「そういうことよ。よく確かめもしないで逃げ出すんだから」

「まぁ、いいじゃない。形はどうあれ、蛇は始末したんだから」

 リモンの突っ込みにレピスがいつものように笑いながらとりなした。

 テイとボウスは安堵の表情になり、食事を再開した。

「なんだよ、じゃあ、蛇の作り物作って通行料せしめていたってわけか」

「ま、俺たち三賢者が蛇退治に行ってから、蛇がでなくなったってことになるだろうから、俺たちが倒したことになるだろうしな」

 ルイも最後にスープを平らげると笑みを浮かべながら立ち上がった。

「そっか、よかった。さて、俺はまた雷箱の研究でもするかな」

 そう言って食事の終わったルイは二階へと階段を登って行った。

「あんたら適当ね」

「まあ、まあ、いいじゃない、ね」

 もはや三賢者のフォロー役のようなレピスに、テイが思い出したように声をかけてきた。

「ところで」

「なに?」

「ダイナさん、買い物行ったきり見てないんですが」

 ダイナ。

 そういえばいたわね、と製作者も今思い出したかのような存在にレピスは気がついた。

「おかしいわね……あ、ま、まさか」

 リモンがレピスの方を見た。

「レピス、もしかして」

 レピスとリモンがそろって部屋の天井を見つめた。


(レピスとリモン、大蛇召喚の時を回想する)

「レピス様」

 金色の髪を揺らしながら颯爽と現れたのは、かつて魔王の副官と呼ばれたダイナ グラッパアだった。

「買物途中のこの私をお呼びになったという事は、よっぽどの緊急事態と思い、全てを投げ打って馳せ参じましたぞ」

「ありがとうダイナ。早速なんだけどさ、見て」

 レピスの指す方向には赤黒く細長い巨大なミミズのような生き物が大地を跳ね回っていた。

「あれはエグスドゥスですな。なぜ大地の壷から出しているんですか? あ、いよいよ人間たちを恐怖のどん底に……」

「違うのよ。ちょっと見せたい人がいて壷から出しちゃったんだけどさ、久々に外に出たんで、はしゃいじゃってさ」

「は、はぁ」

「で、悪いけど大地の壷に誘い込んでくれないかな?」

「わたしがですか?」

「そうよ。他にいないじゃない」

 レピスの横に立つリモンもうんうんと頷いた。

「うう、わ、わかりましたよ」

 ダイナはそっと近づくと大蛇に手を伸ばした。瞬間、大蛇がダイナに巻きついてきた。

「ぐ、ぐわぁ! ちょ、締めるな締めるな!」

「やっぱダイナに一番懐いてるわね。喜んでじゃれちゃって」

「百歩譲ってじゃれていたとしても、ダイナ苦しそうに見えるんだけど」

 リモンの呟きが聞こえていないのかレピスは笑顔でダイナに声をかけた。

「そのまま、そのまま! もう少し右、そうそう、そこ! 動かないで!」

「こっちだ、こっち! 坊や、よい子だからねんねしな」

 ダイナが大蛇に巻きつかれながらも、頭を撫でながら必死に指示に従って移動して行った。

「いまだ! 封身!」

 急に素早い動きでレピスが左右の手を上下に動かした。

 大地を割くように、一瞬の青白い閃光を発すると同時に、大蛇はその姿を消してしまった。「相変わらず召喚と送還が上手ね」

「一件落着ね」

(回想終了)


 天井を見つめていたレピスとリモンの表情が難しくなっていった。

(あんた、一緒に封印しちゃったんじゃない?)

(そんな気も……ちょっと、聞こえる? ダイナ、どこよ?)

 レピスは頭の中でダイナに呼びかけてみた。

(どこじゃないですよ! 魔王様!)

 かなり遠方であるがダイナの声が返ってきた。

(ダイナ、もしかして、エグスちゃんと一緒?)

(思いっきり一緒に大地の壷の中にいるんですけど!)

(ごめん。エグスちゃん寝たら出してあげるから。寝た?)

(めちゃくちゃ元気で壷の中飛び回っていますよ!)

(うまく寝かしつけて。寝たらまた呼んでね、じゃあ)

(あ、そ、そんな、レピス様ぁ!)

「レピスさん」

 テイに話しかけられて天井を見つめていたレピスは視線を戻した。

「あ、なに? テイ君」

「よかったらこの後、湖岸で花火が上がるそうなんですけど、一緒に見に行きませんか?」

 その一言でレピスの表情が崩れるように微笑んだ。

「行く行く、行きます!」

 レピスはダイナの事をすっかり忘れたようにテイと二人、部屋を出て行った。

 その後姿を見つめてリモンが呟いた。

「女って、好き嫌いがはっきりしているのよね」

 傍らのボウスが不思議そうにリモンを見つめた。

「そうなんですか?」

「そうよ。特にレピスなんてわかりやすいわよね」

「リモンさんも?」

「わたしは、嫌いなものは嫌いってだけよ」

「俺たちは、大丈夫なんですか?」

 リモンが少し含んだような笑みを浮かべてボウスの方を見た。

「ま、しょうもないところは多々あるけど、嫌いじゃないわ」

「そうですか。よかった」

「特にボウス、あんたはあの三人の中で一番見所があるわね」

「そうですか?」

「基本冷静であまり間違った選択は極力しないタイプね」

「いつも無難な選択しかしないってことですか?」

「そうかもね。過去にそう言われたことがあるんじゃないの? 身近な彼女に」

 しばらく沈黙が続いた。

 ボウスはなにやら思案しているようであったが、軽く息を吐くと椅子を引いてゆっくりと立ち上がった。

「ま、性分ですよ。おやすみなさい」

「ふふ、おやすみ」

 ボウスはリモンを残して自室へ戻るため階段を上がって行った。

 リモンはテーブルの上に置かれた蜀台に立てられたローソクの火を見つめていた

「ふっ、わたしとしたことが」

 リモンは軽く息を吐くと、立ち上がってだるそうに自室へと戻って行った。

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